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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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179 盗賊ギルドの内情

「……駄目だった」

 情報を集めるという話になって、すぐに信用している情報屋に会ってくると出て行くあたり、フットワークの軽いシーラではあったが……夜半に戻ってきた時にはやや申し訳なさそうな様子であった。耳が垂れている。

「駄目って言うと?」
「情報屋は、それはできないから察しろとしか」
「察しろ、ね……。デクスターは、そういうことか」

 盗賊ギルドの掟の1つは構成員の情報を漏らさないことだ。情報屋が情報を渡せないとするのなら……そこから考えられる結論としてはデクスターが構成員だからということになる。

 ……いや、互いの氏素性が完全に不明なら構成員同士の接触もままならないか。
 となると、デクスターが盗賊ギルドでもそれなりの……例えばシーラより上の立場にいるのだとするのなら、シーラに対して情報を与えなかった理由については納得が行く。

 シーラの立場や安全を守るためか、それとも幹部だからかで意味合いは異なってくるが、情報屋とはある程度交流があるようだし、シーラの身を案じたところはあるだろう。
 さて。そうなるとデクスターは、シーフと商人の二足の草鞋を履いているということになる。その上で貿易商という言葉の意味を考えると――。

「……奴隷商をやってる奴が盗賊ギルドにいるんだっけ?」
「いる。幹部級らしいけれど、末端には情報が出てこない」

 俺の言いたいことはシーラも分かるらしい。
 イルムヒルトがカーディフや魔人リネットに捕まっていた際、シーラが盗賊ギルドに頼らず動いていた理由がそれだ。シーラはその幹部に対して、かなり警戒をしていた。
 つまり盗賊ギルドも一枚岩じゃないということなんだろう。

 俺としては……デクスターがその奴隷商なのではないかと疑っているわけである。いや、あんなのが幹部というのはやや安っぽいか。幹部の使い走りぐらいが精々だな。

 ただ……奴隷商であるからと、それが即ち違法であるとはならない。
 奴隷の扱いは各国でまちまちだ。ヴェルドガルの場合、労役を課されるのは犯罪奴隷だけである。
 借金のかたに奴隷の身分となった借金奴隷の場合は、雇用者は奴隷に賃金を支払わなければならない。当然、金を貯めて自分の身分を買い戻すこともできるし、ヴェルドガル出身の借金奴隷を国外に売り払うのもご法度となっている。

 借金奴隷は所謂丁稚奉公と同じなので、不当に傷付けたりすれば当然主人も罰を受ける。
 ヴェルドガルにおける奴隷商の役割は……まあ、人材の斡旋というのが一番近い。あくまで、真っ当な商売をしているなら、だ。

 魔物に関して言うなら、ヴェルドガル国内では友好種の魔物を奴隷目的として捕獲することは禁じられている。友好種は魔物として強力な種族も多く、敵に回してもメリットがあまりないし、何より冒険者達も敬遠するのだ。

 クラウディアが長年、巫女達への神託という形でメッセージを発信し続け、魔物との友好の方針に誘導していた部分も大きい。そんな背景もあってヴェルドガルは元々魔物達に寛容な国ではあったが、メルヴィン王は明確に保護の姿勢を打ち出しているのでそこから更に一歩踏み出しているというのが現状である。

「盗賊ギルドの内情は、あまりシーラからは出せない?」
「……テオドールになら、ある程度のことは」

 シーラとしてもリスクを負う話ではあるな。内々の話として、ここで得た情報を元にメルヴィン王と対応策を練るとか、そういう風に話を持っていくのはシーラの立場を考えると止めておいたほうが良さそうだ。

「元々、盗賊ギルドは技術を教え合う互助組織。だけれど、そういった日陰にいる人間達のまとめ役も担ってる」

 盗賊ギルドはまあ、言い換えれば侠客みたいなものだ。
 前世の最期から俺は盗賊だとか窃盗、強盗といった連中にそれなりの拒否反応があるが、盗賊ギルドに関して言うなら字面ほど悪党というわけでもなく、技術のない者に技術を与えて掟を作り、裏社会の秩序や均衡をある程度保っているところがある。

