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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外287 復興の祝い

「ん……」

 目を覚ませば、みんなの体温と香りがそこにあった。
 シーラとイルムヒルトに両サイドから挟まれているような形だ。シーラにはこう、脇腹にぴったりと頬を寄せるように抱きつかれている。イルムヒルトはと言えば……そっと身体を寄せるぐらいだが……人化の術は解かれていて尾が俺の片足に巻き付いていたりして。

 もう日は大分高くなっているようだ。
 今いる場所は……宮中の一室である。
 宴の後は宮中に泊まっていくということになり、宮中の湯殿を使わせてもらったり、その後は寝室でみんな一緒に水入らずで過ごさせてもらったが。

 何となく……宴の時にカイ王子やセイランの結婚の話題まで出ていたからか、その流れで将来の話で盛り上がったりして。そのせいだろうか。昨晩はみんなにいつもより甘えられてしまった、ような……。

 ……うん。溺れないようにしないと、と思って自制をかけている部分もあるのだから、朝から思い出すのはやめておこう。そうでなくてもシーラとイルムヒルトに抱きつかれているわけだし……。

 そんな感じで思考を巡らしていると、グレイスが小さく声を上げて上体を起こし、軽く伸びをした。
 抱きつかれている俺の状態を見て小さくくすくすと笑う。

「おはようございます。良い朝ですね、テオ」
「うん、おはよう。よく眠れたよ」

 みんなを起こさないようにやや抑えた声量ではあったが、周囲も結構明るくなっていたからか、みんなもそれで目を覚ましたようだ。

「ああ、おはよう」
「んん……。おはようございます」
「ええ、おはよう、みんな」
「おはよう。は、あ……良く寝つけたような気がするわ……」

 と、やや乱れた髪のアシュレイとクラウディア。少し気だるげな様子のローズマリーである。マルレーンもむっくりと起き出し、俺の朝の挨拶に対して口をおはよう、という形に動かしてくる。微笑んで頷くと、にっこり笑って寝台から出て、身支度を整えにむかった。

「おはよう、テオドール。んー。外は良い天気みたいね」
「おはよ、テオ君。あ。ごめんね、巻き付いちゃって」
「ああ、おはよう、ステフ、イルム」

 ステファニアとイルムヒルト。シーラも目を覚ますと抱きついたままで軽く頬擦りするように首を動かす。

「んー……。いい抱き心地」

 と、そんなことを言っているシーラである。

「あー……。おはよう、シーラ」
「おはよう、テオドール」

 とまあ……そんな調子で朝の挨拶が飛び交い、一日が始まったのであった。



 ホウ国は戦乱が終わり、国の再興に向けて動き出したばかりだ。
 カイ王子達の仕事も山積している。だから……俺達も今の時期は、あまり長居はしない方針である。
 観光などするにしても、カイ王子としても平和になってからの国の姿を見せたい、というのはあるだろう。だから今回は数日中にはシリウス号で帰り、またカイ王子達の即位に合わせて転移で訪問してくるという予定になっているわけだ。

 とは言え、俺もカイ王子達も、ショウエンから解放されたホウ国の都の姿を見ておきたいという気持ちがある。街中を視察し、住民の生の声を聞くというのもカイ王子にとっての仕事に繋がる部分があって、俺達に都の案内も出来て一石二鳥というわけだ。
 そんなわけで、騒ぎにならないようにイチエモンの協力により変装し、宮中から街中に繰り出すことにしたのであった。

 何だか麒麟も……精霊らしく姿を薄れさせて、一般人から見えない状態になって同行していたりするが。

「ああ。これは……前に潜入した時とは全然雰囲気が違うな」

 街中に出て、最初に思った事はそれであった。
 着飾った人達が往来を歩いていたり、閉め切られていた家々の窓も開け放たれていたり、明るい雰囲気だ。
 歳の若い男が少なく感じるのは……兵士として徴用されていてまだ戻ってきていないからだろうけれど。

「さあさ! 寄っていらっしゃい! シュンカイ様がお戻りになって即位なさるお祝いだ! 安くしとくよ!」

 それでも少し年配の男が店先で安売りを呼びかけて、人だかりで賑わっていたりして。

「ふふ。兄様のお祝いだって。うれしい」

 そんな街の人たちの声を聞いたリン王女がにっこりと微笑む。

「こういうのは……少し照れてしまうな」

 カイ王子が小さく苦笑する。

「かなりの賑わいですね」
「昨晩の宮中での宴会に合わせて、蔵も開放して食事と酒を都の人々に振る舞ったからね。その延長で、一晩明けてもお祭りのような雰囲気になっているのかも知れない。私の記憶にある都の普段の姿よりも、今日は賑わっているかな」

