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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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213 魔女

 急遽エルマー、ドノヴァン、ライオネルに魔法審問が行われ、ジルボルト侯爵の一件についての裏付けが取られた。
 ドノヴァンとライオネルも最初は証言を渋っていたが、エルマーと俺の口から、事実であれば俺がジルボルト侯爵を助ける方向で動くと告げたところ、事実だと認める旨を供述したのであった。その上で、侯爵に対する王太子側の密偵でないことを確認し、3人を牢から別の一室に移して話を聞くことになった。付き添いは引き続きミルドレッドである。

「……まず、この格好の礼を言わせて下さい」

 小ざっぱりとしたライオネルが静かに頭を下げる。3人とも神妙な面持ちだ。
 風呂に髭剃り、それから着替えと、身嗜みを整えてみれば、3人の立ち居振る舞いは……確かに貴族階級か、それに近しい立場にいた人間のそれに見える。
 エルマーの部下に関しても、今魔法審問中である。裏付けが取れて信用ができるとなれば……まあ監視と隷属魔法は外せないにしても、牢からは出られるだろう。
 少なくとも……背後関係でなく、彼ら自身の動機を事細かに話してくれるのであれば、こちらの対応だって変わる。

「その礼は陛下に伝えておきましょう」

 ミルドレッドが言う。

「早速だが……人質っていうのは誰が誰に、どうやって取られているのか。そのへんをまず、はっきりさせたい」
「人質になっているのは……ジルボルト侯爵領の全てです」

 全てときた。一体何がどうなっているのやら。

「……あの魔女は……王太子が連れてきたのです」

 エルマーがぽつりぽつりと漏らす。

「魔女?」

 ミルドレッドが怪訝そうな面持ちで問う。

「そうとしか言いようがありません。魔女は侯爵の奥方様やお嬢様に呪法をかけたのです。心臓を何時、何処でも握り潰して殺せるのだと、お2人を苦しませながら、王太子はそう言って笑っていました」

 エルマーは苦々しい表情を浮かべる。王太子と魔女は、侯爵の妻と娘を苦しませて、2人を抱きかかえる侯爵に対し、そんなことを言ったそうだ。

「その場に居合わせたんだな?」
「私は。ドノヴァン達は魔女の顔を知りません」

 エルマーは俯く。

「あの魔女が言うには、侯爵領の近くにある火山を守る精霊にも呪法を仕掛けたそうです。裏切るような真似をすれば精霊も同じように苦しみ、火山が爆発して溶岩が街を襲うだろうと。嘘か真かは分かりませんが……奥方様達の命は確実に失われる。我らにそれを確かめるようなことはできません」

 ……なるほどな。ジルボルト侯爵は領主。妻と娘だけの命ではまだ人質として足りないと、領地と領民まで人質に取った。
 だが噴火のカードを切ってしまえば後戻りも中止もできない。侯爵家の2人にも呪法をかけることで、逆らえば段階を踏んで破滅させると脅迫しているわけだ。

「それ以来、俺達は犬です。言われるがまま、様々な仕事に手を染めました……」
「侯爵が目を付けられたのは、俺達のような諜報部隊を抱えていたからだろうな」

 3人は一様に暗い面持ちだ。

「なるほど……。ジルボルト侯爵自身に魔法は?」
「かけられて、いないはずです。呪法や隷属魔法、契約魔法の類は……」

 そうか。公人であればそういった物が用いられていないか、調べられるようなこともあるだろう。だからこそ、間接的に支配を目論んだと。

「……そうか。それなら――」

 ジルボルト侯爵自身に接触を取ることそのものは可能なわけだ。

「な、何か方法が、あるのですか?」

 俺の反応に期待する部分があるのか、ライオネルが尋ねてくる。

「まず呪法の解き方や対抗手段を調べる。その上でジルボルト侯爵に接触。解呪に協力していく。こういう形で提案してみようと思う。そのためには……3人にも協力してもらうかも知れない」
「それが必要だというのなら……我らには是非もありません」

 ジルボルト侯爵はタームウィルズにやってくるが……その際、王太子も侯爵に監視の目をつけているだろう。そこで3人には順調だと嘘の報告をしてもらうだとか……。まあ、メルヴィン王とも話し合った上で善後策を練る必要があるか。



「心臓を潰す?」
「そんな呪法だってさ。精霊にもまた呪法がかけられているらしいが」

 メルヴィン王に報告してから、家に戻ってみんなと相談する時間を作った。方針としては呪法の解除ということでメルヴィン王とは意見の一致を見た。
 問題解決後にジルボルト侯爵やエルマー達の協力も見込めるわけで……ヴェルドガルとしても益のある話だ。和室で座卓を囲みながら分かったことを話して聞かせる。

