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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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125 王城での面会

「坊ちゃん。資材は全て運び終わりましたので」

 と、戸口から声が掛けられる。

「ご苦労様です」
「いえ。では、あっしらはこれで失礼します」

 資材を運んできた業者は頭を下げると帰って行った。
 庭に出てみると、中々良い陽気であった。良く晴れたので日曜大工には持って来いの日であると言えよう。
 庭の片隅に業者が運んできた資材――煉瓦やら木材やらが積んである。

 クラウディアに地下室を使ってもらうに当たり、さっさと物置を作ってしまう事にしたのだ。訓練の邪魔にはならない場所にスペースを確保してある。

「さて、と」

 俺は一息ついてから仕事に取り掛かる事にした。

 ――片手にはペレスフォード学舎の図書館から借りてきた建築関係の魔道書。
 学舎からは先日、そのまま在籍していて欲しいと言う打診があった。俺に在籍していて貰えると、学舎としても有り難いそうで……。
 設備の使用や、書庫の本の閲覧や貸出を自由にして良いという免状を頂いている。なかなか美味しい条件なので、こちらも1年分の学費を支払い、学舎に籍を置き続ける事にさせて貰うことにした。

 というわけで魔法建築の実例を参考に物置を作ってしまう事にした次第である。
 正確には母屋の増築と言う形になるか。この家も正式に買いあげ、金も支払い終わった。借家ではなく正式な持ち家になったし、好きに増改築しても誰からも文句が出ないしな。

 大体地下室と同じぐらいの大きさの広さを確保出来ればそれでいい。魔道書に書いてある術式の記述を少しだけ制御とアレンジしてやれば、必要なサイズの物置を作れるというわけである。

「もう地下室の品々は出してしまって良いのですか?」
「そんなに時間は掛からないと思うからね。大物や重い物は後でゴーレムとレビテーションで運ぶから、細々としたものだけ廊下側に出しておいてもらえると助かる」
「分かりました」

 答えると彼女達は頷いて家の中へ入って行った。
 俺は魔道書片手にマジックサークルを展開。土魔法を用いて整地し、基礎となる土台を作っていく。
 魔法建築に用いるのはクリエイトゴーレムや土の防御魔法クレイウォール、ストーンウォールと言った魔法の派生に当たる術だ。知っている魔法の応用だけに俺にとってはアレンジするのも精密制御もそれほど苦にならない所がある。

 土台が完成したら木魔法で形を整えた木材の出番だ。ゴーレム達に柱を立てさせ、梁を汲み上げさせて……それから壁の作成に移る。物置の内部に立ち、出入り口と通気用の窓になる部分を除いて一気に形成していく。
 壁に続いて屋根。術式の制御に従って石材が浮かんでアーチ状の屋根が形成されていく。

 並行作業でゴーレム達を用いて、床に手早く木の板を敷設。板には素材転送用の魔法陣が描いてある。これで迷宮からの素材はこの場所に送られる、というわけだ。
 工房や冒険者ギルドにも魔法陣は用意してある。工房で加工する品、ギルドで即売却してしまう品と、用途と処分方法に応じて転送先を変えているわけである。

 母屋側と庭に繋がる出入り口をくり抜き、扉部分を製作。最後に木窓を取り付ければ完成だ。
 庭側に出て仕上がりを見てみる。流石は建築専門の魔術師の書いた魔道書である。俺みたいな門外漢の模倣でも、なかなか見られる仕上がりだ。
 記述のアレンジもしたからか、母屋と合わせて見ても色合い、デザイン共々、増築部分にそれほど違和感がないのが良い。

 母さんの作った家ほどロマンを追求した仕様ではないが……初めての魔法建築ならこんな所だろうか。

「もう出来上がってしまったんですか?」
「早い」

 物置の内部を通り、廊下側へ顔を出して出来栄えを見ていると、戻ってきたグレイス達が目を丸くしていた。

「大体こんな所かな。中を見てみて、問題無さそうならこのままで」

 と、物置きの中に通してみんなに見てもらう。セラフィナは新しく出来た物置が面白いのか、窓から出ていったり入口から入ってきたりと、嬉しそうに飛び回って満喫しているようだ。

「広々としていて良いのではないでしょうか?」
「でも少し暗いかも知れないわ」
「じゃあ、あの辺に採光窓を作っておくよ」

 後は荷物を新しい物置に移し替え、地下室に絨毯を敷いたり、机、椅子などの家具を置いて居住性を上げれば完成、という所か。

「耐久性は?」
「いいと思う」

 尋ねると梁の辺りから顔を覗かせたセラフィナが笑顔で答える。彼女がお墨付きを出してくれるなら大丈夫だろう。



「次は――家具の買い出しかしら?」
「そうだね。まあ……俺の審美眼より、ここはみんなに任せた方が良いのかな」

 地下室は主にクラウディアに使ってもらう事になるだろうし、そうなるとイルムヒルトに選んで貰ったほうがクラウディアも喜ぶんじゃないかなという気はする。
 一通り荷物の移動を終えて話をしていると、アルフレッドが中庭にアーケロンのソーサーを持ってやって来た。

