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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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152 落成前に

 さてさて。あちこちの細々とした装飾も終わって、かなり見られるようになった。
 舞台回りの設備は今アルフレッドとビオラが劇場内で頑張ってくれているが……あまり無理はしないで欲しい物だ。とりあえず後でポーションの類を差し入れておこう。

 イルムヒルト達の演奏会。これは準備が整い次第、その次の満月の日に行うということで決まった。この日は迷宮に潜る者がいなくなるので、ユスティアとドミニクの仕事もないからだ。
 残る問題は、彼女達の演奏会以外でのこの劇場の使い道だな。俺も彼女達も、他にやる事があるので劇場にかかりきりというわけにもいかない。3人の演奏会に関わる話でなければ人任せにしてしまうつもりでいる。

 という事で……出来上がった劇場の下見を兼ねて、その辺の話を詰める為にメルヴィン王とアウリアが劇場を訪れて来た。

「資材が届いたらとは言っていたが、僅かな時間でまさかこれほどの物が出来るとは……」
「建造の途中から見ておりましたが、凄まじい速さでしたぞ」

 劇場の周囲を見渡してから、エントランスに入ってきたメルヴィン王が感嘆の声を漏らす。アウリアもメルヴィン王の言葉に苦笑いを浮かべた。

「ではこちらへ」

 メルヴィン王を2階のテラス席へと案内する。VIP席になる予定の場所だ。そこから劇場内部を見下ろして――メルヴィン王は目を見開いた。
 舞台上では――アルフレッドとビオラが魔道具を設置して試運転と調整を繰り返したり、イルムヒルト達が楽器の音色と歌声を響かせたりしている。

「……あれは?」

 メルヴィン王はしばらくその歌声に耳を傾けたり、熱心にアルフレッド達の作業風景を眺めていたが、やがて舞台装置について色々と質問をしてきた。

「演出に使えるかなと思いまして。舞台奥の紙は、実際には白い布を使う予定です」

 ホリゾント幕が届くまでの間、代用に大きな白い紙を作って照明を当てたりしているが……代用品としてはあれで十分だろう。泡を飛ばして色とりどりのライトで照らしたり、風魔法で泡を誘導して操作したりと……この辺も大分形になってきた。
 これで緞帳(どんちょう)や絨毯などが届けば見た目も華やかになって、もっと劇場らしくなってくるとは思うのだが。

「うむ……これは驚いた。演奏会はさぞや盛り上がろう」
「成功してくれると嬉しいのですが」

 まあ、彼女達の演奏についてはメルヴィン王が聞き惚れるほどだ。あまり心配していない。

「宣伝と入場券の販売については、ギルドに一任していただくという形でよかったのかのう?」
「そのつもりでいます」

 その辺の実務はノウハウのあるところにお任せする。

「うむ……。では収支報告だけはきっちりと」
「わかりました。彼女達の演奏会以外の使い道なのですが……」

 メルヴィン王はどこか楽しそうに尋ねてくる。

「何か考えがあるのか?」
「音楽家や歌劇作家に貸出して、利用料を取るという形を考えています。上手く軌道に乗ればいいのですが」
「あれを見て飛びつかぬ者などおるまいよ。実際良い考えではあるな」

 メルヴィン王は苦笑した。劇場そのものの設備が先鋭的なので……まずは音楽家や劇作家を見繕い、何人かを演奏会に招待しようと考えている。
 それで彼らが気に入ってくれれば御の字である。芸術振興にも繋がればいいのだが、あまり高望みはすまい。

「しかし、そうだな。軌道に乗るまでの間は――空いた日程に、宮廷楽士を動員する形でよかろう」

 なるほど。それなら安心だ。イルムヒルト達も、毎日演奏というわけにはいかないのだから。

「いずれにしても、すぐに劇場使用の申し込みが殺到すると思いますぞ」
「だろうな」

 貸出料と入場料で十分な儲けが出るだろう、とメルヴィン王とアウリアは顔を見合わせて中々黒い笑顔で笑う。2人とも妙に成功を確信しているような様子であった。

 その他、細々とした部分を詰めていく。

「民達の娯楽であるからな。入場料はそれほど高くは出来まい」
「となれば、貸出料もそれに合わせてでしょうかね。席の場所によって値段を変えるのが良いかと思います」
「と言うと?」
「舞台が良く見える席や1階2階のテラス部分に関してはやや割高な値段に」

 まあS席、A席みたいなものだ。
 そうやって得た収益は演者達の報酬、従業員の人件費や維持管理費の他、俺やブライトウェルト工房と言った関係者、冒険者ギルドに分配される予定だ。
 まあ……所詮予定は予定。獲らぬ狸の何とやらだ。収益次第だから何とも言えないが……。

