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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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18 後始末と買物

「そう言えば、連中が持っていた黒い転界石って、結局何だったんです?」
「それはまだ調査中です。ですが後は私達の方で処理しますので。その……大変だったでしょう?」

 ヘザーは少し申し訳なさそうな様子で言った。

「まあ……面倒ではありましたけどね」

 ヘザーが大変だったと言っているのは恐らく心理的な意味でだろう。

「そういうわけで例の石の事は、余りご他言無きようお願いします。フォレストバードさん達には伝わっているんですか?」

 ヘザーは少々小声で耳打ちするように言ってきた。
 あー。……散歩だとか案内だとか言っていたけど、実はこっちの口止めが本命の用事だったりするんだろうか?
 今の口振りだと、ギルドはあの黒転界石について既に何かしらの情報を掴んでいるのかも知れない。例えば黒い転界石について、その性能やら出所を追いかけていくと連中の背後に繋がっていくだとか。
 黒い石の性能や性質上の問題か、それとも連中の背後か。その辺りの事で口止めをして回る必要が出てきたと判断したわけだ。

 ……後は自分達で処理する、か。
 仲間がまだいるとしたら、これ以上巻き込まれただけの被害者には関わらせないというのは……まあ妥当な判断だろう。
 犯罪者の討伐は迷宮に潜るのとかなり意味合いが変わってくるから、それでヘザーも俺達に同情的なわけだし。関わるとまた「大変」だから後は自分達が、という言葉になるのだろうし。

「……彼らは何も知らないと思いますが。僕達もロゼッタさんに聞いて知ったわけですし」
「解りました。ロゼッタさんの所へはこれから行きますが……まあ、彼女もあなた達が当事者だから話をしたわけでしょうし、無闇に喧伝して回る事も無いでしょう」

 やっぱり口止めか。まあ、ロゼッタが言うには内容次第で教えてくれるかもという話だったしな。

 黒転界石は……多分魔法による赤転界石の加工品だろう。赤転界石を加工する事で、使い勝手の向上や性能の変化が起きるのはBFOでも確認されている。黒の性能はどうかと言えば……消去法で予想が付く部類ではある。

 石碑から転界石で帰還するにしろ、赤転界石で迷宮から逃げ出すにしろ……送られる場所は迷宮入口の石碑になる。
 例えば黒転界石が通常は固定されているはずの「人間の転送先」を変更する事が出来るなら。
 誘拐、監禁、人身売買と言った犯罪行為だって可能になるだろうと思うのだ。手持ちの有り金などを狙って俺達に目を付けたとするよりは納得が行く話ではある。
 ……まあこれは推論というより、BFOプレイヤー間で欲しい欲しいと言われてた代物ではあるからの発想なんだけど。
 そんなアイテムがゲーム中に無かった理由は単純だ。プレイヤー間での拉致が可能なアイテムなんて解禁されるはずがないからである。

 魔法にしてもそうだ。カースのような、後々まで他人の行動を縛る類の物はBFOプレイヤーが覚える事が出来なかった系統の魔法である。魔法審問の為に使うリードマインドも同じ理由から習得不可能だった。
 相手の思考、感情や嘘を読む魔法などは、プレイヤー同士で使ったらトラブルになるのが目に見えているからだ。脳波を読み取っているVRMMOなら読心魔法も可能なのだろうけれど、だからこそ倫理的に再現するわけにはいかないし。
 当然、プレイヤーの転送先を自由に設定出来る転界石も、ゲーム中には出せないだろう。

「もう一度確認しますが、そちらにお任せしていいんですね?」
「そうですね。スネークバイトが捕まった事で、同様の手口は暫く無い、と見ていますので」

 ……まあ、そうだろうけれどな。俺とグレイスは予定通りに買物に行くと言う事で良いだろう。
 買物と言っても、護身具に杖……家具と、どれも優先順位が高いし。治安に不安がありそうなら、尚更揃えておかなければならない。



「いらっしゃい」

 店内に入ると得体の知れない刺激臭が鼻を突いた。
 ……臭いの元は店の奥だろう。流石に店内は整頓されていて薬瓶などが綺麗に陳列されているが、カウンターの奥から見える隣の部屋は、中央に大鍋が陣取り机の上には雑然と実験器具やら紙束が散乱しているという状態である。
 冒険者ギルドからの情報によれば、北区に腕の良い錬金術師が店を構えていると言う事で、まず真っ先にその店へ向かった。最初に買うべきはグレイスの護身具だからだ。