「そういった呪法の類は……術者を押さえられれば問題ないとは思うわ。好きな時にどこからでもということは、術者側の意志で発動する術式だもの。そう言った方法は契約魔法には組み込めないでしょう?」

 ローズマリーが言う。そうだな。確かに。
 術者を押さえるというのは……ジルボルト侯爵やそれに連なる者には取れない策だな。
 表向き、ジルボルト侯爵と全く繋がりがない状態の俺達だから、人質を取られていることやその真偽を無視して術者である魔女を叩き潰すという強硬手段が取れるわけだ。
 魔女の無力化となると、命を奪うか或いは魔法を封印するかの違いはあるだろうが。まずは初手で問答無用で意識を刈り取るのが良いだろう。

「けれど、そのためには魔女本人の所在を掴まなければいけませんね」

 グレイスが言う。

「うん。そのあたりの問題を解決できればその手で行けるだろうけれど……」

 そういう状況をこちらから望んで作り出すというのはやや難しい、か?
 王太子側も魔女の存在を表沙汰にはできないだろうし。人質の問題さえ解決してしまえば、そこに穴はある。

「盗賊ギルドの協力は、必要?」

 シーラが尋ねてくる。
 ああ。盗賊ギルドには相手の話から似顔絵を描けるなんて技能の持ち主がいるんだっけ?

「そうだな……。魔女の人相はこっちも分かっておいたほうが良い。それは頼めるかな?」
「任せて」

 エルマー達には後でその人物に相手の容貌の話をしてもらうとして……。それはそれとして、他の手立ても考えておくべきだ。
 マルレーンが真剣な面持ちで、自分の胸に手を重ねる。
 うん。マルレーンが言いたいことは分かる。

「祝福で、呪法をかけられた者を護る手は?」

 クラウディアに視線を向けると、彼女は頷く。

「それも可能だわ。呪法をかけられた本人か、術者が近くにいれば……呪力そのものを弾いたり抑え込むことができる。その場合、祝福が切れないようにする必要があるけれど……」

 相手の呪法の術式、その種類まで特定する必要は全くないわけだ。
 術式を発動させる命令権を握っているのは魔女なのだから、発信元か発信される命令そのものを阻害さえしてしまえば良い、となるわけである。

「侯爵家の2人に関しては、こちらに呼び寄せるよう働きかけることはできるのではありませんか?」

 アシュレイが言う。舞踏会だ何だと理由をつけて、侯爵のほうから連れ出してもらうように仕向ければいいわけだな。向こうも見識を深めるためであるとか友好を謳ってこちらに来る以上は、招待を受けたら乗らざるを得ないだろうし。

「それは可能だと思う。となると……一番の問題は精霊かな?」
「火山を治めるほどの精霊なら、所在も由来も分かっている。召喚魔法で呼び出すこともできると思うわ。但し、タームウィルズ内部では結界に閉ざされている。この場合、外壁の外で儀式をする必要があるかしらね」
「……精霊と召喚魔法ね。これはアウリアさんにも協力してもらう必要があるかな」
「私も手伝う!」

 セラフィナが拳を握って座卓の上で立ち上がる。頷くと向こうも頷き返してきた。火山の主の現状に思うところがあるのかも知れない。精霊に呼びかけるにあたっては彼女も力になってくれるだろう。

 祝福も必要となる。となればペネロープとも話を通し、侯爵家の面々と火山の精霊の、両方をカバーする方向で動く必要がある。
 ともあれ、こちらから出て行って仕掛けなくても良いという点はメリットだ。向こうが察知した時には人質の解放と、魔女の人相書きの準備が終わっているというのが理想である。
 人質は保護。魔女が呪法の対策が済んだことに気付いた時にはジルボルト侯爵領で指名手配完了させてしまおうというわけだ。

 ジルボルト侯爵がやってくるのは魔光水脈の扉が解放されるより、少し前の時期になる。ということはつまり、両方に対する備えをこのまま並行して行えるということだ。
 精霊を呼び出し、留めておける儀式場を作る。巫女達が滞在する場所。巫女の身辺を守る兵士、騎士達の詰め所も必要か。

 多少忙しくはなるだろうが、ジルボルト侯爵がやってくるまでの負担は実際にはそれほどでもない。それより、やって来てからの段取りを綿密にするべきだな。
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