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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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289 水鏡

 ラザロは俺が1人で相手をすると言ってもそれを侮辱とも受け取らず、油断も見せない。炎熱城砦に来れる相手を高く評価するからこそか。自分が負ける事も視野に入れているのだろうが……それだけではあるまい。
 こうやってラーヴァキマイラを屠る光景を見せたのは、炎熱城砦を進めるだけの腕を持つ相手に自分の実力を示すためだ。

 俺達の接近を察知できるのは迷宮に組み込まれているからだとしても……その相手が中庭に踏み込んでくるのを見計らって準ガーディアン達を倒し、その死体をこちらに見せるような状況を作るというのは、十分な実力と余力があればこそ可能なこと。
 城砦内部を進める相手だからこそ、互いの実力が分かると見積もっているわけだ。

「始める前に1つ。言っておくべきことがある。我は影に過ぎず、故に多くを知り得てはいない。つまり、一切の加減の必要がないということだ。もし知りたいことがあらば、封印が解けて目覚める我が主に尋ねるがよかろう」

 ……そうか。魔法生物であるが故にラザロの記憶全てを引き継いでいるわけではないと。戦いと忠誠と使命。必要な物だけを残し、情報はラザロが主と認める人物が持っているわけだ。
 だが、ラザロがそんな風に認める人物は――そう多くはないだろう。

「当時の――ヴェルドガル国王の影が炎熱城砦の城主か」
「そういうことだ」

 ラザロは静かに答えた。その全身から闘気が立ち昇り、剣に纏わりついていく。ゆっくりと、居合抜きのように大剣を後ろに引いて構える。

 ウロボロスに魔力を纏い、地面を蹴る。こちらが踏み込むと同時にラザロも突っ込んできた。
 身体がそのまま大きくなったかと錯覚するような、奇異な動き――。大剣の構えからすれば、斬撃の軌道は横からか、それとも上か。

 しかし初撃は真下から振り上げられる一撃だった。中庭の地面ごとバターのように切り裂いて、大剣が跳ね上がってくる。転身してやり過ごす。暴風のような金属の塊が身体のすぐ脇を通り過ぎた。

 ラザロは膂力だけで剣の勢いを殺し、停止させた切っ先を真横に振ってくる。膂力と研鑽した技の融合。
 だが、構わず踏み込む。魔力を集中させたウロボロスで受け止め、逆方向にシールドを展開して吹き飛ばされずに踏み留まる。
 打点をずらしていたにもかかわらず、受け止めた瞬間重い衝撃が突き抜けてきた。大剣の刃に纏わりつく闘気の形。そしてその、衝撃の質。

 斬撃というよりは打撃。闘気の操作で刃筋を殺している。
 力試しであるために直撃しても殺さぬようにという配慮なのだろうが、手心や手加減ではない。あくまで自身が思うように剣を振るうためだろう。
 そもそも重量武器であるからには当たり所が悪ければ死ぬし、そうでなくても大怪我は免れないだろう。
 だからこそ地上戦。技術を以っての真っ向勝負だ。そうでなければ意味がない。

 受け止めた刀身に沿って、ウロボロスを滑らせるように更に一歩を踏み込むと、剣から片手を離し、闘気を帯びた裏拳を放ってきた。
 シールドで受け止め、同時にこちらも下方から拳を叩き込む。衝撃打法。腕が跳ね上がったところで身体を捻り、死角となる背中側から巻き込むようにウロボロスで薙ぎ払う。こちらが拳を跳ね上げて脇に抜けた時にはラザロもまた前方へ踏み込んでいた。

 振り向きもせずに地面ごと抉り取って下方から剣が跳ね上がる。地面を切る瞬間と相手に当てようとする時と。闘気の質を切り替えているのだ。側転して回避。ラザロも身体を入れ替えてこちらに向き直ると、即座に突っ込んできた。

 まただ。頭も肩も高さを変えずに滑ってくるような特異な歩法。間合いの感覚を狂わせるような動き。ウロボロスを両手で支え、身体ごと飛び込み押し込むように剣にぶつかっていく。斜めに受け、逸らされる。後方へと勢いを流された。

 問題はない。地上戦であるが、体術の一環として空中戦技術も動員させてもらう。シールドを2度3度と蹴って右に左に位置を入れ替えながらミラージュボディを発動して幻影を飛ばす。

「これは――」

 斜め上から打ち掛かるような動きを見せて、下から逆端で脇腹に刺突を繰り出す。ラザロは右手で剣を振り上げて、上からの攻撃を迎撃しながら、空いた左手に闘気を集中させてウロボロスの先端を受け止めていた。左手の反応はぎりぎり間に合ったといったところだが……これを予備知識無しに見切るとは。

 剣の間合いの内側。刃による一撃ではなく、拳を振り下ろすように柄頭が落ちてくる。ウロボロスで迎え撃つ。闘気を纏う柄頭と激突。弾かれて、再び幻影と身体を重ねてから別方向へ飛ぶ。

 ラザロは足を踏み鳴らすように地面を砕き割り、土煙を舞い上げると空気の流れを目の端で捕まえて俺の本体を正確に追ってきた。幻影は空気を乱さないから見分けることができるというわけだ。
 大剣を竜杖で受け、流す。逸らし、弾き、叩き付けて、無数の火花を飛び散らす。
 身をかわしたところを直角に曲がって追ってくる大剣。それをシールドで受け止め、鎧の腹部に手を添えて衝撃打法を叩き込んだ。
 ラザロは一瞬後ろに下がるが、一層圧力を強めるように前に出てきた。