「こんにちは――っと。魔道具が出来上がったから持ってきたんだけど……何だか増築されてない?」
「ああ、魔法で作ってみた」

 と答えると、アルフレッドは口元を引き攣らせ、物置をしげしげと見やった後で、壁に手を触れて言う。

「魔法建築って……。相当熟練した土魔法や木魔法の使い手じゃないと制御し切れないって聞いたけど……」

 といっても、術式の制御は得意分野だし、お手本もあったしな。少々肩は凝ったが制御を鍛える方法としては案外悪くない。

「このまま慣れたら大工でも食っていけそうかな」
「魔法建築は相場が高すぎて手が出ないと思うけど。それよりあれだね。一夜で砦を作った土魔法使いヒューバートの伝説とか。そういう方向で需要が出る気がする」

 アルフレッドが言っているのはどこだったかの外国で、即席で隘路に砦を作って国を守ったと言う英雄的な魔法使いの話だったか。

「そんなぎりぎりの防衛戦をする機会は、来ない方がありがたいけどね」
「違いない」

 俺が言うと、アルフレッドが苦笑した。

「ところで、テオ君達はこれから出かけるのかな?」
「そう思ってたけど。何かあった?」
「侯爵絡みでちょっと。父上が言うには、テオ君と引き合わせたい人物がいるそうだよ」

 そういう事なら王城に顔を出すか。

「それじゃあ、家具を買いに行くのは私に任せて」
「ならイルムヒルトと一緒に行く」
「わたしもー」

 と言う事で、家具の買い出しはシーラとセラフィナが一緒に行く事になった。

「私は――今日は夕食当番ですから」
「でしたら、私もお留守番します」

 グレイスとアシュレイは家に残ると。カドケウスは家に残しておくのがいいか。ラヴィーネもいるし防犯的には大丈夫だろう。

「マルレーンはどうする?」

 尋ねると、マルレーンはアルフレッドから受け取った魔道具を抱えて微笑む。早速庭で自主練習に励むつもりのようだ。

「でしたら私も付き合います。テオドール様程は望むべくもありませんが、アクアゴーレムを使った演習が出来るかと」

 アシュレイがマルレーンと微笑み合う。彼女も一緒なら、慣れない魔道具で怪我をするなどの心配が少なくなるだろうしな。アシュレイ自身も魔法制御の訓練になるだろうか。

「分かった。じゃあ夕食までには戻れるようにする」

 いつも通り何かあったら通信機に連絡をと言う事で、俺はアルフレッドと共に馬車に乗って、王城へ向かった。

「それで、俺に引き合わせたい人って言うと……」

 尋ねると、アルフレッドが頷いて答えた。

「ああ。先に言っておいた方が良いね。ブロデリック侯爵家の後嗣だよ」

 侯爵家の長男か。アルフレッドからの情報や、メルヴィン王からの紹介と考えると……それほど面倒な用件ではなさそうだけれど。

「マルコム卿というのだが、彼はタームウィルズで役人として働いているんだ。で――数日前に侯爵が実家に向けて竜籠で使いを出していたらしくてね。次男の方は領地にいるから……」
「次男の呼び出し中か」
「父上はそう見ているようだね」

 メルヴィン王が動いているとなると……侯爵の機先を制してしまうつもりだな。



 王城セオレムに到着すると、連れて行かれたのは王の塔ではなく騎士の塔の近くにある迎賓館の一室だった。

「陛下、アルバート殿下より引き合わせたい方がいらっしゃると聞いて参りました」
「うむ。よく来たな」

 メルヴィン王が先に来て誰かと話をしていた所のようだ。隣には見知らぬ人物。侯爵家の長男と言う事だが……父さんと同年代かやや年下ぐらいだろうか。痩せぎすの男だった。何やらかなり顔色が悪いし、表情も浮かない。まるでこの世の終わりが来たかのようだ。

「テオドール。こやつはマルコムだ。王城で働いておる」
「初めまして、マルコム卿。テオドール=ガートナーです」

 王から紹介を受けて自己紹介をすると、マルコムは折れんばかりに深々と頭を下げてきた。

「マルコム……ブロデリックと申します。大使殿には謝っても謝り切れたものではありませんが……。ち、父と愚妹が大変な御無礼を働いたと聞き及び、恐れ多くも陛下に場を取り持って頂いた次第。どうか……何卒ご寛恕の程をお願いしたく申し上げます」

 などと真っ向から謝罪の言葉を述べられた。
 えっと。顔色が悪かったのはその辺が理由だろうか。
 いや……。侯爵やキャスリン達のやった事を、彼に責任を問うつもりは全然ないんだけどな。
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