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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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288 遠き騎士の影

 元々境界迷宮内部というのは地下に広がっている。俺達が今いる場所というのは、迷宮内部の迷路であり、城砦の更に地下という表現になるために何と呼べばいいのか迷うところではあるが……BFOでは城砦地下迷路で通っていたからそう呼ばせてもらうとしよう。

 ともあれ、迷宮ではなく迷路という呼称が示す通り、そこまで大規模ではなかったと記憶している。あくまで炎熱城砦内部の1フロアに過ぎないからだ。
 だが、性質は良くない部類だろう。壁や天井に触れてみると、真夏の日差しで熱せられたように温度が高くなっているのが分かる。
 触れられないほどではないが……対策が無ければ蒸し風呂の中にいるようなものだ。

「テフラのおかげであんまり暑くないね」

 と、イルムヒルトの肩の上に乗ったセラフィナが微笑んでいる。

「そうだな。探索時間も延ばせそうで助かるよ」

 ……祝福のお陰で冷却の魔道具は一先ず使わずに済みそうだ。魔力の節約にもなるし、暑さで体力や集中力を削られることもない。結果として探索時間も延ばせる。

 隊列はまず俺と、斥候役であるシーラが先行。僅か後ろにボムロック発見のためにイルムヒルトとセラフィナが続く。
 更に前から順にグレイス、アシュレイ、マルレーン、クラウディア、ローズマリー。
 ローズマリーの後ろをラヴィーネが付いていく。ラヴィーネは後方からの臭いや足音といった気配を探る役だ。殿はイグニスが務め、その肩にとまったエクレールが常時後方を監視するという形で進んでいく。
 カドケウスは隊列の中央付近に潜ませている。位置としてはマルレーンとクラウディアの間ぐらいか。

 通路を進んでいくと……どうやら広い通路に出るようだ。通路を挟んで向かい側にも小部屋。……小部屋の奥に宝箱が見えるが――さて。
 こちらから見える範囲に敵はいないようだが、まずは2体のアクアゴーレムを先行させて、角待ちのタイミングを潰してしまう。左右からの奇襲はない。
 シーラと共に、通路に踏み込む。微かな金属音。俺とシーラが反応したのはほとんど同時だった。

「――上ッ!」

 シーラは前方に大きく飛びながら転身、背中側をシールドで防御しながら振り向いた方向へと粘着糸を放つ。俺は頭上にシールドを展開しながらその場で迎え撃った。
 頭上から槍を構えたリビングアーマー2体が飛び降りてくる。通路の出口の真上に当たる部分に、奇襲のために身を収めておくスペースがあるのが見えた。
 槍の穂先をシールドで斜めの傾斜を付けて受け止め、目の前まで滑り落とさせる。もう1体はシーラの粘着糸に絡め取られて、勢い任せに引っ張られていった。

「どけ」

 槍を床に突き立てたリビングアーマーを、背中からウロボロスで薙ぎ払う。打撃を当てた瞬間スパーク光が弾け、背中をひしゃげさせて吹っ飛んでいった。両手を上げたまま吹っ飛ばされたリビングアーマーが柱にぶつかり、けたたましい音を立てた。

 ……おや。激突した柱の一部に擬態していたボムロックがいたようだ。リビングアーマーの激突につい反応してしまったらしく、相手も確かめずに発光して爆発した。リビングアーマーのパーツがバラバラになって四散する。
 距離があることもあって、こちらにはリビングアーマーの兜が転がってきただけであった。手間が省けたな。

 シーラが相手をしていたリビングアーマーも俺が振り返った時にはケリがついていた。粘着糸で引き寄せ、闘気を纏った真珠剣で腰から2つに斬り払ったようだ。
 リビングアーマーへの反撃に移る際に、背中側にシールドを展開して不意のボムロックの爆風に備えていたあたり、対策の成果がよく出ていると言えるだろう。

「お怪我はありませんか?」

 グレイスが尋ねてくる。

「問題ないよ。シーラは?」
「こっちも大丈夫。でも、リビングアーマーは臭いがしないし、動くまで音もしないから面倒」
「……そうだな。ゴーレムを無視する程度には計算しているみたいだし。待ち伏せていた場所も、入ってきた通路側からは見えない位置関係になってる」

 改めて通路出口の頭上にあるスペースに目をやる。壁を四角く掘り抜いた待機場所という感じだ。リビングアーマーみたいな連中だからあんな狭い空間でひたすら待ち伏せをしていられるのだろうが……。
 正面に見える宝箱の小部屋に注意を引き付けておいて頭上からの奇襲。手が込んでいるな。

