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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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141 教団と魔人と

 ローズマリーから受け取ったレシピを元に材料を揃え、薬を作製。それを受け渡してから数日後。
 進展があったと言う事なので王城に向かい、メルヴィン王を交えてカイゼル髭の魔法審問官デレクと面会した。

「大使殿、お久しぶりです。大使殿のお陰で娘の身も健やかに育っておりますぞ」

 と、良い笑顔で言われる。ロイの時の話だ。事件後にデレクは一度お礼を言いに来ているが、まあそれっきりになっていたので。
 とは言え……タームウィルズで実際に動いていたのは俺ではないが。

「何よりです。実際にお嬢さんの身をお守りしたのは僕ではないですから、今の言葉は彼女達に伝えておきます」

 そう告げると、デレクは相好を崩す。

「ではお嬢さん方にもよろしくお伝えください」
「うむ。では、本題に入る事としよう」

 本題。つまり信徒に対する魔法審問の結果、分かった事の報告になる。デレクはカイゼル髭を指で整えながら言う。

「連中は教主という人物より、書状により指示を受けてタームウィルズに参集したらしいのです」

 教主の名前が出ないのは……嘘か本当かで調べられるものでもないからか。

「書状で指示……教主はその時どこに?」
「不明です。これは彼らも知らないと見るべきなのでしょうな。教主は数年前から大事な儀式と修行の為と称して行方不明という事で信徒どもは帰還を待ちわびているのだとか」
「行方不明……」
「その間、腹心を通して指示を飛ばしていたようなのです。その腹心の方は……連中を率いてタームウィルズに来ているそうですが」

 行先が不明だからと、教主自身がタームウィルズに来ていないという事にはならないが……。そうであったとしても信徒は行き先を知らないと言う事になるか。

「連中、そんなので良く結束していられますね。僕だったらその腹心が教主を始末して好き勝手しているんじゃないかって怪しみますが」
「刺青にも関わる事らしいのです。刺青を施す為の材料は教主しか作り方を知らないそうですが、それが書状と共に送られてくる。教主が健在である限りは刺青も動くと。である以上は、信徒達が教主の生存を疑うと言う事にはならないのでしょうな」

 なるほどな。教主が施した術が生きている以上、教主も生きているという理屈か。
 となれば、刺青と教主の間に何かしらの魔術的繋がりがあると言う事になる。本人不在でも刺青の製法と儀式さえ手順に則っていれば正しく効果を発揮するわけだ。

「連中の潜伏先は?」
「ある程度割り出せはしたのですがな」
「それに関しては空振りであったよ」

 デレクの言葉をメルヴィン王が引き継ぐ。

「生贄が見つかった場所の近くの空家を根城にしていた。だが、孤児院への襲撃が失敗した事で儀式をした後に引き払ったようだ」
「順番としては、生贄を発見した後で魔法審問で裏付けが取れたという形になりますな」

 襲撃が失敗して、先に動かれたか。となれば、今どこに潜伏しているかは生け捕りにした連中にも分からないと言う事だ。

「連中が、次に動きそうな時については予想を立ててみましたが」
「ほう」
「封印の扉の解放に合わせてくる可能性を考えています」
「……それはつまり、ゼヴィオンやルセリアージュの一味と教団が繋がっているという意味か。精霊殿とタームウィルズ側への戦力が分散される時を狙ってくるわけだ」

 メルヴィン王は渋面を作った。

「無関係と言う事も有り得ますが。悪い方向で考えておく方が正しいかと」
「うむ……」

 魔人はこれまで少数精鋭を送り込んでくる感じではあった。これは魔人が結界内部に潜入する為の方法に乏しく物量で攻められないからだろうと思っていたのだが……信徒が戦力になるというのなら、動かせる手駒が単純に増えたという事を意味する。
 魔人が迷宮に潜入すると共に、街中の重要施設への破壊活動を行ったりするなど、同時多面的に攻撃を仕掛けてくる事も考えられるだろう。

「神殿への協力要請と、腕の立つ者への空中戦装備の支給、及び訓練を提案します」
「つまりは魔人が複数現れたような想定と言う事になるな」
「刺青を発動させた信徒の戦力は戦った感じでは魔人に及ばない程度のもので、それほど脅威には感じなかったのですが……儀式を経て、強化される事も想定しておくべきでしょう」
「それは大使殿だから言える事でしょうな」

