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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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268 魔弾

 貴族達は何事か話をしながらこちらの様子を窺ったりしているようではあったが、深入りはしてこなかった。色々と噂話をされるのは仕方があるまい。テフラもいるし、ザディアスの一件の後でもあるからな。

 形式上挨拶無しというわけにもいかないのか、主だった者が挨拶には来たが、何かしら話を持ち掛けてくるということもなく、大きな厄介事も起きずに宴席は終わった。

 こちらとしては料理と音楽を楽しんで、エベルバート王は王城の皆、ひいては諸侯に復調を知らしめたと。折角の機会を活かすことができなかった貴族達にとっては残念な結果なのだろうが……まあ、時期が悪いし、こちらには関係のない話である。
 宴席が終わるとエベルバート王が声をかけてくる。

「そち達も忙しい身であろう。明日からまたするべきことも多いのだろうし、この後ゆっくりと褒美を選んではどうか。宝物庫の管理人には話を通してある。余程の物でなければ問題はあるまい」
「ありがとうございます」

 ……ということで、宴席の後で早速宝物庫の中を見せてもらうことになった。
 余程の物というのは、シルヴァトリアにとって必要不可欠な品という意味らしい。とはいえ、そう言った品は宝物庫の更に奥に保管されているということであったが。



「こちらでございます」

 宝物庫の管理責任者に案内されて宝物庫に通される。タームウィルズ同様、目録もあり分類ごとに纏められていると言うわけだ。

「どのようなものを探しておるのだ?」

 賢者の学連から王城に寄贈されたものも多いらしく、アドバイザーとしてジークムント老も同行している。

「武器防具は一先ず足りているので……能力を底上げしたり戦術の幅を広げたりといった品が有ればと思いまして」

 目録には簡単な説明や由来が書いてある。文字通りにカタログでも眺める感覚でみんなで目を通していくと、それぞれ気になる物も出てきたらしく、あれこれと質問を飛ばす。

「これは?」
「雷の小手……。まあ読んで字の如くじゃな。触れた物に雷を食らわせる。普通の魔道具と同じで任意に発動できて、威力の程もなかなかのものと聞いておるよ」

 雷ね。シーラとしてはマルレーンとの連携で粘着糸に通電させた、あの戦法が気に入ったのかも知れない。
 粘着糸で動きを束縛、のみならず雷撃で攻撃に直結。粘着糸も雷撃による麻痺も、速度を信条とするシーラと色々と噛み合っている。金属鎧の敵に対して強い武器となる点も斬撃主体のシーラにとってはメリットだろう。

「ん。他に無ければ、これにする」

 仮ではあるがシーラは決定と。

「私はこの引き合う宝石というのが気になるわ」

 と、イルムヒルト。

「それか。放り投げても対になっている石のほうに戻ってくるというものじゃな。浮遊して戻ってくるわけじゃから、あまり高速で帰ってくるわけではないが……射出した物体を引き戻せないかと開発されたわけじゃな。射出武器に使おうと言われておったが、費用が嵩んでしまってお蔵入りという話じゃ」

 イルムヒルトも中々良い物に目を付ける。これの用途としては巨大矢の純正強化だ。槍を矢弾にするという性質上、今までは数を持ち歩くわけにもいかずに、確実に当てられるように状況を作る必要があったが、これならばもっと気軽に使えるということになる。

 ウロボロスのように高速で帰って来ないというのは……次弾までの間隔は空いてしまうがメリットもある。槍が高速で手元に戻って来ても危なくて困るし。どちらにせよ飛び回りながら戦う形なので問題はないだろう。
 宝石の形だから、工房に持ち帰ってビオラに加工してもらえばイルムヒルトの装備品に無理なく組み込めるだろう。

「私は、これかな?」

 セラフィナが選んだのは横笛。奏でると霊獣が出てきて持ち主を守護するということで……角笛を攻めに使うのなら、こちらは護り用と言ったところだろうか。

「この霊獣と言うのはどんなものでしょうか?」
「半透明の狼の頭のようなものじゃな。飛び回って相手に齧り付く」

 なるほど。空中戦にも対応できるようだし……セラフィナは特性上イルムヒルトと組むことが多いから護衛役としても適しているだろう。
 さて……シーラ、イルムヒルト、セラフィナはこれで決定だろうか。

「この、闘気を増幅させる腕輪というのが気になります」
「破壊力増強かな」
「はい」

 俺の言葉に、グレイスは笑みを見せる。
 グレイスの選択は単純明快である。更に長所を伸ばして、攻撃力の増強を図ろうというわけだ。
 目録には闘気を集束して発射もできるとも書いてあるが、グレイスにとってはおまけもおまけだろう。まあ、手軽に使える射撃技が手札として増えるのは色々と便利かもしれない。

