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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外283 都への帰還

 内部に入った時と同じように、巻物を用いた墓所の再封印が行われる。ゲンライが巻物を宙に広げ、解除の時とは別の文字に光が走ったかと思うと、墓所の壁の紋様にも光が伝播するように広がり――そうして入口の門が閉ざされていった。

「外部の人形については?」
「兵馬の人形は後付けらしいぞ。未だ見ぬ何かしらの術で内部に干渉できないよう完全に遮断し、後から墓所を守る防衛戦力を残す計画、と壁に記してあったからのう」
「なるほど……。墓所内部は環境変化がなくて保存状態が良かったですが、外部の人形は機能停止していましたからね。長い年月で制御用の術式にも問題が出てしまったのかも知れません」

 本来戦うべき相手だったはずのショウエン達に制御を乗っ取られてしまったし。再生能力は生きているようだが。
 そうなると……どこかに人形達を維持しているための機構が残っているはずだ。それをどこに置くかと言えば……。例えば入口の近くか、遺跡中央付近あたりが妥当なところか。

 入口周辺の壁に手を付け、魔力ソナーを打ち込んで反応を見ていくと……壁の中に何かが埋まっているのを発見できた。

「……見つかりました。多分これではないでしょうか」
「ほう。便利なものじゃな」

 外部の建材は普通の石材で作られている。土魔法で掘削してそれを掘り出してみると、魔石の嵌った石盤が出てきた。石版にはいくつかの魔石が嵌っているが、その内の一つが割れている。
 何かの拍子に魔石が傷ついてしまったのかも知れない。多分、人形が攻撃を開始する基準的な部分だろうとは思う。それがないから人形そのものや再生能力が生きていてもあっさりと制御を奪われてしまったのだろう。

「一旦完全に機能停止させ、後程修復したものを戻す事で、人形達を再生させる、ということでどうでしょうか? この場で下手に直してしまうと、埋まっている墓所に近付くだけで攻撃を開始してしまうような可能性もありますし」
「そう、じゃな。防衛戦力として機能しないばかりか、制御を奪われて悪用されてしまう危険が残っておるのなら、今は止めておいた方が良かろう」
「では――」

 ゲンライから許可をもらったところで、石版に封印術を施して機能停止させる。すると、まだ形の有った人形達が次々崩れて砂になっていった。

「後は……そうですね。遺跡全体を土魔法で埋めていけば良いかなと」

 そう言うと、コルリスが自分の胸のあたりにポンポンと手をやっていた。任せろ、的なリアクションだな。隣のステファニアがにこにこと楽しそうに笑っていたりするが。
 埋める作業は七家の長老達も手伝ってくれるそうだしな。みんなで手分けしてしまえばそれほど苦労もなく終わるだろう。



 遺跡全域を手分けして埋め戻し、荒野が自然に見えるように風魔法で土埃を被せて均したり、ちょっとした植物を木魔法でまばらに生やしたり……更に遺跡入口付近で飛び出した柱は岩に偽装して埋めておく。これで一先ずの問題はあるまい。

 残るは戦いの後始末ということで、まずは都へ向かった。カイ王子としてはどうしても都でやっておきたいことがあるそうだ。

「――というわけで、ショウエンの正体は、四凶の伝説と結びついてしまった高位精霊であったようです。ショウエン自身は滅ぼしたので何も残ってはいませんが、高弟達は捕縛済みですね」
『そのような性質の悪い存在だったとは……』
『……いやはや、邪仙どころではありませんでしたな』
『何はともあれ、勝利の報はめでたい事です』
『重篤な怪我人や死者が出なかったのであれば、もうこれ以上はありませんな!』

 移動しながら4人の太守達にも勝利の報告を行う。ショウエンが渾沌に近い存在だったと聞いた4太守は流石に目を丸くしながらも祝勝の言葉を口にしてくれた。

「ありがとうございます。そちらの状況には変化ありませんか?」
『問題ありません。未だに膠着状況が続いておりますぞ』
『敵増援も、まだ到着しておらぬようですな。しかし、今の状況こそ気を抜かないようにしておきたいと思います』
『確かに。ここに来て血を流すようでは、皆様の勝利に水を差してしまいますからな』

