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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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247 王都へ向かって

 まだ日も昇らない内から出発の準備を進める。リンドブルム達にオーク肉を振る舞い、腹ごしらえをさせる。

 エリオットも旅の準備を進めている。ヒポグリフに鞍や手綱といった装具の調子を見ているところのようだ。エリオットはジルボルト侯爵領まで1人旅だった。ヒポグリフで移動してきたということもあり、荷物自体はかなり少ない。
 宿から荷物を引き上げて竜籠に積み込み、ヒポグリフを城へ呼び寄せて、後は装具を確認すれば、彼の旅支度は完了だ。
 エリオットの様子をふと見ると、また目元を覆う仮面を付けていた。

「エリオット兄様は、仮面を付けて行くんですね」

 エリオットの仮面の紐は切ってしまったが……どうやら予備の仮面を幾つか所持しているらしい。荷物を取りに行った時に、羽付きの三角帽子も回収してきたようだ。

「そうだね。シルヴァトリアではずっとこうだったから。アシュレイには悪い気がするけれど」
「……なるほど。今の時点で仮面を外してしまうと逆に誰かと思われてしまうと」
「そういうことです。仮面は私が王都で注文して作ってもらった普通の物品なので、心配はありませんよ」

 エリオットの話では、仮面を付けるように指示を出したのはやはりザディアスらしい。

「私はあまり出歩かないほうが良いかも知れませんね」

 んー……。アシュレイの容姿も、見る者が見れば兄妹と解ってしまうだろうしな。ジルボルト侯爵が分からなかったということは大多数は知らないのだろうが。

「それなら、いい方法があるわよ」

 ローズマリーが言う。

「どんな?」
「変装用に、髪の染料を作れるわ。髪も傷まないし、必要ならすぐに洗い落せる。まあ、中々優れものね」

 ほほう。なら俺もお願いするかな。髪の色で出自がばれるという話をするなら……俺の容姿から母さんを結びつける者も出てくるかも知れないし。

「じゃあ、向こうに着いたら買い出しに行こうか」
「よろしくお願いします、マリー様」
「ええ。私自身で試しているから、安心して」

 なるほど。変装用の指輪だけじゃなく、色々やっていたんだな。
 ともかくアシュレイの出自を隠しておくなら、これで事足りるであろう。

「ああ、そうだ。エリオットさん。これをどうぞ」

 エリオットの手が空いたようなので、予備として持って来ていた破邪の首飾りと、リング状の魔道具をエリオットに渡す。

「魔道具……ですか?」
「首飾りは呪法や魔法薬などによる効果を防ぎます。輪のほうはマジックシールドが仕込んである魔道具です。補助としては丁度良いかと思いまして」
「ああ。テオドール殿と戦った時の……」
「そうです。これは足に付けておいて、シールドを足場にするという代物ですね。術式を自分で制御する必要がなくなるので、後はレビテーションで補えば空中でも素早く動けるかと」

 エリオットの場合は複数の術を制御して戦っていたところがある。体術の心得もあるから、レビテーションを併用してもらえば十分実用だろうと見立てている。

「……なるほど。空いた時間で少し練習してみます。テオドール殿もこれを?」
「テオドールは、全部自前」

 と、荷物のチェックをしていたシーラが答えると、エリオットの口元がやや引き攣る。

「あれを……全部自力でやっているのですか?」
「まあ、そうですね」
「テオドール様が考えて広めたのです」
「なるほど……。世の中は広い……。私も慢心しないように頑張らねば」

 アシュレイの言葉に、エリオットは自分の拳を握ったり開いたりして頷いている。……刺激になっているなら丁度いいところはあるかな。
 旅の前に忘れ物が無いか最後の確認を終えたところで、リンドブルム達も食事が終わったらしく一声上げて俺に知らせてくる。

