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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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296 新しい騎士

「比喩……ということでは……ないのだろうな」

 エベルバート王は驚きの表情を浮かべたが、すぐに思い当たることがあったのか表情を真剣なものに変える。

「確かに、あの強固な祝福のことを考えると頷ける話ではある」
「全て聞いたまま真の話だ。余がヴェルドガル国王の名にかけて真実であると保証する」

 エベルバート王の言葉に、メルヴィン王が答える。
 各人各様に多少の混乱があるようだ。少しの沈黙があった。それを破ったのは、ジークムント老であった。

「だから……あれだけの、普通では考えられぬ転移魔法を……。おいそれとは話せぬわけじゃな」
「ええ。だからあの魔法は私だけの力ではないわ。迷宮の力や神殿で祈りを捧げる皆の力も借りての物よ」

 クラウディアは変わらぬ調子で言う。
 そう。転移魔法を保有する学連がシルヴァトリア側にあるからこそ、ここの疑念を払拭しないわけにはいかない。月神殿を利用した転移にしても何にしても、緊急時に必要となるものだ。不信から連携に齟齬が生じるような愚は避けたい。

「……只者ではない、とは思っていたけれど……これは」
「確かに、黒騎士達と戦った時も全く瘴気を通しませんでしたからね」

 驚愕の表情を浮かべるアドリアーナ姫とエリオット。

「ええと。クラウディア様はテオドール君の婚約者なわけでしょう? ということは……」

 と、そこでヴァレンティナの発した言葉にジークムント老の表情が引き攣った。

「女神の夫ということになるか。もう驚くまいとは思っていたが、最早言葉もない」
「……というわけだ。迷宮については扱いかねる部分があってな。そこをテオドールに橋渡ししてもらっている。迷宮の重要性に付随する、テオドールのわが国における立ち位置も理解してもらえたものと思う」

 メルヴィン王の言葉にエベルバート王は得心がいったと言うように頷いた。

「……なるほど。重要性は理解した。その上で……テオドール殿に依頼したいことがあるのだ」
「僕にできることならば」
「うむ。継続的な依頼となる。シルヴァトリア国王が儀式により受ける瘴気の浄化を頼めぬだろうか。無論、十分な謝礼を用意すると約束しよう」

 それについては現状俺以外に循環錬気が使える者がいないという点を考えれば、依頼されることになるとは思っていた。クラウディアの重要性を伝えるのは、俺のヴェルドガルにおいての立ち位置をエベルバート王やジークムント老に伝えて納得してもらう意味合いもあったのだろう。
 エリオットがヴェルドガルに帰ったように、七家の直系である俺がシルヴァトリア側にという方向での考えだって、ないわけではないだろうし。

「謹んでお受けします」

 これについては断る理由がないというか。二つ返事で問題あるまい。

「おお。頼まれてくれるか。感謝するぞ!」
「魔力循環の使い手は肉体が活性化するゆえに老いに対して強く、いつまでも若々しさを保つと伝え聞きますでな。何代かの間はシルヴァトリア王の御身も安泰かと」

 と、ジークムント老。……そうなのか。魔力循環の長期的な影響の話までは知らなかったが。

「うむ。心強いことだ。それからもう一点――今すぐにというわけではないのだが、そなたにも関わることゆえ、考えておいて欲しいことがある」

 エベルバート王はそう言ってジークムント老に視線を向ける。

「ふむ……。ウィルクラウド家についてのことですかの」
「うむ」

 両者は頷き合う。そこからはジークムント老が言葉を引き継いだ。

「パトリシアがいない今となっては、ウィルクラウド家に後継ぎがいない……という問題があってな」
「ウィルクラウド家の後嗣問題ですか」
「うむ。とはいえ、家督については当面問題ない。儂はもうこの歳ではあるが、ヴァレンティナをウィルクラウド家の養女として迎え、次期当主とする方針を他の六家と話し合い、固めてあるのじゃ」

 ジークムント老の言葉を受けてヴァレンティナが一礼する。
 なるほど。賢者の七家は親戚関係でもあるから直系ではないとはいえ養子を一時的な措置として当主に迎えるという、その筋は通る。
 俺が将来的にどうするにしても当分の間はウィルクラウド家が断絶することがないようにと。七家の間では話がついているようだが、七家の筆頭であるウィルクラウド家に直系が居なくなってしまうというのは……やはり問題があるのだろう。
 そこで俺への話となるわけだ。

