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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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302 新しい巫女の歓迎会

「やっぱり豊漁が続いているんだな。迷宮外の食材でも海産物が豊富みたいだ」

 一先ずアウリア達とは一旦別行動を取り、市場へと向かう。
 水の精霊殿が解放された影響で海老、蟹、貝に魚と、魚介類の豊富さが目立つ。
 魚介類も悪くないが、それに加えて境界都市ならではの魔物系の食材を用意したいところだ。歓迎に丁度良いような食材を探して市場を見て回っていると、少し気になる物を見つけた。

「んー……。これを買って帰ろうか」
「これは何の魔物ですか? 鳥……ですよね?」

 グレイスが首を傾げる。

「うん。スプリントバードって言う鳥の魔物だね」

 スプリントバードはダチョウやヒクイドリのような姿をした魔物だ。地球側では絶滅種ではあるが、モアと言ったほうが近いかも知れない。強靭な足によって高速で走り回る、飛べない鳥である。
 気性が荒く、獰猛で力が強い。嘴も鉤爪も鋭いので攻撃方法は単純ながら危険な魔物という位置付けだ。
 しかし危険度の高さに比例するように羽毛が美しく、装飾品としての価値があったりする。このスプリントバードの羽毛については既に剥ぎ取られてしまっているようだが、食材として見るなら何も問題はない。

「本来は南方に生息している魔物っていう話だよ」
「では、歓迎用としては良いかも知れませんね」
「うん。シルヴァトリアには入って来ない食材だと思う」

 そのあたりのことを考えると、今日のメインに据える食材としてはこれが良さそうだ。

「ふむ。南方の魔物まで出現するとは、やはり迷宮は興味深いのう」

 ジークムント老はスプリントバードを興味深そうに眺めている。
 ということで、魚介類に野菜、果実と共にスプリントバードの肉を買って帰ることにした。

 スプリントバードは結構な大物なので馬車に乗せて運びたいところではあるが、今日は徒歩だ。ローズマリーの魔法の鞄にもこういった食材をそのまま突っ込むのは……何というか気分的に遠慮したいところなので、即席で木魔法や土魔法を用いて荷車を作って、それに乗せて帰ることにした。

 代金を払って荷車を作り、ゴーレムにスプリントバードを積み込ませると市場の売り子が目を丸くしていたが……まあ致し方ないことだ。そのままゴーレムに荷車を押してもらって家まで帰った。



「お帰りなさいませ、旦那様」

 と、出迎えにきてくれたセシリアが一礼する。

「ただいま、セシリア」
「初めまして。シャルロッテ=オルグランと申します」
「これはご丁寧に。テオドール様の元で使用人の長を務めております、セシリアと申します」

 セシリアとシャルロッテが挨拶を交わす。

「シャルロッテは賢者の学連の関係者なんだ。今後もタームウィルズで一緒に協力していく形になる。歓迎会を開きたくて色々買ってきたから、今日の夕食に使って欲しい」
「分かりました。これは……鳥ですか」

 セシリアは興味深そうにスプリントバードを眺めると、頷く。

「では、腰周りのお肉を炙り焼きにしてみようかと思います」
「筋のあたりは煮込み料理などが良いかも知れませんね」

 と、セシリアとグレイスが会話を交わしている。
 ふむ。フィレステーキにシチューといったところか。

「良いね。出来上がりが楽しみだ」
「お任せ下さい。珍しい食材ですのでミハエラ様と協力して腕によりをかけます」

 などと話しているところに、丁度エリオット達も帰ってきたようだ。玄関ホールでエリオットとカミラ、ドナートと顔を合わせる形になる。

「おかえりなさいませ、エリオット様」
「ただいま戻りました。テオドール殿もお戻りですか」
「ええ、シルヴァトリアから戻って、少し市場へ出かけていました。こちら賢者の学連から封印の巫女の後継として来ました、シャルロッテ嬢です」
「はじめまして。ご紹介に与りましたシャルロッテ=オルグランと申します」
「これはご丁寧に。エリオット=ロディアス=シルンと申します」

 エリオットにシャルロッテを紹介する。カミラ、ドナートも続いてシャルロッテに自己紹介をしている。

 新居に関してはロゼッタから商人に渡りをつけてもらったので、今日はカミラと共に新居で使うための家具を見て回っていたそうだ。肝心の商人とは2日後に約束をしているとのことである。
 ……んー。俺もこっちに来たばかりの時にグレイスと一緒に家具を見て回ったっけな。

「今日はどうでしたか?」
「中々楽しかったよ、アシュレイ。何点か気に入った物も見つかったし」
「品揃えが良くて目移りしてしまうところがあったわね」
「そうだね」

 と、エリオットとカミラは微笑みを向け合っている。それをアシュレイとドナートが嬉しそうに見るという、中々に和やかな光景だ。
 エリオットとカミラの間にある雰囲気としては既に完全に新婚夫婦のそれである。

「いい家が見つかると良いですね」
「そうですね。ロゼッタさんによれば、商人が東区に良い物件があると言っていたそうです。恐らく、新居は近所になるのではないかと思いますが」

 なるほど。東区なら近所だし治安も良いからな。
 エリオットとは今後も対魔人ということで連携していく予定だし、家が近場ならお互い協力しやすくて利便性も高い。

「ところで、それは何の魔物ですか?」
「ああ。スプリントバードという鳥の魔物です。歓迎ということで今日の夕食に使おうかと」
「それは楽しみですね」

 やはりスプリントバードはみんな気になるところなのか。ゴーレムに食材を担がせて家の中へと運び込ませる。厨房へ持っていくと、それを見たミハエラも調理メンバーに加わって、早速下拵えを始めていた。うん。今日の夕食が楽しみだ。



