挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

299/1266

287 黒犬と召喚者

 迷宮入口の石碑から炎熱城砦に飛ぶ。
 本来ならむせるような熱気も、テフラの祝福のお陰で大した物ではないように感じられた。ありがたい話だ。これなら攻略もじっくり進められるだろう。
 前回に引き続き、門番を倒して城門を抜けたところにある広間からの攻略となる。
 広間から続く階段を降りると迷路がある。最終的には城内の中庭に出ることが出来て、そこからようやく城砦本丸に突入できるわけだ。

 要するに、城砦内部に向かうには地下にある迷路を踏破する必要がある。迷路の順路は構造変化があるために予想がつかない。今日はこの迷路を抜けるところまで進みたいところだ。

「じゃあ、行こう。何か異常を感じたら即座にシールドを張ること」
「ん。分かった」

 斥候役であるシーラは当然として、みんなが頷く。
 螺旋階段を降りて扉を開けると、石で組まれた回廊が続いていた。
 割合広々としているな。階段から降りてすぐ、左手側に細い通路が続いているのが見える。

 探索を始めようとするその前に――ラヴィーネが通路の奥を見据えて唸り声を上げた。暗がりから無数の赤い輝きがこちらに向かってくる。

「あれは……ヘルハウンドだな」

 輝きの正体は生物の瞳だ。口元から火を噴き出しながらこちらへ向かってくる……それは四足の獣だった。姿形は黒い犬。顔を歪めて牙を剥く――獰猛極まりない面構え。

「行きます」

 俺とグレイス、シーラ、イグニスが迎撃のために飛び出す。

 先陣を切って突っ込む。通路の一点を通過したところで回廊の右手側に嵌っていた石材がぼんやりと赤く発光し出したのが視界の端に映った。

「通路右! ボムロック!」

 同時に、イルムヒルトの声が響く。
 イルムヒルトの声はボムロックのいる方向から聞こえた。セラフィナがイルムヒルトの指差す方向に音を移したのだ。次の瞬間、グレイスの手から斧が投擲された。
 唸りを上げてボムロックに斧が直撃する。石の砕ける音と鎖を引き戻す音が響く。

 攻撃を加えてもボムロックは爆発しない。グレイスが一撃で粉砕したというのもあるが、向こうが限界に達したところで破裂して爆風と破片を撒き散らすという性質の魔物であるからだ。

 厄介なのはこうして建材やら自然物にカモフラージュしていること、動き出すまで見分けが付かないことだろう。とはいえ、不発に終わった。爆発する前に発見して処理できれば、対処としてはそれが理想ということになる。

 砕いたボムロックには目もくれず、正面から来たヘルハウンドを迎え撃つ。跳躍して突っ込むとヘルハウンドも飛び掛かって来た。スパーク光を上げるウロボロスを振り抜くように構えて見せると、ウロボロスに噛み付いて止めるような仕草を見せる。ヘルハウンドの背後にもう一匹。一匹が武器を押さえ、その間に後続が攻撃を仕掛ける構えなのだろう。

 だが甘い。シールドとレビテーションで急制動をかけて空中に踏み止まる。即座に下方へ跳ね返るように移動し、虚しく牙を打ち鳴らすヘルハウンドの直下からウロボロスで腹を突き上げる。

「アイシクルランス!」

 竜杖の先端から氷の槍が飛び出してヘルハウンドを空中で縫い止める。続くもう一匹は炎の吐息を浴びせるタイミングを外されて、ネメアがその爪ですれ違いざまに掻っ捌いた。

 グレイス、シーラ、イグニスも群れに突っ込む。
 ファイアーラットの毛皮とテフラの祝福で、浴びせられる炎を物ともせずにグレイスが突っ込む。闘気の輝きを斧から放ちながら、紫電のような残光が通り過ぎた後には真っ二つにされたヘルハウンド達の姿だけが残る。

 壁から天井、天井から柱へ。空中で軌道を変えながら立体的に動くシーラ。鼻先を掠めるようなその動きに、牙を打ち鳴らすような音だけが虚しく響く。何も無い空間を炎が焦がす。
 予期せぬ方向からの粘着糸と雷撃。攻撃を外され、或いは動きを阻害されて隙だらけになったヘルハウンド達にイグニスが突っ込み、戦鎚の一撃が唸りを上げて吹き飛ばしていく。

 それでもヘルハウンド達の動きは統制が乱れなかった。俺達前衛にやられる仲間達へは目もくれず、後衛に向かって走り抜けるヘルハウンド達の一団。明らかに、何者かによって制御された動き。
 前衛と後衛で大きく距離が開いていて隙だらけにみえるのだろうが――中衛そのものがいないのにはわけがある。

 先頭を走っていたヘルハウンドがその空間に踏み込んだ瞬間、身体を切り裂かれ、血をしぶいて悲鳴を上げた。回廊の柱から柱へと、光の線が走っている。マジックスレイブを放って仕掛けた、魔力糸によるトラップだ。

「残念」

 離れた位置でそれを見たローズマリーが、羽扇の下で薄く笑う。
 トラップにかかった仲間の姿を見たヘルハウンド達は即座に足を止めた。犬達の反応は悪くないが……もうその空間にいること自体が罠にはまったようなものだ。

「今!」

 アシュレイの声と共に、回廊の上方に滞空していたマルレーンのソーサーが退路を断つ。進退窮まったところに、アシュレイとラヴィーネの氷の弾丸、イルムヒルトの光の矢、セラフィナの音弾が雨あられと降り注いだ。十分距離が開いているので前衛に流れ玉は飛んでこないという寸法だ。
 デュラハン、カドケウス、ラヴィーネは後衛の護衛として控えている。クラウディアが転移魔法で撤退の準備を整えておくのもいつも通りである。

