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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外291 東国からの帰還

 鹵獲したショウエンの弟子達の宝貝は……好きなものを研究資料なり戦力なりとして持って行っても構わない、とのことである。

「ふふ……素晴らしいわね。正確な使い方を聞くまでは放置しておくしかないのが残念だけれど」

 と、ローズマリーは……奇妙な植物を吐き出す箱を手に入れてご満悦といった様子であったが。羽扇で口元を隠してはいたが、何となく上機嫌であるのが伝わってくる。そんなローズマリーの様子にマルレーンもにこにこだ。
 とはいえ、宝貝は魔道具に比べるとピーキーなのが難点だ。だから正確な使い方や副作用等々がないかは把握しておかないといけない。だから魔法審問で情報を引き出し、実際の魔力の動き等々を見てその知識が正しいか調べてからだ。

 他には……都にあった防衛用の六角柱も……まだ機能が不明なので魔法審問の情報待ちだ。そのため一時的にこちらで預かりとさせてもらう。
 柱は俺達で自由にして構わないということだが、俺達が持っているよりもカイ王子達の役に立ちそうな代物なら、またその時に返却を考えるというのが良いのではないだろうか。

 こうして宝貝を色々貰えると言うだけでもかなりの収穫ではあるのだが、カイ王子に言わせると門弟達を倒したのはテオドール殿達なので、これではお礼になっていない、とのことで。

 そんなわけで宮中の宝物庫から物品を選んでいって良いと言われ、目録を見ながら実際の物品を拝見させてもらうこととなったのであった。
 とはいっても、目録の文字は読めないのでカイ王子とリン王女に付き添ってもらうことになったが。

「やはり、土の性質を持った代物を探しているのかしら?」

 クラウディアが尋ねてくる。

「そうだね。後は四大属性で土の物品が手に入れば竜輪の製作に取り掛かれるし」

 竜杖ウロボロスの弟分であり、並行世界で似たような役割を担うわけだから……竜輪ウロボロス、とでも言えばいいだろうか。

 そういった目的もあるので、宝物庫の品を貰えるというのはありがたい。目録と魔力反応から色々見せてもらうが……強力そうな魔道具等もあるが、土属性に特化した代物というのは中々見当たらなかった。

 目録の中で関係のありそうなものを挙げてもらって……その中で気になるところでは神珍鉄なる金属素材があるのだが……。確か、如意棒に使われている素材……だったか?
 んー。土属性の物品が見つからなければこれを貰い受けるのが良さそうだが。さて。

 と、そこで、何か楽器が鳴っているような澄んだ音が響いた。カイ王子とリン王女に付き添ってきた麒麟が喉を鳴らして何か訴えてきたのだ。

「ええと。心当たりがあるから任せろって?」

 鳴き声から翻訳の魔道具で感知した内容を確認すると、麒麟はこくんと頷く。そうして身を翻すと、宝物庫から出て――宮殿の広場から空の彼方へと相当な速度で駆けていった。

 みんなして何をするつもりなのか見守っていたが……麒麟が雲間に飛び込んで、少しの間が空く。すると――その雲が渦を巻いて空一面に広がっていく。瑞雲と言えば良いのか。麒麟が足に纏っているのと同じような質感の雲だ。
 瑞雲が大きく広がるのと共に、見る見る内に都周辺の精霊の力が活性化していくのが分かる。

 雲の切れ間から曙光が差し込んで、幻想的で美しい風景だった。その雲の中に――何かの姿が垣間見える。

「龍――? しかしあの色は……」

 カイ王子が驚愕の表情を浮かべる。そう……。金色に輝く龍だ。
 龍の身体がうねるように雲の中から飛び出して――。どこかに姿を消していた麒麟が、その龍と瑞雲を背景にこちらに向かって戻ってくるのが見える。口元に何か金色に輝く物をくわえていて――。

 黄龍は確か……五行では土を司る龍、だった記憶がある。
 ええと……。つまり高位精霊の友人に、協力を持ちかけた、と言ったところだろうか? 四大精霊王みたいな関係性というか何というか。

 雲間から黄龍が顔を覗かせる。空を見上げる俺達を見て、にやっと笑ったらしかった。そうして瑞雲がまた渦を巻いて――今度は拡散するように薄れて、消えていく。

「麒麟に続いて黄龍まで顕現するとはのう……。いずれも吉兆を告げる瑞獣ではあるが、いやはや」

 ゲンライがその光景に苦笑してかぶりを振る。
 空から降りてきた麒麟が、口にくわえていた物を俺に渡してくれる。それは――鱗だった。……黄龍の鱗か。確かに、凄まじい程の土属性の力を秘めているようだ。

