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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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202 騎士人形

「……暑い」

 パイルバンカーで排出される熱風のせいもあるが……今日は結構日差しが強いな。朝方はまだ涼しかったのだが、日が高くなってくると気温が上がって来ているのがはっきりと体感できた。
 ラヴィーネなどは暑いのが苦手だからか、日陰の涼しいところで寝そべってのんびりとしている。ラヴィーネの身体に寄りかかるようにセラフィナも涼を取っていたりして、休憩組は中々まったりしている感じだ。熱中症になられては困るから、かき氷や炭酸飲料など、水分を摂りながらまったり訓練を進めて欲しいところである。

 さて。春も終わり、季節はもう夏と言っていいだろう。
 そんな日差しの中で俺が何をしているかと言えば、火魔法を利用した武器を開発しているわけだ。俺も日陰で涼みたいところだが、物が物だけにある程度開けた場所で実験しないといけない。というわけで風魔法と水魔法で周囲の温度を下げながら実験継続である。

「行け」

 工房の中庭に鎮座する四角い石の塊。そこに俺からの命令を受けた土ゴーレムが突貫する。
 その腕には無骨な手甲――。踏み込みながらボディーブローを放つようにクローを打ち込む。タイミングを合わせて俺の手の中でマジックサークルが光を放つと、爆風と共に杭が射出された。
 その一発で――石の塊に握りこぶし程の穴を穿ち、更に衝撃で全体に亀裂を走らせていた。まあ……威力はまずまず。問題は他のところにある。

「今度はどうだい?」

 アルフレッドが尋ねてくる。ゴーレムの手足を一通り確認してから、答えた。

「大丈夫みたいだ。調整も上手く行ってる」
「いやあ、後ろに爆風を出して反動を相殺か。面白いなぁ」

 アルフレッドが感心したような声を漏らす。所謂無反動砲の原理である。そのせいでパイルバンカーを撃つ際の見た目が、かなり派手なことになってしまった。後、熱気のせいで結構暑い。
 だがまあ、破壊力は見た目相応なので、敵対する者に恐怖を与えることができて一石二鳥だろう。

 ……いや。ここまで来るのはなかなか大変だったのだ。最初に実験した時は、射出の衝撃と反動で撃ち込んだゴーレムの腕がもげたり罅が入ったりしていた。
 反動を軽減するために手甲の形を整えたり、術式を工夫して爆風の広がり方を調整したりと……細々とした調整と修正を重ねた結果として、こうして土ゴーレムでも問題なく扱えるようになったというわけである。
 人形に装備させる実物は素材の強度が上がるので更に威力が上げられるはずだ。

 後は――射出時のバックファイアに仲間を巻き込まないようにしないといけない。
 今のところ、背面にシールドを展開するなどして爆風を上方へ逸らしたりといったことを考えているが、それも決定というわけではない。
 いずれにしても、パイルバンカー本体に関しては一先ずこれで完成ということにしておこう。

「というわけで、この形で完成。後は人形の腕に合わせていく感じかな」
「分かった。ビオラに渡してこよう」
「ああ。俺も行くよ。術式を紙に書かなきゃならないし」

 パイルバンカーを持って工房の中へ移動する。

「そういえば、鎧の調整は上手くいってる?」

 人形のミスリル装甲――鎧にも強度を上げるための術式を刻んだりしているが、巨人の魔石との出力との兼ね合いでバランスを取ったりと、調整が多いようなのだ。

「そうだね。巨人の魔石が中々凄くてさ。最初に考えていたよりかなり強化できたんじゃないかな。後はどこに重きを置くかだけど……まあ、程良い感じになったんじゃないかと僕は思うよ」

 どこに重きを置くか。要するにバランス調整である。
 強度を上げ過ぎても今度は魔力の消耗が激しくなってしまうわけだ。
 多少息切れしやすくなっても防御を厚くするのか、それとも強度を落として長くスタミナを残せるようにするのか。そのへんの配分調整が必要だったのである。
 アルフレッドの口振りからすると現在はバランス型といったところだろう。実際に運用してみないと最適解は見えてこないから、それで正解だと思う。

