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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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176 新たな生活を

 朝日の差し込む中庭の一角で仲間達と訓練を行う。
 中庭がかなり広くなったので、リンドブルムも気軽に呼べるようになった。
 普段から訓練風景を見ておいてもらうことで、リンドブルムとの連携の精度を高めることができないかななどと思っている。

 カーバンクル達を鼻先や尻尾に乗せて、滑らせたりして遊ばせているリンドブルムである。暢気に日向ぼっこをしているようにも見えるが……その実こちらの訓練を興味深そうに注視している。問題はあるまい。
 ちなみにカーバンクル達が背中を避けているのは、リンドブルムが俺以外を背中に乗せるのは嫌がるからだとフォルトックが教えてくれた。律儀なことだ。

「膨れてる。危険」

 シーラが短く警戒の言葉を発した。その言葉に合わせるように、アクアゴーレムが内側から膨張するような姿を見せたかと思うと、弾けて周囲に水滴が飛び散る。
 それらを仲間達は左手に装着したシールドの魔道具で受けた。実戦で誰かの警告が間に合うとは限らない。考えるよりも早く。瞬間的に展開できるように。
 何をしているかと言えば、炎熱城砦に行った際の対策だ。朝行う訓練の内容にも炎熱城砦で戦闘になることを想定した内容を組み込んでいる。

「今のは少し危なかったですね」
「私とラヴィーネは、遮蔽物をもっと作っておくのが良いのかも知れません」

 グレイスとアシュレイが話し合っている。マルレーンもソーサーの動きに反省点があるのか、頷きながらソーサーを動かすイメージトレーニングをしているのか、細剣を指揮棒のように小さく動かしていた。まあ、今のはそれぞれが防いだので被害はないのだが。

「えっと。私とシーラが一緒に行動して、シーラの声を警戒するための方向から聞こえるようにするのが良いのかな?」
「次はそれで行ってみる?」
「……なるほど。ボムロック対策ね」

 そんな訓練風景を目にしたクラウディアが感心したように頷いた。そう。岩の魔物で、自爆攻撃を行う奴がいるのだ。ファイアーラットの外套で熱ダメージは防げるが、岩の破片には対処しないといけない。

「まあ、予行演習はしっかりしておかないとね」

 仲間達の訓練は訓練として、俺は俺の訓練を並行で行わなければ。
 目を布で覆い、周囲にゴーレム達を配置。自動操縦で、設定したアルゴリズムに従って連携攻撃させる。
 カドケウスとの視界リンクはしない。グレイス達の訓練風景をカドケウスを通して見ることで、自分の訓練と並行してゴーレムの操作と監督をするためだ。
 同時に、俺の方は身体の周囲に巡らせた薄いシールドで攻撃を感知し、皮一枚で回避し続けるという内容である。

 シールドに突っ込んできた攻撃の角度と大きさからゴーレムの態勢を判断。頭部のみを狙ってウロボロスで打ち砕く。後方からゴーレムの攻撃。身体を捻りながら避けて頭部に触れると同時に衝撃打法。

 対するゴーレムは打撃と思わせるためのフェイントの水弾や、間合いの外から手を変形させての水の鞭や破裂による自爆攻撃、身体を重ねての時間差攻撃などを繰り出してくる。
 迎撃や回避を続けながらアクアゴーレムを捌いて捌いて打ち砕く。
 衝撃打法のスムーズな発動、全方位シールドによる視界外の攻撃感知。このへんにある程度納得がいったので、地面に降り立ち目隠しを外す。

「旦那様が噂になっている魔人殺しだと伺ってはおりましたが……納得すればいいのか驚けばいいのか分かりません」

 セシリアが目を丸くしている。彼女と共に仕事の勉強をしている迷宮村の住人達もだ。子供達などは目を輝かせてこちらを見ていた。んー……。やや、気恥ずかしい。

「感服するばかりですね。あなたが学べることは多いはずです。仕事の合間に、しっかりと見ておくのですよ」
「はい、ミハエラ様」

 2人は護身の心得があるというようなことを言っていたか。
 となれば、2人の武器や戦い方なども把握しておいたほうが良いのだろう。まあ、ミハエラは当然として、セシリアも家の中での仕事があるので迷宮に連れていくというわけではないのだが。

「ミハエラさんは細剣を使うんでしたね」
「嗜む程度ですが」

 謙遜しているが、姿勢というか体幹がブレないんだよな、この人。実は相当使うんじゃないかという気もするが。

「となると、セシリアも?」
「いいえ。私は父が使っていた武器を自分でも使えるようになりたくて練習しました」

 ということで、セシリアが自分の使っている武器を持って来て見せてくれた。
 ……もう少し柄が長ければグレイブやバルディッシュと言ったポールウェポンに分類されるのだろう。やや柄が短く、もう少し近距離戦を想定しているように見える。

