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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外294 ティールとの約束

 タームウィルズとフォレスタニアのみんなに、帰って来た事を知らせたり、挨拶回りをしながら居城に戻る。

「お帰りなさいませ、旦那様、奥様」
「ご無事で何よりです」
「お帰りなさいませ」

 セシリアとミハエラ。それに迷宮村の住民達が城門前まで迎えに来てくれていた。俺達の姿を認めると、一礼して相好を崩す。

「ありがとう。ただいま。みんな」
「只今帰りました」

 と、みんなと一緒に挨拶を返す。

「ティエーラ様達が中庭でお待ちですよ。旦那様と約束していた事があると仰っておりました」
「ああ。それじゃ、ティエーラ達にも顔を見せてこようかな」

 セシリアの言葉に頷き、ティールを振り返って見やると、ティールは首をこくんと縦に動かしていた。
 ティエーラとの約束――。つまり南極付近で、ティールと同種の魔力分布を感知してもらう、というものだ。少し時間がかかるとは言っていたが、約束についての話題が出たということは、つまりそういうことなのだろう。

 帰るという話が出た時にティールは少し寂しがっていた様子だった。
 ラヴィーネやコルリス、リンドブルムも何となくそんなティールを心配しているようだ。コルリスにポンポンと肩を叩かれたり、腹のあたりにラヴィーネが軽く頬を擦るように寄せたり、リンドブルムが尻尾の先で背中を撫でたり。
 ティールはそんなみんなの行動に、嬉しそうにフリッパーをパタパタとさせていた。

「ティールだけに関する範囲で言うなら、この場でも約束はできるからさ。好きな時に戻ってこれるようにしたいね」

 そう言うと、ティールが声を上げて応える。ありがとうとお礼を言われたようだ。
 それと同時に、急がなくても大丈夫、というような内容のことを鳴き声で伝えてくる。俺達も戦いが終わって帰って来たばかりだから、ということなのだろう。
 気遣ってくれているのか、或いはティールの方にも心の準備が必要なのか。

 いずれにしても……そうだな。数日、間を置いてということになるだろうか。カイ王子の即位も、もう少し先の予定ではあるし。

 そうしてみんなと共に中庭に向かうと、ティエーラとコルティエーラ、精霊王達、テフラ、フローリアと、高位精霊達が揃い踏みで待っていた。フローリアと一緒にハーベスタがいるのもいつも通りといった風景だ。先に戻っていたヴィンクルも一緒である。

「おかえりなさい!」
「おお、帰って来たか」
「無事なようで何よりじゃな」
「お帰り!」

 と、高位精霊達からも出迎えの言葉を受ける。

「ただいま、みんな」

 そう言って中庭の東屋にみんなで腰を落ち着ける。

「無事で何よりです。中々……性質の悪いものと戦ってきたようですね」

 ティエーラが目を閉じたままでそんな風に言った。ショウエンの正体については通信機で知らせているが、ティエーラの場合はそれ以上の事を感知できても何ら不思議はないな。

「人の物語で成立した邪精霊みたいなものだったから、人としての立場から考えると、少し複雑な気持ちもするけれど、ね」

 それでもティエーラ達の事を考えれば、相容れない相手ではあったけれど。

「だからと言ってそうそう、物語が特定の精霊を利するということもないはずですから……。その精霊は……そう。例えば好んで自分とその物語を混同させることで力を蓄えていったのではないでしょうか」

 そんなティエーラの言葉に、セラフィナがこくこくと頷いていたりするが。
 それは確かに。セラフィナの場合は住んでいた家に瘴珠を投げ込まれたから暴走してしまったが、それでも被害を与えないようにしようと立ち回っていたわけで。
 繋がりを持っていたとしても、自ら望まなければ、ああはならない、ということか。ショウエンが邪悪だったが故に、か。

「恐怖や不安から生まれた物語だったとしても……それらを生む感情もまた、生命が生きていくためには必要なものです。負の側面だったとしても、それを否定しよう、とは思いません。それよりも……私としてはテオドールが私達の事を考えて怒ってくれたことが伝わってきて、何となく嬉しいような気分になりましたよ」

