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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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276 2人の王

 夕暮れに染まる海の色を眺めながら飛行船はタームウィルズに向かって進む。
 街道を行きかう人々からの注目を集めてしまっているところはあるが……まあ、ヴェルドガルとシルヴァトリアの友好関係を宣伝する効果があると思って割り切るのが正解だろう。

 ぽかんと口を開けて目を丸くしている人達に、害意が無いことを示すために甲板の上から手を振って見せたりと、適当に誤魔化しながら進んでいるとその内に日も暮れてきた。
 やがて完全に日が暮れるが――進む方向を見失うことはない。遠くにはもう、タームウィルズの王城セオレムの高くそびえる尖塔のあちこちに灯火が瞬いているのが見えるからだ。

「おお……あれがセオレムか。聞きしに勝る威容じゃな」
「……素晴らしいですね。迷宮が作り出したと言われているとか?」
「そうらしいのう。確かに……普通に建造するのは勿論、魔法建築でも些か無理のある規模じゃな」

 暗視の魔法を使ってセオレムを見ながら、ジークムント老とヴァレンティナが言葉を交わす。

「迷宮側が作り出したのは間違いないようですね。魔人が絡んでくるので、そのあたりのお話もタームウィルズに到着したらすることになるとは思います」

 と、ステファニア姫。当人であるクラウディアは否定も肯定もせずに、静かに目を閉じている。
 そのままタームウィルズに向けて進んでいくと、タームウィルズ側から飛竜隊がこちらに飛んでくるのが見えた。
 通信機でタームウィルズ側に連絡してあるから迎えだとは思うが、確認や混乱を避ける意味合いで、飛竜隊のところまで先行させてもらうことにしよう。

「先行して話をしてきます。少し代わって頂いても構いませんか?」
「うむ」

 ジークムント老に操船を代わってもらい、リンドブルムに跨って飛行船の先を行く。
 飛竜に乗ってこっちに向かってくるのは――チェスター達であった。

「テオドール殿。お戻りになりましたか」
「はい、チェスター卿。連絡した通り、エベルバート陛下やアドリアーナ殿下も同船しております」
「分かりました。タームウィルズまで護衛の任を仰せつかっております」

 引き返してタームウィルズの飛竜隊が護衛することを伝える。
 少し遅れて、飛竜隊を代表してチェスターが甲板に降りてくるとエベルバート王に一礼する。

「ヴェルドガル王国騎士団飛竜隊、チェスター=グレンベルと申します。エベルバート陛下来訪の旨、聞き及びましてご挨拶に伺いました」

 一礼してから名乗り、タームウィルズ到着までの道中、船の護衛と誘導を行いたいと申し出る。エベルバート王はその言葉に相好を崩した。

「大儀である。ではよろしく頼むぞ、チェスター卿」
「はっ、光栄にございます」
「ヴェルドガルに名高き飛竜隊の護衛とは、中々勇壮であるな」
「勿体ないお言葉」

 チェスターは言うと、飛竜に跨って舞い上がる。前後左右を飛竜隊が固めて、そのままタームウィルズへと進んでいく。
 その間にこちらも荷物を確認したり、竜籠と飛竜達を繋いだりと降りるための準備を進めていく。

 飛竜隊は夜間飛行用に全員暗視の魔道具を持って来ているらしい。
 飛行船の護衛は初めてではあるのだろうが、事前に船で到着することは知らせておいたから訓練していたのかも知れない。一糸乱れぬ編隊飛行で船を的確に誘導していく。

 こちらを見て騒いでいる入市待ちの列を尻目に外壁を越え、タームウィルズの街並の上空を通過し――そのまま王城へと向かう。

「練兵場に使っている広場が見えますか? あの場所に停泊をお願いします」
「うむ。承知した」

 ジークムント老が頷く。
 騎士の塔の近くにある練兵場が飛行船を停泊させるのに都合が良かったようだ。練兵場には篝火が焚かれて、さながら空港のように着陸させる場所が分かるようになっている。そこに向かって誘導される。帆を畳み、船を降下させた。

 錨を降ろして船を固定。タラップを降ろして船から練兵場に降り立つ。
 見慣れた場所だ。帰ってきたという余韻に浸る。タームウィルズから旅を共にした飛竜達もしばらくぶりの帰還である。甲板から竜籠を降ろし、装具を外してやる。竜舎の飼育員達が迎えに来ると、嬉しそうに鼻を鳴らして近付いていった。リンドブルムだけは飼育員達にも素っ気ない素振りではあったが、機嫌は良さそうだ。