「こちら、錬金術師のベアトリスさんのお店でしょうか?」
「ええ。そうよぉ。ベアトリスは私」

 黒紫色の髪と瞳を持つ、気怠げな様子の店主がそこにいた。
 カウンターに頬杖を突いて、羽ペンを指の間で弄んでいる。一応美人と言って良い容姿なのかも知れないが……覇気みたいなものが全く感じられない。大丈夫なのかこれは。

「何の御用かしら……?」

 と欠伸を一つ。ここで間違ってないよな?
 一応疑ってはみるもののさりとて他に当てがあるわけでもなし。

「ええと。こちら冒険者ギルドからの紹介状になります。錬金術で護身用として使える魔法生物を作って欲しいのですが」

 ……というのが、俺が錬金術に求めていた物だ。 
 ベアトリスは紹介状を受け取りながら尋ねてくる。

「魔法生物と言っても、色々あるけれど?」
影水銀(メルクリウス)です」
「……案外大仕事になりそうねぇ。ちなみにご予算は?」
「1500キリグぐらいを見てますがどうでしょうか?」
「良いわ」

 ベアトリスは目を細めて、笑みを見せた。相場通りではあるが。さて。

「テオドール様……そこまでしていただかなくても……」

 ……と、グレイスが言ってくるのは予想済みである。ちゃんと理由があれば彼女も納得してくれるだろう。

「高い性能のを作っておけば迷宮探索でも無駄にならないだろ?」
「……なるほど」

 影水銀。普段は擬態で小動物の姿を取らせたり、名前の如く影の中に潜ませたりさせられるが……実態は硬質化可能な不定形の魔法生物だ。要するに、人工スライムである。

「でも、高い性能になるかは保障しかねるわよ……? 影水銀は生まれながらに優秀な使い魔だけど、使い魔であるだけに、その能力って主の能力を超えるものにはならないものねぇ」
「承知の上です」

 だから影水銀を選んだとも言える。
 魔法生物の値段としては影水銀は比較的安価ではあるのだが……それはその性能が、触媒として使う血液の質に大きく依存するからだ。1500キリグで破格の性能を叩きだす事もあるし、逆にあまり役に立たない事もある。

 だが、今回は俺とグレイスの血液を提供する予定なので。自惚れでなく、性能が劣ったものになるとは思えない。
 値段と性能を鑑みて、最も高い費用対効果を期待できると思ったからこその選択だ。

 後は――魔力を供給してやるだけで維持出来るから、餌代などが特に掛からないというのが良い。普段使いするにも目立たないから威圧感が無いとか……理由は色々だ。



 完成まで3日。前金で750キリグ。完成したら引き渡して貰って残り全額を支払う。
 と言う事で二人して、影水銀の触媒となる血液を提供し、ベアトリスの店を後にした。
 次に買うべきは家具だろうか? 杖は浅い階層の内はどうにでもなるし、潜っている内に入手も期待できるが、家具は迷宮では手に入らない。まず必要な物を買い揃えてから杖の予算を組むべきだ。

 そんなわけで二人で色々相談しながらの買物となった。

「天蓋付きの寝台って柄じゃないんだけど」
「主寝室にはそれぐらいの風格の物が必要かと思いますが……」
「うーん」

「鏡台はちゃんとしたのが良いよね?」
「別に私は手鏡でも」
「衣装用のチェストも妥協してたし……こっちはそこそこのを買おう」

「この長椅子、中々座り心地が良いです」
「ほんとだ。これが良いかな。食堂に置くテーブルは?」
「あれなどはどうでしょう?」

 ――と言った具合に、北区にある家具屋の中を、ああでもないこうでもないと話し合いながら選んで回る。
 買った物は後で届けてくれるらしい。運ぶ手間が無いというのは素晴らしいな。



 最後に残った問題は――やはり杖だった。
 北区の店では満足の行く掘り出し物が見つからなかった。もっと良い素材があれば性能の良い杖を作れると店主は言っていたが。
 迷宮で探すか、他の地区も探して回るか。どうしたものか。

 杖が無くて何が問題かと言えば……杖術が使えない事もそうだが、上級魔法を循環状態から撃つと、反動でダメージを食らうのだ。あまり実験したくはないし、ちょっと勘弁して欲しい所ではある。
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