「それではあなた。御武運をお祈りしています」
「お父様。お気をつけて」
「うむ。お前達には苦労をかけるな」

 ジルボルト侯爵、侯爵夫人とロミーナは言葉をかわした後、静かに抱擁し合っていた。
 侯爵夫人とロミーナはタームウィルズにクラウディアが転移魔法で送るということになっている。儀式場の滞在施設での受け入れ準備は整っているので、後はクラウディアが転移魔法で向こうに避難させるだけだ。

「お待たせしました」

 侯爵家の面々はしばらく時間を取った後でクラウディアに言う。

「もう、良いのかしら?」
「はい」
「では、送るわ」

 クラウディアの転移魔法が発動して、夫人とロミーナがタームウィルズへと送られた。
 ややあって、メルセディアから通信機に、確かに2人の身をお預かりしました。騎士団の誇りにかけてお守りしますといった内容の連絡が入った。

「向こうも良いみたいですね。そろそろ出発しようか」

 東の空が白み始めたところで、みんなを見回して言うと頷く。

「ふむ。道中は多少ゆっくりできるかな。船の中ではマルレーンにしてやられてしまったからな」

 テフラが言うと、マルレーンは悪戯っぽく笑う。船の中でのカード勝負の話だな。

「エリオットさんも竜籠へ乗って行かれては?」
「ああ。私はサフィールを少し構ってやらないといけないので……休憩を挟む時にそちらに同乗させていただきます」

 エリオットはヒポグリフのサフィールの頭を撫でながら答える。
 そうしないとサフィールが機嫌を悪くするそうだ。しばらく街の外で待機させていたからか、エリオットに鼻をこすり付けるようにして甘えている節がある。
 んー……。そうだな。この状態でエリオットが竜籠に乗ったら、確かに機嫌を損ねてしまうのかも知れない。
 ということでエリオットはヒポグリフに跨り、残りの皆で竜籠に乗り込む。エルマー達も別の竜籠に乗って、全員でシルヴァトリアの王都目指して出発と相成った。



 シルヴァトリア本土での竜籠の旅も、基本的にはヴェルドガルでのそれと変わりがない。街道に沿って上空を飛行する形だ。今までと違うのは、エルマー達の竜籠がジルボルト侯爵家の家紋を取り付けていることだろう。
 俺達の乗る竜籠にはヴェルドガル王国の使者を表す紋章が籠に取り付けられている。これで地方都市に関しては割と素通りが許されるというわけだ。

「これは――ジルボルト侯爵。それにベネディクト卿も」
「うむ。大儀である」

 ジルボルト侯爵は竜籠の窓から顔を覗かせて、都市の外壁にある監視塔に詰めていた兵士に行先や目的を告げている。監視塔の兵士が青い旗を掲げると別の監視塔でも青の旗を掲げる。
 青い旗は「竜籠は都市内部には入らず、そのまま通る」という意味だそうだ。こういった手続きや旗での合図を行うことでスムーズな通行ができるようになっている。まあ、空港の管制みたいなものである。

 複数の飛竜で引く竜籠は小回りが利かないということもあり、バリスタなどで狙われると、普通は撃ち落とされるしかなくなる。
 竜籠ともなると、そこらの山賊がおいそれと用意できるものでもないのだが、それでも万が一ということはある。だからこういった手続きをしておくことで、都市側も竜籠で移動する側も安心することが出来るというわけだ。

「どうぞ、お通り下さい」

 敬礼する兵士に見送られて外壁に沿うように進む。

「もう少し行ったら竜籠を降ろして休憩しましょうか」
「そうですね。ここから先の街道沿いに、景色のいい場所がありますよ」

 窓からエリオットに話しかけると、そんな返答が返って来た。

「では、そこで休憩しましょう」
「分かりました」



 エリオットが案内してくれたのは、街道の側にある日当たりの良い土手であった。近くに小川が流れていて、その向こうには花が咲いているという……中々長閑な場所である。竜籠から出たセラフィナが楽しそうに飛び回り、ラヴィーネがその後を小走りで追いかける。
 イグニスの頭の上に猫の姿をしたカドケウス。それから使用人の姿を取ったアンブラム。このへんはマイペースというか何というか。土手の上に一緒に腰かけている。

