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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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222 魔法王国の政変

 ジルボルト侯爵との話、魔女の遺した証拠品、温泉周辺の整備等々……色々とするべき話が山積している。王城へメルヴィン王と話をしに向かった。
 今回の話し合いに関してはジルボルト侯爵も交えるため、迎賓館の一室にて面会することになっている。
 ノックして入室する。ジルボルト侯爵は先に来ていたようだ。

「これは大使殿」
「こんにちは。その後、奥方とご令嬢のお加減はいかがですか?」

 夫人と令嬢はやや線が細い印象を受けた。アルヴェリンデの呪法が心労になってあまり行動的になれなかったということなら、諸々解決したとは思うのだが。

「お陰様で。笑顔を見せることが多くなりました」
「それは何よりです」

 胸に手を当てて静かに笑みを浮かべるジルボルト侯爵。そこにメルヴィン王もやってきた。

「ふむ。待たせてしまったかな?」
「僕はたった今来たところです」

 テーブルを囲んで、ティーカップを傾けながらの話になった。

「さて。何の話から始めたものか。まずは――ジルボルト侯爵。そちが知っていることについて聞かせて貰いたいのだが構わぬかな? とはいえ、そちは余に仕える貴族ではなく、シルヴァトリア王家の家臣。あくまで王太子ザディアスの我が国に対する企てや、魔人に関係がありそうなことだけで構わぬ」

 ジルボルト侯爵は諜報部隊を持っているようだからな。王太子の脅迫を受けてあちこちに密偵を放っていたのだろうし、それで知り得た情報を色々と抱えているのだろうが、助けたことにかこつけて、あまり関係のないことまで話してもらうわけにはいかないというわけだ。
 このへんはメルヴィン王とジルボルト侯爵の信頼に関わるし、一線を引いておくべき部分なのだろう。その点魔人絡みに関することならば、国を越えて協力する大義名分も立つ。

「はっ。王太子は私の領へ湯治という名目でやってきたのです。賓客ということで迎えたのですが……その晩餐の席に魔女も見えたのです。それが3年前のこと」

 そして呪法をかけられたというわけだ。その手回しからすれば、先にテフラに呪法を用いてから侯爵のところに来たのだろうが。

「そこから先はお察しの通りです。私は言われるがまま、国内の貴族についての情報収集や様々な工作活動を行いました。しかし……裏で魔人が絡んでいるとまでは……」

 王太子と魔人の繋がりは知らなかったか。まあ……王太子にしてみれば弱味を握っているとはいえ、魔人との繋がりをジルボルト侯爵に知られるのは避けたいところだろうしな。

「ヴェルドガル国内への工作については? まず、盗賊団の件であるが」
「盗賊を装い拠点を作るようにと。貴族同士の小競り合いによくある形で、私掠目的の盗賊団を組織するのと同じだと、そのように指示を受けました」

 そして諸々の準備を進めたわけだ。隊商を装い物資を運び込み、山中に土魔法に長けた魔術師を派遣してアジトを作り。1つの町を乗っ取り、後は火山を押さえればヴェルドガル国内を混乱させたり、大きな被害を出したりと……色々な破壊工作が出来るし、脅迫だって可能だろう。

「魔女の手法を鑑みれば、休火山を確保して我が国に対して同様の脅迫をするつもりであったと見ておる。恐らく、此度の訪問でそうするつもりだったのだろう」
「そう……でしたか。押さえるべき拠点まで指定されておりましたゆえ、確かにそうなのでしょうな。申し開きの言葉も御座いません」

 ジルボルト侯爵が瞑目する。

「責めておるわけではない。ガートナー伯爵領に対しては?」
「パトリシアという魔術師が保有しているはずの魔法を探すようにと、そう王太子は言っていました。茶金色の髪と瞳を持つ魔術師だと……」

 と俺を見て、言う。容姿やガートナーの姓から考えれば、俺との関わりについてはジルボルト侯爵ももう勘付いているだろう。そこはまあ、隠しておいても仕方が無い。

「確かに……僕の母とは、同一人物かも知れませんね」

 パトリシアと、母さんが同一人物かも知れないと言うところに着目すれば……追い掛けるのは難しくはないか。
 いや。だが……『聖女リサ』はヴェルドガル国内ではそこそこに知名度もあるし。全く俺との繋がりに気付かなかったというのはな。

「1つ――お聞きしますが、足取りについては、侯爵が情報収集をしてガートナー伯爵領に辿り着いたのですか?」
「いいえ。パトリシア殿については王太子も独自に調べていたようでしてな。ガートナー伯爵領までの足取りは掴んだから、後は現地で探せと」
「……それは何時のことです?」
「最近のことです。情報を預かり、すぐに部隊を動かしましたから」

 やはり、と言うべきなのか。王太子からの情報で、侯爵達は実動部隊として動いただけということになるわけだ。まあ、それならば所有している情報の少なさにも納得が行く、か?
 そうなると王太子がどこから情報を得たのかという問題はあるが――。

「そのパトリシア女史については……噂を総合して推測するとシルヴァトリアの政変で国を追われたのではないかとこちらでは考えていてな」
「政変……」
「シルヴァトリアの国内事情に関わることではあろうが、心当たりがあれば話してはもらえぬか?」

