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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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264 封印の巫女

 賢者の学連は所属する魔術師達の生活の場でもあるらしい。長老率いる七家の面々にとっては自宅も同然、ということでヴァレンティナがお茶を運んで来てくれた。

「母さんの話を聞かせて下さい」
「……うむ」

 ジークムント老は頷く。

「どこから話をしたものか。パトリシアの話をすると、どうしても儂らの話にもなってしまうのでな」

 その言葉に頷くと「では」と前置きしてからジークムント老が続ける。

「儂らは魔法王国ベリオンドーラに仕えた7人の賢者の末裔、と言われておる。シルヴァトリアが建国されてからは血も薄れたがな。それでも先祖に七賢者がいたのは間違いない」

 だから長老達も7人で7つの家ということになるわけか。タームウィルズの迷宮に魔人の盟主を封印した魔術師集団も彼らかも知れない。

「だが……後にベリオンドーラが滅んだ際、魔人との戦いにより当主達が死に、幾つかの貴重な魔法の継承がなされなかった。血統は残ったが技術の伝承に問題があったというわけだ」

 長老の1人が言う。

「……転移魔法や、魔力循環などですか?」

 俺の言葉にジークムント老は苦笑する。

「ふむ。テオドールや。お主はヴェルドガルにいたのであろう? 封印の巫女を知っていたことと言い、随分と儂らの内情に詳しいようじゃが……」
「封印の巫女についてはエベルバート陛下が僕の出自を知った際にそう仰っていました。転移魔法については……以前倒した魔人が、失われた魔法だと」

 ティーカップを傾けていた魔術師がその言葉に咽る。

「ま、魔人を倒した?」
「ヴェルドガルは今、魔人集団と水面下で交戦中なのです。迷宮やベリオンドーラが絡んでくる話なのですが」
「お主は一体、何をしておるのか……。そのへんも聞きたいところではあるが、話が脱線してしまう。まずは我等の話をするとしよう。転移魔法については使い手であった当主が命を落としたものの、完全に失われたわけではなかったということよ」
「なるほど。密かに語り継いでいたと」

 それが母さんに引き継がれたということかな? いや、しかし……。

「転移魔法については語り継いでいたというのは少し違うのう。使い手の研究資料が見つかり、それを分析や研究をして術式を蘇らせようと試みていたのじゃな。魔力資質と習得難度の関係から使い手が現れるかは分からなかったが……儂ら七家は互いに縁談を進めたりと、古の賢者に立ち返ろうとした。いずれは実を結ぶと、そう信じておった」
「そして母さんが使い手になれるかもと?」
「そうじゃな。そしてパトリシアはそれに応えた。じゃが使い手の研究資料は術式が完成する前の段階のものであった。パトリシアは蘇った転移魔法をもっと効率的にできるやもと、術式の改良や研究をしようとしておったよ」

 そうして……シルヴァトリアを出てからも、母さんは研究を続けていたというわけだ。賢者の学連が目指していたのは魔力循環の使い手の再来だけではなく、他の術の復興も、ということになるだろうか。

「とはいえ……転移魔法がもし魔人の手に渡ったらどうなるかと言えば、想像に難くないじゃろう? 故に強力な武器になれど決して魔人の手に渡してはならぬ術式を秘術と位置付け、秘匿しながらも語り継いでおるというわけじゃな」

 転移魔法が魔人の手に渡ったら……か。障壁型の結界は意味を成さなくなるな、確かに。
 秘密主義である理由はそこから来たものか。相手が王太子であろうが何だろうが秘密を明かさないわけだ。野心的な権力者が魔人と結びついて、などというのは杞憂では済まなかったわけだし。
 人知を超えた力と長い寿命。魔人に近付けるというのは……支配や不老不死を求めるような輩にとっては魅力的だろう。

「封印の巫女というのは?」
「これはベリオンドーラの頃から続いておる慣習ではあるのだが……儀式の手順は残っているのに本来の意味が明確ではなくてな」
「魔人との戦いや、ザディアスの起こしたような騒動が過去にあって失われた……というところでしょうか」
「長い時間が経ちすぎたという理由もあるやも知れぬが……そうなるな」

 ジークムント老は俺にはややばつが悪そうに言う。
 うん。ヴェルドガルにだって過去にそういうことはあった。クラウディアが迷宮に縛られているのもそうだし、何代か前のヴェルドガル国王が坑道を迷宮化させてしまったのもそうだ。
 クラウディアは、少し遠くを見るような目をしていた。昔のことを思い出しているのかも知れない。

「ともあれ、儂ら七家より最も魔術の才のある娘が選ばれて襲名する。儀式を経て四方を守護する巫女となる……と言われておるよ。封印と言うのは……王家の鎮魂する古き魔人のことじゃろう。つくづく……連中とは因縁浅からぬというところか」
「封印の巫女については早めに選出と儀式を済ませねばなるまい。次の満月の晩までには……」
「代々ウィルクラウド家のお嬢さんが巫女となることが多かったな。……パトリシアは実に才気溢れる魔術師であった」

