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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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300 魔術師達の因縁

「それでは、朗報を期待している」
「はい。それではまた近い内に」
「うむ」

 エベルバート王に見送られて王城を辞去し、賢者の学連の敷地へと向かう。
 書物や資料をタームウィルズ側に持っていって解読や研究を進めるということになった。賢者の学連からは持ち出せる物、持ち出せない物と色々あるようだが、そこは学連側でも長老達が作業を進めることで補う形になる。
 要するに時々シルヴァトリアにやって来て続報を聞いたりする必要があるのだが、魔人の動きが無いか調べる意味合いもある。必要なことだしそれ程手間でもあるまい。

「おお、テオドール君か」

 学連の敷地内にある、塔に顔を出す。七家の面々は禁書庫や宝物庫から色々書物などを引っ張り出して大書庫の机の上に並べているところだった。

 俺達が顔を見せると作業の手を止めて集まってくる。

「こんにちは」
「いや、よく来たね」

 七家の面々に挨拶をすると口々に歓迎の言葉を述べてくる。顔を出したことで随分と喜んでくれているようだが。

「君やジークムント殿が来たと聞いてね。準備しておいた書物を奥の書庫から出しているところなんだ」

 ええと。七家の当主の1人、エミール=オルグラン氏だったか。
 前に会った時とは格好が違っていてモノクルに口髭というスタイルになっていた。シャルロッテの父親に当たる人物だ。

「ありがとうございます」
「何の。私達にできることはこのぐらいのものだからね」

 そう言ってエミールは笑う。

「お父様」
「シャルロッテか。何かあったのかな?」

 シャルロッテはエミールに一礼する。エミールはそれを見て真剣な表持ちになる。シャルロッテの雰囲気が出て行った時と違っていたから、だろうか。何かシャルロッテの変化に思うところがあったのかも知れない。

「お城にて、テオドール様とお話をしてきました」
「ほう」
「ふむ。先程の話は皆にもせねばなるまいな」

 ジークムント老がそう言って、俺に視線を向けてくる。俺は頷いてヴォルハイムとの会話で分かったこと、封印の巫女の役割についてをみんなに説明する。

「ということで、封印が既に解かれてしまったので契約が成立しなかったのではないかと」
「なるほど……。どうやら我々は後手に回っているようだね」
「かも知れません。しかし、封印術の継承は行いたいと考えています。魔人の封印の再構築も目標となりますが、技術として失われては損失に違い有りませんから」
「そうか。だから、シャルロッテは……」
「父様。私もジークムントお爺様やヴァレンティナ様と同じように、タームウィルズに向かってもよろしいでしょうか?」
「……そうだね。旅の準備をしてきなさい」

 エミールが頷くとシャルロッテは真剣な面持ちで自分の荷物を纏めるために大書庫を出て行った。


「娘の指導をさせることになってしまって、すまないね。君も多忙だろうに」
「いえ。母さんの遺した物を本来あるべきところに返すというのは……僕がするべきことでもありますから」
「そうか……」

 エミールは目を閉じる。母さんのことを思い出しているのだろうか。
 気を取り直すように頷いて、エミールは書物を手に取る。

「ここにある古文書は、タームウィルズの迷宮に関する記述が見られた代物でね。封印と結界についても解読が進んでいけば出てくると思う」
「やはり秘術の類ですか」
「うむ。じゃが、儂らの見解としては今後のテオドールや、その子らの負う役割を鑑みるに、引き継ぐべきはお主じゃと考えておるでな」
「ウィルクラウド家の直系にして迷宮に深い関わりを持つ者。そして魔人を屠った戦闘魔術師。我らが預かるよりも、迷宮に関するものは迷宮に置くべきだ」
「……では……。お預かりします」

 そう言って一礼する。

「うん。持ち出せるものについては準備を進めているから、もう少しここで待っていてくれたまえ」
「はい」

 過去の資料に迷宮を利用する術式、結界術に封印術。それにヴォルハイムの瘴気術の研究。これらの中から持ち帰れる物は持ち帰り、タームウィルズとヴィネスドーラで並行して研究や解読を進めていくわけだ。

「作業がてら魔人を倒した話についても聞きたいものですな」

 長老達が笑みを浮かべる。

「そうだな。そう言えば我々はテオドール君が魔人を倒したとは聞いているが、その詳しいところまでは知らないし」
「おお。それは確かに。気になりますな」



 ……という話になったので、宝珠と瘴珠周りの情報を共有する意味合いも兼ねて魔人との戦いについて詳しい経緯を伝えたのだが……。
 リネットに始まり、炎熱、舞剣と話が進むと魔人の二つ名が出るたびに長老達の笑いが乾いたものになっていった。