 と、カイ王子が説明してくれる。
 串焼きなどの屋台等も出ていて、情報収集がてらに串焼きを買って話を聞いてみたり。

「凄い賑わいですね、今日は。何だか大きな出来事があったので、少し都に様子を見に来てみたのですが……」

 注文した串焼きをみんなに渡しながら話題を振ると、屋台の主人はにこにこと笑いながら愛想良く応じてくれた。

「そうだなあ。シュンカイ殿下が生きてお戻りになられたって話だからねぇ。しかもあの宮殿の近くに浮かんでる――空飛ぶ船に乗ってきた異国の英雄殿と共に、ショウエンの奴を成敗したって話だろ? そんなもん、盛り上がらなきゃ嘘ってもんさ。ショウエンがいた時は、こうやって着飾って街中を歩いたり、自由に屋台も出せやしなかったからな」
「そうだったんですか」
「着飾ったりして浮ついている暇があるなら真面目に働き、よく学んで国の力を高めろ、だとか……そんな理由だったかな。見せしめに店を潰されたりなんてこともあってねぇ」

 と、肩を竦める主人。
 ああ。潜入した時に往来に人がいなかったわけ。店のほとんどが閉まっていた理由もわかった。ショウエンから目をつけられるような事はしたくないからみんな引きこもって大人しくしていたのだろう。

「その点、シュンカイ殿下は素晴らしいね。都を取り戻して最初にやったことが、町外れで飢えていた連中に食事や寝床を手配したって話だからねえ」

 ああ。その話も広まっているわけか。
 相槌を打ちながらも屋台の主人や他の客との世間話に織り交ぜ、今までショウエンの統治下で困っていたことや、これから解決されると嬉しい事は等々……情報を集められるだけ集めてみる。

「……いやはや。色々気付かされる」

 情報収集が終わったところで、カイ王子はそんな風に感心しながら呟いていた。

「まあ、何もかも解決するには色々手順や先立つものが必要かも知れませんが」
「視点の置き所というか……参考にするだけでも大分変わるだろう。彼らの望む形での解決にはならないものもあるかも知れないが……改善や緩和の策は皆と相談して練れるからね」

 そんな話をしながら街を行く。
 目指す先は兵舎だ。到着すると兵舎の前の広場で炊き出しが行われていて、スラムの住民や子供達が顔を出しているのが見えた。
 各々仲の良い者同士で道端に腰かけて食事をとっていたりするが……談笑している姿が見えたりと、前に見た時とはこちらも印象が全然違う。

 あの時に行き倒れていて応急処置をした子供もいるが……前に見た時と比べると、大分血色が良くなっている印象だな。血色だけでなく、汚れも落ちて服装もきちんとしたものになっていたりして。

「食糧と魔道具による治療だけでなく、ゴリョウ達に手配してもらって、衣服と寝具も何とか工面してもらって割り当てられた」
「寝床は兵舎で、というわけですか」
「兵が出払っているからできる急場しのぎだけれどね。警備隊長の案を採用させてもらった。町外れのあの場所は、打ち壊されたり焼き払われたり、場所を選ばなければ何とか雨風だけは凌げる、程度の劣悪な環境だったからね」

 そこに孤児やらが集まり、スラム化してしまった、と。その点兵舎なら湯も使えるし、沢山の人員が寝泊まりできるというわけだ。

「だけれど、そうなると本当に急場だねえ」
「そうね。これから兵士達が戻ってきたらまた問題が立ち上がるでしょうし」

 と、アルフレッドが首を傾げて言うとローズマリーも同意する。ふむ。それは確かに。
 しかし今なら……アルフレッドやコマチ、それに七家の長老達も一緒にいるからな。色々と……やってやれないことはない。うん。タームウィルズに帰る前の置き土産、というのも悪くないのではないだろうか。

「……もしカイ殿下さえよろしければ、魔法建築でそのあたりの問題を解決できないかと思うのですが、どうでしょうか?」

 そんな風に提案すると、カイ王子は目を瞬かせるのであった。
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