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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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242 作戦開始

「では、移動するわ」

 テフラ山から儀式場へと。みんなや飛竜達と共に移動する。
 クラウディアの足元から広がる転移魔法陣から光が広がったかと思うと、一瞬後にはそこは儀式場の中庭であった。通信機で通達はしてあったが、月神殿の巫女達がやや驚いた表情を浮かべている。
 マルレーンが手を振ると巫女達も相好を崩して一礼を返す。うむ。

「魔力の消耗はどうかな?」
「……そうね。通常の迷宮間転移よりは消耗も大きいけれど、契約やテフラの力も借りられるところがあるから……短期間で何度も行うのでなければ問題はないと思うわ」

 クラウディアは手を握ったり開いたりしながら答える。
 循環錬気を前提とした話ではあるが……これなら十分に実用の範囲内だろう。

「私はこれで二度目になりますが……心強いものですな」

 ジルボルト侯爵は周囲を見渡しながら頷く。

「旦那様」

 と、そこにセシリアがやって来た。通信機による定時連絡でタームウィルズとはやり取りしているが、昨晩の時点でテフラ山に向かうと通信機で方々に連絡を取っておいたのだ。セシリアはどうやら、儀式場で俺達が来るのを待っていたらしい。

「仰せつかっていたものは全て準備してあります。馬車に積み込んできました」
「うん。ありがとう」

 セシリアは静かに一礼する。

「じゃあ早速物資の積み込みをやらないとな」

 ゴーレム達を生成し、不要になった荷物を馬車へ運び、用意してもらった食料や衣類、装備品といった物資を竜籠に積み込む。

「来たか、テオドール」

 作業を進めていると、メルヴィン王とアルフレッドもやって来た。

「はい。ザディアスの手の者がジルボルト侯爵領に姿を見せております」
「……うむ。あまりのんびりはしておられぬか」
「そうですね。早めに戻らないといけません」

 一応向こうの状況はカドケウスの通信機で異常の有る無し程度なら分かるが、流石に五感リンクの範囲外だ。なるべく早くに向こうに戻らなければならない。

「重々気を付けるのだぞ」
「はい。行ってきます」

 メルヴィン王に笑って頷く。

「船旅お疲れ様。防具の調子はどうかな?」

 と、アルフレッド。

「ああ、ただいま。船の上で確かめてみたけど、かなり動きやすくて良い感じだ。休暇はどうだった?」
「お陰様で。オフィーリアとかなりゆっくり過ごせたよ。どうせだから向こうで魔道具を作ったりもしてきたけどね」

 そんなことを言って苦笑するアルフレッドである。

「んー。何を作って来たんだ?」
「侯爵の護身用の魔道具だね。ほら。前に案だけ出ていた、地面に叩き付けると凄い光が出るって奴」
「ああ、あれか」

 要するに光魔法を使ったフラッシュグレネードだな。魔石を使い捨てることになるから普段使いするにはコスト的な問題があるが、有事の要人護身用として考えればそのあたりは問題にならないだろう。

「タームウィルズに戻ってから、時間を見て余りを作っておいたんだ。テオ君に渡しておくよ」
「っと。ありがとう」

 魔道具が入った木箱を渡される。敵地に赴くのには、おあつらえ向きな魔道具だ。使わずに済むならそれに越したことはないが、備えあればなんとやら。ありがたく受け取っておこう。

「荷物の積み込み終わりました」

 アシュレイが呼びに来る。

「分かった。それじゃあ、向こうに戻るよ」
「うん。気を付けてくれ」
「そうだな。通信機で連絡は入れる」

 メルヴィン王とアルフレッド、それからセシリアと。みんなの見送る中を再びクラウディアの転移魔法で飛ぶ。

「それじゃあ行きましょう」

 光に包まれ――目を開くと、そこはテフラ山の中腹にある湖のほとりであった。
 湿度を含んだ冷涼な空気。周囲に俺達以外の人影はないようだ。
 周囲の状況把握をしながら真っ先にカドケウスとリンクする。……ふむ。取り立てて変化はないようだ。となればまずは城に戻り、予定通りに準備を進めることとしよう。



 ジルボルト侯爵領に戻ってからは――俺のするべき仕事は一先ず落ち着いたと言えよう。
 護衛役であるのは勿論だが、魔女を通達する手配は城の人間が進めているので、ベネディクトと、タームウィルズから戻ってくる船を監視するぐらいしかする事が無い。
 手持ち無沙汰になるところはあるので、城の監視塔に陣取り、光魔法で望遠鏡を作って海の向こうを見張る程度のことはしておく。

 これはタームウィルズから来る船の到着をいち早く知るためだ。一方で、ベネディクト側にはやはり目立った動きがない。
 あの魔法騎士は名目上、休暇でやって来ているということになっているそうだが……町のあちこちを見て、路地がどこからどこに繋がっているのか等を入念に調べているあたり、ある程度の危険性を聞かされているのかも知れない。問題は――どこまでの事情を知っているかなのだが。

 だがそれもこれも今日までだ。魔女のことを知らされて、それに対してどう反応するのかで白か黒か判別できるだろう。船の到着と同時に、状況も動き出す手筈になっている。

「船は見えましたか?」

 階下から梯子を登ってきたアシュレイがひょっこりと顔を出す。その手に切り分けた砂糖菓子がある。どうやら差し入れに来てくれたようだ。ステファニア姫、それからロミーナも一緒である。