「これは屋内用ですね。もっと広い場所なら柄を長い物に差し替えて使います。腕力が無くても勢いを付ければ威力が出せますので」
「なるほど」
「体捌きや無手での護身術など、応用の効くものは伝えてあります。使用人としてなら、及第点ではあるかと」

 まあ……そこいらの泥棒に後れを取るようには見えないな。細剣の技術を伝えなかったのは本人の意志を尊重してというところか。

「とは言え、これからの時代は空を飛ぶことを前提にするべきなのかも知れませんね。私はもう歳なので、ああいった戦い方はとてもできそうにありませんが」

 ミハエラが目を閉じて言う。
 ふむ。2人にも空中戦装備は用意しておくべきなのかも知れない。ミハエラが言っているのは飛び回って戦うことなのだが、シールドを足場にして相手に対して高度を合わせられるだけでも違うのだし。

「仕事が手隙な時に、お2人も一緒に訓練しますか?」
「お邪魔ではありませんか?」
「ゴーレムを増やしたら増やしただけ魔法の訓練になるので問題ないですよ」
「つまり……まだ魔法制御に余裕があるということね」

 クラウディアが笑みを浮かべた。



「こんにちはー」
「こんにちはぁ、テオ君」
「いや、すごいお屋敷になったな」

 夕暮れ時になってフォレストバードの護衛を伴ってユスティアとドミニクが遊びに来た。
 遊びに来たというかイルムヒルトと一緒に演奏の練習だ。
 舞台も既に形になっているし、みんなにも演奏を楽しんでもらう傍ら、劇場にも興味を持ってもらうということで、娯楽室で軽い練習をするということになった。
 彼女達が演奏する傍ら、みんなで娯楽室で寛ぐ。場所に合わせてか、イルムヒルト達は軽快で賑やかな音楽を奏でている。

「何だか、色々作ったのね」
「ああ、まあ。折角だし遊んで行ってくれると嬉しい」

 フォレストバードは気の良い連中なので、迷宮村の住人が外の人間に接する機会としては丁度良い相手なのかも知れない。

「ええと? 矢を投げて的に当てて持ち点を減らしていく? 面白そうだ。フィッツ、勝負しようぜ」
「良いぞ。何を賭ける?」
「帰ったら酒の奢り」
「乗った」

 ダーツボードは幾つか作っているので空いているボードで遊べる。早速ダーツに興味を示した2人は、迷宮村の住人達と並んでダーツを楽しんでいるようだ。

「あの子もユスティアさんやドミニクさんと同じで人化の術を使っているんですか?」

 ルシアンが、テーブル席で仲間とカードをして楽しそうに微笑んでいるアルケニーの少女を見ながら言う。人化の術を使えず、魔道具に頼っている魔物の1人で、クレアという名前である。

 額に幾つか黒真珠のような輝きがあるが……あれは別に装飾品というわけではなく、蜘蛛の目であるそうな。サークレットのようにも見えて、別段見た目に威圧感などは感じられない。当人も大人しそうな印象だしな。

「うん。まあ、使用人のほとんど全員がだけど。彼女は魔道具に頼ってる形かな」
「そうだったんですか」

 ルシアンは感心したように声を漏らした。
 ちなみにダーツの勝負にはモニカも参戦し、結局彼女がロビンとフィッツを圧倒した。投擲などの技術は斥候担当であるモニカがフォレストバードで一番のようで。
 奢らされることが決定して肩を落とすロビンやフィッツに、迷宮村の住人が苦笑を向けるなど、中々和やかな光景が展開されていた。

 そんな光景を眺めながらイルムヒルト達の演奏を楽しんでいると、アルフレッドから通信機に連絡が入る。

『伝手を当たってみた。是非テオ君の話を聞きたいそうだ』
『分かった。作った物を幾つか見せてみるって言うことで良いかな?』
『了解。場所はどうしようか?』

 俺が返信を返すとすぐに向こうからも反応があった。アルフレッドもかなり通信機の操作に手馴れてきている感じがあるな。

『工房や俺の家はまだ時期尚早だと思うから、こっちから持ち込むってことで』
『分かった。日程が決まったらまた連絡を入れるよ』

 さて……。そうなるとカード、ビリヤードにダーツボード。これらは当日までにもう一式作っておく必要があるな。
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