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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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139 魔術師の事情

「よし。これで一区切りかな」

 アルフレッドは嬉しそうな声を上げると、大きく伸びをした。

「いや本当、お疲れ様」

 道具を運んだり加工を手伝ったり。工房に顔を出した時は、俺も出来る作業を手伝ってきた。アルフレッドの奮闘もあり、警報装置は一先ず完成。孤児院の人数分に加え、常駐する騎士用の通行証が揃ったわけだ。

 出来上がった通行証は後で孤児院に届けるとして……実動部隊を叩き潰したのが効いたのか、あれから教団の方に動きはない。あちらが動いた事で見回りも活発になっているし、動きにくくはあるだろう。俺も封印の扉の事があるからその間、大腐廃湖の探索や工房での作業などを進めさせてもらっているが……油断は出来ないな。
 教団については尋問も進んでいるだろうから、遠からずその結果が聞けるだろうとは思うのだが。 

「そう言えば、デュオベリス教団の刺青ってどうなの?」

 アルフレッドが尋ねてくる。

「どうって言うと?」
「魔人と瘴気云々は置いておいて、魔法技師としては気になる話ではある……とか言ったら不謹慎なのかな」
「ああ……そういう事か。いや、不謹慎とは思わない」

 敵方の技術を分析して盗める部分は盗んでしまおうという話だ。刺青対策は考えたし、あれはあれで有効だと思うが、仕組みの面から考える事で他に見えてくる部分もあるだろう。
 となると、あの刺青がどういう種類の術なのか、という話になってくるか。

「信徒は刺青をしているだとか、どんな武器を持っているかまでは良いとしても。教団の事はそこまで詳しくはないんだよな……。連中、南方で活動してる奴らだし」

 BFOでは……連中の使うリストブレードなどはアサシンスタイルに憧れたプレイヤーが、南方で鹵獲して複製などしていたから知っているのだが。
 刺青は恐らく、マジックサークルや魔道具と同じような仕組みで動作するのだと思う。魔道具が素材に応じて術の書き方を工夫するように。人体に書き込むのに適した翻訳(・・)がなされた記述を行うのだろう。そこまでは察しが付く。

「問題は瘴気をどうやって扱っているか、かな?」
「そうだね」

 連中自身は瘴気に蝕まれたりしないのだろうかという疑問が湧く。そこの仕組みを探る事でまた別の瘴気対策に繋がるかも知れないし。

 可能性としては……刺青を施された者の魔力を瘴気に変換しているか、或いはもっと根本的に、体質を変えて魔力資質を魔人に近い物にしているか。後は……巫女や神官が女神や精霊の力を借りるように、魔人と何らかの契約を結んで一時的に力を借りるという方式も考えられる。
 そう言ったいくつかの可能性を提示するとアルフレッドは苦笑した。

「どうにも対策には結びつきそうにないね。瘴気に対抗する為に瘴気を扱うとか、本末転倒な気がする」
「無効化しているって感じはしないからな」
「契約を結んで、借りているかもというのは気になるね」
「……魔人が背後にいるかもって事になるだろうしな。有り得ない話ではないけど……」

 そんな風にアルフレッドと話をしていると、ビオラが顔を覗かせた。

「お話し中済みません。迷宮からバリュス銀が送られて来ていたみたいなんですが」
「……それね。転送したけど忙しいから後回しと思ってたんだ。製法についても色々あるし、警報装置も一区切りした所だから今日はその話はいいよ」
「ああ、いえ。使い道だけでも聞いておこうかと」
「そうだね。金属っていう事は、装備品になるんだろう?」

 ビオラの言葉に、アルフレッドも頷く。

「うん。グレイスの斧にと思ってた。ノーチラスの魔石も残ってたし、それも組み込もうかなって思ってたけど」
「なるほど。ではグレイスさんの意見も反映させたいので聞いてきます」

 と言っている所に、当人であるグレイスがトレイに焼き菓子を乗せて入ってくる。焼き菓子。要するにクッキーだな。美味しそうな匂いがしている。

「お疲れ様です。お茶とお菓子はいかがですか? 焼きたてですよ」
「ありがとう。丁度区切りが付いて話をしてた所なんだ」
「それでしたら、お庭の方でどうでしょうか?」
「今日は天気も良いし、そうしようか」

 工房の庭では例によって皆が訓練の最中である。

「ではそちらでお茶を淹れますね」

 グレイスと一緒に庭の方へ移動する。

「ああ、グレイスさん。新しくバリュス銀で斧を作るのですが、何かご希望とかありますか?」

 移動の途中でビオラに問われたグレイスはほんの少し目を丸くしてから答える。

「そうですね。基本の形はあのままで……バランスをあまり変えない方がとは思うのですが」
「扱い慣れた形が一番ですからね。分かりました。作る際に留意してみます」

 素材を変えても使用感を残すというのは中々難しそうだ。その辺はビオラの腕の見せ所なのだろう。

 中庭ではタルコットとチェスターがアクアゴーレムと戦闘訓練していた。パーティーのみんなは休憩を取っている。入れ替わりで特訓中と言った所か。
 主に空中戦装備の熟練度を上げる為の訓練内容だ。3次元的な挙動を前提としたアクアゴーレムの動きに、2人ともやや戸惑っている様子が見受けられるが……あれはあれで楽しそうにも見える。