 さて……あの宝箱はどうなのやら。まずはアクアゴーレムを先行させてからだな。部屋の中へ踏み込ませ、左右と頭上にもスペースが無いかを確認させる。

「ん。罠を確認する」

 安全が確認されたところで、シーラが小部屋の中を慎重に見回し……すぐに首をひっこめた。

「……天井が危険」

 そう言って上を指差す。俺も部屋の中を見上げてみれば……なるほど。天井と壁の間に僅かな隙間がある。
 吊り天井の罠という奴か。罠が作動すると天井が落ちてきて部屋の内部にいる人間を押し潰す仕掛けだ。部屋の一番奥……これ見よがしに置かれた鉄の宝箱に連動した罠なのだろう。

 この罠を見た後だと……先程のリビングアーマー達は、侵入者が真っ先に小部屋に向かうようなら背後から奇襲を仕掛け、罠部屋から逃がさない役目を持っていたのかも知れない。
 俺達が罠部屋に真っ直ぐ向かわなかったから頭上からの奇襲に切り替えたと。性質が悪いったらないな。

 ともかく、罠が作動すると、奥にある宝箱ごと部屋全体を押し潰す形になっている。箱自体が罠だろうか?

「回収してみるか」

 少し距離があるが……魔力循環を一度切り、部屋の外側から土魔法マグネティックウェイブを照射して宝箱ごと勢いよく引き寄せる。置いてある場所から引き寄せた瞬間、何か作動する音がした。轟音と共に天井とは名ばかりの大きな石の塊が小部屋全体を押し潰す。その寸前に磁力で部屋の外に宝箱を引っ張り出していた。
 どうやら宝箱と、その中身の重さで作動する罠だったらしいな。箱の中に何か別の物を収めてやれば起動しない仕組み、というところだろうか?

「さすがテオドール君」

 イルムヒルトが笑みを浮かべて嬉しそうに手と手を合わせた。
 早速宝箱の調査に移る。

「鍵穴部分じゃなく……箱の中身かな? 魔力を感じる」
「多分それなら魔法の罠じゃない……と思う」
「もし魔法の罠のようなら、私が他の区画に転送してしまうわ。大腐廃湖あたりなら問題もないでしょう」

 と、クラウディアが目を閉じて静かに言う。

「ん。罠が無いか見てみる」

 そう言ってシーラが開錠に移る。
 鍵穴に金具を突っ込んで作業していたが……程無くして鍵の外れる音がして、宝箱が口を開けた。

「……ワンドか」

 魔法杖の一種だ。サイズ的には俺の腰ほどの長さしかない。
 黒を基調とした杖に銀色の細やかな装飾が施されており、端に青色に輝く大きな石がはまっている。恐らくは魔石の類だ。

「かなりの魔力を感じるけど……鑑定は帰ってからが良いかな」
「分かったわ。危険がないように転送しておくわね」


 ワンドをクラウディアに預けると、すぐに転送してくれる。
 魔法杖だけに重くはなかったな。そして宝箱の底には目立たない色で魔法陣が描かれている。
 とすると――重量ではなく宝箱の中に魔力を残してやれば罠が動作しないという作りだったわけだ。マジックスレイブなどを箱の中に残してやれば上手く中身だけ回収できるという具合だろう。

 何らかの仕掛けがあるとしても、恐らくは正統派の魔法杖だ。性能如何ではパーティーメンバーに使ってもらうのもありだな。まあ、今のところは保留ということで。



 迷路の中を彷徨って、大分経った頃合いだろうか。マッピングはカドケウスがやってくれている。通路ごとのおおよその長さ。曲がり角と部屋の位置などを正確に記憶しているので入口からどこをどう通って来たかは把握済みだ。
 今まで通ってきた道を変形して立体的に表示してくれるので分かりやすい。おかげで迷路の全体図もおおよそ見えてきた。

「……このまま、こっちの方向に進んでみよう。入口から見ると、一番道のりとして遠くなる場所だ」

 この迷路は性質が悪いので、分かっていても遠回りになる場所に出口があるんじゃないかと思う。
 今まで通り慎重に歩を進めていく。熱でやられる心配がないし、転界石を拾い集める必要もない。その分だけ警戒に意識配分をやるべきだ。
 不意打ちや挟撃を基本として襲ってくるリビングアーマーやヘビーアーマー、ボムロックやヘルハウンド達を蹴散らしていくと――やがて今までとは少し毛色の違う扉を見つけた。
 俺達が迷路に降りてきた時と同じ扉である。罠が無いか確かめて慎重に扉を開くと、上へと続く螺旋階段が見えた。

