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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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304 湾港のゴーレム

 ――明けて次の日。まずはアウリアとユスティア、ドミニクを冒険者ギルドへと送っていき、それからその足でみんなと共に王城へと出かけた。

「おお、来たかテオドール」
「おはようございます。メルヴィン陛下」

 続けてステファニア姫やアドリアーナ姫にも挨拶をする。

「おはようございます、殿下」
「ええ、おはよう」
「おはようございます、大使殿」
「ふむ。では、参ろうか」

 王城に顔を出すと護衛を連れたメルヴィン王が俺達を待っていた。今日はこのまま飛行船に乗って西区の港上空へと向かうことになっている。
 造船所兼空港を作るために、用地の下見をしに行くという話になったのだ。

「おはようございます、ミルドレッド卿」
「これは大使殿」

 騎士団長のミルドレッドもいたので、挨拶がてらにラザロの大剣の続報についても少々触れておく。

「炎熱城砦の件についてはもう少しお待ちください。大剣に関しては修復にもう少し時間がかかるようです」

 アルフレッドによるとなかなか特異な金属で作られた大剣らしい。
 折れたところだけ繋ぎ直すのではなく、刀身全体を打ち直している最中ということだ。アルフレッドが王城の書庫に出入りできることもあって、貴重な製法も問題なく情報として得られるから助かる、と鍛冶師のビオラは言っていたが……修復そのものには問題はないらしい。
 アルフレッドとしてもラザロに会う時のためにと、空中戦装備一式を用意してくれるそうだ。次に炎熱城砦に行く時は空中戦装備をラザロに贈るということになるだろうか。

「ありがとうございます。私としては急ぎではありませんのでお気になさらずに。鍛冶師殿にもそうお伝え下さい」
「分かりました」

 ミルドレッドへの連絡も済ませたところで、飛行船に乗って西区へと出発する。同行者はパーティーのみんな。メルヴィン王とステファニア姫、アドリアーナ姫。その護衛の騎士達。それから空港に関わりが深くなるであろうアルフレッド、エリオット、ジークムント老とヴァレンティナ、シャルロッテという顔触れである。

「いやはや。飛行船か。これでまだ完成形ではないというのだから驚くべきことだな」

 甲板に立ったメルヴィン王が初めて飛行船に乗った感想を漏らした。その表情はどことなく楽しんでいるようにも見える。

「死角が多いので、そのあたりの問題が解決できれば輸送船としては良いのかも知れません。目的を選べば素材も特異なものを使う必要がなく、製造も安価に仕上がりますから」
「用途に応じて完成形を異にすると。うむ。道理ではあるな」

 ジークムント老が舵輪を握り、傍らの水晶球に触れると船が上昇を始めた。
 ゆったりとした速度で城壁を越えてから西区へと回頭し、前進を始める。

「新設する部隊の訓練設備というのも……あっても良いのかも知れんな。対魔人部隊ということでその訓練の様子はあまり明かさないほうがよかろう」

 と、メルヴィン王が言う。情報操作の一環か。

「併設するというのも良いのかも知れませんね。それだけの土地があればですが」
「その心配は必要あるまい。タームウィルズ周辺の土地に関してはこれ全て王家の管轄ゆえに、必要ならば外縁部から更に外側へと施設を広げれば良いだけのこと」
「なるほど……」

 このへんの融通は王家ならではという気がする。まあ俺としても融通が利くと言うのは有り難い話ではある。
 話している内に飛行船が西区の港付近に到着したので早速上空から地形を見てみる。

「上から見るとよく解るわね。防波堤が外壁の延長上に円を描いている。とすると、結界はその少し外側を覆っているということになるかしら」

 ローズマリーが甲板から港を見下ろして言う。
 簡易ではあるがタームウィルズ全景の縮尺模型を作って、どのあたりまで結界が及んでいるのか。おおよその見当をつける。

「結界についてはどうなるのでしょうか?」

 グレイスが首を傾げる。

「ああ。あれは温泉街と同じようになると思うよ。外壁を完成させたときに温泉区画もタームウィルズの結界に覆われたから……外界と隔てるために何かで覆ってやれば機能するはず」

 外縁部に施設を作って、外壁を作ってやれば……そこも術式によって「内側」と見なされ結界に取り込まれる形になるだろう。

「このあたり――使えそうですね」

 と、俺が模型の一部と、景色の一角を指差す。みんなが模型と実際の地形を見比べる。結界の外縁部周辺に、岬というほどではないが少々海側に迫り出して、小高くなっている岩山のような地形がある。

 一見すると平地でもなく、尖った地形であるために使いにくそうな印象がある。こういう地形を活かすなら、本来は突端に灯台でも立てるべきなのだろう。しかしタームウィルズに関して言うなら、王城セオレムがかなり遠方の沖からでも見えるため、灯台の代わりとして機能しているのでその必要が無かったりするのだ。