「2人ともお茶にしない?」
「いや。俺はまだ訓練を始めたばかりでな」
「ああ。段々面白くなってきた所だ」

 という答えが返って来た。2人とも、意外に気が合うようだ。
 まあ、そういう事ならこちらは先に焼き菓子と茶を頂きながら観戦させて貰う事にしよう。

 チェスターが前衛となりアクアゴーレムと矛を交える傍らで、タルコットはゴーレムと一定の距離を取りながら、遠距離設置型の砲台として使えるマジックスレイブをあちこちに配置。チェスターの隙を埋めるように様々な方向からエアバレットを撃つ事で支援と攻撃を両立させている。

「タルコットの制御、かなり安定してるな」

 チェスターの邪魔にならないようにきっちりカバーしている。以前のような不安定な危なっかしさは感じられない。

「基礎をみっちりやって来たみたいだからね」

 アルフレッドが笑みを浮かべて、それから女性陣のテーブルの方に視線を送った。
 オフィーリア嬢の隣に座って、訓練風景に目を丸くしている三つ編みの少女は、シンディー=バニスターというそうだ。例の、タルコットの片思いの相手と言う事らしい。

「どうもね。タルコットと似合い過ぎる相手だなと思っていたら、オフィーリアがお節介を焼いていたみたいなんだ」
「……なるほど」

 つまり、オフィーリア嬢の友人と言う事か。シンディーはオフィーリアの紹介でタルコットと知り合ったと言う事になるだろうか。

「バニスター家は騎士の家だけど……シンディー嬢は魔法の方が才能があるからって、フォブレスター侯爵家に士官の口を求めてきたそうだ」
「ああ、それで知り合ったと」
「うん。将来性を見込んでフォブレスター侯が学舎にと送り出された。見習いではあるけれどなかなか魔法の腕は立つし、将来的にはオフィーリアの護衛に据える方向で考えておられるそうだよ」

 アルフレッドがここに連れてくるのを了承するぐらいだから、身元はしっかりしているのだろうとは思っていたが。うん。そうなると、オフィーリアの身内ぐらいの感覚だな。納得がいった。

「シンディーもタルコットと一緒に訓練に混ざってはいかがかしら?」
「わ、私はあんな高度な白兵戦、まだ出来ませんよ。遠距離射撃ばっかりですから訓練の邪魔になってしまいます」

 などと、オフィーリアとシンディーの会話が聞こえてくる。
 シンディーは遠距離型か。要するに、正統派の魔術師だ。

「あら、テオドール様。丁度良い所にいらっしゃいました。シンディーは最近伸び悩んでいるそうなのです。何か助言はありませんか?」

 オフィーリアは俺とアルフレッドの姿を認めると相好を崩して尋ねてくる。

「遠距離戦は僕の専門外ではありますが……そうですね。使い魔を得る事でしょうか」
「使い魔ですか?」
「ええ。遠隔魔法でマジックスレイブを置き、使い魔の視界を利用する事で、術者自身は全く姿を見せずに超遠距離射撃を行うことが出来ます」

 対抗策としては相手の使い魔を潰す事で遠隔魔術師の目を奪う、という形になってくる。ライフディテクションで壁越しに位置を把握してスレイブから射撃という手を使っている奴もいたが、それはそれでフレンドリーファイアが起きやすいから、味方がいない状況で使うべき手だ。

「……ごめんなさい。高等過ぎて無理です。マジックスレイブは使えますが……」

 シンディーは申し訳なさそうに首を横に振るが……マジックスレイブは魔術師として割と正統派な系統樹の技法だ。目指すべき方向性としての話でしかない。
 ちなみにアシュレイは治癒術士寄りなので射程は短い部類。マルレーンは巫女兼召喚術士なのでやはり基本からは離れる。2人とも魔法資質の面から言えば、あまりマジックスレイブの習得に向いていないのだ。

「今は使い魔に慣れておくのは重要、と言う事で理解しておいていただければ十分かと。矢面に立たずに戦うのも魔術師の戦い方の1つですから」
「しょ、精進します」
「テオドール様は学舎の講師にもなれそうですね」

 アシュレイが微笑みを浮かべて言うと、マルレーンがこくこくと頷く。

「どちらかと言うと、テオドールは教導官な気がする」

 シーラが焼き菓子を摘まみながら言う。

「教導官って?」

 イルムヒルトが首を傾げると、シーラが答えた。

「先生の先生。グランドマスターとも言う」

 いや……それはどうなんだろう。専門であるバトルメイジはピーキー過ぎてあまり需要が無い気がする。それ以前に魔力資質絡みで魔力循環が出来る人間が殆どいないようだし……。
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