「これは国王陛下……」

 そうやって色々打ち合わせていると、巫女頭のペネロープが劇場に顔を見せた。劇場の客席から2階テラスにいる俺達に気付いて、畏まる。

「巫女頭殿か。こちらに来られてはいかがか」
「はい。それでは失礼致しまして」

 メルヴィン王に促されて、ペネロープが2階のテラス席に上がってくる。

「どうなされました?」
「テオドール様のお話を皆に伝えた所、ご厚意に何かお返ししたいという話になりまして。皆様がこちらで作業なさっている間、食事や身の周りの世話をさせて頂いてはどうかという話になりました。もしよろしければ巫女達が劇場に立ち入る許可をいただきたく思うのですが」
「本当ですか? それは助かります」

 返答するとペネロープは穏やかな笑みを見せる。

「ああ、収益の分配金についての話なのですが……」

 ペネロープが来たのなら丁度良い。ここで話を通してしまおう。

「ふむ」
「僕の取り分は、孤児院に還元をしたいと思っているのですが」

 俺が言うと、ペネロープは驚いたように目を丸くした。

「い、いえ。テオドール様。そこまでなさらなくとも」
「いや、こちらとしても考えあっての事なので。孤児院の子供達に読み書き計算や……その他役立ちそうな技能などを教えて頂きたいと思っているのです。それはきっとイルムヒルト達にとって有益に働くはずなので」

 感情移入が無いとは言わないが、単純な善意というわけでもないのだ。
 劇場の目的はあくまで魔物娘達の地位向上、クラウディアの迷宮村の住人の居場所を作ること。そしてグレイスの立場の確保である。

 だから孤児院に援助する事で、子供達への読み書き計算と言った基本的な教育回りを強化していきたいと考えている。
 人材育成と言うとやや大袈裟だが……将来タームウィルズやヴェルドガル王国の色々な所で、理解のある者が活躍の場を広げてくれればと思うのだ。それはきっと後々俺の目的にとってプラスに働いてくるはずだ。
 孤児院を出た後の事を考えれば、例えば劇場絡みの仕事に雇ったりというのは可能だし……色々夢も広がるところではあるのだが、カバーし切れる範囲には限度と言うものがあるし。

「一部の者に、そちの爪の垢を煎じて飲ませたいところだな。有能な後進を育てるは余の仕事でもある。その話には協力させてもらおう」

 メルヴィン王がにやりと笑う。
 ペネロープが膝を折って恭しくメルヴィン王と俺に礼をしてきた。

 一部の者というのは……ブロデリック侯爵とかだろうな。色々証拠も集まって来ているので、侯爵とその息子のノーマンについてはそう遠くない内に沙汰が下されるだろう。

「さて……話が纏まった所で……折角ですから氷菓子でもいかがですか?」
「ほう。氷菓子とな?」

 ビオラも忙しいのでまだかき氷機の製造とまでは至っていないのだけれど……氷室はすでにあるし、魔法を駆使して氷を削ってやれば完成品に近い物は作れるのだ。
 皆にも声をかけて休憩を取ってもらう。売店の方に移動して、魔法で氷を削り木の器に盛った。上に果実で着色したシロップをかけてやればそれで出来上がりという感じである。シロップは何種類か用意してある。

「それがテオ君の言っていたかき氷だね?」
「うん。これを作る道具を売店に置いて、劇場で売りたいと思ってるんだけど」

 という事で試食タイムである。

「ほうほうほう」

 特に食いつきが良かったのはアウリアだ。興味津々と言った様子でスプーンでしゃくって口に運ぶ。

「これは……甘くてふんわりしていて冷たくて……うむ……うむ。見た目にも涼やかよのう……」
「氷菓子はあまり急いで食べると――」
「む……っ!」

 言わない事じゃない。アウリアはこめかみを押さえている。エルフとかギルド長とか……肩書きの割に、威厳はない。

「これはなかなか。これが売り出されるか。珍しいものばかりよな、この劇場は」
「甘くて美味しいですね」

 メルヴィン王とペネロープは流石に威厳を保っているが、かき氷を消費する速度は割と早かった。気に入ったのかも知れない。
 みんなもそれぞれかき氷を楽しんでいるようだ。
 アシュレイとマルレーンには各々違う色のシロップのかかったかき氷が渡っていたのだが、お互い一口ずつ交換したりと……中々楽しそうだ。

「良いみたいですね」

 グレイスが微笑みを浮かべた。シロップを調合したのは彼女だしな。皆の反応が気になっていたのだろう。
 感触は悪くない。後は飲み物もあると良いのかな?
 うーん。風魔法と水魔法を絡めて炭酸水など作れたりしないだろうか? 後でちょっと試してみるか。
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