 デレクがやや呆れたように苦笑する。

「話は分かった。信徒達の行動にはこれまで通り警戒させる。余としては……そち達が目の前の事に集中できる形を整えられるよう尽力する。アルフレッドにもそう伝えよう」

 国としてはアルフレッドに空中戦装備などの作成は依頼せず、自前で準備すると。
 アルフレッドに負担をかけないようにするから、俺の魔人対策に力を回させてやってくれと……そういう意味になるだろうか。
 そうだな。まずはグレイスの斧の完成を急ごう。

「私としては……その腹心とやらも少々気になりますな。仲間を生贄に捧げるような真似をしたのはその者でしょうし」
「……確かに。不愉快な相手ではありますね」

 孤児院への襲撃と生贄の儀式。どこまでが教主の指示で、どこからが腹心の指揮だったのか知らないが……ま、どっちもどっちか。

「生贄に捧げられたのは、孤児院を襲撃した実行犯一味の1人だったようですぞ。警報が鳴った時点で逃げ帰った者が生贄に選ばれてしまったのですな」

 制裁と見せしめも兼ねていたわけか。俺だったら警報が鳴った時点で撤収する方が余程賢明だと思うんだがな。
 魔人信仰だとそういう慎重さは臆病な卑怯者のする事とでも受け止められてしまうのかも知れない。

「何にせよ、タームウィルズにいるならきっちり潰しておきたい相手ですね」
「同感だな。所在不明の教主はともかく、その腹心を失えば教団にとっては相当な打撃となろう」

 その辺は魔人との関わり有る無しに関わらずだな。



「こんなに色々と揃えてもらって、何だか悪いわ」

 顔を見せたクラウディアは、地下室の様子を見てそんな感想を口にした。家具が入って体裁も整ったので、次からは地下室に直接飛んで来て欲しいと伝えてあったのだ。

 異界大使としては迎賓館の1つも用意すべきなんだろうけど、それはそれで、クラウディアはあまり目立ちたくないので望まないだろうという気はするし。

「ともかく、地下室のものは自由に使ってくれて構わない」
「……ありがとう。大事に使わせて貰うわ」

 クラウディアは笑みを浮かべて言う。
 さて。クラウディアも来た事だし……居間に通して、今日判明した事についての話をする事にした。

「……なるほど。それはつまり、当日は精霊殿のガーディアンを抑えない方が良いという意味になるのかしら」
「そうなるね。今後の教団の動向を見ながらになるけれど。案外無関係だったり、当日までに教団が捕まったりする可能性だってある」

 クラウディアとしては封印解放の当日、前回同様ガーディアンの動きを抑えるつもりでいたようだ。だが、同時多面攻撃の可能性がある以上はクラウディアの力は温存して貰っておいた方が良い。

 理由は簡単。クラウディアの協力があれば、タームウィルズと迷宮の間でかなり自由度の高い転移が出来るのだから、どこに強力な魔人が現れても俺が直接相手をする事が出来る。例えば精霊殿を狙うと見せておいて、街中に本命の魔人が現れたとしても対処可能になったりするわけだ。逆も然りである。

 最初から強力な魔人を複数動員して行動出来るのであれば、俺であるなら教団の信徒など動かさない。動きを見せて手の内を晒せば、相手方も行動の予想がしやすくなってしまうのだし。

 だから連中が何を企んでいようと、無理矢理に前までと同じような図式に持ち込んでしまおうというわけである。向こうはこれまで判明した部分からこちらの手口を推察してくるのだろうが、通信機にしろ転移の自由度にしろ、向こうの知らない手札なのだから。

「そういうわけで、クラウディアと迷宮の村のみんなには悪いんだけど、協力して貰えると嬉しい」
「前に言ったわ。あなた達に協力するのは私の目的に沿うものよ」

 クラウディアは目を閉じて言う。
 その目的というのも、多分こっちの不利益になるようなものではないのだろうという気はするが。

「それにしても。そうやってお膳立てをしてもあなたが最大戦力にぶつかるつもりなのは変わらないのね」
「目の届く範囲にちょっかいを出してくるなら叩き潰すって決めてるんだ。他人に任せてるより、余程気が楽だしな」
「……なるほど。話は分かったわ。前日ぐらいから、私もあなた達と行動を共にさせて貰うわね」
「了解」

 さて。クラウディアとの打ち合わせも済んだ。イルムヒルトもクラウディアと話をしたがっていると思うし、彼女との迷宮の話はこれぐらいで切り上げておく事にしよう。
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