挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
158/1183

149 劇場構想

 2人からの返答はすぐにあった。アウリアに連れられて、ユスティアとドミニクが家を訪ねてきたからだ。3人を家の中に通して話を聞いてみる。

「是非やってみたいし、お話を持って来てくれたのは嬉しいわ」
「あたしも……面白そうだからやってみたいとは思う。でも――」
「うん。テオドール君忙しそうだし……大変じゃない?」

 当日に話をしに来る辺り、2人ともかなり乗り気なようだが……俺が忙しそうだからと躊躇っている部分があるようだ。

「いや、大変だと思うなら、こんな話はしてないよ」
「あ、ありがとう」

 2人は頭を下げてくる。 

「まあ、こっちにも理由っていうか動機があるからさ。次に忙しくなる時期まではかなり間があるし、魔法建築も魔法制御の訓練には丁度良いんだ」
「……ふむ」

 アウリアは一瞬、グレイスの方をちらりと見て、得心いったという風に頷いた。どうやら俺の理由に察しがついたらしい。

「――という事で、色々話を進めさせてもらおうかと思いますが、良いですかね」
「うむ。では冒険者ギルドとしても協力させてもらおう。場所や日程なども、話を詰めなければいかんかのう」
「えーと。場所については、後で連絡させて貰おうかと思います」

 メルヴィン王に打診して、良さそうな場所を見繕って、というところだ。

「具体的な日程も、作業の進捗状況などを見ながらという事で」
「あ、あたし達はどうしたらいいのかな?」

 乗り気ではあるものの割と急な話だからか。話が具体的に動き出すと、多少の不安があるのかも知れない。どこか心細そうにドミニクが尋ねてくる。
 演奏の技量に関しては今のままで問題無いだろうと思う。色々耳や目が肥えているであろう、ローズマリーが感心していたぐらいだからな。

「特別なことはないけれど……。色んな曲の練習をしておいてくれると助かる」

 そう告げると、ドミニクは神妙な面持ちで頷いた。それから……近くで話を聞いていたイルムヒルトの方に視線を送った。

 ふむ……。何かあると3人で歌ったり演奏したりしているからな。イルムヒルトが一緒だと、彼女達も嬉しいのかも知れない。
 ただイルムヒルトは俺のパーティーとして色々迷宮に潜ったり訓練したりしているからな。そのあたりの事を考えると、彼女達としてもイルムヒルトを誘うのには遠慮があるのだろう。
 なので、俺から彼女に水を向けてみる。

「イルムはどうする? 演奏はいつも一緒だったし」
「わ、私?」

 イルムヒルトは、少し驚いたような表情を浮かべた。

「3人で話し合って決めるといいよ」
「イルムヒルトがやってみたいって言うなら、応援する」
「私も一緒で……いいのかな?」

 俺とシーラの言葉に、イルムヒルトは2人の様子を窺って……ドミニクとユスティアは明るい表情を浮かべた。

「あたしは2人よりも3人で演奏したいな」
「イルムちゃんと一緒なら、色々幅も広がるもんね」
「ん……。ありがとう2人とも。私も、頑張らせてもらうわね」

 イルムヒルトが笑みを浮かべる。それから3人は集まって話し合いを始めた。

「イルムの訓練や探索の邪魔はしたくないよね」
「私達も治療の手伝いがあるものね」
「そういう事なら――」

 と言った感じで色々話し合った結果、迷宮探索や訓練が終わった後に集まって練習するということに決まったようだ。
 ドミニクとユスティアも治療班としてギルドに詰めていなければならない。それが終わってからというのがお互い丁度良いのだろう。
 ふむ……。となれば、地下にスタジオというか防音室でも作って、そこで気兼ねなく練習できるようにするか。2人も出歩く機会が増えるだろうしな。

「ふむ。では、ギルドから送迎の為の護衛を付けるようにしよう」
「それでしたら、フォレストバードなどどうでしょうね。彼らは腕も立ちますし、人当たりも良くて信頼も置けますので」
「うむ。では彼らに依頼を出してみる事にしよう」



 演奏会を行うということで話が纏まったので、早速メルヴィン王に打診する事にした。
 アルバート王子にアポを取ってもらい、王城のサロンで演奏会の話をする。

「――ということで、演奏会を開きたく思うのです」
「……ふむ。今の時期にというのは良いかも知れんな」

 話を聞いたメルヴィン王は感心したように頷いた。

「と言いますと?」
「魔人の襲来に教団の攻撃……。色々と重なっておるからな。民の不安を和らげるような催し物は、余としても有り難いのだ。芸術の振興も奨励すべき事であろう。良い刺激になる」

