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番外312 新生活の基盤

 そうして――タームウィルズとフォレスタニアでの日常が戻ってくる。

 カイ王子の即位までの間に、ホウ国へ出かける準備とヴェルドガル側で歓待する準備の両方を整え、執務と工房の仕事に勤しむという形だ。


 エレナはフォレスタニアに来てからこっち、フォレスタニアにいる時は大書庫で歴史書を読み込み、タームウィルズに同行して工房の仕事を手伝い、という生活サイクルを続けている。

 その間に手持ちの宝石を売り払って、替えの衣服等々の必需品をみんなと一緒に買いに出かけたり、私生活での生活基盤もしっかりと整えている。


「お部屋に鏡台が備え付けてあるのは助かりました」


 というのは、工房に戻ってきたエレナの弁だ。今日はヘアブラシなどを買って来たらしく、早速ローズマリーの染髪剤で髪の色を変えてみて髪の毛を梳かしてみたりと、みんなも一緒になってエレナの変装を手伝うのを楽しんでいる様子であった。


 気軽に染髪したり戻したりできるということもあり、みんなも一緒になって髪の色や髪型を変えてみたりと、割と楽しそうにしていた。


「そう言えば、歴史書の方は順調なんですか?」


 そうして、そんな遊びが一段落したところでコマチが尋ねる。


「色々世情を知る勉強になっています。その……沢山預かっているので、まだ肝心な部分については何とも言えないところがあるのですが」


 エレナの事情に関しては政争や陰謀が絡んでいそうだし、表に出にくいだろうからな。いくつかの歴史書を見て、総合的に判断しなければならない、という部分はあるだろう。


「歴史書と言いますか、最近の事件の報告書のようなものも預かっておりまして……そこに皆様の活躍が記述されていたりしましたよ。グランティオス王国との友好関係を結んだお話とか、ドラフデニア王国でのご活躍とか……それに、先だってのホウ国の事件についても、ですね」


 と、エレナがそう言って微笑む。あー。そんなものもあったのか。

 エレナに渡す資料に関してはメルヴィン王が選別しているから、魔人絡みであるとか機密性の高い情報は省かれたものだとは思うが。

 確かにエレナに関する捜索、追手等が無くなっているかを探るには、最近の各国の情勢というものも、判断材料に加えなくてはなるまい。


「まあ、あちこちで色々やっているのは事実ですね」


 苦笑してそう答えると、エレナは楽しそうに微笑みながら頷いていた。

 それから――エレナは言葉を続ける。


「その……身を隠さなければならない立場なのは承知しているのですが、お願いしたいことがありまして」

「何でしょうか?」

「シュンカイ殿下の即位の儀式に、私も同行させてはいただけないでしょうか」


 そう尋ねてくるエレナの表情は真剣そのもので……単に即位の儀式を見に行きたいというだけには見えない。

 ……ああ。そうか。エレナとしては俺に対して事情を話すべきかどうか、迷っている部分もあるだろう。そこで報告書のような書面ではなく実際に成したものを見て判断したいと考えたのかも知れない。

 だから……メルヴィン王も、こちらのアシストをするためにそのあたりの報告書を歴史書の中に資料として加えたわけだ。


「分かりました。それが必要な事でしたら」

「ありがとうございます」


 頷くと、丁寧にお礼を言われる。


「確かに、ホウ国やヒタカノクニなら、ヴェルドガル王国近隣の事情とは関係ないものね。訪問して最近の情勢を見てくるのにも、うってつけかも知れないわね」


 ローズマリーが言うと、エレナは静かに頷く。


「その……どこの国の方々が訪問されるかも聞いておきたいのですが。年月が経っている分、隠蔽術さえあれば問題ないとは思いますが」


 と尋ねてくるので、ホウ国の即位に訪問する国についての話もする。


「まずエインフェウス王国とヒタカノクニですね」

「ヒタカノクニは森と海を挟んで向こう側の、ホウ国と隣接している国でもあるわ。カイ殿下の助太刀に加わったという意味では、実質的にホウ国にとっては友邦とも言えるわね」


