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188 巫女頭と女神

「なるほど……。回転のかけ方が肝なのか」


 タルコットは俺の撞いた手玉の動きに、眉根を寄せながら呟く。なかなか良い観察眼だ。


「今のは少し上のあたりを撞いていたよね。ああやって上手く動かして、次打つ時に有利になる場所を取ったり、弾いた後の動きを調整していくわけか」

「端に当たった時、弾いた強さで跳ね返る角度が変わってきますな」

「これは奥が深い……」


 アルフレッドとタルコットにチェスター、それにミリアムの4名は、真剣な表情でビリヤード談義をしている。

 俺の腕前を見たいということなのでビリヤードに参加しているが、なかなかいい刺激になっているようだ。技に挑戦して逆転したり墓穴を掘ったりというのもゲームに深みを与えるし。

 とりあえず、予想してはいたが、チェスターは元々槍が得意というのもあって、キューの切れもなかなかのものである。


 続いて、俺は手玉にバックスピンをかけて8、9と弾いてポケットに落とす。と、歓声と拍手が起こった。


「球を跳ねさせたり曲げたりなんて方法もあるけど……慣れないとラシャを破るからしばらくは普通に遊んでくれると助かる」

「うん。それじゃ、さっきの撞き方を参考にやってみようか」

 

 ビリヤードに限らず盛り上がっているようで何よりだ。他はどうなっているだろうか。

 セラフィナは専用のダーツが気に入ったらしい。アシュレイと一緒にダーツで遊んで盛り上がっているようである。

 フォレストバードとオズワルド、アウリアはカードをやっているようだ。


「ほれほれ。オズワルド。カードをよこさんか」

「おのれ……」


 現在アウリアが優勢らしい。オズワルドが強カードをアウリアに献上しているという場面であった。


「……ええと。申し訳ありません。この前劇場でお会いした時からずっと気になっていたのですが……どこかでお会いしたことがありませんか? もっと昔から知っていたような気がすると申しましょうか。どこか、不思議な気持ちがするのです」


 娯楽室全体に視線を巡らしていると、ペネロープがやや不思議そうな表情でクラウディアに話しかけているのが見えた。その近くではマルレーンが嬉しそうににこにこと笑っている。

 巫女頭であるペネロープである。クラウディアの印象に何か思うところがあるのかも知れない。


「ある――かも知れないわね」


 クラウディアは俺のほうに視線を向けてくる。それは彼女に明かすべきかどうかというところか。

 頷いて、彼女達のところへ向かう。ペネロープはマルレーンのこともあって信用が置けるしな。特別な目で見られるのをクラウディアはあまり好いてはいないようだが……そのあたりの事情も含めて説明すれば、ペネロープは分かってくれるだろう。


 クラウディアもペネロープの人となりをある程度分かっていて、彼女には明かしたいと思っているからこそ俺に尋ねてきたのだろう。ならば、クラウディアの思う通りにしてやりたいと思う。


「こちらへ来ていただけますか?」


 3人と共に中庭へ出て、少々離れたところにあるベンチへと移動する。


「驚かせてしまうとは思いますが――」


 そう前置きして、クラウディアがシュアスであることを明かす。


「それは……そ、そうですね。驚きました……」


 ペネロープは呆気にとられていたようだが、やがて真剣な表情で頷くと、神々しいものでも見るように目を細める。


「ですが確かに……言われれば納得できる気がします。クラウディア様からは、神託の時と同じものを感じるのです」


 マルレーンがこくこくと頷き、微笑んだペネロープに頭を撫でられている。


「神殿で語られている姿とは違って、ごめんなさいね。証明が必要だというのなら、ペネロープに啓示を送るわ」


 ああ。クラウディアは自分の姿が子供だからと、少し気にしているんだっけ。


「それには及びません。伝承では御遣いは見目麗しい少女の姿をしていると聞かされたこともありますから。思えば、それこそがクラウディア様だったのですね」

「迷宮での話なら……そうかも知れないわね」


 クラウディアは苦笑する。


「クラウディア様がお望みならば、今のお話は私の胸の内だけに。私達をずっと見守り、お導きくださったクラウディア様にお仕えできることを誇りに思います」


 ペネロープは胸に手を当て、目を閉じて頭を下げる。あまり女神扱いしないでほしいとクラウディアが言っていたこともあって、仰々しくならないようにしながらも最大限の敬意を示しているようではあった。