 ジルボルト侯爵は逡巡した様子だったが、小さくかぶりを振ってから口を開く。

「それは恐らく――学連の派閥争いのことでしょう」
「賢者の学連ですか」
「はい。私も若い頃学連で指導をして頂いたことがあります。ヴェルドガル王国に名高きペレスフォード学舎と似たようなものですが……魔法を専門としているのが特徴ではあります」

 主流派である塔の魔術師ギルドは「生活に魔法を」と掲げて魔法を広く流布させようとしている。しかしシルヴァトリアにある賢者の学連は秘密主義を貫き、あまり一般に魔法技術を公開することがない。その代わり少数精鋭を謳い、有名な魔術師を多数輩出しているそうだ。

「王太子もそこに在籍していました。しかし……王太子は当時の副学長と手を組み、学連の学長や長老達を批判したのです。国の発展のために秘匿している技術を残らず開示すべきだと」

 ……なるほどな。王太子が国の発展のためにという名目で学連に圧力をかけたわけだ。

「して、どうなったのか」
「学長と長老達はこれに反発。学長派と副学長派での対立が起きました。そのすぐ後に学長の事故死と、王太子の暗殺未遂事件という事件が相次ぎ……互いが互いを非難。緊張が高まっていましたが結局学連側に魔法騎士団が武力で介入。学長派であった魔術師が多数死傷し、何人かの長老達も投獄されました」

 要するに……武力を背景に王太子側が勝ったというわけだ。

「宮廷貴族の中にも、学長と懇意にしていた者の中に王太子の暗殺未遂と関わりがあると嫌疑を受け投獄や処刑された者が出ました。ですが……学連の秘密主義の性質と、王太子の手による魔法研究機関への武力介入ということで話は隠匿される方向に動いたのです。その結果――宮廷貴族同士の権力争い、つまり、政変という名目にすり替えられたという次第です」
「なるほどな……」

 シルヴァトリアか王太子への悪評が高まるのを避けたかったか。
 元々魔法大国の最高機密に属する学連に関することだ。情報隠蔽についてはある程度上手くいって、権力争いがあった程度の情報しか漏れてこなかったということなのだろう。

「シルヴァトリアを出奔したパトリシア殿が貴重な魔法を有しているということであれば……恐らくは亡くなった学長やその派閥、長老の肉親か高弟ではないかと思われるのですが」
「転移魔法については、どう伝わっているのです?」

 クラウディアが既にジルボルト侯爵に見せているからな。その点、今更伏せても仕方が無いところはある。

「遥か昔に伝える者が絶えたと。学連の秘密主義故に長老達が術式を秘伝として隠しているのではないかと噂をされておりましたな。……先日見た転移魔法については、墓まで持っていくと誓いましょう」
「ご理解頂けて助かります」

 クラウディアのことについてどう受け止めているかは分からないが、そのあたりは説明するだけ藪蛇な気もするし。

「問題は王太子への対処ではあるかな。ジルボルト侯爵の身の安全も守らねばなるまいが……」

 そうだな。これからの問題はそこだ。王太子と魔人の繋がりを突くまでは良い。それで侯爵がスケープゴートにされるようなことになっては意味がない。

「そのことについては――精霊テフラが侯爵をお守りし、潔白を証言すると言っていました」
「頼もしい話ではあるな。無論、余も侯爵の潔白を証明するために尽力しよう」

 うん。ヴェルドガル国王と高位精霊の証言だ。下手人が魔人ともなれば。そしてそれを広く周知されてしまえば、侯爵自身に手を出すのは非常に難しくなる。王太子の悪評というのは、学連に対する強硬手段も原因になっているのだろうし、少なくとも闇から闇へというのは無理だ。とはいえ、王太子自身も動きにくくする策が必要だろう。

「王太子の名前や繋がりは敢えて出さず、魔女を侯爵一家暗殺未遂の下手人として通達するというのはどうでしょうか?」
「ほう」
「人相書きと共にこの魔女こそが魔人であったと。魔人の持ち物に、シルヴァトリア発行の通行証があったことを知らせるわけです」
「向こうの手で事実関係を調べさせるわけか。ふむ……。大事になったところで親書を持ち出せば国王が病床だからなどとは言えぬであろうな。王太子も火消しに追われるであろうし、シルヴァトリアの内部に嫌疑がかかっている以上、直接渡したいと言う、こちらの意向を阻もうにも、口実をつけるのが難しくなる」

 メルヴィン王はにやりと笑う。それから少しの間、腕組みをして思案を巡らせていたようだが、やがて頷く。

「よかろう。侯爵には国元へ帰る際、こちらで護衛をつける。手配を進めるゆえ、そちは我が国にて暫しの間、留まられよ。万一のことがあろうとも、余はそなたを悪いようにはせぬ」
「ご高配、感謝いたします」

 ジルボルト侯爵は深く頭を下げた。 
 王太子としては魔女の帰りを待っているという状況だしな。連絡手段を持っていたとしても、王太子が魔女のことを大っぴらに出来ない以上は表立って動けない。ジルボルト侯爵がヴェルドガル王国に滞在する予定となっている期間中なら、たっぷり使って準備を進められるというわけだ。
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