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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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310 親睦と新居と

「くっ!」

 水弾を避けそこなって直撃してしまった騎士が歯噛みし、下方へと脱落していった。すぐに別の者が入れ替わるようにカバーに入る。
 アクアゴーレムは上方へ飛びながら入れ替わりに入ってきた騎士、そして落下していく騎士にも水弾をばら撒いて離れていく。

 一直線に飛び込んで、落下していく騎士を横合いから回収したのはエリオットだ。その空間を弾幕になった水弾が通り過ぎていく。

「そこっ!」

 上空に飛んだアクアゴーレムには横合いから闘気の刃が飛来、直撃する。遠距離から闘気を飛ばしたのはメルセディアである。

 討魔騎士団にはゴーレム相手の演習をしてもらっているが、チェスターやエルマーも数体のゴーレムを足止めしているし……攻撃を食らって脱落した仲間のカバーやフォローも早い。
 足止めされているアクアゴーレム達を一旦後方に下げ、ぴったり重ねて別の騎士へと突っ込ませる。それを横合いから見たエリオットは、ゴーレムの動きが変わったことに気付いたらしい。

「ゴーレムの動きが変わったぞ! 十分に注意しろ!」

 エリオットの注意喚起の声。騎士に向かって真っ直ぐ突っ込むアクアゴーレムが腕を大きく振り被る。騎士が受けようとした瞬間、寸前で下方に自由落下するように離脱していった。
 ほとんど同時に後ろにいたゴーレムが身体の陰から水弾を放つ。こちらが本命だ。

「何!?」

 ぎりぎりのところで盾で受け止める。警戒度を上げていたからこそ対応ができたというところだろう。

「行くぞ!」

 横から槍を構えたチェスターが突っ込む。アクアゴーレムを貫通して砕く。即座に復帰してチェスターに打ち掛かっていく。
 討魔騎士団の面々はなかなか良い動きだな。では――もう少しゴーレムの連携密度を上げていってみることにしよう。

 その一方で――パーティーメンバーのみんなの満月の迷宮対策を並行して進めている。少し離れた場所で特殊な形のゴーレムを相手に訓練中だ。

 バジリスクとコカトリスの姿を模したアクアゴーレムである。バジリスクは頭の部分に魔法の明かりを埋め込んで、その光を直視しないように立ち回れる訓練中だ。
 イグニスを前面に出すなど……石化攻撃を使う魔物への手札はあるが、不意に遭遇した場合を想定して不利な状況でまともに戦ってもらおうというわけである。疑似的にではあるが、それぞれに戦闘経験を積んでもらおうというわけだ。
 コカトリスゴーレムのほうは口から霧を吐かせることで石化のブレスを再現している。それを吸い込んだり浴びたりしないように戦わなければならない。

「こっち」

 シーラがほとんど正面を見ずに、バジリスクの注意を引きながら横向きで斜め上方にすっ飛んでいく。バジリスクゴーレムの尾による一撃が一瞬遅れてシーラのいた場所を薙ぎ払っていった。
 相手を見ないで回避というのは五感の鋭いシーラならではだな。イルムヒルトの温度感知もあるし、このバジリスクやコカトリスから奇襲を受けずに済むというのはありがたい話である。

「これならどうですか?」

 コカトリスゴーレムの相手はグレイスだ。迫ってきた演習用のブレスをグレイスは斧の腹で扇いで風を起こして押し戻す。同時にもう一方の斧が猛烈な勢いで投げられる。コカトリスゴーレムに直撃。コカトリスは、バジリスクよりは対応しやすい部類ではあるだろう。
 アシュレイ、マルレーン、ローズマリー、セラフィナは基本的に前に出ないが……まあ、それぞれに手もある。この調子で全体の訓練を進めていくとしよう。


「――では、今日の訓練を終了する。大使殿に敬礼を」

 エリオットがそう言うと、整列した騎士達は荒い呼吸を整えながら敬礼した。こちらも敬礼を返す。

「では、解散する。各人、ゆっくり休み、明日への疲れを残さぬように」 

 エリオットの言葉で解散。施設内に着替えに向かうようだ。騎士団員達は安堵したように大きく息をついている。

「地上に降りてもまだ空中で回っているような感覚が……」
「逆さまの相手と切り結んだと思えば、離れ際に水弾をばら撒かれる。……何と目まぐるしい戦闘か」
「相手が魔人であることを想定しているとはいえ……騎士同士の訓練とはまるで違いますな」

 と呼吸を整えながら訓練の感想を言い合う。

「我々の訓練と時を同じくして迷宮探索の訓練をしているのだから脱帽と言う他あるまい……」
「恐らく……ゴーレムの動きはまだまだ厳しくなるでしょう。テオドール殿にはまだ余裕がおありだ」