「城の中庭に出られるかな。庭石にボムロックが擬態していることがあるから気を付けて。勿論、螺旋階段の途中も気を抜かないように」
「分かりました」

 グレイスを始めに、みんなが頷いたのを確認してから螺旋階段を上がっていく。
 さて……。中庭に出ればそこに準ガーディアン。そして帰還用の石碑があるはずだ。

「中庭の準ガーディアンは、ラーヴァキマイラでしたね」
「ああ。熱で溶けた岩を吐くキマイラのはず。一緒にエレファスソルジャーもいる」

 文献で読んだということにしているが、実物もBFOではあるが戦ってはいるのだ。
 対策としてはやはり水魔法を主体にするべきか。同時に出現する2足歩行の象戦士なんていうのもいるが……そちらはグレイスの得意分野かも知れない。
 それよりも問題点は地形だ。中庭には人工池や水路などが作られているのだが……そこに流れているのが溶岩なのである。
 これは空中戦主体で溶岩付近に近寄らない、ということで対策をすればいい。ラーヴァキマイラは俺が相手をするし。
 と――螺旋階段も終わりを見せた。扉を開いて中庭に進む。そこは赤々とした色で照らされた、地下迷路以上の灼熱の世界であった。
 城の壁から流れ落ちる溶岩が中庭の端の水路に流れ込み、それが人工池や小川となって中庭を横切っている。

 ここまでは予想していた通りの光景。だが――。

「あれは――」

 首を刎ねられたエレファスソルジャーの死体が中庭に転がっていた。あちこちでボムロックが炸裂した痕跡が見て取れる。
 そして――溶岩の溜池に上半身を突っ込んだまま動かないラーヴァキマイラの死体と、その巨体の上に馬鹿げた長さの剣を携えて腰かける、1人の騎士の姿。
 風景が映り込むほどに磨かれた、銀色の甲冑を纏った騎士だ。

 騎士は俺達の姿を認めると剣を手に立ち上がる。そして言った。

「――汝らが宝珠を望む者か?」
「宝珠だと……?」

 何者だ? 魔人という感じはしないが……。
 こちらが身構えて騎士を見やると、騎士は続けて言う。

「宝珠を望まぬのであれば、その石碑より立ち去るがいい」
「望む……と言ったら?」
「知れたこと。我が主は宝珠を託すに相応しい者であるか、その力を計れと仰せになられた。扉の封印は未だ解けぬが、我に力を示さねば扉まで進めぬと心得よ」

 この騎士……要するに水の精霊殿の水竜と同じ役割か。

「我は鏡の騎士ラザロの遺せし影。水の解放と共に目覚め、主の命によりここで汝らを待ち受けていた」
「鏡の騎士……!」

 その言葉に反応したのはローズマリーだ。

「ご存じなのですか?」
「ええ。ヴェルドガルの……伝説的な騎士よ」

 グレイスが尋ねると、ローズマリーは眉根を寄せて言った。

「影と言ったはずだ。我はラザロにしてラザロに非ず。理想と(わざ)を引き継ぐだけの、迷宮に組み込まれた残滓に過ぎぬ」
「……魔法生物の……複製というところかしらね」

 クラウディアが言うと、ラザロは剣を眼前に、掲げるように構えた。

「その理解で構わん。来たるべきこの日のために技を磨き続けてきたのだ。故に――我が主の子孫であろうと迷宮の主であろうと、託すに足る力を示さねば通すことはまかりならぬと心得よ。これは我が王家に示す忠誠の証であり、王より最後に賜りし使命なり」

 ラザロの言葉は――マルレーンやローズマリー、クラウディアに向けられたものだろう。
 ということは、このラザロの影を作った主というのは――当時のヴェルドガル国王と、それに協力した七賢者達ということになるだろうか?
 本人そのものでないというのは、膨大な時の流れに人間の肉体や精神が耐えられないからか。
 クラウディアとは、違う。

「分かった……」

 頷いて、大きく息を吸ってから前に出る。

「戦って、押し通る。それでいいんだな?」
「その通りだ」

 ラザロは跳躍し、中庭の真ん中に降り立つ。
 準ガーディアンと戦うはずが……予定とは大分違ってしまったな。

「俺1人で戦う。みんなは手出ししないでくれ」

 みんなにそう告げて、前に出ていく。

「潔し、少年」

 その声色には、どこか嬉しそうな響きがあった。
 兜の下の顔は分からないが……笑っているのか。剣を下げて自然体で佇む立ち姿には、隙が見当たらない。自然、俺の顔も喜悦に歪んで来るのが分かった。
いつも拙作をお読み頂きありがとうございます。
皆様の応援のお陰で連載開始から無事300回目を迎えることができました。
改めてお礼申し上げます。

50話ごとの節目ということで活動報告にて
201話から250話までの登場人物の簡易紹介記事を掲載しました。
ネタバレ防止の意味合いで最低限の情報ではありますが、ご活用いただければと思います。
+注意+
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