「旅の間、お疲れ様。また明日な」

 リンドブルムに声をかける。肩越しに振り向いて一声上げると竜舎へと戻っていった。うむ。

「おお、メルヴィンか」
「エベルバート。久しぶりであるな」

 騎士団長ミルドレッドらを護衛として伴ってやって来たメルヴィン王に、エベルバート王から声をかける。2人は旧知であるとは言っていたが……友人同士というか何というか、こちらが思っていたよりずっと気安い間柄のようだ。

「体調を崩していると聞いたが、息災そうで何よりだ」
「テオドール殿の治療のお陰でな。ここしばらくの間は活力に満ちておるよ」
「うむ。立ち話もなんだ。まずは迎賓館に案内させよう。そこで茶でも飲みながら、旧交を温め合おうではないか。そちらの面々の紹介もその時にお願いしよう」

 侍女達がやって来て、シルヴァトリアの面々を案内していった。
 メルヴィン王はその背を見送り、俺に向き直る。

「ただいま戻りました」
「うむ。一同、大儀であった。まずテオドールには……エベルバートの病を治療してくれた礼を言わねばなるまいな。これは王ではなく、あやつの友としての言葉だ」

 ああ。やはり親交に近いものがあったらしい。
 メルヴィン王の言葉によると、互いに王位を継ぐ前はもっと頻繁に交流があったそうだ。共に王位継承者ということで為政者としての心構えだとか、政策や理想、理念を語り合ったりしたそうである。
 なるほどな。どちらも名君と評されるだけあって互いの治世を認め合っているというところか。

「王としては……何から言ったものか。無事に帰ってきたことを喜ぶべきなのだろう。そなたの母のこともあるからな」

 母さんのことか。通信機である程度の部分は報告してある。メルヴィン王としてはシルヴァトリアから仕官の話が持ち上がるのではないかと少し気にしていたようではあるからな。実際母さんと賢者の学連の長老達の関係は、蓋を開けてみればそう悪いものではなかったし。

「確かに母は疎まれたりしていたわけではありませんが……帰るべき場所はタームウィルズと定めております」

 そう答えると、メルヴィン王は目を閉じて頷いた。

「……うむ。シルヴァトリアでの顛末も報告を受けておる。およそ考え得る限り最良の結果であった。このような空飛ぶ船を伴って帰ってくるとまでは予想せなんだが。よくやってくれた」

 メルヴィン王は飛行船を見上げて言う。俺も合わせるように苦笑した。

「ありがとうございます」

 それからメルヴィン王はステファニア姫に向き直る。

「ステファニア。そなたも難しい役目をよくこなしてくれた」
「私の功績ではありません。テオドール殿無しでは成し遂げることは叶わなかったでしょう」
「そなたがエベルバートを始めとする、シルヴァトリアの重鎮からの信頼を勝ち得ていた部分は大きかろう。その点について高く評価しておるよ」
「ありがとうございます」

 そうだな。俺達だけでシルヴァトリアに行っても、エベルバート王に会うのは中々難しかっただろうし。ステファニア姫が長年シルヴァトリアと良好な関係を続けてきたからというところはある。

「そして――エリオット=ロディアス=シルン」
「はっ」
「そなたの話は既に報告を受けている。よくぞ戻って来た。今の立場について不安もあろうが、ここはそなたの生国だ。余はこうして生きて帰って来たそなたを、決して悪いようにはせぬぞ」
「ありがたきお言葉です」

「重要な話は明日以降に行うつもりだ。此度のことについての諸々は、追って連絡をしよう。今日のところは旅の疲れを癒すが良い」

 エリオットの返答にメルヴィン王は頷くと、ふと柔らかい笑みを浮かべた。それから迎賓館へ入っていく。

「エリオットさんも遠慮なく家に泊まって行って下さい。客室も沢山ありますので」
「ありがとうございます。それでは……ご厄介になります」
「じゃあ、帰ろうか」

 その言葉に、みんなが微笑んで頷く。
 王城の厩舎に預けておいた馬車を受け取り、帰路についた。中々内容の濃い旅ではあったが……終わってみると、行って良かったと思う。母さんのことがあって感慨深いというか……。
 ふとグレイスと視線が合うと、微笑みを返された。……うん。今日は帰ってゆっくりと休もう。
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