 夕食時になると、予定通りにアウリア達が訪ねてきた。副ギルド長オズワルド、ユスティア、ドミニク。それからフォレストバードの4人だ。

「これはつまらないものじゃが」

 とアウリア。手土産持参であった。鮮やかな青緑色や赤色の羽飾り。……これ、素材はスプリントバードじゃなかろうか。

「この羽飾りは……」
「うむ。迷宮で珍しい魔物が倒されたらしくての。その羽で作ったお守りじゃよ。スプリントバードの羽で作った羽飾りは魔をはらい、幸運を運ぶそうじゃ。職人が早速加工して市場で売りに出しておったから、つい1つ買って来てしまったのじゃ」
「なるほど」

 奇遇というか何というか。思わず苦笑してしまう。
 そう言えばBFOでも装飾として装備に組み込むとそれなりに高い耐性を得られたような気がする。お守りの効果というのは間違いあるまい。

「ありがとうございます。早速。では、どうぞこちらへ」

 まずは夕食からということで。
 アウリア達を食堂に通した時には既に準備万端整っていた。赤みの残るフィレステーキと、すじ肉のシチューが何とも食欲をそそる匂いをあたりに漂わせている。

「これはまた……ご馳走じゃな。手土産がお守りでは不足であったかな」
「いえ。そんなことはありませんよ」

 と、アウリアに返し、みんなに羽飾りを見せて言う。

「アウリアさんから、スプリントバードの羽飾りを手土産にもらいました」

 その言葉にローズマリーは羽扇で口元を隠して頷いていた。どうやら笑っているようだが。

「目を付けるところは同じということかしらね」
「ふむ? 何じゃ?」
「今日の主菜もスプリントバードなんですよ」
「何と」

 と、アウリアも目を丸くしていた。



 スプリントバードは野性味溢れる印象があったのだが、フィレステーキは随分上品な味であった。肉質も歯応えはあるが、味自体は癖がない。
 スプリントバード自体の素材の味からして割合淡白なのかも知れないが、グレイス達の味付けも流石というか、素材の良さを十分に引き出していると思う。すじ肉のシチューも良く煮込まれていてとろけるような舌触りであった。

「とても美味しかったです。私などの歓迎でこんなに良くしていただいて……嬉しく思います」

 と、シャルロッテは立ち上がると深々とお辞儀した。グレイスとセシリア、ミハエラは穏やかに微笑んで応じる。

「スプリントバードは何回か食べたことがあるが……。こんな美味いもの食ったのは久々だな」

 オズワルドが言う。

「本当になぁ。こんなの食べちまうと、俺達も狙いに行きたくなる」
「大物みたいだから狩るのも危険度が高そうだけど……どこに出るんだろう」

 ロビンとフィッツがそんなことを話している。

「スプリントバードは幻霧渓谷だったかしらね」

 クラウディアが言う。どこに何が出現するかクラウディアは把握しているようだ。

「ああ、地下20階からの分岐でいけるのね」
「結構難易度が高そうなんですけど……」
「渓谷の底に時々出没して走り回ってるって言うから……遭遇した場合はまともにやり合うことになるかな。霧に幻影が映ったりするからそのへんの対策も必要だね」

 などとスプリントバードや渓谷についての情報を提供する。んー。ロビン達も順調に力を付けているから勝てるだろうとは思うが。
 食後に茶を飲みながらそんな話をしていると、ふと話題が途切れたところでヴァレンティナがアウリアに尋ねた。

「そう言えば、パトリシア――リサの作った杖を持ってくると伺いましたが」
「うむ。持ってきておるぞ」

 食事も一段落したからか、アウリアは手荷物から細長い包みを出してくる。

「母さんの試作品ですね」
「うむ。面白いので譲ってもらったのじゃ」

 と、アウリアは例の髑髏杖を取り出す。骸骨の頭をあしらった鉄球から棘が飛び出して、杖と鎖で繋いであるという代物だ。
 鉄球の中心にはミスリル、目の部分には魔石が埋め込んであるそうで……これでしっかりと魔法の触媒として魔力増幅の役割を果たす……らしい。

「むう。これは確かに……アレの手によるものじゃろうな」
「確かに……。パトリシアの作ったものね」

 ジークムント老とヴァレンティナは一目見て断言すると頷き合っている。驚きもしない、というか、懐かしがっているような印象さえあった。

「こ、これは……? ふ、封印の巫女はこれを扱えなければ駄目なのでしょうか?」

 シャルロッテはあまりの際物ぶりに目を白黒させているが……うん。母さんも認める失敗作だからそれは杞憂だ。

「嫌いじゃない」

 シーラが言うが、イルムヒルトは苦笑している。

「噛み付いたりしない?」
「それはまあ……心配ないと思う」

 セラフィナが尋ねてくるので、大丈夫と答えておく。割合造形のリアルな骸骨なのでマルレーンも目を瞬かせているようだ。

「試しに何度か使ってみたが……雷撃を纏わせて鈍器として使う分には問題が無かったぞ」

 様々な角度から魔法が撃てるようにというコンセプトだったはずだが……。モーニングスターと呼んだ方がしっくりくるな。
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