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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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150 縮尺模型

 自宅の居間、机の上に広がるのは神殿前の広場周辺の施設と実際に作る劇場を縮小した模型だ。土魔法で形作って構想を練るわけである。

「――で、こうやって舞台奥に白い幕を張れば、そこに魔道具から光を当てることで、背景をある程度好きなように変えたりできる。例えば青い光を当てて空や海の底に見せかけるとか、赤い光を当てて火事の場面だとか夕焼けとか」

 要するにホリゾント幕だな。舞台装置を考えるにあたり、アルフレッドやビオラと話し合いをしながら進めている。

「君の発想を少し分けてもらいたいところなんだけどね」
「面白いですねぇ」

 アルフレッドとビオラは感心しているが、残念ながらホリゾントを考えたのは俺ではないので。どうせ好き勝手劇場を作るのだから、地球側の知識も導入してしまおうというわけだ。

「うん。だけどまあ、分かった。この辺に泡を出す魔道具を設置して……」
「その辺に泡となると……風魔法の魔道具を置いて飛ばしたりするのが良いかな」
「舞台の上と下に光魔法の魔道具を配置して舞台袖の回路盤に繋げて……」
「回路は舞台袖に引いて、そこで一括して照明を操作可能にするというわけですね」
「そうそう」
「舞台袖は、今の形から大きくは変えないよね?」
「ああ。まあ、そのつもり」
「じゃあ縮尺から考えれば、すぐに実物大の魔道具作成に移れるんじゃないかな」
「なら、模型は後で複製して工房にも設置しておくよ」

 アルフレッドやビオラと共に色々と、ああでもないこうでもないとやっていると、みんなが興味深そうに覗き込んでくる。

「これは神殿前の広場ですよね?」
「うん。これが冒険者ギルドで、それが神殿の一部。この辺の空いている場所に、こうやって劇場を建てると」

 と言って、空きスペースに作った劇場の模型に触れる。

 蓋を外すように地上部分の建物の屋根を取り外すと、内部構造が明らかになる。
 舞台に対して、階段状の観客席が扇型に広がっていくという……まあ、よくある形の劇場かも知れない。
 あまり高い建造物にすると景観を損ねそうなので、舞台と観客席を地下1階に相当する高さに作ってある。地上1階と2階部分にテラスを用意して、1階席或いは2階席などでVIPが護衛を伴うなどして観劇出来るような形にしているというわけだ。

「後は舞台回りに緞帳(どんちょう)だとかを付けたりしなきゃならないけど……まあ、基本的な構造はこんな感じにしようと思ってる。音の響きや聞こえ方はどうなるかな?」
「んー。ちょっと見せて。ここから歌や劇をして音が広がるわけだから……」

 セラフィナが内部構造を見ながら飛び回り、色々な角度からチェックして回る。

「うん。いいと思う。どこの席でも良く聞こえると思うよ」

 この辺は劇場や映画館の構造を参考にしている所があるからな。音響に関しては問題あるまい。

「耐震性や強度は?」
「んー。材質にもよるけど……大丈夫じゃないかな?」
「まあ、その辺は実際に作りながらかな」

 マルレーンはあちこちに描かれた看板が気になるのか、首を傾げて俺を見てきた。

「それはもし火災が起こった場合の、避難経路を示した物。幾つかそういう、外まで直行できるような通路を用意してあるんだ」
「ぱっと見た時に、分かりやすいですね。その絵は」

 アシュレイが感心したように頷く。文字が読めなくても絵なら直感的に分かりやすいからな。

「講演の前に説明しておけば、いざって言う時にすぐ逃げられるね」

 要するに、非常口の案内である。一般席とVIP席では防犯上の観点から外に出る場所が異なるように作ってある。

「観客席に入る前のこれは?」
「売店と厨房。中で食べ物や飲み物の販売ができるように」

 映画館にあるような設備だな。誰が何の売店をやるのかという問題はあるが……まあ、後で考えるとしよう。これから夏に向かって暑くなっていくわけだし、かき氷なんて良いかも知れない。空いたスペースに氷室を作って……。うん。案外売れるんじゃないだろうか、かき氷。火事の心配もないしな。

