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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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297 模型と空中機動

 ――温泉での会議も終わり、明けて一日。

「おはよう、セシリア」
「おはようございます、旦那様」

 食堂に向かい、みんなで顔を合わせる。現在の宿泊客はジークムント老とヴァレンティナ、エリオットとカミラ一家、それにユスティアとドミニクだ。

「おはようございます、エリオットさん、カミラさん」
「はい。おはようございます」

 エリオットとカミラは連れ立って食堂に入って来る。カミラの手を取ってエスコートしていたりと、かなりのおしどり夫婦になりそうな雰囲気がある。
 ……さて。昨晩で色々な話が纏まったので、あちこち動き出すことになるだろう。
 特に新設部隊の隊長となるエリオットに関しては仕事の面でもそうだし、私生活においても結婚についての話が進んでいくようなのでかなり多忙になりそうだ。
 みんな揃ったところで朝食を食べる合間に、エリオットに尋ねる。

「そう言えば、あの後もメルヴィン陛下がエリオットさんに何か仰っていたようですが」
「はい。部隊新設もありますが、まずは結婚ということで、新居を探すということになりそうですね」

 なるほど。独立するのだし、俺のところで暮らしているわけにもいかないだろうしな。

「ロゼッタ先生に新居の仲介を頼まれてはいかがでしょうか?」

 アシュレイが言う。

「ロゼッタ先生とは……アシュレイに治癒魔法を伝授した方でしたか」
「ええ。グレイスと一緒にタームウィルズに来たばかりの時にもお世話になりました。この家――は改築してしまっていますが、その前に建っていた家を仲介してくれたのもロゼッタさんですから。必要でしたら通信機で連絡を取ってみますが」
「では――お言葉に甘えて。よろしくお願いします」

 そう言ってエリオットは穏やかに笑みを浮かべて一礼する。
 ふむ。資金面に関してはあまり問題にしていないようだが、エリオットはシルヴァトリアで魔法騎士としてかなり名を知られていたようだし、王直属の騎士になるということで、ある程度余裕がありそうだ。

 ロゼッタに通信機で連絡を取ってみると、今日は講義も休みということで返信があった。では……エリオットにロゼッタの家がある場所を伝えておくことにしよう。

「僕達は工房に行って、実験する予定です」
「分かりました。話が纏まって、時間があったら足を運んでみます」
「はい」

 エリオットに頷き返してから、ユスティアとドミニクに視線を送る。

「2人はどうする? ギルドに帰る時に送っていくけど」
「面白そうだから、見に行ってもいいかしら?」
「うん。見たいよね」
「それなら構わないよ」

 今日は工房で飛行船の模型を作って実験する予定なのだ。ステファニア姫、アドリアーナ姫も見学希望と言っていた。



「んー。見た目は大体こんな感じになるかな」

 工房の中庭にて飛行船の縮尺模型を作り出して宙に浮かべると、マルレーンが拍手してくれた。うん。嬉しそうな表情である。いつぞやの紙飛行機を思い出してくれているのかも知れない。

「それが完成品と同じ形になるのかしら?」
「その予定です。まだここから調整をしてやる必要がありますが」

 ヴァレンティナが尋ねてきたので答えると、興味深そうに頷いている。
 中庭に机を出し椅子を並べて、みんなに見てもらいながら調整作業を進めていく。

「ふむ。帆が無くなったからか、既存の船の形からはかなり変わってきておるの」

 ジークムント老はそれを見て感想を述べる。

「船、という感じではないけれど……良いのではないかしら?」
「あのゴーレムと同じ素材となると、白い船になるのよね。装飾もすればきっと優雅になるわ」

 と、分析しているのはステファニア姫とアドリアーナ姫だ。
 空気抵抗を減らすために全体的なシルエットとしては流線形をさせている。左右に主翼、船体後方に尾翼。そして船尾に魔力推進器を2門装備。

 帆を必要としないので上部はすっきりしている。その代わり、ある程度の空中機動を行っても乗員が転げ落ちないようにと艦橋となる部分を設けた。艦橋と言ってもそこまで迫り出してはいないが、急上昇や急降下による気圧変化や上空の寒さからも乗員の防御が可能だろう。
 操縦席から見える光景以外は魔法生物の視野を用いて、周囲全体が把握できる形だ。この魔法生物による視野というのは、船体のあちこちに取り付ける旋回砲の照準にも応用する予定である。

 乗員も船内からは全く姿を晒さず、魔法生物による視界で敵の姿と位置を捉えて接近してきた相手の迎撃をする、というわけだ。
 旋回砲の可動範囲をしっかりと確かめて、死角を無くしてやるようにしたいところである。

