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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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307 討魔騎士団

「デュオベリス教団は、ヴェルドガルへの侵入を試みていたからね。叔父上が、国境付近で国外へ脱出しようとする教団幹部を捕えて教団内部の情報を引き出したそうだ」

 ジョサイア王子が言う。
 なるほど。南方の安定はデボニス大公の懸案事項だろうし、ヴェルドガルに教団が侵入しようとしているという情報があれば警戒を強めるだろう。

 タームウィルズから見て、南東にデボニス大公の領地。南にデボニス大公の次男がロイから引き継いだ国境付近の領地がある。
 ドリスコル公爵はデボニス大公が関係改善をしようと招待をした、ということだそうな。ジョサイア王子は両者の橋渡しをした手前、そこに同席したわけだ。何というか、色々気疲れしそうな話である。

「魔人の記録については文官達に調べさせているが……。確かに気になる話ではあるな」

 メルヴィン王は腕を組んで顎に手をやる。

「ガルディニスが関わっていたというのは気になりますね。黒骸はベリオンドーラの落城にも関わっていたようですし、盟主復活のために動いていた節も見受けられます」

 ガルディニスが若造と言い切るからには、その出自を何らかの形で知っていたということになるだろう。
 古参のアルヴェリンデも若い姿だったし、魔人の見た目と年齢は比例しないが……魔人達は仲間内で互いの身の上話をしているものなのだろうか?
 印象から考えると魔人達がそうやって馴れ合っているというのも些か想像できない。伝聞で知ったのならどこかに情報も残っていそうなものだし、それを辿ることができれば相手の出自にも辿り着けるが……さて。

「ふむ……。魔人の記録、特に南方のものは特に綿密に調べておくべきだな。今の話については文官達に連絡を回しておこう」



 そろそろ時間ということもあり話をまとめ、メルヴィン王とジョサイア王子との話を切り上げた。
 広場を見てみると新部隊に加わるヴェルドガルとシルヴァトリアの面々が整列していた。

 来賓は建物の入口近くに並んでいる。王城からも宰相ハワード、騎士団長ミルドレッドや宮廷魔術師リカードといった、メルヴィン王周辺の重鎮が来賓として参列している。

 俺の知り合いとして参列しているのは、パーティーメンバーと工房関係者とシルヴァトリア関係者だ。
 アルフレッドは飛行船上ではなく、変装用指輪をつけて工房関係者のところに当たり前のような顔をして並んでいた。アルバート王子として目立つのは嫌なのだそうで。もう習い性みたいなものかも知れない。

 新部隊の内訳についてだが、ヴェルドガル王国騎士団からはメルセディアとチェスターも加わっているようだ。
 竜騎士隊は人員に余裕があるわけではないが、編入が必要だと判断されたといったところか。その他魔術師隊、兵士の中から腕前、人柄、来歴などを鑑み、面談を経て意思確認をしてから編成されたとのことだ。
 シルヴァトリアからはまずエルマー達。ドノヴァンとライオネルについてはザディアスの一件に片がついたので正式な身分を取り戻したとのことである。

 宮廷楽士達が勇壮な音楽を奏で、新部隊創立の儀を始める旨が宣言された。
 甲板からメルヴィン王が姿を見せ、居並ぶ面々を見渡して口を開く。

「皆の者、大儀である。結託した魔人集団の暗躍という国難の中にあり、これだけの勇士達がここに集まったことを、余は頼もしく思う。今日この時より、そなた達は討魔騎士団として研鑽に努め、任に当たってもらいたい」

 対魔人部隊の正式名称が言い渡された。メルヴィン王は飛行船や造船所を示すように右腕を横に広げる。

「この造船所を僅か1日にして築きし魔術師の英知。そしてシルヴァトリアから齎された空を行く船。そしてそなた達勇士の知と力。これだけのものがこうして一堂に会した。諸君らの交流と訓練により培われるであろう絆。両国の武勇と英知が2つの国の国難を払うものと確信している」

 その言葉にメルヴィン王を称える唱和がなされる。唱和が落ち着くのを待ってから言葉が続けられた。

「討魔騎士団団長として就任するエリオット=ロディアス=シルンについて、余の口から皆に紹介しよう。既に聞き及んでいる者もいようが、エリオットはシルン男爵家の長子であった人物だ。船の事故により記憶を失いながらもシルヴァトリアで武勲を上げて魔法騎士と名を馳せた傑物である。エリオットはこれへ」
「はっ!」

 メルヴィン王から促され、騎士達の最前列に並んだエリオットが一歩前に出て臣下の礼を取る。

「記憶を取り戻しヴィネスドーラで魔人の走狗らとの戦いを経て、我が国に戻って来た。武勇、人格もさることながら、その来歴から両国を繋ぐ、討魔騎士団の団長を務めるに相応しい人物であることを余が保証しよう。余の決定に疑義のある者、また己が力こそが彼の者より団長に相応しいと思う者は、今この場で前に出よ」

 そう言って見回すが……前に出る者はいない。
 エリオットの実力に関してはヴェルドガルでは知られていないところもある。ここで来歴と実力をはっきりとさせることでエリオットの立場を固める狙いがあるのだろう。

