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番外325 返すべき恩を

 タームウィルズにやってきた面々はフォレスタニアの居城に宿泊。一泊してから幻影劇場で2部、3部を鑑賞したり運動公園に遊びにいったり……またタームウィルズに戻って工房や迷宮商会に見学にいったりと……滞在中をのんびりと過ごした。


 シュンカイ帝、ひいてはホウ国を同盟として迎え、各国の王達と引き合わせる。その点については予定されていた通りではあるのだが、ベシュメルクについても話し合う時間が持たれ、過去の資料を探すと共に、対策の魔道具作りに各国も力を結集させるということで、呪法に対抗可能そうな技術を持つ者が工房に日参してくる、ということになったのであった。


 東国の面々は時差関係で頻繁にこっちに来るのは大変だろうに。最初から東国でも生活時間をズラすとまで息巻いていたりして……何というか、皆気合が入っているというのが俺の受けた印象だ。

 そのため一旦解散とはなったのだが……転移港での別れもそうしんみりとしたものにはならなかった。


「ではな。また数日の内に、工房に顔を出す事になるかも知れんぞ。俺は魔道具作りでは大した力にはなれんが、戦闘訓練の場として迷宮は便利だからな」


 そう言ってにやりと笑うファリード王である。


「それは良いな。では、日を合わせて迷宮に潜るか」

「良い案だ。執務続きでは実戦の勘も鈍ってしまうからな」


 と、イグナード王、レアンドル王も笑う。中々好戦的な笑みであるが。


「血気盛んな事よな。余は流石に迷宮に潜るというわけにはいかぬが、そなた達の助けになるようなものを何か見繕ってくることにしよう」

「おお。それはいい。我らも何か……ふむ。祈りの宝珠にしても前ほどには力を発揮は出来ぬであろうが……」


 と、エベルバート王が言うと、エルドレーネ女王もその言葉に頷いている。


「では、我らも工房の技術協力ということになるかな。工房にユラやイチエモンが顔を出す事になると思うのでよろしく頼む」

「よろしくお願いします」


 ヨウキ帝の言葉を聞いていたユラがにこにこと嬉しそうに笑い、イチエモンが静かに頷く。


「ふむ。妖怪の持つ品々も魔力を宿して強い力を発揮することが多い。何か力になれることもあろう」

「そなたが望むのなら力を貸したいと願う者達は……我以外にも多いであろうからな」


 御前とオリエがそう言うと、妖怪達も頷いたりして。


「ホウ国からは……ゲンライ殿が工房の手伝いに行くことになるかも知れない」

「草原の王に関するあれこれもあるからの。工房の魔道具作りで手伝えることもあろう」


 シュンカイ帝もそんな風に言うとゲンライが目を閉じて頷いていた。


「ふふ。皆の結束も固いようね。資料を探らせるだけでなく、私自身も何か手伝いにきましょう」


 オーレリア女王が皆の様子を見やり、それからこちらに向き直ってにっこりと笑う。


「これはもう、討魔騎士団の再結成に近いやも知れんな」


 そう言って肩を震わせるメルヴィン王である。


「いやはや。お手柔らかに」


 俺としては苦笑してそんな風に答えるしかない。そんな俺の反応が嬉しかったのか、各国の王達はにやりと悪戯っぽく笑って、転移門から国元へと帰って行ったのであった。


「ふふ、何だかすごい事になりそうですね」


 と、グレイスが微笑む。


「確かに随分と気合が入ってたけど」

「みんなも――今度はテオドールの力になりたいのでしょう」

「月での戦いは、地上に残された方はどうしようもなかったですからね」


 クラウディアが目を閉じて穏やかな笑みを浮かべ、アシュレイが嬉しそうに同意するとマルレーンもにこにことしながら首を縦に振る。


「ん。気持ちは分かる。私もイルムヒルトを助けてもらった後、そう思ってた」

「ふふ、私もシーラと一緒にって思っていたけど、今こうしてテオドール君の横にいるっていうのは予想してなかったかも」