「私も、神殿の子達には感謝しているの。あなた達がいなければ、ここの子達もここまで簡単には、受け入れられていないでしょうから」


 クラウディアは小首を傾げて穏やかに目を細める。迷宮村の住人達が受け入れられる下地については、確かにそうだろうな。


「……そういえば。クラウディア以外の神様ってどうなってるんだろう?」


 ふと、気になって尋ねる。

 神とされて祀られているのはシュアス……クラウディアだけでない。各宗派で巫女達の祈りに応えたりと、祝福として力を供給している者が存在するのは間違いないようなのだ。

 だから――もしかすると他の神とされるものは月の王族だったりしないのだろうか?


「あれらは長い年月を経た精霊王達のはずだわ」

「精霊王……そうか。精霊なら人の思念に左右されるから……」


 セラフィナが幽霊騒動で妙な特性を得てしまったのと同じだな。 


「そうね。大きな力を持つ精霊が崇められることで、やがて方向性が固定されて神格を得たというところよ。私も似たところはあるけれど、精霊達のように本質までは左右されないわ」


 だから月女神の戒律は他所に比べて特別緩くできたりするわけだ。方向性が固定された精霊となると、クラウディアに比べて融通が利かなくなる部分も多いだろうし。

 それでも元が精霊だけに自然崇拝的な神が多いからか、他の神と対立するより相互に関係しあっていたりと、あまり宗教関係の対立が起きないところはある。


 まあ、魔力嵐に魔物だ魔人だと色々脅威も多ければ、人間同士の結束が進みもするか。




「いや、良いお湯でした」

「それは何よりです」


 宴会も終わって、大浴場から戻ってきたミリアムは上機嫌である。


「こちらがお部屋でございます」

「おお……。これは面白い作りですね」


 セシリアの案内で客室に通されたミリアムが感嘆の声を漏らす。やっぱりロフトに興味が行くらしい。

 ロフトは、上にあるので夏場は熱が篭りやすいという欠点があるのだが、魔石に簡易の風魔法、水魔法を刻んで、空気を冷やして循環させることができたりと、空調にも多少の気を遣っていたりする。


「もし部屋が暑かったら、ここの窪みに魔石を嵌めて調整してください」

「至れり尽くせりですね……」


 少し大がかりな魔道具が必要になるから今回は省略したが――冬場までには魔法建築で手を加え、各部屋に温水管を通してセントラルヒーティング完備といきたいところだ。


 部屋にノックの音が響く。


「はい」


 ミリアムが答えると扉が開き、グレイスが一礼して姿を見せる。


「どうかした?」

「オフィーリア様と、タルコット様、シンディー様も宿泊を希望なさっています」

「ん。部屋に余裕はあるし、いいんじゃないかな?」

「お風呂から上がったら、アルフレッド様の部屋に集まってカード大会をしたいと仰っていましたが……どうなさいますか?」

「参加する。ミリアムさんはどうなさいますか?」

「私で良ければ、是非」


 ミリアムは笑みを浮かべる。


「セシリアも一緒にどう? 夜間だから、仕事も減るだろうし」

「いいのですか?」

「宴会の間も頑張ってたし。ミハエラさんも誘ってみてほしい。使用人のみんなも、交代で休憩を取ってるんだろうし」

「ありがとうございます。ミハエラ様も喜ぶと思います」


 セシリアは、嬉しそうに頷く。


「では――残った仕事を片付けて、早めにそちらへお伺いできるようにします」


 そう言って頭を下げると、部屋を出ていった。

 セシリアの様子をグレイスは、笑みを浮かべて見送る。


「それでは、私はお茶の準備をしておきます」


 そうだな。今夜はかなり夜更かしをすることになりそうだし。みんなでゆっくりとカードを楽しもう。

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