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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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97 魔法通信機

「みんなでお買物ですか?」
「うん。コートの新調もあるし」

 昨晩は何時もより遅かったからな。
 加えて大仕事が終わったので朝も遅めだ。
 みんなで朝食を摂りながら今日の予定を話し合う。買物の提案にはみんな乗り気だった。装備品の手入れやら備蓄の買い溜めやら、色々やる事はあるからな。

 ふと見ると、イルムヒルトは寒いのが苦手なのか、割と厚着をした上で、暖炉の近くに行って火に向かって手を翳している。

「イルムは寒いのが苦手?」
「うん。完全に起き出しちゃえば大丈夫なんだけど、朝冷えるとちょっとね」

 んー。その辺はラミアだから、だろうか? 今日の朝はかなり冷え込んでいるからな。
 逆にラヴィーネは戸口の近くに陣取り、家の中で一番涼しい場所を選んでいるようだ。

 これが夏場になると逆にラヴィーネがばててしまうんだろうな、とは思う。生活魔法や対抗呪文を刻んだ魔道具を用意して、お互い快適に過ごせるようにしておくのが良いだろう。というわけで、工房にも顔を出すとして。

 後は……移動の為に必要なものか。冬場の竜籠での移動は――まあ、飛竜はともかく乗っている人間が寒さでやられるので普通はあまりやらないそうなのだが。その辺は俺の場合、魔法で補えるから問題ないしな。



「夜遅くから降ったみたいなのに、結構積もりましたね」

 外は雪景色だった。足首ぐらいまで埋まる程度だろうか。
 昨日の夜帰ってくる時は結構冷え込んでいたが、雪は降ってはいなかったからな。吐き出す息も白い。
 出かける前に家の前のものぐらいはさっさと片付けてしまおう。指を鳴らして魔法を使い、スノウゴーレムを作り出す。
 フォルムが何となく雪だるま風になってしまったが……雪だるま自体は単純に作れるので、こっちの世界にも類似のものが存在する。頭、胴体、足の3段式なので、日本のそれより欧米のスノーマンに近いが。

 スノウゴーレムに雪玉を丸めさせて家の前の雪を除けさせていく。露出した地面から小石や枝を拾わせて自分の目鼻の部分に装着させると、マルレーンが喜んでくれた。
 念の為にもう2、3体のスノウゴーレムを作り出し、家の周囲の雪を除けておくようにと命令を下して出発する。

「テオ」
「ん?」
「無理なさらないで下さいね」
「うん。大丈夫」

 グレイスに笑みを返して答えると、グレイスも小さく微笑んで頷いた。
 俺は冬が嫌いだって、グレイスは分かっているからな。
 まあでも。今年の冬はやる事も多いし、みんなもいて賑やかだし。グレイスもあの屋敷にいた時と違って、いつも楽しそうにしてくれているし。
 だから例年より随分楽しいと思う。

「凍ってる。滑らないように気をつけてね」

 お城で育ったマルレーンは雪道もそうだが、氷の上に慣れていないようで。少々おっかなびっくりと言った様子だ。手を取って凍っている部分を渡ってもらう。

「ふふ。マルレーン様、羨ましいです」

 それを見たグレイスがそんな事を言う。うん。エスコート役はしようじゃないか。みんなと手を繋いで氷の上を渡ってもらったりして、のんびりと冬の町を行く。
 やがて、以前ルナワームのコートを買った仕立て屋に辿り着いた。

「いらっしゃいませ……あら。皆さん、今日はお揃いで」

 店主の女性は俺達の顔を見るなり相好を崩した。まあ、グレイスのドレスやシーラの外套も仕立ててもらったからな。すっかりお得意様と言う所だ。
 魔女の仕立て屋を自称する、魔法服飾店だ。こっちに来てからローブを探していてここに辿り着いたのである。

「今日はどういったご用件でしょうか?」
「このコートなんですが」

 と、ルセリアージュとの戦いで穴を開けられたコートを見せてみる。

「あら。穴が開いてしまったんですか」
「すみません」
「いいんですよ。冒険者の方にはよくある事です」
「彼女のドレスもですね」

 と言うと、店主は心得ているとばかりに頷く。

「今、ルナワームの生地が少々心許ないのですが……こちらのコートとドレスを少々の間預けて頂けたら、再利用して仕立て直し出来ますが……いかがですか?」
「よろしくお願いします」