 シーラが腰に手をやってうんうんと首を振ると、イルムヒルトがにっこりと笑った。


「まあ、何にせよ工房での仕事が楽しみだわ」

「確かに……色々な物を見る事が出来そうよね」


 ローズマリーが羽扇の向こうで笑い、ステファニアが苦笑する。


「私も……力を貸してもらっている立場ですから。頑張ります……!」


 そうして、エレナが拳を握って胸元に手を当て、そんな風に決意表明をする。転移港での一時の別れの挨拶は、そんな風にして過ぎていったのであった。




「おお、テオドール公。ご無沙汰しておりますな」


 明くる日――俺達が執務を終え、工房に向かった際に最初に訪れてきたのは、昨日までの面々ではなく――ドリスコル公爵家の当主、オーウェン公であった。

 転移港はヴェルドガル国内の各領主のところにも対応しているからな。こうして気軽に顔を出せるというのは利点だ。


「お久しぶりです、公爵」


 挨拶を返すとドリスコル公爵はにこやかに頷く。


「お元気そうで何よりです。実はですな。メルヴィン陛下から連絡を頂き、こうして顔を出した次第なのです。通信機で済ませてしまうには、些か面倒をおかけしてしまう話ですからな」

「と仰いますと……」

「ワグナー公が残した地下書庫の司書なのですが……あれがもし今回の一件で戦力となるのであれば、是非テオドール公のお役に立てて頂きたいと、そう考えて話をしに来たのです。細かな調整等は私には無理な相談ですから、申し出るにしても調整が負担になってしまっては本末転倒、と思った次第でしてな」


 召喚術師ワグナー=ドリスコル公の作った司書――。

 召喚術を操る魔法生物で、その行動は自動迎撃に近いものであったが……。修繕と改良を仕事として引き受けていたのだ。

 具体的には公爵家の守り手――ひいてはヴェルドガル西方の防衛戦力となれる程度に融通の利くようにして返却する、という内容であったが。


 解析を始めてみれば、ドリスコル公爵家の血筋と契約魔法で結びつけてあり、主人とその血筋に攻撃を加えない等の制約はあるものの、もっと高度な自意識を植え付けるように組み込むといった改造は、そう難しくない、というのも分かっている。

 俺との戦闘で破損した個所は修復し終わっているし、後は制御のために魔法生物の意識を覚醒させる作業が必要であったが……。


「それは心強いし、それほど負担とはならないのですが……良いのですか? ワグナー公の残した、公爵家の家宝のようなものではありませんか」


 あの司書は――対魔術師戦を視野に入れて作られている。瞬間的な部分召喚を行う事により、魔術師の属性、戦闘方法に合わせて有効と思われる攻撃方法を選択するといった戦法を用いていた。

 つまりは……対ベシュメルクにおいても魔術師、呪術師に対抗する戦力としてはかなり有効ということを意味している。


「構いませんぞ。ワグナー公は……後世の平和を望んでおられた。懸念材料である悪魔が討伐されたならば、今回の一件であの司書を活躍させずして、一体何時ワグナー公の想いを汲むのか、ということになりますからな」


 ドリスコル公爵は真剣な表情でこちらを見てくる。


「……ありがとうございます。では、今回の一件が解決するまでの間、あの司書をお借り致します」

「それは安心しました。公爵家の遺産が役に立ってくれることを期待しております。事件が解決され、返却の約束が果たされる事を、皆様の武運長久と共に願っておりますぞ」


 ドリスコル公爵がそう言って、にやっと笑って握手を求めてくる。


「分かりました。お約束致します」


 俺も笑って、ドリスコル公爵と握手をかわす。

 ……うん。昨日の王達の言葉といい、ドリスコル公爵の申し出といい。有難いな。俺としても今回の一件は他人事ではない。

 そうしてドリスコル公爵と話をしている内に、各国からの工房への助っ人が顔を見せる。よし。では、俺としても気合を入れて工房の仕事を進めていくとしよう。

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