「私は、この魔道書が気になるのですが」
「治癒魔法の魔道書か。学連からエベルバート王の治療のために貸し出しておったもんじゃが……まあ、構わんじゃろ」
「では、習得したらお返しします」
「構わんよ。秘術とは違う。広まったほうが得になるものじゃからな」

 アシュレイもグレイスと同じく、長所を伸ばす選択らしい。

「治癒術の魔道書には、どんな魔法が載っているんです?」

 俺が尋ねるとジークムント老は思い出すような仕草をしながら答える。

「再生の結界であるとか、通常は接触が必要な治癒魔法を遠くに飛ばしたりであるとかだったと記憶しておるよ」

 それは便利そうだ。防御陣地を構築するアシュレイとは色々と相性が良い。
 目録を進めていくとマルレーンが指を差す。

「マルレーンはそれ?」

 こくこくと頷く。マルレーンが示したのは鳥の姿をした魔法生物、とある。

「……使い魔の代わりになるんじゃないかしらね?」

 ローズマリーの言葉に、ジークムント老が頷いた。

「そうさな。しっかりと契約を交わせばそれも可能じゃろう」

 鳥の使い魔か。オーソドックスだが、鳥の使い魔は実際、偵察やら尾行やらに便利なのだ。使い魔は魔術師でなければ活用できないが、パーティー全体で保有している数が多ければ取れる手が増えるところもある。マルレーンにもいたほうがいいだろう。召喚儀式で望みのものが来るとは限らないしな。

「マリーは?」
「わたくしは……さっき出てきた魔法の鞄が良さそうね。持ち運びに便利そうな大きさなら良いのだけれど」
「それは入れたものが壊れないという保護能力もあるが、物を入れても重さも大きさも変わらん。ベリオンドーラの頃から伝わっているものじゃな。相当な量が入るが、いくらでもというわけではないぞ。大きさは腰に吊るしておける程度じゃな。生き物は入らん」
「……というわけね。薬品を持ち歩くには丁度良いかと思って」

 ……それは以前、本の中に入った時に使ったような、魔力の炎などが常備できると言うことになるだろうか。ポーションもそうなのだが、普段持ち歩くにはガラス瓶やフラスコでは都合が悪いのだ。ポーションならまだしも、危険物となれば尚更である。
 魔法の鞄ということで勿論便利ではあるのだが、その場で臨機応変に調合したり、用意しておいた薬品を使用したりと、ローズマリーならば更に有効活用できるだろう。勿論、探索中にも役に立つ。

「私は……魔法を発動待機している関係であまり戦闘に参加できないから、防御的なものが良さそうだわ。この、影茨の杖と言うのが良さそうね」

 クラウディアが言う。
 杖から茨が伸びて相手を絡め取る、魔術師の護身用道具らしい。
 ふむ。相手に転移魔法を用いるのに、動きを封じられるものを、というところか。んー。みんなあっさり決まっていくな。

「これは……」

 と、目に飛び込んできた目録の記述を追う。

「魔弾……。魔力循環の使い手用の武器と書いてありますが……」
「これもベリオンドーラの頃から伝わっておるが……久しく使い手がいなかった武器じゃな。射撃戦を苦手とする魔力循環の使い手が遠くの敵への対応をするために作られた魔法生物らしい。まあ、近距離戦でも問題なく使えると文献にはあるがのう」

 目録によると、マルレーンのソーサーや、ルセリアージュの舞剣と同じタイプの武器と見ていいだろう。単発だけど。
 循環魔力を溜めた球体を、猛烈な勢いで飛翔させて敵を撃ち抜く――といった武器らしい。文字通りの生きた弾丸というわけだ。魔眼とも書かれているし、どうやら目があるようだが。

 弾丸の軌道は使い手の意志で制御可能。……ふむ。元々射撃戦をする気はないが、相手との距離を潰すのにも近距離戦で手数を増やすのにも使えそうだ。

「魔力循環に向いている装備というのは、何かしら魔法生物という感じがしますね」

 グレイスが言う。

「うん。普通の素材だと簡単に壊れるからな。魔法生物だと循環錬気の延長で強化できるんじゃないかな」

 キマイラコートも循環に組み込めるしな。

「ふむ。お主の杖も興味深いのう……見たところ、循環に特化しているように見えるが」
「以前、褒美としていただいた品です。中々融通が利くので重宝していますよ。少し試してみて、問題が無ければこれにしてみます」

 ということで、皆それぞれに現物を受け取って確かめてみる。
 魔弾は握りこぶし程の黒い球体であった。循環した魔力を込めてみると――単眼が開き、蝙蝠の羽が生えた。
 掌から飛び立つと、どこか嬉しそうに俺の周囲を飛び回る。目録には突撃の際は眼を閉じ、翼を畳んで完全な弾丸になるとあるが……普段はこういう形態になるわけだ。
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