「綺麗な場所ですね」
「気に入っていただけて何よりです」

 エリオットとジルボルト侯爵が笑みを浮かべた。

「お城の厨房をお借りして、軽くつまめる物を用意してきました」

 グレイスがバスケットを竜籠の中から出してきた。昼には少し早いが、小腹を満たしながら休憩というのも悪くない。

「今、飲み物も用意しますね」

 アシュレイが水魔法でお茶を用意してくれる。
 バスケットの中身は所謂サンドイッチだ。白パンの間にレタスやトマト、チーズ、ハム、卵などを挟んであり、見た目にもなかなか色鮮やかで楽しめる。こういう場で食べるのにはぴったりだな。

「私とマリーも手伝ったのよ」

 クラウディアが言う。

「そうなんだ」
「まあ……それほど手間をかけたものでもないけれどね。材料を切って挟むだけだし」
「でもハムを燻製にするのは、マリーも手伝っていたじゃない」

 クラウディアが笑みを向けると、ローズマリーは羽扇を広げて明後日のほうを向いた。そうだな。材料自体はタームウィルズから運び込んだものだったみたいだし。燻製は結構手間がかかるはずだ。

「うん。美味しいよ」

 口に運んでそう答えるとクラウディアはグレイスと笑みを向け合う。ローズマリーは羽扇で顔を隠したままであったが。
 イルムヒルトにはブラッドソーセージを用意して来ているが、普通の食べ物も意味がないというわけではない。彼女も美味しそうにサンドイッチを口に運んでいた。



「――ザディアスというのは普段はどんな人物なんですか?」

 食後の話題はどうしても王都についてからの話になった。傾向と対策を練る意味でも、ザディアスの対外的なスタンスは押さえておいたほうが良いだろう。

「自信に満ちた人物……でしょうか。尊大とも言えますが」

 ジルボルト侯爵が答える。ああ。貴族や王族では有りがちな人物像かも知れないな。

「ザディアスは賢者の学連の抱える魔法技術を自分達が管理するのが民の幸せに繋がるのだと。そんなふうに言っていましたね。私もそれが正しいと思っていましたが……今にして思い返せば、何度か彼を不審に思い、カエクスジェムに制御されるということがありました」

 エリオットは仮面の、額の辺りに触れる。

「確か……姉上は、ザディアスとの婚約の話も出たのだったかしら?」
「……ああ。その話」

 ステファニア姫はローズマリーの言葉に、頭痛でも堪えるかのような微妙な表情を浮かべる。あまり触れたくない話題だったのかも知れない。

「確かに……私が小さい頃にシルヴァトリアの王家か、上級貴族との間での縁談を、という話は出たわ。親善に赴いた時に、私が魔術師だと聞いてザディアスが妙に興味を示していたけれど……。だからこそ宙吊りになってしまったところがあるの」

 ステファニア姫の言葉によると、その話はザディアスの悪評が広まる前の話だそうだ。例の政変(・・)を機に立ち消えというか、どちらからともなくその話題に触れなくなったらしい。

 シルヴァトリア側としては、ザディアスが問題を起こしたから言い出しにくくなったのだろう。一方でヴェルドガル側も、問題を抱えた王太子との縁談を積極的に進めたいわけではなく、その内に死睡の王の一件があって、国内の問題を解決するのに追われて……といった具合だ。

「しかし、ザディアスは諦めてはいないようですな」
「そうなのよね……」

 ザディアス自身はステファニア姫がかなりの魔法の腕を持っているという部分に拘っているらしく、他の王位継承権を持つ血縁や国内の貴族に睨みを利かせたらしい。
 そのせいでシルヴァトリアだけでなく、周辺諸国でもステファニア姫との縁談には及び腰なのだそうな。

「私があれを嫌う理由も、分かるでしょう? 今度の一件できっちり引導を渡したいところよね」

 そんなふうに言って、ステファニア姫はかぶりを振るのであった。
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