 なるほど。メルヴィン王にとってもかなりタイムリーな話だったらしい。

「舞台設営の場所はどうしましょうか」
「冒険者ギルド前の広場ならば、市場も近いし人も集まりやすいであろう。そういった催し物を行える場所を設けるというのは、後々の事を考えても中々良いのではないかと思うがな。必要な資材や資金については、こちらに任せてもらおう」
「分かりました。では現場を下見をして、色々決めてから、もう一度話をしにきます」

 野外のコンサートホールといった感じの物を作ろうと思っていたが……メルヴィン王がここまでバックアップに回ってくれるとなると、劇場のような建物にしてしまってもいいのかも知れない。
 どうせ魔法建築で作ってしまうのだしセラフィナは音響の分野でも強いのだから、それなり以上の物が作れるだろう。

 とりあえず土魔法で小さいスケールの建造物を作り、色々こねくり回して構想を練ってみよう。実際に作り始めればあっという間に出来るのだし焦る事はない。

「テオ君。ただ演奏会をするだけじゃなくて、マルレーンの紙飛行機の時に使っていた魔法も、演出に使えるんじゃないかな?」

 アルバートが言う。

「ああ、工房で見せたあれ?」
「うん。舞台をテオ君が作るなら、そこに魔道具として組み込んでしまうというのはどうだろう? きっと良い演出になると思う」

 そう言えば、あれは即興だったけれど皆の受けが良かったな。どうやらアルバートも演奏会の話にかなり乗り気なようだ。

「分かった。舞台の構造を考えながら術式も書くから……構想が纏まったら魔道具にするって事で良いかな?」
「うん」

 術式の記述を俺がして、アルバートとビオラがそれを魔道具にするという流れはいつも通りのものだ。
 迷宮などで使う実用的な道具と違ってあまりハードな使われ方はしないものだし、割合簡単な術で構成されることになるだろう。大量に作る必要もないし……作る側としても負担はあまりないはずだ。

「……ふむ。また何か面白そうな事を考えているようだな。どのような魔道具を作るつもりなのか興味があるから詳細は聞くまい。そなたらの作る物はなんというか、見ていて飽きんからな」

 メルヴィン王はどこか楽しそうな様子で顎に手をやって笑う。

「僕はテオ君が色々考えたのを魔道具にしているだけですので」
「術式の記述通りに魔道具にするのは、かなりの技量と知識がいると聞いた事があるが」
「魔法技師なら誰でもと言うわけにはいかないでしょうね」

 アルバートはその辺しっかりやってくれる。調整している内に魔道具の使用感覚が俺のイメージしたものに近くなるし、最近では色々と意を汲んでくれるので調整の手間そのものも少なくなっているのだ。

「それを言うなら、テオ君が最初から魔道具にしやすいように術式をアレンジしてくれるからね」

 アルバートは少し困ったように苦笑いを浮かべた。

「余としても仕上がりを楽しみにしておるぞ」

 ハードルが上がった気もするが。まあ、それなりの物をお披露目できるよう頑張ろう。

「ああ、それからそちへの褒賞の話であるが……改めて公の席にて、諸侯の前でというのが良かろうと考えている。そちの仲間達の働きにも報いねばならぬし、望みの物があるのなら希望に沿うようにする故、今の内に何なりと希望を言うがよい」

 言われて、少々考える。これが普通の臣下だったら爵位と領地となるのかも知れないが。……雑事が増えて身動きが取りにくくなるから、俺があまり望んでいない所があるからな。
 そう言えば、新しくしたルナワームのコートにまたダメージがあったな……。ガルディニスの魔法で焦げたり穴が開いたりしてしまった。

「では――僕にはローブなど、魔術師用の防具がありましたら。皆の分は直接聞いてみます」
「ふむ……では、杖の時のように宝物庫より選んで貰うという形が良いのかな。そちらの目に適うだけのものがあれば良いのだが」

 と、メルヴィン王は言っているが……。ウロボロスのような杖が出てきたのだし、王城の宝物庫は何が眠っているか計り知れない所があるからな。仲間達の装備に関しても強化出来るところがあるだろう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