 ティーカップを傾けて中身を空にしてから一息つく。それから軽く自分の両頬を叩いて気合を入れる。

「よし。飛ばしてみるかな。少し集中するよ」

 と言うと、みんなの視線が模型に集まる。BGM代わりというように音楽を奏でていてくれたイルムヒルト、ユスティアとドミニクの三人娘も演奏を止めて俺が集中できる環境を整えてくれたようだ。

 皆が固唾を飲んで見守る中、レビテーションと風魔法を併用して飛行時にかかる力をシミュレーションしていく。その際、気になった部分を手直ししていくという流れだ。

 こちらで模型を浮かせて支え、どんな挙動をさせた時にどういう負荷がかかるのかを感覚的に確かめながら調整を加えていく。実物は何十倍にもなるわけで。かかる力、飛ばしたり浮かせたりするのに必要な力も、それだけ大きくなる。模型で行う以上はかなり集中して微細な負荷を感知しなければならない。

 飛ばしながら主翼の形も何度か手直しする。前方に進んだ時に最大限揚力を得られるように、細かな調整を重ねていく。
 飛ばした際の安定性。空気抵抗はどうか、旋回した時の船の傾きはどれぐらいになるか。船のどこに大きな負荷がかかるか。負荷を受ける場所の強度は。

 それらを1つ1つ確かめ、気になったところがあればその都度船体の構造と魔法の出力バランスに修正や微調整を重ねる。一ケ所を直せば全体に影響が及ぶところも出てきたりして、なかなかに手間だ。

 5つ、6つ、7つ、8つ。マジックサークルをいくつも多重展開させながらしばらく飛ばしている内に、段々と無理のある部分も少なくなり、また模型操縦のコツも掴めてきた。

「少し――挙動を変えてみるかな」

 予定には無かったけれど飛行船に現在装備されている動力でも、ある程度特異な空中機動も出来そうだ。回避のための挙動というのも操作に慣れておいたほうが良さそうだしな。

 旋回しながらの急上昇、上昇から縦方向に旋回、急降下に背面飛行、ローリング。細かく風魔法を調整しながらどの位無茶が利くのか、中の乗員にどの程度の負荷がかかるのかを調べてみる。
 最後に大きく旋回してきた飛行船模型を掌の上に浮かべて停止させた。……ふむ。こんなものかな?

「……今のを、人を乗せたままやるの?」

 と、尋ねてきたのはアルフレッドだ。やや笑みが引き攣っている気がする。ジークムント老とヴァレンティナもだ。ステファニア姫とアドリアーナ姫は……逆に何やら嬉しそうに見えるが。

「……いや。その予定はないけど。魔道具の出力操作だけでどこまでの動きができるかなっていう……うん。実験というか、そんな感じ」
「つまり――テオドールが操船するのなら実物でも同じような動きが可能ということよね?」

 羽扇で口元を隠しながらローズマリーが尋ねてくる。ローズマリーはどうやら面白がっているようだ。

「んー。そうなる……かな」

 今ので分かったことを術式として俺が記述することになるので……多分そうなるだろう。

「テオの操船なら、安心ではないでしょうか?」
「……そうね、多分。見た目には無茶に見えたけれど平気なのでしょう」

 グレイスが言うと、クラウディアが頷き、アシュレイが笑みを浮かべる。いやまあ……。信頼されるのは嬉しいが。ああ。乗員にかかるGはそれぞれの所有するレビテーションの魔道具で緩和してやればいいのか。
 いずれにせよ安全に安全を期すために、もっと実験は重ねておかないといけないだろうな。

「とりあえず、船内部の椅子は床に固定。その椅子にも帯をつけて、身体が椅子から投げ出されないようにするつもりで考えてる」
「それなら安心」
「そうしないと船の中で体をぶつけてしまうものね」

 要するにシートベルトである。シーラが頷き、イルムヒルトが苦笑する。

「私は?」

 と、セラフィナ。

「セラフィナやラヴィーネ、エクレールにも専用席を作るかな。船はこっちの預かりだからそれぐらいの融通は利く」
「やった!」

 と、セラフィナが嬉しそうに両手を広げて飛び回る。何気に先程の空中機動を真似しようとしていたりするのが見て取れた。

 飛行船の素材については現在急ピッチで手配が進んでいるそうだ。船体を加工するための術式ももう教えてもらっているので、必要な量が集まり次第、まずは骨組と外装から作っていく予定である。

 外部が出来たら次は内部へ。浮遊装置となる心臓部、魔法生物による外部監視システム、対魔人用兵装、翼、推進機関。これら魔道具類は順番に組み込まれていく形になる。
 迷宮探索、飛行船の建造、新部隊の訓練を並行して進め……これがある程度形になったらベリオンドーラの調査に出る、ということになるだろうか。
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