「他に気付いたことがあったらどんどん言ってほしい。今ならいくらでも反映できるしさ」

 模型の壁や地面を取り払い、地下部分も見ていく。舞台袖、舞台裏に楽屋。関係者用の入口、資材搬入路に倉庫。地下に構築するわけだから、スペースは割と広々と使える。実際に使った場合の利便性、それに建物の強度に耐震性などを考慮しながら、搬入口はもっと広い方がいいだとか、警備のしやすさ、避難誘導のしやすさはどうかなど、皆の意見を参考に調整を加えていく。

「これならすぐにでも着工できそうですね」
「あー……。まだ問題があってさ」

 建築様式については神殿であるとか王城であるとか、古い建物を参考にすればある程度マッチしたものが作れるだろう。
 主な問題はもっと細部……内装だ。様式や天井に壁、床、柱の装飾などで、参考資料として学舎から色々本を見繕ってきている。

 魔法建築であるならいくらでも装飾を細かくできるだろうが、それをどこまでやるのかが問題になってくる。あまり格調が高過ぎてもなんだし、簡素過ぎても味気ない。ゴテゴテと飾り付けすぎるのも趣味に合わない。
 要するに程々にとは思うのだが匙加減が中々難しい。
 まあ、折角これだけの面子がいるのだし……色々聞きながらやり過ぎない程度の範囲を見極めていくことにしよう。

「こんばんは」

 みんなと話し合っていると、クラウディアも姿を見せた。

「ああ、良い所に」
「何かあったのかしら?」
「今、劇場をどういう構造にするか、話し合っていたんだ」
「劇場……?」

 と、クラウディアは目を瞬かせる。

「クラウディア様も是非。今お茶を淹れますので」
「ありがとう、グレイス。私も手伝うわ」

 クラウディアはグレイスに笑みを返してお茶の準備をしている。うん。彼女もすっかり家に慣れた感じだな。
 2人が戻って来た所で、シーラがクラウディアに今の状況を説明する。

「イルムヒルト達が、今度演奏会をする」
「あの子が演奏会……」
「それで、舞台を作るっていう話になったんだけど、劇場まで作ってしまおうって事になってね。今、防音室にいるよ。ユスティアとドミニクの3人で、演奏の練習をしてる」

 新しく作った防音室に繋がる扉を指差して言う。

「なるほど……。邪魔をしては悪いから、私もこちらに参加させて貰うわ」

 クラウディアは状況を把握したのか目を閉じて穏やかに笑うと、居間の模型の方を覗き込んでくる。
 建築様式と装飾、内装についてはクラウディアが意外といける口であった。アルフレッドやアシュレイと、どの程度の装飾が丁度良いかなどと、資料を見ながら普通に話をしている。
 うーん。クラウディアはなんというか、立ち居振る舞いが洗練されているのもそうなんだが、知識も王族や貴族のような上流階級に近い部分があるな。中々謎だ。

 まあともかく。……これがうまく行けば迷宮村の住人にも、外での居場所や仕事を提供することが出来るかも知れない。何せ、あの村の住人は娯楽が音楽と言う部分があるのか、ほとんどの住人が楽器や歌、踊りに堪能だったからな。その気になれば、住人で合唱やらミュージカルなんてことも夢ではないと思う。

 とは言え……迷宮村の住人は外に居場所があると知っても、中々あの村から出ようとはしないのではないだろうか。

 外が怖いからという理由ではなく、彼らを見守ってきたクラウディアが長命だからだ。彼女が孤独になるような事があってはいけないだろうし、彼らもそのつもりはないだろう。俺もこうやって劇場の話を進めているが、そこは一番に留意しなければならない点だと思う。

「ああ、クラウディア様」

 練習の方も一段落着いたのか、防音室の方からイルムヒルト達も出てくる。

「練習は順調かしら?」
「はい。曲目も増やせそうです」

 学舎の方から楽譜なども借りて来ているからな。レパートリーが豊富になるのは良い事だ。

「これが実際の舞台……を小さくしたもの」

 と言うと、魔物娘3人が興味津々といった感じで覗き込んでくる。

「意外と天井が高いんだね。飛びながら歌えそう」

 ドミニクが言う。

「それは良い考えかもね。舞台装置も合わせると良い演出になりそうだ」

 と、そんな感じで話し合いは続いて、夜は更けていく。こうやってみんなで集まって何か作ったりアイデアを出し合うというのは、なかなか楽しいな。
 大体大筋が固まってきた。後は実際に必要になる量の資材を用意して貰えば建築に移ることが出来そうだ。魔法建築の工程に移ってしまえば、後はあっという間だしな。細々とした装飾なども、実際に現地で皆と作っていくか。
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