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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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301 境界都市案内

 長老達から資料を預かって、タームウィルズへと戻る。

「では、行くわ」

 クラウディアの転移魔法が発動して周囲が光に包まれる。白い光が収まると、そこはタームウィルズの儀式場であった。
 ヴィネスドーラが北方にある都市なので、タームウィルズにいきなり飛ぶと気温がかなり暖かく感じる。

「これが転移魔法……」

 シャルロッテは転移魔法での移動は初めてなので景色も気温も一瞬で変わって、かなり感心した様子で周囲を見回している。ガルディニスの話でも転移魔法の話は出たしな。割と感動しているように見える。
 儀式場の源泉やら花畑、セラフィナと一緒に飛び回る花妖精達に目を引かれていたようだが……視線を巡らした時に聳えたつ王城セオレムに釘付けになり、驚きの表情を浮かべていた。

 エベルバート王はシルヴァトリアに帰還したが、ジークムント老とヴァレンティナは引き続きタームウィルズに留まって工房や俺の家で解読や研究、開発を行っていく。そこにシャルロッテも加わり、並行して封印術の継承も進めていく形になるだろう。

「まず預かった物を家に置いてから、少し町中に出て買物にでも行きましょうか。その際、少し町中を案内します」
「分かりました、テオドール先生」

 ……シャルロッテは俺を先生と呼ぶことにしたようだ。
 ほぼ同年代で先生や師匠も無い気もするが、封印術を習う以上は年齢よりも師弟関係をはっきりさせておきたいとのことである。まあ、一理あるので師匠と呼ばれるよりはと先生で妥協することにしたが。

 シャルロッテの俺への呼称はともかくとして……彼女の歓迎の意味を込めて何か食材を買いに行こうと思う。ジークムント老やヴァレンティナもタームウィルズに来てから劇場や温泉には行ったが、町中を目的とした外出というのは今まで無かったし。この際だしタームウィルズを案内するのもいいかも知れない。



「では行きましょうか」

 賢者の学連から預かった品物を一先ず隠し書斎に退避させてから外へ出かける。ヴァレンティナもシャルロッテも、国外どころかヴィネスドーラの町中にもあまり出たことがないということなので、町の案内も兼ねて今回は歩いて外出することにした。
 マルレーンも自分の足ではあまり出歩かないからか、割と嬉しそうにしている。視線が合うと微笑みを向けられた。

「タームウィルズは中央部と東西南北で分かれていて……それぞれで割と特色がある町なんです。この東区はタームウィルズでも割と治安の良い場所ですね」
「確かに、綺麗な街並みですね」

 シャルロッテは東区を見ながら頷く。整備された石畳の通りは、割と広くて見通しもいい。しっかりした作りの建物も多いのが東区の特徴だろう。

「通りの向こうにペレスフォード学舎があります」
「ああ、学舎の話は聞いたことがあります」
「有名よね。賢者の学連と並んで名前を挙げられることも多いわ」
「帰りに少し見ていきますか」

 興味深そうにペレスフォード学舎のあるほうに視線を送っているのでそう言うと、嬉しそうに頷く。

「テオドール様や私も在籍しているんですよ」
「もし必要と思えば通うこともできるかと。家に学舎からもらった資料の類もありますので。次に――あちらにブライトウェルト工房や迷宮商会があります。基本的にはこの近辺や中央区だけで用事が足りてしまう部分はあるのですが」

 ヴァレンティナやシャルロッテは今まで行動の自由が無かったのだし、家と職場の往復だけというのも味気が無い。1人で外出というような不用心なことは避けたいが、治安の良い場所悪い場所、気を付けるべきことなどは説明しておこう。
 そのまま神殿や冒険者ギルドのある中央部へと足を向ける。

「東区と逆方向の、西区には港や孤児院があります。ここからだと王城セオレムの向こう側になりますね」
「孤児院は私やシーラもお世話になったところで、サンドラ院長や職員は優しい人達が多いのだけれど……基本的に西区――特に港近辺は治安があまり良くないの」
「もし西区に用事があって出かけるなら、1人では行かないほうがいい。声をかけてくれれば私が付き添う」

 シーラとイルムヒルトが言う。

「は、はい」
「分かったわ」

 シャルロッテとヴァレンティナが神妙な面持ちで頷く。治安が悪いと聞いて若干緊張感を持ってくれたようだ。とはいえ西区は盗賊ギルドのアジトがあるし……シーラが一緒なら寧ろ安全な部類かも知れない。

「北区は商業区画と言いますか……店舗が多い印象ですね。何か必要な物がある場合は足を運ぶことが多いかも知れません。今回は神殿前の広場にある市場に食材を買いに行くので、そこまでは足を延ばしませんが」
「それじゃあ……南区はどうなのかしら」
「南区は職人やら工房やらが多くて、ドワーフの姿を多く見かける場所ですね。ドワーフが多いからなのか、酒場も多い気がしますね」