 尋ねると4太守からはそうした返事が返ってくる。シガ将軍のところへ対処に向かった増援は……まだ行軍中のようだ。とはいえ、油断はしないようにと気を引き締めているようなので心配はいらないだろう。

「では都での用事を済ませたら、急ぎそちらに向かうようにしよう」
『心待ちにしておりますぞ、カイ殿下』

 カイ王子の言葉に4太守は笑みを浮かべて返事を返し、そうして一旦通信を切ったのであった。
 都には連絡役としてゴリョウ達にも残ってもらっている。カイ王子はゴリョウ達にも連絡を入れ、都に到着してからの段取りを色々と説明していた。



「おお。お帰りになられましたか!」

 都に到着すると、王宮の警備隊長とゴリョウ達が揃って俺達を迎えてくれる。

「この通り、みんな無事じゃぞ」

 御前が上機嫌に笑い、カイ王子が静かに頷いて言葉を続ける。

「ショウエンは打ち倒され、その側近達も捕縛している。まだ各地の兵達を返さなければならないという問題は残っているが」
「ショウエンの問題が解決したので、船に積んでいた食糧に結構な余剰が出ています、それを運んできましたので活用して頂ければと」

 リンドブルムが小型の竜籠に乗せて運んできた食糧を、宮殿の広場に降ろす。これらの食材は……街のスラムで飢えていた民衆達に、炊き出しとして振る舞われる予定だ。
 急場凌ぎには間違いないので、今回持ってきた食糧が無くなる前に次の手立ても考えなければいけないが……その頃にはカイ王子が皇帝として即位しているはずだ。一先ずはこれで大丈夫だろう。都に潜入捜査した時からの懸念事項ではあったからな。
 俺もカイ王子も、ショウエンを倒した後なら都でこういう行動も可能だからと、話し合っていた部分はある。

「はっ! 有難く活用させて頂きます! 早速、部下達に炊き出しの準備を始めさせようと思います」

 警備隊長の武官がそう言って、通達のために走っていく。彼は都の宮中で働く者達や警備兵達にもかなり顔が利く上に人望もあるようで。都での奇襲の折に知己を得られたのはありがたい話だ。

「街中に残っている文官達は?」
「不穏な空気を感じているからか、大人しくしているようです。側近達が揃って行方不明なので、状況を見守っているのでしょうな」

 と、ゴリョウが現在の都の状況について教えてくれた。ふむ。それなら問題は無さそうだな。

 カイ王子が即位したら武官や文官達は、個々に見て対応するということになる。
 ショウエンの下で私腹を肥やしていたような者や、民に重税を課して苦しめていたような悪徳役人であるとか、それに協力していたような輩は精査された上で、相応の処遇や刑罰を受けることになるだろう。

 逆に、こんな状況下にあってもしっかりと自分の仕事をしていたとか、ショウエンに従う事をよしとしなかった者達こそ信用がおける人材だろう。王朝が再興した後にも力を貸してもらえれば望ましい。
 例えばゲンライとその門弟達。香鶴楼楼主のコウギョク、4太守の陣営の面々、ゴリョウ達、それに、都の警備隊長……。
 ざっと見まわしても国内でこれだけの者達がカイ王子に力を貸してくれるわけで。国外ではヴェルドガル、エインフェウス、ヒタカノクニもカイ王子の即位を歓迎する立場だ。
 官民の間でもショウエンが打倒された以上、厭戦の方向に転ぶだろうし、王朝の再興はかなりスムーズに進むのではないかと俺としては見積もっている。

「次は……前線の将兵達への呼び掛けだな」

 カイ王子が静かに言う。しかし表情には少しの緊張が見られた。

「ん。頑張ろう」
「私達も応援してるから」
「ああ。この国の戦乱を、終わらせて来よう」

 リン王女やセイランにそう言われて、カイ王子は微笑んでそう返すのであった。
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