 と、そんな風に微笑みながら言うティエーラである。コルティエーラもぼんやりと発光している。

「ん。コルティエーラやみんなの加護も助かったよ」

 多分、コルティエーラの加護がなかった場合、周辺の小さな精霊までこちらを敵視してきた可能性があるからな。そうなるとショウエンを倒すのが更に難しくなっていたはずだ。
 コルティエーラは数度ゆっくり明滅して、俺に返事をしているようだった。みんなも、その言葉に「どういたしまして」と微笑んで頷いている。

「さて。では、前置きもこれぐらいにして……ティールの事を話しましょうか。星球儀は持っていますか?」
「ああ。持ってきてあるよ」

 星球儀自体が精巧な世界地図なだけに、情報価値は計り知れない代物だ。いくらアルファがいるとは言っても、停泊してあるシリウス号にそのまま残してくるというわけにもいかないし、ティールの仲間達の事を聞くのに必要な品でもある。
 星球儀をローズマリーの魔法の鞄から出してもらい、ティエーラに渡す。

 ティエーラは星球儀を手の間に浮かべる。ぼんやりとした――静かで大きな魔力がきらきらと光る燐光となって星球儀にまとわりつき、やがて南の方へ集結していって、一部に留まる。

「ティールに似た波長の魔力は、このあたりで感知しました」
「……海岸付近から内陸部に分布してる、っていうことかな、これは」
「多分そうだと思いますよ」

 俺の推測を首肯するティエーラ。みんな興味津々で星球儀を覗き込んでくる。

「この反応が群れのものなら、ティールが守った後……みんな無事だったということですね」

 グレイスの言葉にマルレーンがにこにこと微笑み、ティールの背中を撫でる。ティールも嬉しそうにフリッパーをぱたぱたと動かし、そんな反応にみんなも表情を緩めていた。
 ティールとしても仲間が無事という事が分かって安心できたのではないだろうか。

「やっぱり、北極に似た場所なのかしら?」

 ステファニアが首を傾げる。

「雪と氷の世界だけど……陸地で標高がある分だけ北極より寒くなるのかな。それに……北半球のこっちが夏に向かっている時期だから、あっちは冬に向かっている時期……ということになるかも知れない」
「南とでは季節が逆になるのですか?」

 アシュレイが少し驚いたような表情を浮かべる。

「私が少しだけ傾いて回っていますから。太陽との位置関係で、一日に光の当たる時間が変わる事でそうなるわけですね」
「えーと。目で見るとこんな感じかな」

 ティエーラの説明に捕捉を入れる。天球儀を浮かせて、光球を作り出して太陽に見立て、これが一日の動きで、年間を通してはこう。北に夏が来ている時、南に夏が来ている時期……などと説明を交えながら、地軸の傾き、自転、公転の動きを再現して見せる。

「なるほど……」
「こうして動かしてもらうと分かりやすいわね」

 ローズマリーが興味深そうに頷いて、クラウディアがにっこりと笑う。
 精霊王の加護があるから寒さに関しては一先ず問題ないが……ホワイトアウトなどで視界が遮られる可能性も考えられる。そうでなくとも南極は白一色の世界だし、夜も長くなるはずだ。
 目印になるのが地形ぐらいとなると、はぐれないように何か策を講じる必要はあるだろう。
 そういった内容を説明すると、ルスキニアが言った。

「なら、私かマールが一緒にいけば大丈夫かな?」
「あー。それはある、かもね。風や氷の精霊は多そうだし」

 精霊と意思疎通できる面々がいるなら……はぐれてもすぐに合流可能なはずだ。

「私も一度テオドール達と旅をしていますし、そういうお話は歓迎ですよ」
「うんうん。マールのお話聞いて、楽しそうだと思ってた」

 と、マールの言葉に、ルスキニアがにこにこと微笑む。

「ん。それなら安心」
「南極探索もどうにかなりそうね」

 シーラとイルムヒルトが顔を見合わせ、頷き合う。

「まあ、溜まってる書類の処理もしっかりやっておかないといけないけど」
「ふふ。それだったらみんなで頑張ってこなしてしまいましょう」

 そう言って微笑むクラウディアの言葉に、みんなも妙に気合が入った様子で頷くのであった。
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