 東区が閑静な住宅街というのに対して、南区はどこか厳つい印象がある。
 ドワーフが多いから酒場も繁盛する区画ではあるのだが……ドワーフが酒に対して異常に強いせいなのか、酒場の数の割に案外治安は悪くない。流石に西区に隣接する南西付近は人間の酔っ払いも増えてくるので雑然とした雰囲気になってくるのだが。

「後は中央区ですね。ここは迷宮と一体化しているような独特の建築様式の建物が多いです。貴族の別邸や豪商の邸宅などが多く、兵士の見回りも多いので治安も良い部類です。これから向かう月神殿周りの広場は人が集まってくるので少し違いますが」
「神殿からは迷宮にも降りられますよ」
「神殿前の市場は迷宮から出てくる食材が並ぶので、一番利用する場所ですね」

 グレイスとアシュレイが広場についての説明を付け加えてくれる。

「最近、新しく劇場と温泉街も増えた」
「こちらに転移した儀式場の周辺が温泉街よ」

 シーラとローズマリーの補足説明にシャルロッテは目を丸くしていた。
 月神殿に向かって歩いていくと、比較的静かな東区とは違って段々人通りも多く賑やかになってくる。大通りに出ると馬車が行き交い、道の端で露天商が品物を広げていたりと、とにかく活気が出てくるのだ。

 ドワーフにエルフ、リザードマンにホークマンと、他の場所よりも多い比率で異種族を見かけるのもタームウィルズの特徴である。そこに冒険者達の姿も加わるのだから、初めて見るのであればかなり混沌とした光景に映るかも知れない。ジークムント老は泰然としているが、ヴァレンティナもやや落ち着かない様子で、シャルロッテは目を白黒とさせている。

「大きな都市だと聞いていましたが……ヴィネスドーラとはかなり違うんですね」

 と、感想を零すシャルロッテ。ヴィネスドーラも大都市部と言っていいが、何というか全体が整然とした印象があるからな。

「かも知れませんね」
「おお、テオドール!」

 と、言葉を交わしながら広場に到着したところで雑踏から声が掛けられる。
 そちらに視線をやれば声をかけてきたのはアウリアだった。手を振りながら笑みを浮かべ、通りの向こうからこちらに駆けてくる。何というか、子供が町中で友達を見かけた時のようなテンションにも見える。本人には言わないけれど。
 ユスティア、ドミニク。それに護衛役なのかフォレストバードも同行しているようだ。

「こんにちは。こちらはタームウィルズ冒険者ギルド長のアウリアさんです」

 アウリアを紹介してからその同行者達もそれぞれ紹介する。アウリアを紹介した時の、意外そうな顔はまあ……仕方が無いことかも知れない。

「こんにちは、テオ君」
「歩いて出かけるっていうのは珍しいんじゃないか?」

 と、フォレストバードのルシアンとロビン。

「こんにちは。祖父や親戚に、町中を案内していたんです」
「そうなのか。俺達は劇場の前までちょっと護衛を頼まれたんだ」

 フィッツが言う。劇場の前……というと、かき氷やら炭酸飲料に綿あめを売っている売店か。アウリアの外出にユスティアとドミニクが同行したというところだろう。

「初めまして。冒険者をしています、フォレストバードのモニカと言います」
「ジークムント=ウィルクラウドと申す」

 ジークムント老が静かに一礼する。ヴァレンティナやシャルロッテもそれぞれに自己紹介する。

「祖父、ということはリサのお父君ということになるのかのう?」
「ほう、娘をご存じと」
「うむ。冒険者時代にギルドも世話になっての。リサがいたから助かった冒険者というのも多いのじゃ」

 アウリアは笑みを浮かべる。
 ふむ。ロゼッタとはまた別視点の話が聞ける感じではあるな。ジークムント老は母さんの話を聞きたいと思うし、今日はシャルロッテを歓迎して夕食を豪華にする予定だから、賑やかなほうが良い。アウリア達を家に呼んでみるかな。

「今日はシャルロッテの歓迎で買い出しに来ているのですが……。どうせなら後で家に来ますか? 劇場の前の売店は、結構な時間並ばなければならないでしょう?」
「ほうほう。行くぞ。行くとも!」

 アウリアは二つ返事で頷く。まあ、家に来れば炭酸飲料など飲み放題だしな。代わりにギルド長の威厳がトレードオフな気もするけれど。

「ふむ。そういうことならギルドからアレを取って来なければなるまいのう」
「ああ。あれですか……」

 母さんの作った髑髏杖のことだろう。実用性はないがアウリアのお気に入りではあるようだし。まあ……ジークムント老やヴァレンティナは母さんのセンスを元々知っているから、別に良いか。
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