 技術のない若者や行くあてのない孤児に技術を与え――そこから冒険者として活躍する者もいるのだ。訓練や経験を積んだスカウトやシーフの有無はパーティーの生存率に直結してくる。単純に排除すればいいというものでもない。

「けれど、先代ギルド長が亡くなってから、ギルド内部が少しごたついている。旧来通りのやり方をしようとする派閥と、掟を絶対視せずにもっと色々な方面に手を広げていくべきだとする派閥。今のところ、優勢なのは後者。その奴隷商の幹部も、多分そっち」
「なるほどね」

 ルール無用で金稼ぎをするのだから、儲けを出しやすくもなるだろうさ。資金の潤沢なほうが発言力を付けるというのはよくある話だ。
 俺の見立てでは……デクスターも後者側だろうな。仮に奴隷商だったとしても、どれほどルールに則っているやら。
 デクスターの家を見つけてカドケウスを張り付け、情報を集めればお終い、とはいかなくなりそうだ。

「その絡みで抗争もあったらしいけど、その頃はまだ小さかったし……その、孤児院に預けられたり、ごたついていた時期だから良く知らない」

 ……だろうな。俺も似たようなものだったし。

「シーラ……」
「ん。平気」

 イルムヒルトが声をかけるが、シーラは小さく笑みを返した。

 さて……。盗賊ギルドだからと潰せば済むような話ではない。だとしても、デクスターの所属する派閥は不要だ。
 掟の中に盗む際に殺すことを禁じる、貧者から盗むのを禁じるというものがあったはずだ。俺としても真っ当な掟だと思う。これを軽視している派閥が力を付けるのはろくな結果を生まないだろう。

 BFOの、タームウィルズの盗賊ギルド絡みのクエストではどうだったか。
 確か――盗賊ギルドで大規模な抗争が起こって多数の死傷者が出た後で掟の徹底が叫ばれるようになったとか。
 それが何時の時期かは知らないが、シーラの今の話にあった抗争とはまた別のものだろう。今から動けば……もう少し軟着陸させられる気がする。

 なので軽視派の派閥に関しては情報を集めて叩き潰し、元々の盗賊ギルドの形に軌道修正させてやるのが良さそうだ。
 その過程でついでにデクスターの情報も得て、想像通りのやり口をしている輩なら叩き潰すということになるか。

「ともかく、あまり力になれなくてごめん、テオドール」

 シーラは俺に向き直ると言う。

「いや、構わない。抗争の話を聞けそうな相手に、心当たりはないかな?」
「……1人いる。もしかすると盗賊ギルドにも所属しているかも知れないけど、確認したわけではないから……。こっちが推測で動いているなら、掟に反することにはならない」
「良いね」

 にやりと笑うシーラに、俺も笑みを返す。まあ、シーラは俺に盗賊ギルド構成員であることを明かしてしまっているが、冒険者と盗賊ギルドの関係性から薄々勘付いていたが、聞いてはいないということにしておこう。言わぬが花という奴だ。

「素性は?」
「えっと……娼館の女主人。母の友人だそうだけど、私をそういう界隈には近付けずに、孤児院に預けてくれた」

 ……聞く限りではかなりまともそうな人物だ。
 確かに盗賊ギルド構成員である可能性は高い。とは言えシーラの味方であるのは間違いなさそうだし、事情に詳しいというのはあるだろう。掟を遵守する側なら、味方になり得るという前提で行動する。

 娼館とは言え……別に利用しに行くわけでも無し。会いに行くか。そして、ここに至ってはミリアムにも話を通して、デクスターの情報を集めておくべきだ。
 奴隷商人の法の遵守というのは、多分今後異界大使としての仕事にも関わってくることだろうしな。
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