「ふむ。どうするつもりかな?」

 メルヴィン王は俺が何を考えているのかあれこれと予想を立てて面白がっているような印象だ。

「この小さな岬を削り、そのまま造船所兼港に改造してしまおうかと思っています。設備を作るための資材を特に確保しなくても周囲の地形を削って平地にすれば丸ごと建材として流用できますので準備などの手間が省けるかなと」

 模型を岩山周辺のみに限定して作り直し、岩山に続く坂道のあたりから海側に面した部分だけを堤防として残し、地形の大部分を削って平地に作り変える。
 堤防の内側を造船所兼空港として改造。岩山であった地形を利用して内部をくり抜き、砦のような建物に仕立て上げるという寸法だ。
 そうして最後に余った土砂を用いて施設を覆う高い壁を作り、その壁をタームウィルズの外壁へと繋げる。壁の上を歩いて行けば連絡通路になるか。
 完成形としては――新たに海に面した砦のような施設が出来上がる感じになるだろう。

「いや、これは……」
「先生にしか出来ませんね……」

 説明を終えるとみんなは呆気にとられたような表情を浮かべていた。メルヴィン王はやがて感心したように頷いてから、言った。

「面白いな。東区側に温泉区画が出来たのだし、対角上に新しい設備が出来るのであれば対称的で丁度良いというのもある」

 なるほど。そこはあまり意識していなかったが。

「許可が頂けるのであれば、このまますぐに着工してしまおうかと思います」
「それはますます面白い。……出来上がった際のハワードらの顔が見物ではあるな」

 メルヴィン王は少し思案していたようだが、やがて顔を上げる。にやりと悪戯を思いついたような笑みが浮かんでいた。

「うむ。余の名において許可しよう」
「ありがとうございます。それでは、少し行って参ります。大規模な魔法建築になるので、もし工事によって混乱が生じそうな場合は――」
「その際は騎士達を派遣し、問題がないことを説明させよう」
「ありがとうございます」

 それならば遠慮はいらないか。みんなには文字通り高みの見物をしていてもらえればいい。

「じゃあ、少し行ってくる」
「マジックポーションや体力回復の魔法は必要ですか?」

 アシュレイが尋ねてくる。

「そうだな。途中で休憩を挟むからその時に頼むよ」
「はい」
「大型のゴーレムを作るのでしょうし、怪我をしないように気を付けてね」

 と、クラウディア。

「うん。大規模だし注意するよ」

 セラフィナとカドケウス、バロールを連れ、飛行船の甲板から飛ぶ。少し振り返ると、こちらに向かってにこにこと手を振るマルレーンが見えた。こちらも手を振り返すと、他のみんなも笑みを浮かべて手を振り返してくる。
 よし。頑張ろう。

 まず目的の場所の上空へと向かう。カドケウスには烏の姿を取らせ、バロールと共に周辺に人がいないことを確認させていく。カドケウスとバロールにはこのまま上空から周囲を見張らせよう。ゴーレムを大量に移動させるし、工事中に近付かれたら危険があるので。

「よし……。それじゃあ、始めようか」
「うんっ」

 セラフィナの返事を合図にするようにマジックサークルを展開。土魔法でヒュージゴーレムを2体3体と作り出し、模型を目安にしながら大まかに地形ごと削り出していく。
 ヒュージゴーレムは今のところ邪魔になるので、作り出したら一旦邪魔にならない場所へと移動させていく。街道より少し離れたところに体育座りで待機させておけば……まあ、それなりに威圧感も和らぐし、近付こうと思う者もいないだろう。移動させたヒュージゴーレムは一旦制御を解いてただの岩と同じ状態に戻していく。今までにない大規模な魔法建築だ。魔力循環で力を高めて気合を入れて制御していく。

 突端の海側を防波堤に、タームウィルズ側は平地になるようにイメージしながら整地していく。岬とタームウィルズの間にある広い海――そのあたりが空港となる予定だ。
 建物に改造するための岩山を残して、どんどん地形を削り、ゴーレム置き場に送っては制御を解除するという作業を繰り返す。
 おおまかに完成形に近いところを削り出したら、海に面した堤防側を土魔法を用いて構造の補強をしていくことになる。それに続いて平地になる部分を平らに整地するわけだ。ここは後でゴーレムを使って石畳を敷き詰めるとしよう。平地に残す岩山は――最後に加工して建物にしてやればいい。

 ふむ……。魔力量もタームウィルズに来た頃に比べると相当上がっている気がするな。結構な数のヒュージゴーレムを作っているがまだ余裕を感じるぐらいだ。
 迷宮探索を続けているというのもあるが……迷宮内外で高位魔人を何度か倒しているせいもあるのかも知れない。
 戦闘中と違って思う存分好きなだけ魔力練ることもできるしな。
 工事で無理はしたくないし、何回か休憩を挟んでやれば余裕をもって進めることができるだろう。まあ……今日中にこのまま最後まで作れるかなというところである。
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