「ああ、丁度良いところに」

 工房の一室にはローズマリーとビオラ。それから横たえられた人形の姿があった。こちらの姿を認めると、ローズマリーは笑みを浮かべてそんなことを言った。

「丁度良いって何が?」

 尋ねると、ローズマリーは人形の胸部に触れながら答える。

「今から動かすのよ。楽しみだわ」

 ……ほほう。それなら、外で訓練しているみんなも呼んでこないとな。



 人形は――全身鎧を纏った騎士と言った風情だ。
 魔法人形は見た目も重要になるそうで。前衛の役割を求めるならば、前衛らしくしないといけないそうだ。
 身長が2メートル程あるというのも相まって、横たわっている今の状態でもかなりの威圧感を放っている。

 パイルバンカーの威力を求めるならばもっと大型化しても良かったが、迷宮に潜ることや家にも置いておくことを考えると、このぐらいが限度だろう。
 それに、この状態なら巨漢の騎士でギリギリ通用する。そこに人間に不可能な動きを混ぜることで、虚を突くことが可能になるわけだ。

「起きなさい」

 皆が固唾を飲んで見守る中、ローズマリーが指先にマジックサークルを展開させた。そのまま、騎士人形の胸の部分に触れる。そこから波紋が広がるように、魔力の輝きが人形の全身に波及していく。

 最初はぎこちなく。立ち上がってからは滑らかに。騎士人形は恭しくローズマリーに跪いてみせた。

「良いようね」

 満足げにローズマリーが頷き、羽扇で口元を隠して笑う。何と言うか、元々王女であったこともあって、騎士を従えさせるのが様になっているな。
 しかし、前衛ね。これがグレイスやデュラハンと並んで敵列に突っ込んだりするわけか。……想像すると相当なものだな。

「……ああ、思いついた」
「何かしら?」
「いや。折角騎士風なんだし、マントで爆風対策をすればいいんだって思ってさ。アルケニーの糸でマントを編んで、水魔法でエンチャントして熱を奪うようにしてやれば良い」
「それって、そのまま炎熱城砦対策になりそうね」
「それも期待出来るかな。こっちもパイルバンカーが形になったから、この形で大きさを合わせてやって欲しいんだけど」
「分かりました」

 持ってきた実験用のパイルバンカーを机の上に置くと、ビオラが頷く。

「パイルバンカーの見た目はこれで良いのかな? 一応、人形側に合わせたつもりではあるんだけど、調整の兼ね合いもあったから、細部が少し変わっている」

 具体的には、後方に爆風を逃す部分の形状とか。

「わたくしはいいと思うわ」

 パイルバンカーと人形を交互に見比べてから、ローズマリーは頷く。

「じゃあ……大体これで決まりかな」
「名前はどうなさいますか? 何時までも人形と言うのも……」

 と、グレイスが首を傾げる。その言葉にローズマリーを見やると、何やら微妙な表情を浮かべた。

「こういう名前を考えるの、苦手なのよね。お願いできないかしら」

 そんなふうに振られてしまった。えーっと。どうしたものか。

「……んー。イグニスって言うのはどうかな」

 少し考えてから、答える。確か、炎を意味する言葉だったはずだ。

「決まりだわ。今日からお前の名はイグニスよ」

 ローズマリーは人形の装甲をノックするように軽く叩く。言われた人形は腰に手を当てて一礼してみせた。

「一段落ついたところで……1つお願いしたいことがあるのだけれど」

 振り返り、ローズマリーが言う。

「何かな?」
「ガートナー伯爵に謝罪をしたいのよ。わたくしの企てで、随分と迷惑をかけてしまったから」

 ……あー。父さんにか。それは多分、出来れば直接会ってという形のほうが望ましいんだろうな。通信機で済ませるような内容でもないし。
 しかし、ガートナー伯爵領か。俺はあまり進んで行きたい場所ではないが……母さんの家の周りなら……まあ、いいか。

「そうだなぁ。最近人形の開発で忙しかったし、みんなで出かけるのもいいかも知れないな。リンドブルムも喜ぶと思うし」

 最近暑いし、避暑がてらにということで。森に湖があるから、そのへんでのんびりするのも悪くはないだろう。
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