 俺の言葉をクラウディアが補足してくれる。


「それからドラフデニア王国のレアンドル陛下も列席なさるそうです」


 と、グレイス。


「これはホウ国に冒険者ギルドを創立する予定の関係で、ですね。地理的にエインフェウスの南東部に位置しているので、今後の事を考えると、やはりホウ国との友好関係を築いておきたいというのもあるかも知れません」


 というわけで、カイ王子の即位に列席する国の面々はヴェルドガル王国を含めてそれらの国々、ということになる。

 即位の儀式の後でカイ王子やシュウゲツもヴェルドガルを訪問してくるが、その時は更にシルヴァトリア、グランティオス、バハルザードに月の民と、各国の国王が一堂に会する予定である。


 それらを伝えると、エレナは真剣な表情で頷いていた。どうやら、ホウ国への同行に関しては問題ないようだ。

 ヴェルドガルに各国の王を迎えての歓待については、エレナにとってはまた別枠の話である。特に何も言及してはいなかったが、あまり突っ込んだ事を聞くのは、参加国が多いということもあって、消去法で出自を探るのとほとんど同じようなものだ。だから、このあたりを聞くのは控えておくとしよう。


 それに西方諸国でも、今はもう滅んでしまった国や、併合された国というのもあるからな。これらも……エレナの母国の可能性としては有り得る話だ。

 その場合とて、後身となった国の方針が分からなければ、結局自身の身の安全については何とも言えない。まあ、エレナの世情把握に関してはあまり急ぐことなく、時間をかけてゆっくり進めていけばいいのではないだろうか。




 ――迷宮核内部。術式の海にて。

 目の前に浮かぶ4つの魔力反応に意識を向ける。

 赤、青、緑、黄。4色に輝くその力は火、水、風、土の四大属性に相当する。

 ホウ国にて黄龍と出会い……4大属性の魔力を強く宿す4種の素材が集まった。それらを組み込んで、道具型の魔法生物を作るという予定は変わらずだ。


 迷宮核でこうして実物ではなく実物の魔力波長を読み取って、上手く調和するかどうか試行錯誤しているのは、竜輪ウロボロスを作る前のシミュレーションを行っているからである。

 四大属性の力を宿す素材を組み込んで道具型の魔法生物を作るというのは、竜杖ウロボロスと同様だ。しかし竜杖と竜輪では使われる素材が異なる。

 そこでウロボロスを作るための術式にも微調整を加える必要がある。というわけで、こうして術式の最適化を行っているのである。


 東西から集めた素材ではあるが……こうして迷宮核内部で事前に準備が整えられる状況だと調和させるのも難しくなくて良い。

 やがて迷宮核から離れ、肉体に意識が戻ってくる。

 俺が目を開くと、迷宮核内部での作業を外で見守っていた皆が迎えてくれる。


「お帰りなさいテオ。大丈夫そうですか?」

「うん。何とかなりそうだ。術式に関しては問題なく調整できそうかな」


 グレイスの質問に頷いて答えるとみんなも微笑んで頷く。

 と、翼をパタパタとさせて浮かぶヴィンクルが、自分の胸の辺りに手をやって喉を鳴らす。


 どうもウロボロスの外殻素材に自分の鱗を使ってほしいと主張しているようで。

 4種の素材は内部に組み込まれる。外殻の素材もどこかから調達なり合成や精製なりしなければならない、というのはあったのだが。

 ヴィンクルが言うところによると、自分の鱗も近い内に生え変わるので、それを使ってほしいとのことである。


「それは……助かるよ、ヴィンクル」


 そう答えるとヴィンクルはお安い御用というように目を細めて声を上げていた。ラストガーディアンの鱗か。素材としてこれ以上はないだろうな。


 そうなると実質的に竜輪ウロボロスを作り上げるための素材の確保は完了したといえよう。引き続き、日々の仕事の合間を見て、並行世界に干渉するためのゲート作りをじっくりと進めていかなければなるまい。

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