 途中からイルムヒルトがBGM代わりに音楽を奏で始めたりして、魔人との戦いの話に臨場感を出したりしている。荷物を纏めたシャルロッテも大書庫に戻って来ていて、何時の間にか俺やみんなの魔人戦の回想話になってしまっていた。
 マルレーンもセラフィナを肩に乗せて、2人してこくこくと真剣に耳を傾けていたりして。お陰で物語を聞かせる甲斐のようなものはたっぷりあるのだが。

「いやはや。召喚術を操る魔人というだけでもかなりの変わり種だというのに、炎熱と舞剣とは……」
「変わり種……。そうなんですか?」
「連中は己の力に偏重したところがあるからのう」

 ……うん。確かにそうかも知れない。リネットは瘴気特性こそ持たなかったけれど……あいつの抜けた穴は魔人にとっては意外に大きいのかも知れないな。

「炎熱は猛烈な熱気により、瘴気を防いだとしても近付くことも叶わず、熱気を用いずとも剣の達人であると聞く」
「舞剣もな。無数の剣を飛ばし、一歩も動かずに討伐隊を切り刻んだだとか」
「よくもまあ……そんな連中を下したものだ。高位魔人に勝つには結界で逃げられないような状況を作り、物量で入れ代わり立ち代わり戦って消耗させるぐらいしかないと考えていたのだが」
「うむ。熱に対する多重防壁や、全方位へのシールド展開を行って……そのままで戦闘までこなすか。どうやら我らとは魔力制御の能力において次元が違うようじゃな」

 と、長老達は納得するように頷いている。

「蝕姫を倒したという話も耳にしておるが……他にもおるのかの?」
「舞剣の次が、黒骸」

 シーラが言うと、長老達の顔が強張った。

「黒、骸……!?」
「黒骸ガルディニスか! まさか奴を倒したのか!」

 何だろう。炎熱や舞剣の時とは少し反応が違うようにも思えるが。

「ええ。デュオベリス教団の教祖をしていたようですね。あの魔人が何かあるのですか?」
「何かあるも何も、彼奴は我らの先祖の直接の仇じゃよ。大殊勲じゃな」
「……そうだったんですか」

 確かに……バトルメイジとの戦闘経験もあるようだったし、その対処法も知っていたようだ。転移魔法の遺失についても確信的な情報を握っているような口振りだったが……七家と直接的な因縁があったというわけだ。

「奴と戦ったのは当時のブルクミュラー家の当主だったかな」
「うむ。ベリオンドーラから敗走する際に、民を逃がすために殿を務めたのだ。そこで白き飛竜ボルドノフと共に黒骸の追撃を食い止めた」
「では、我が父祖の仇を討ってくれたというわけだ!」

 と、そのブルクミュラー家の現当主から、満面の笑顔でぽんぽんと肩を叩かれる。

「是非黒骸との戦いの内容を聞かせて欲しいものですな」
「ええと。ではまず――デュオベリス教団が襲撃を仕掛けてきたところからでしょうか」



「おお――。では奴との戦いで技を盗んだと」
「マジックシールドなどに衝撃を伝播させる……打法のようなものですね」

 言って、氷の塊を作り出し、シールドを挟んで軽く衝撃打法を打ち込む。すると氷の塊に微細な罅が入った。

「ほう……」
「これは興味深い」

 長老達は好奇心旺盛な様子で俺の作った氷塊を眺めている。

「……敵が使うとなると恐ろしい技術だわ」
「黒骸が魔術師殺しとして悪名を轟かせるわけですね」

 鞄に荷物を詰めて戻って来たヴァレンティナと、シャルロッテが頷き合っている。

「――いや、面白い話だった」
「しかし、気になるのはガルディニスの言い残した言葉ですな」
「最初の1人は古の魔人として。若造というのが気になるのう」
「連中の首魁というところか。黒骸は己の功に固執すると聞く。そんな魔人が古の魔人と共に言及するような相手だ。只者ではあるまい」

 ガルディニスが比肩し得ると意識するほどの魔人。

「……少なく見積もってガルディニスと同格か、或いはそれ以上と考えておくべきかも知れませんね」
「正体は分かりませんが、それほどの相手ならばどこかに記録も残っている、ということはありませんか?」

 思案していたグレイスが言う。羽扇で口元を隠すローズマリーが同調するように頷いた。

「若造、と殊更強調して言うからには比較的新しい魔人による被害も調べるべきなのかしらね」
「案外その中に混じっているかも知れませんね。そこから辿れば……何か分かる可能性もあります」

 アシュレイの言葉に、クラウディアは目を閉じる。

「そうね。高位魔人は自分の悪名を故意に広めるところがあるし。けれど、古参の魔人が言う若造では……範囲が曖昧だわ」
「では、そちらも併せて調査していくとしよう」

 長老達は頷く。最近の魔人の情報に関しては、タームウィルズに戻ったらメルヴィン王にも少し聞いてみるかな。近隣諸国の情報も持っているかも知れないし。
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