 メルセディアが言ったその言葉に、他の者達は引き攣った笑いを浮かべた。
 他にも、誰の動きが鋭かっただとか、そういう話題も出ている。

「やはりというか……団長殿の動きは相当なものでしたな」
「うむ……。流石シルヴァトリアで名を馳せた魔法騎士といったところでしょうか」

 当のエリオットはと言えば、静かに呼吸を整えている。他の騎士達よりまだ体力的にも余裕があるように見えるな。討魔騎士団団長としての面目躍如といったところか。

「さて……。私はこの後温泉にでも行って汗を流してこようと思うのだが」
「それは良い考えですな。明日に疲れを残すわけにはいきません」
「団長殿が行くのでしたら我々もお供します」

 討魔騎士団の面々はエリオットと共に火精温泉に出かけるようだ。温泉が気力の充実や騎士団員同士の親睦に一役買ってくれるなら言うことはない。

「汗をかいていますので、水分補給をお忘れなく」
「分かりました」

 討魔騎士団を何組かに分けて交代で訓練したり、休憩中の水分補給なども忘れずに行ったりと気を付けていたが……風呂でも汗をかくので、そのへんは忘れないようにしてもらいたい。訓練が終わったからと気が抜けてしまう可能性はあるし。

「では……昼食時ぐらいにはそちらへ戻ります」
「はい。アルフレッドにも連絡を取っておきますので」

 後で合流したらエリオットとカミラの新居を見に行く、という話になっている。避難部屋の作成や警報装置の設置ということで約束をしているのだ。



 エリオットの新居は、本当に目と鼻の先と言って差し支えない近所であった。通りを1つ挟んではす向かいという位置関係である。
 2階建ての家。エリオットとカミラ。2人で暮らすには十分な大きさだ。
 カミラの父であるドナートはシルン男爵領に家があるので一先ず戻るそうだ。タームウィルズに住むとなると昔の柵も面倒だ、というのがドナートの言い分であった。

 自分がいたら邪魔になる。夫婦水入らずで過ごすといい、とドナートは笑っていたそうで。
 まあ、将来的な話をするのならエリオットが領主になればエリオットとカミラ、ドナートはそちらに移住するということで話は落ち着くようだけれど。

「白い壁が、綺麗なお家ですね」
「ありがとう。そこが気に入ったの」

 アシュレイとカミラが笑みを交わしている。

「では、中を見ていって下さい」
「お邪魔します」

 鍵を開けて家の中に入ってその間取りを見て回る。
 居間に台所、浴室、主寝室にテラス。空き部屋がいくつか。それに物置、と。一通りそろっているようだ。

「避難部屋の入口はどこに作りましょうか」
「台所あたりからでしょうか」

 なるほど。カミラが良く使う場所だしな。

「間取りとしては主寝室の下が台所になりますし、主寝室からも脱出できると良いですよね。この端のあたりに仕切りを作って……その裏側に地下への階段を作るというのはどうでしょう」
「寝室からというのは安心ですね。寝込みを襲撃された場合でも逃げられますし」

 などとエリオットやカミラと話し合いをしながら決まった通りに作っていく。
 台所には壁側に木魔法で作った偽装の食器棚を設置、最下段の収納の中に身体を収め、そのまま壁側の板をスライドさせてやると隠し通路へ入れるような仕組みを作った。
 主寝室も同様。偽装衣装箪笥の最下段の中に入って床板をスライドさせることで隠し通路に入れる、という仕組みである。
 隠し階段を下りて地下通路。そして避難部屋……と、土をゴーレムに変化させて穴を掘り、周囲を固めていく。後は避難部屋から外に逃げるための通路を作ってやれば良い。

「人形は出来上がったら持ってくるわ。夜間警備にも使えるし、ちょっとした使用人代わりにもできる。料理の手伝いをさせたり、庭の手入れをさせたりね」

 と、ローズマリー。

「それは……便利ですね」

 カミラが目を丸くする。
 工房でも役に立っているようだし、あの人形は実際かなり便利だ。ローズマリーによると、昔ローズマリーが使っていた隠れ家にあれだけの人形がいたのは、人形自身に部品を作らせて量産させた結果だそうである。

「これが終わったら警報装置を設置しましょうか」
「ありがとうございます」

 塀のすぐ内側と玄関まで結界線を引いて、警報装置の本体に魔石が嵌っている間、線を越える者がいたらサイレンが鳴るという……簡易版の警報装置だ。
 主に夜間の就寝時、留守中などに用いることができるだろう。
 装置本体は玄関に置いてやれば、来客の際に警報装置を止めたり、作動させたりというふうに使える。寝る前には戸締りがてら警報装置を動かしてやればいい。人形の警備と併せて考えればかなりのセキュリティと言えよう。
 まあ、エリオットの家の警備体制についてはこんなところだろうか。
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