「いや。まだだ。もうそろそろ見えてもおかしくないんだけどね」
「そうでしたか。ロミーナ様と厨房に寄って、差し入れを頂いてきたのですが、如何ですか?」
「ありがとう。一緒に食べようか」
「はい」

 アシュレイが笑みを浮かべて頷く。

「私もお邪魔させてね。少し――こういう仕事って憧れがあるのよ」

 一緒にやって来たステファニア姫が言う。

「そうなんですか?」
「ええ。兵隊さんのお仕事って地味なものほど大事だものね。けれど、王城や私の領地ではあまりこういう場に立ち入ることを許してもらえないから」

 ……なるほど。今は監視の目もないから行動に自由があると。気さくな人物だけに割と行動的だな、ステファニア姫は。

「分かりました。では、どうぞ」
「ありがとう」

 海が見える位置にテーブルを持って来て、4人で休憩しながら小腹を満たすことにした。

「お茶を淹れますね」

 アシュレイが水魔法を使ってティーポットに湯を満たし、それを皆に注いでくれる。

「ありがとうございます、アシュレイ様」
「どういたしまして」

 お茶を注いでもらったロミーナがアシュレイと笑みを向け合っている。

「そう言えば、2人は随分仲良くなったみたいだね」

 尋ねると、ロミーナが頷く。

「私が時間の許される限りここにいるようにしたのも、アシュレイ様と話をして決めたことなんです」
「そ、そんなふうに言われると、少し照れてしまいますが」
「ふふ」

 アシュレイがややはにかみ、それを見たステファニア姫が笑みを浮かべる。
 アシュレイの立場は……確かにロミーナとしては自分に重ねるところがあるかも知れないな。侯爵家の一人娘。後嗣になる可能性もあり、呪法による心労もあって体調を崩しがちだったようだし。互いに共感を覚える部分があってもおかしくはない。 

 ロミーナと侯爵夫人は……ジルボルト侯爵領にギリギリまで残るという選択を取ったようだ。
 元々ジルボルト侯爵としてはロミーナ達とは行動を共にせず、タームウィルズに残したいと思っていたようだが……ロミーナと夫人はまず何を置いても侯爵家の家臣達に、自分達の呪法が解けた姿を見せたかったらしい。

 そして、それは実際、士気を上げることに繋がっていると思う。俺達が王都に向かって出発するまでは、ジルボルト侯爵領にいるということだったが……それはアシュレイを見て決めたわけか。
 それでも事態が動けばタームウィルズに行くと決めたのは……父親の枷になることを嫌ったのだろう。そのへんも、自分が後衛を任されていることに葛藤があったアシュレイと重なる部分があるかな。

 そんな調子で皆と茶を飲みながら砂糖菓子をやっつけていると、水平線の彼方に船が見えた。

「……来たか」

 望遠レンズで拡大――確かにジルボルト侯爵の船だ。皆の表情にも緊張が増していくのが分かった。



「船が見えた。早速港に向かおうと思う」

 一度貴賓室に顔を出し、みんなと行動を開始する前に打ち合わせをする。

「予定に変更は?」

 クラウディアが尋ねてくる。

「予定通りかな。ベネディクトの説得にはジルボルト侯爵が当たる。侯爵の護衛にあたるのは俺とグレイス。もしベネディクトと戦闘になるようなら俺が相手をする」
「はい。お供します」

 再確認の意味合いでみんなの配置を確認する。グレイスは俺の言葉に胸に手を当てて静かに頷いた。俺とグレイスが侯爵の護衛なのは……まあ、見た目で警戒心を抱かせにくい部分があるからだ。

「シーラ、イルムヒルト、ラヴィーネは――仮にベネディクトが逃亡した場合、距離を取りながら追跡出来る態勢を整えて船上で待機」
「ん」
「分かったわ」

 そしてステファニア姫とテフラ、ロミーナと夫人の護衛に当たるのが残りの面々というわけだ。

「護衛はアシュレイ、マルレーン、クラウディア、ローズマリー、セラフィナ、イグニス、アンブラム。ベネディクトが港に現れた時点で、カドケウスは城に戻す」

 この面々が護衛任務と避難担当となる。皆を見回しながら言うと、各々が頷いた。この配置で城にいながらにして、港の状況をアシュレイが把握できるというわけだ。アンブラムはステファニア姫の姿を取り、影武者役になる予定である。

 だが城での護衛とはいえ油断できない。王太子の内通者がいたと仮定し、実力行使に出るようなことがあれば、タイミングはここになる可能性が高い。侯爵が仕掛ける寸前にロミーナや夫人を人質に取ることで、頭を押さえることができる、と考える可能性があるのだ。

 カドケウスを戻すのはそう言った理由だが――みんなの表情は、かなり気合が入っているな。後顧の憂いを断つためにロミーナと夫人は、敢えてギリギリまで侯爵領に残るという選択肢を取ったのだ。その気持ちを汲みたいと思っているのだろう。

「みんなにこれを渡しておく」

 アルフレッドから受け取った閃光弾を護衛班に配る。俺も1個持っていこう。

「これはアルフレッドが渡していた魔道具ね?」
「そう。床に叩き付けると強い光を放つ。投げる時は皆に知らせて、目を閉じること」
「分かったわ。まあ……イグニスには関係ないと思うけど」

 ローズマリーは球体状の魔道具を光に透かしながらくすくすと笑う。うーん。閃光弾からタイムラグ無しに動けると言うのは……なかなか凶悪な連携だな。
 ……なにはともあれ、いよいよ作戦開始だ。始まってしまえば後は坂を転がるが如く。ベネディクトは果たして、黒か白か。
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