「テオドールの立場を考えればヴェルドガルからは離れられんのは分かる。その上でこちらの希望を述べさせてもらえるのなら、いずれウィルクラウド家に直系の子を当主として迎えたい……と考えておるのじゃ」
「なるほど……。それは確かに、話をするのに早すぎるということはないでしょうね」

 俺だけでなく、俺の子供の将来的な話となるわけだし。

「……うむ。その気のない者に無理強いをしたり、後嗣だからと幼くして子を親元から引き離すこともしたくはないのでな。勿論、志と才能があればこれ以上を望むべくもないが」

 ……そうだな。賢者の学連の性質から考えると直系であれば誰でも良いとはならない。長期的な話ではあるが、今から考えておく必要がある。
 ウィルクラウド家を始めとした七家の古来よりの方針とその価値をきちんと理解し、正しく引き継ぐ志を持つ、というのが前提だ。そこに魔力循環を使える才能が加われば言うことはないのだろうが……。
 そしてそれは当然、教育の段階からの話となる。適性を持つ持たないは誰にも分からないのだし。

「分かりました。考えておきます」
「すまぬな。お主に今からこんな話をしなければならないというのは、不甲斐ない話ではあるが……」
「いいえ。母さんの実家の話でもありますから」
「そう言ってもらえると助かる」

 ということで、俺についての話はこんなところだろうか?

「うむ……。纏まって何よりだ。次に――」

 メルヴィン王はエリオットに視線を向ける。

「エリオット。そちについてだ」
「拝聴します」

 居住まいを正すエリオットに、メルヴィン王が頷く。

「うむ。実はエベルバートと話した結果、ヴェルドガルとシルヴァトリア両国で人材を出し合い、テオドールの補佐をする対魔人の実動部隊を編成することとなった。空中戦も含め、対魔人を想定した訓練を行っていく。そなたにはその部隊の指揮官を任せたい」
「私に、ですか」
「その通りだ。聞けばシルヴァトリア国内の魔物退治においても兵士を率いて戦った実績があると聞く。加えてその実力と両国における人脈、テオドールの抱える事情に通じていることを鑑みての話だ」
「既にシルヴァトリアからも、ジルボルト侯爵の配下よりエルマーらの出向が決まっておる」
「うむ。功績を立てた後はシルン男爵家の爵位を上げることで、エリオットにも北方の領地を与えようと考えておる。この約束があらば、仮にエリオットを立てる者が後々現れたとしても、シルン男爵家に混乱が生じることはあるまい」

 ふむ。……例えばアシュレイの爵位を子爵や伯爵に上げたとして。そうすると当主であるアシュレイは元々シルン家の持っていた男爵位をエリオットに譲ることもできるわけだ。爵位には領地が付随するものだから、後々北方を治めてもらおうとなる。
 実動部隊の長として功績を立て、爵位に相応しい実績を得ることでその道筋を作るという狙いがあるのだろう。

 メルヴィン王としてはヴェルドガル王家に近しい立場の貴族を領主として北方に立てることができるわけだし……シルン男爵家でエリオットを慕う者が現れたとしても、いずれ領主になることも約束されているのだから波風を立てる理由がなくなる、と。色々考えられているな。
 エリオットは目を見開いたが、深々と一礼した。

「非才ではありますが、全力を尽くさせていただきます」
「うむ。では今日付けでそなたの身分は余が預かる。部隊の者達については追って連絡するが、公的には今この時より余直属の騎士ということになろう。ドナート達にも、そのように伝えるが良い。必要であれば、タームウィルズに構える居宅なども手配させよう」
「はっ! 重ね重ねのご高配感謝致します!」

 エリオットは臣下の礼を以って応える。うん。シルン男爵家についてはこれで大丈夫だろう。
 というか、エリオットとカミラに関してはこのまま結婚まで行ってしまいそうな気もするな。宙に浮いていた身分も確定したわけだし、懸念が無くなった以上はそうしない理由がないというか。
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