「ありがとう」

 礼を言うと、麒麟はこくんと頷いて、一仕事やり終えたというような雰囲気を出しつつ、またカイ王子とリン王女に付き添うような位置に移動する。

「流石に驚いた。しかし……やはり宝物庫からも何か受け取っていって欲しいところではあるかな。これで探している品以外の物も、選びやすくなったと思うからね」

 そんな風にカイ王子が言う。麒麟の厚意では報酬を払った事にはならない、と。義理堅い事だが、確かにそうしないと貸しが大きくなりすぎてしまうところもあるだろうしな。

「では――」

 というわけで改めて神珍鉄を受け取る事にした。宝物庫に収められていたそれはインゴット状であったが……。サイズに比して随分と極端な重量を持つ金属素材だ。流石に如意棒のように8トンもの重さはないけれど。

「神珍鉄か。ふむ。それについては、儂の流派でも利用法が伝えられておったはずじゃがな。肝心の製法は……古文書の中にも見かけなかったから失伝してしまっておる可能性が高いがの」
「そうなんですか?」
「うむ。正しい製法で錬成すればするほど圧縮されて重くなる代物という話じゃな。術式の制御と設備さえ良ければいくらでも重くできるそうじゃが……まあ……錬成の技術や素材の確保にも限界というものはあろう」

 つまり幾らでも重くできるが、それもコスト面、技術面を度外視すればの話か。
 術式で制御してやるとその重さに応じてサイズの拡大、縮小が自在にできるそうだ。
 つまり……極端な重さを誇る如意棒は、文字通り神々の道具であり、物語の中だけで語られる品ということなのだろう。

 とはいえ、こうして宝物庫から貰えた神珍鉄だけでも相当利用価値が高そうだ。使い道は色々考えさせてもらうとしよう。

「次会う時までに古文書を漁って、資料を渡せるようにしておこうかの」
「ありがとうございます。助かります」

 礼を言うと、ゲンライもまた嬉しそうに笑みを浮かべて頷くのであった。



 そうして。カイ王子とシュウゲツに関することを相談したり、シュウゲツの意向を聞いたり……関係者と話を進めたりしている内に、ホウ国を去る日がやってきた。

 カイ王子、リン王女、ゲンライとその門弟達。ゴリョウ達や4太守とその関係者。都の警備隊長……こちらで知り合った面々が揃って見送りに来てくれる。
 4太守もカイ王子とこれからのホウ国に関して打ち合わせがある、ということで、都を訪問してきたのだ。

「即位の式典や転移門建造の為に訪問してくることになりますが……向こうに到着したらまた連絡しますね」
「ああ。こちらからタームウィルズとフォレスタニアを訪問するのも、今から心待ちにしている」

 カイ王子が嬉しそうに笑う。

「また遊びに来てね。私も……そっちに行くから」
「はい、リン殿下。次に会える日を楽しみにしていますね」
「またお会いしましょう。約束です」

 リン王女も――アシュレイやマルレーン、ユラ達と抱きしめあったりして、再会の約束を交わしている。動物組との別れも名残惜しいのか、コルリスやティールに抱きついたり、ラヴィーネやベリウス、アルファやオボロを抱きしめたりもしていた。
 麒麟もまたリン王女と一緒に動物組に挨拶しているようだが。

「またいつでもおいで下さい。都だけでなくホウ国は各地に名勝や史跡も色々ありましてな」
「左様。平和になったホウ国であれば、今度こそ自信を持ってそれらを紹介できるというものです」

 と、4太守達は頷き合う。

「それは儂らもじゃな。都や国の状況が落ち着いたら、仙郷――儂らの修行している場所にも案内したいところじゃな」
「あの場所は……長閑で、いいところですからね」

 ゲンライの言葉にジンオウが目を閉じて静かに答え、門弟達もうんうんと頷く。

「儂にとっては暮らすには少し退屈な場所だったが……まあ、遊びに行く分には良い所じゃねえかな」

 レイメイはそんな風に言ってにやりと笑っていた。
 転移門ができれば――こちらも気軽に観光にいけるし、ホウ国のみんなもヴェルドガルに遊びに来ることができるからな。色々と楽しみにしていよう。
 そうしてみんなとの別れの挨拶をして、シリウス号に乗り込む。

「点呼完了しました。みんな乗っています」
「動物組も問題ないわ」
「それじゃ、行こうか」

 点呼を行い、グレイスとステファニアが確認を取ってくれたところで、アルファに指示を出す。
 シリウス号がゆっくりと浮上を始める。カイ王子達が王宮の広場から大きく手を振って見送ってくれた。
 こちらも甲板の縁から手を振って――。やがて段々と高度が上がり出すと、都全体も視界に入ってきて。住民達みんながみんな、シリウス号に向かって手を振ってくれているのが分かった。

 ヒタカノクニとホウ国か。巻物がらみの事件も、これで一段落か。色々……あったけれど。
 カイ王子達の姿も小さくなって……見えなくなったところで少しの間目を閉じて、エインフェウスの事件以後の様々な出来事を思い返す。そうして、再び目を開けば、都も段々と遠ざかっていくところだった。
 八卦炉の核も……後々の為にしっかり保管しないとな。さあ。ヴェルドガルに帰るとしよう。
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