「異論はないようだな。エリオット。そなたはどうか」
「はっ。討魔騎士団団長の任、謹んで拝命致します。メルヴィン陛下とエベルバート陛下に頂いた恩義に報い、騎士団の皆の信頼を得られるよう精進をしたく存じます。そして任務を果たすことに全霊を賭すことを誓います」
「よかろう。アドリアーナ姫」
「はい」

 メルヴィン王が一歩退いて、アドリアーナ姫に場を引き継ぐ。

「我が父、エベルバートの名代としてシルヴァトリア王国より参りました、アドリアーナと申します。こうして討魔騎士団創立の場に立ち会えたことを光栄に思います。私も微力ではありますが両国の友好のために尽くす所存です。共に歩んでいきましょう」

 そう言って微笑みを浮かべた。参列者から拍手が巻き起こり、メルヴィン王は頷くと続ける。

「異界大使テオドールはこれへ」
「はっ」

 一歩前に出る。

「テオドールは近年目覚ましい戦果を挙げ、我が国に空中戦装備を齎した人物だ。この造船所も、テオドールの手によるものである。討魔騎士団は彼の者と連携、これを補佐して魔人に対抗することとなる。また空中戦の第一人者ということでそなた達の教導を行うことにもなっている。テオドール」
「はい」

 頷き、一礼する。メルヴィン王は言い回しを色々工夫しているようだ。情報操作の一環として魔人殺しの文言は使わない方向である。

「メルヴィン陛下よりご紹介与りました、テオドール=ガートナーと申します。若輩ではありますが、教導、訓練の任に全力を尽くしますのでよろしくお願いします」

 と言うと、拍手が起こったが……全力を尽くすというくだりで一瞬、騎士団の面々――特に俺と面識のある者達の表情が引き攣ったような気がする。……訓練自体はそんなに無茶をしないつもりではいるんだが。訓練で怪我をしてたら元も子もないし。
 無難に挨拶して一歩下がると、メルヴィン王が後を引き継いでくれた。

「訓示は以上だ。ささやかながら祝いの席を設けている。各自英気を養い、交流を深めて訓練と任務に備えるように」

 そう言って討魔騎士団創立の儀が終わった。造船所の建物に王城から料理が運ばれているのだ。



 式典が終わって建物内の食堂へと移動する。
 バイキング方式の立食パーティーと言った雰囲気である。団員同士の交流が行えるようにといったところか。
 というわけで、俺も挨拶を受ける側の立場であるので、食事もそこそこにエリオットと共に団員達の挨拶を受けることになった。

「大使殿、エリオット団長。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「よろしくお願いします」

 俺達への挨拶を終えた騎士達はあちこちでヴェルドガルとシルヴァトリアの交流ということで、握手を交わしたりなど、積極的に良好な関係を築こうとしているようだ。

「それにしても……これほどの施設を1日にして作ってしまうとは」
「ありがとうございます。訓練設備も兼ねていますので、使っていて不便なことがありましたら、ある程度対応できますので仰って下さい」
「なるほど……。魔法建築ならではですね」

 騎士達の笑みが引き攣る。その横で、エリオットも騎士達と言葉を交わす。

「団長は魔法騎士とお聞きしましたが……剣も魔法もとなると心強いですね」
「空中戦には魔道具の活用が不可欠ですからな。エリオット団長はどのような魔法をお使いになるのですか?」
「水魔法です。魔法に合わせた剣技などをシルヴァトリアで修めました」
「水魔法……。となると、治癒魔法もですか?」
「ええ」

 治癒魔法と聞いた団員の表情が明るいものとなる。
 アシュレイもそうだが、治癒魔法を使える人物がいるというのは、確かに心強い。体力回復に解毒等々、治癒魔法の使い手が1人いるだけで継戦能力も上がるし落伍者も減る。軍隊において治癒魔法の使い手というのは信頼や尊敬を集める傾向があるようだが……剣も使えて前線にも出られるとなれば尚更だろう。

「私は魔法にはあまり詳しくないのですが……大使殿はどのような魔法が得意なのですか?」

 と、その話題から俺のことにシフトする。

「特に得意な系統というのは。強いて言うなら攻撃魔法全般ですね」
「というより、ほとんど全ての系統の魔法を使いこなしていらっしゃる」
「それはまた……」
「魔人との戦いにおいては頼もしい限りですね」
「全くです」

 エリオットの言葉にエルマー達がしみじみと頷いている。やや反応に困るところだが、エリオットと討魔騎士団の面々の関係がまずまず良好な滑り出しで、そのへんは安心できる話ではあるかな。

「……大使殿の訓練内容は気になりますな」
「確かに……」
「いえ、普通ですよ。全力というのは僕の心持ちの話なので」

 訓練内容を考えたりその進捗状況を見るのに手を抜かないという意味なので心配する必要はない、はずだ。
 いつも通りゴーレムを活用して瘴気弾や瘴気剣への対応やら、魔道具による空中機動の方法やらといったところか。後は空中戦の場数を積んだ数が物を言うので組手もやるかも知れないが。
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ここまで頑張って来れたのも皆様の応援のおかげです。
改めてお礼申し上げます<(_ _)>
これからも頑張っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします!
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