 1人がそう言うと、長老達が頷き……ふと弛緩した空気になって母さんの話が続いた。

「……だが魔法の才を除けば、優しく気立てのよい娘であったよ」
「そうさな。時々作る妙な魔道具はどうかと思ったが」
「あれは、儂の書斎の水晶の文鎮を参考にしておったんじゃよ。いたく気に入っておった」
「ああ……。あの、髑髏の?」
「うむ」

 これはまあ、普段の母さんの話なんだろうが。
 ……うん。アウリアの持っていた杖に類似する品だろうな。由来がここからというのは分かったが、深く突っ込むのは止めておこう。

「それで。先程随分と気になることを言っておったが」
「ああ。魔人を倒したという件ですか?」
「うむ。それも含めて、お主の話を聞きたいのう。どうしておったのか」
「分かりました」

 さて……どこから話をしたものか。俺のほうは1から10まで話すのは難しいところがある。前世の記憶云々は俺にも原因が分からないので説明しようがない。
 とは言え、ある程度のところは話す予定だ。まず現状を説明しておくか。

「まず今の話を。僕はヴェルドガル王国で異界大使というメルヴィン陛下直属の役職について迷宮絡みの仕事をしています。……そう言った義理や、やらなければならないことがありますので、今後の交流はさておき、ヴェルドガルに帰るということだけは間違いなく伝えておきます」

 この話を伝えずに魔力循環が使えるということを先に言うと、ややこしいことになってしまいそうだし。まずスタンスだけははっきりさせておこう。エベルバート王には魔力循環を見せているのだし、ここで伏せても意味がない。

「……ふむ。お主が自由の身であるならウィルクラウド家に留まって欲しいところではあるのだがな。だがまあそなたらに苦労をかけ、そして助けられた身。希望に沿うようにしてやりたい」

 ジークムント老は言う。

「ありがとうございます。では……タームウィルズに向かった時の話を。もう解決はしているのですが、継母やその息子と少々不仲だった時期があるのです。それで……独学で魔法を覚えて、無詠唱で魔法を使えることを理由に、父に交渉を迫ったんです」

 まあ、独学の内容については触れないでおこうか。

「無詠唱。確かに、未熟な魔術師が感情に任せて魔法を暴発させてしまうことは時折あるわね……」

 ヴァレンティナが頷く。

「そうですね。それを理由にさせてもらいました。もっと魔法を覚えたいからペレスフォード学舎に通いたいと言って、タームウィルズに向かいました」

 道中でアシュレイと出会ったり、カーディフの誘拐事件があってシーラと知り合ったりと……色々あったな。誘拐事件から、リネットと戦ったところまでの経緯はそこそこ詳しく説明しておこう。

「――それで先走った官憲がカーディフの屋敷に突入した結果、潜入していた魔人が炙り出されてしまったわけです。これが最初の魔人との戦いでしょうか」
「最初じゃと?」
「いえ……。その後何度か魔人集団との戦闘がありましたので」
「何故お主が? いや、パトリシアのことを考えれば、その心情は分からなくもないが……」

 ジークムント老は眉根を寄せる。

「魔人と戦えるからです。魔力循環が使えますので」
「……何!?」

 数瞬の間を置いて、長老以下その場にいた学連の面々ほとんど全員が目を丸くしたり腰を浮かせたりした。

「そ、それは本当かね!?」
「はい。使って見せましょう」

 魔力を循環させて高めていくと、長老達の顔が喜びに沸く。

「お、おお……! これが……!」
「我等の目標も達せられたわけか……!」
「……と、この循環や新しい飛行術や月女神の祝福、母さんの残してくれた魔法を使って、みんなと魔人を何度か倒しました」
「……最早、どこから突っ込んで聞いていけばいいのか分からん」

 ジークムント老は苦笑しながらも額のあたりに手をやる。

「我等の手を離れて魔力循環が蘇るとはな。皮肉なものだ」
「テオドール君。君は……ヴェルドガルに戻ってしまうのか?」
「先程も言った通りです。みんなへの義理や、自分で始めた仕事がありますから。魔力循環については……まあ、協力できることはあるかも知れませんが」
「……そうか。まあ、そうなるだろうな」

 俺の返答に長老の1人が気落ちしたような様子を見せた。

「けれど交流はさておき、という話なのでしょう? 私達はテオドール君の状況も、ヴェルドガルの状況も知らないわ。慌てずに、みんなが納得できるよう話を進めていけばいいんじゃないかしらね」

 ヴァレンティナが長老達に言うと、ジークムントが頷いた。

「今まで儂らが寝ぼけていたから問題は山積しておるが……パトリシアに辛い役目を負わせた以上は、その忘れ形見に無茶は言えん。じゃが、そうさな。ヴェルドガルに現れている魔人どもはベリオンドーラとも関係が深いようであるし、テオドールとヴェルドガルに技術協力を申し出るよう陛下に掛け合ってみるのが良いかも知れんな」
「なるほど」
「それは確かに」

 長老達は納得したように頷いている。
 技術協力? それはまあ、流石に秘術ではなく、持ち出せる物に分類されるのだろうが、飛行船やらあのゴーレムの作成法なども賢者の学連の技術に含まれてしまうのだろうか?
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