 互いの武器を叩き付け、弾かれて間合いが離れた瞬間、ラザロの剣を持っていない手が跳ね上がる。津波のような闘気の衝撃波が飛んできた。大きく横に飛んで、こちらも魔法を放つ。雷撃の槍。踏みとどまったラザロの剣が一閃されると放った雷撃が減衰して虚空に散った。今のは――闘気で干渉して散らしたというべきか。

 魔を断つは水鏡の太刀……だったか。闘気術の奥義の1つだったな。研ぎ澄ました清浄な気を以って魔を断つ、という技だ。
 魔法にも……魔人にも有効。魔人の飛行術にも干渉するはずだ。恐らく――ラザロの二つ名の由来だろう。生半可な術は切り払われてしまうな、これは。

「……魔力循環か。水鏡で受け切れぬとはな……。そしてその研鑽……何と素晴らしいことか。だが――まだだ。まだ足りぬぞ」

 そう。バトルメイジの術はそれでも減衰し切れない。だがラザロは自分の掌を見た後、握り拳を作った。

「……ああ、そうだろうな」

 ラザロが求めているのは高位魔人を屠れるだけの実力を持つ相手だ。今まで見せたものだけでは、納得させるのに足りていない。

 魔力を練り上げ、高めながら構える。ウロボロスが唸り声を上げるその中で、向こうもここに来て今までにないほどの膨大な量の闘気を全身から発していた。
 示し合わせたように踏み込む。蹴った地面が爆ぜるほどの速度で互いに間合いを詰めた。打ち下ろす大剣。跳ね上がる竜杖。衝突と衝撃。今まで以上の重さ。しかし当たり負けはしていない。互いの武器が弾かれた。

 暴風のような切り返しを見せる大剣。受け流して打ち込む竜杖の打撃。地面を抉り、溶岩の小川を吹き散らし、幾度も幾度も激突する。
 すり抜けて脇腹を薙ぎ払う。直撃ではない。脇腹に叩き込んだそれを、ラザロは闘気を集中させて防御している。衝撃打法を手数で打ち込んで消耗させるような戦法は……ここでは求められてはいないだろう。

 間合いが空いた瞬間、地を這う闘気の衝撃波が飛んできた。途中にあった溶岩の小川を切り裂き迫るそれを、魔法を使わず、身1つで避けて最短距離を突っ込む。
 笑っている。兜の奥は見えないが、ラザロもまたきっと笑っている。無数に散る火花。絶え間なく続く剣戟と、唸りを上げる風切りの音色。位置を入れ替え、踊るように交差する。シールドからシールドへと跳ね返り、思う様切り結ぶ。

 大剣の内側の間合い。不利になるはずのそこに、ラザロは自ら踏み込んできた。勢い任せの体当たりだ。シールドで受ける。体当たりは止めたが、裂帛の気合と共に放たれた掌底がこちらのシールドを砕き散らした。水鏡と同質の闘気を纏った掌底だ。そんなことが――できるのか。

 そのまま俺の身体を押し出すように浮かせる。そこに――胴薙ぎの一撃が迫って来た。シールドでは受け切れない。離脱しようとすれば奴の開いている手が俺の衣服を掴むだろう。受けるなら――水鏡の太刀でシールドが断ち切られる。
 循環魔力を纏わせたウロボロスを斬撃の軌道上に挟むように盾として受ける。完全でなくていい。輝くほどの魔力を込めて軌道上に置く。剣を受けたウロボロスが俺の身体にめり込む。吹き飛ばされないように己の身体をシールドで固定。振り抜こうとした大剣が動きを止めた――その刹那だ。

「これは――!」

 下方から刀身の中程に向かって掌底を叩き込んでいた。ザディアスに食らわせた、螺旋の魔力衝撃波だ。同時に剣の先端を上方向からマジックシールドで固定している。
 結果、大剣が半ばからへし折れ、砕け散った。ウロボロスを手に取り、纏わせておいた魔力を俺本体へと戻す。体表を流して腕から腰。腰から足へ。

「飛べッ!」

 全身の連動。捻りを加えて放った蹴りの一撃。爪先に集束させた螺旋衝撃波の2発目がラザロの体幹を捉えた。猛烈な力が一点で炸裂。ラザロの身体が風車のように回転しながら、本丸に続く門へ向かって吹き飛ばされていく。

 1発目と2発目。使い切らずに余した魔力を合一させ、そのまま巨大なマジックサークルを展開する。
 雷魔法第7階級ライトニングブラスト。水鏡では受け切れない魔法だ。
 それを未だ宙に浮いたままのラザロ――ではなく、中庭の上空に向かって解き放った。

 雷撃の白光が中庭を照らす。やはり上空には結界があるらしい。視界を埋め尽くすような巨大な雷撃は、結界に阻まれて空中に紫電を散らしながら消える。一瞬遅れて、ラザロが背中から門に激突した。

 ウロボロスを構えてラザロを見やる。ラザロは折れた大剣を地面について立ち上がりかけたが……かぶりを振ると門に寄りかかるようにしてその場に腰を下ろした。

「我の負けか。元より、腕試しという話であったな」
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