 エクレールも射撃に加わっていた。翼をはためかせると、放電する羽が飛んで行く。羽そのものを避けても側撃雷とでもいうのか、雷撃が羽から迸り、感電したところをイルムヒルトの矢で撃ち抜かれていた。羽だけ避けても意味がなく雷撃自体を対策しないといけないという、なかなか厄介な攻撃だ。

 後衛に突っ込んだ犬達はあっという間に壊滅していくが――通路の奥の暗がりからヘルハウンドの第二波が押し寄せてくるのが見えた。かなりの数だ。最初に突っ込んできたヘルハウンドの群れと併せて考えると、これは異常な数と言える。

 普通ならば回廊の左にある細い通路へ撤退し、囲まれないようにしながら戦うという場面なのだろうが……気に入らない。それが敵の策ならば、あの通路に罠が仕掛けられていると考えるべきだからだ。通路側に進むにしても後方から来るヘルハウンドの群れはどうにかしなければいけない。

「行けッ」

 左右から飛びかかってくるヘルハウンドを捌きながら、俺の肩にとまっていたバロールに十分な量の魔力を纏わせ、通路の奥へと突っ込ませる。
 バロールを操作しながらヘルハウンドの頭蓋をウロボロスで叩き割り、氷で串刺しにする。格闘と魔法行使。ネメアとカペラ。バロールの同時制御――。

 俺達がヘルハウンド達を蹴散らしている間にもバロールは飛んでいく。こちらの魔力を纏っている間ならばバロールとの視界リンクが可能だ。犬達の頭上を飛び越え、曲がり角を通過すると――回廊の一番奥に座禅を組んだまま魔法陣を展開する一団が見えた。

 灰褐色の肌。卵のように滑らかな頭部。瞳孔のない白い瞳に鼻のない顔。ボロ布を纏った人型の魔物が、一心不乱に詠唱を続けている。
 デモンズサマナー。召喚能力を有する、魔術師タイプの魔物である。連中が延々とヘルハウンドの群れを召喚しているわけだ。

 距離、位置を把握。通路の端から端へと。光弾と化したバロールがデモンズサマナー達に肉薄する。勢いに任せてサマナーの胸部を撃ち抜かせる。続けざまに2体、3体、4体。サマナー達がいたはずの座標を全て貫通させた後にバロールが目を開くと、そこには胸部を貫かれたサマナー達が転がっていた。

 と同時に、ヘルハウンドの群れが体を震わせてその動きを止める。サマナーの制御を突然切られて異常を察知したというところだろう。
 膨大な隙だ。それを見逃す理由もない。ヘルハウンドの群れが壊滅するのに、さしたる時間は必要としなかった。



「どう?」

 剥ぎ取りを進める傍らでシーラに尋ねる。
 左手側にあった細い通路を慎重な様子で調べながら、シーラは首を横に振った。

「罠だらけ。例えばそこの床石。踏むとそこの壁の穴から槍か矢……或いは毒の煙が飛び出す仕掛け」

 シーラが指差した場所には、少しだけ出っ張った床石と、壁の穴があった。
 ……なかなか性質が悪いな。罠の正体をわざわざ確かめようとは思わない。デモンズサマナーのいた方向に別の通路があったからそちらを進んでいくほうが良さそうだ。

「罠で追い込む通路なんて、わざわざ行かないほうが良いな。通路を抜けたとしても待ち伏せされてる可能性が高い。デモンズサマナーがいた方向に進むことにしよう」
「了解」

 シーラは頷くと通路を覗くのを止めて剥ぎ取り作業に加わる。炎熱城砦は……剥ぎ取りを進めるにしても油断できないところがある。ボムロックが潜んでいる可能性があるからだ。

「ボムロックが動く前に見分ける方法が知りたいところよね」

 と、イルムヒルト。気持ちは分かるが、首を横に振る。石の魔物だけに臭いもしないし、音もない。イルムヒルトは温度変化で割合早く察知できるけれど……それもテフラの祝福があればこそかも知れない。炎熱城砦は温度が高いのでイルムヒルトの探知能力も半減してしまうのではないかと見ていたが、なかなか嬉しい誤算だ。
 まあ、爆発直前に光を発するから、乱戦で手が回らなくてもいることが分かっているならシールドを張るぐらいは可能だろう。

「とりあえずは爆発前の兆候を見逃さないようにするしかないかな。剥ぎ取りも、監視役と作業役を分担して、壁、床、天井の変化を見落とさないように気を付けること。魔物の死体の裏側とか、特に注意すること」
「分かったわ」

 イルムヒルトは真剣な表情で頷くと、剥ぎ取り班に近付いて油断なく視線を巡らす。

 さて。剥ぎ取りだが、ヘルハウンドは毛皮、ボムロックからは中程度の質を持つ魔石や、稀に宝石などが回収できることがある。
 デモンズサマナーからは魔石の他に、連中の使っていた魔法杖などを戦利品として鹵獲可能である。

 ヘルハウンドの毛皮は炎への耐性が高く、斬撃にも強いので結構高値になるだろう。デモンズサマナーの杖も、俺には不要だがなかなか悪くない品のはずだ。魔石も飛行船を作ることを考えるとなるべく回収して行きたい。
 戦闘時間の割に、実入りの良い戦いであったと言えよう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