 別に新調でなくても構わない。物が良いので長く使えるならそれに越した事はないし。

「それでは採寸してもよろしいですか? 長く使えるよう、心持ち大きめに仕立て直しますので」

 店主の言葉に頷く。否やがあるはずもない。
 俺が採寸されている間、グレイス達は店に並べられている小物の類を見て楽しそうにしている。

「あれって、ミスリル銀で出来ていたりします?」
「ああ、はい。私でなく、友人の細工師が作った小物ですけどね」

 ……この前誕生日を祝ってもらったしな。懐具合も最近余裕が出て来たし。
 ミスリル銀は魔力を溜め込める。魔石と組み合わせると色々出来るし。みんなに買って、工房で加工してプレゼントするというのは……なかなか悪くなさそうだ。
 採寸を終えてみんなにそんな話をしてみると、高価だから、とみんな固辞しようとしたが。

「ミスリル銀の装備品で、面白い防具が作れるんだ。工房のレパートリーも増えるから、お守り代わりに選んで欲しい」

 そんな風に理由付けをして、みんなにそれぞれ一つずつ選んでもらうことに納得してもらった。
 ローズマリーが俺のライトバインドを防いだのもこれ系統の防具だったりするからな。普段使い出来る小物というデザインなのも悪くない。

「ええと。そういう事でしたらテオの気に入った物を身に付けていたいのですが」

 と、グレイスが言い、アシュレイとマルレーンも同意見なのか頷いている。
 そんなわけで、3人の身に着けるものは俺が選ぶと言う事になった。なかなかに責任重大である。うーん。俺のセンスで良いんだろうか。
 腕輪に指輪、首飾り。色々あったが髪飾りにした。鳥や花の意匠があしらってあり、中々細やかな装飾だ。それぞれデザインが微妙に違う。

 さて。リーダーとしてパーティーへの装備品支給というのと、婚約者へのプレゼントというのではまた別の話だ。これとは別に、3人にはこの店で夜会などに着ていけるドレスも仕立ててもらう事にしよう。



「そう言えば、聞いたよテオ君。今度、地元に帰るんだって?」

 その他、雑多な買物を終えて工房に顔を出し、イルムヒルトの防寒とラヴィーネ用の耐暑、それにミスリル銀の小物の魔道具化などをビオラを交えて相談し、諸々一段落着いた所で、アルフレッドが尋ねてくる。

「あまり長居はしないけどね」

 迷宮攻略だってある。別の区画の探索を始める予定だし、あっちで知っている顔に会っても、気分が良いわけでもない。
 みんなはどうするのかと聞いて見たが、グレイスは言うまでも無く、アシュレイとマルレーンも同行を希望している。シーラとイルムヒルトも一緒に行きたい、と言う事だ。

 みんなの様子をちらりと見やる。暖炉の近くで椅子を並べて、お茶を飲みながらのんびりしているようだ。
 今日はアルバート王子の婚約者であるオフィーリアが工房に来ていて、みんなと楽しそうに談笑している。

「まあ。テオドール様の贈り物なのですか。とても素敵。お似合いですよ、アシュレイ様」
「ありがとうございます、オフィーリア様」

 まあ、中々に男子には入り込みにくい空気だ。特に、俺の贈り物の話だし。

「んー。僕もオフィーリアに贈り物をしようかな」
「お守りになりそうな装飾品がいいんじゃないかな。破邪の首飾りは?」
「もう贈ったよ。フォブレスター侯爵にもね」
「ふむ」

 破邪の首飾りに関しては、呪いから身を守ってくれるという無難な触れ込みでメルヴィン王が根回ししたからな。国内の貴族から結構な数の注文があったらしく、アルフレッドはかなり忙しくしていたが、その分だけ工房も潤っているらしく設備が強化されていたりする。

「いやあ、破邪の首飾りの時は大変だったよ」

 と、その時の苦労を思い出したのか、アルフレッドが遠い目をして溜息を吐く。

「月神殿からも応援に来てもらってね。あれのせいで遅れていた通信機のプロトタイプ、ようやく出来てきたんだ。テオ君が遠くに出かけるなら、試してみたいんだけどいいかな?」
「さすが。じゃあ借りていくよ」

 アルフレッドは俺の言葉に嬉しそうに頷くが、やや浮かない顔になった。

「ま、改善しなきゃならない部分もわかっているんだけどね」
「何か問題でも?」
「いや、1対1で専用の相手と通信が出来るっていう所まではいいんだけどさ。契約魔法だとそれ以上のやり取りが上手く出来なくてね」
「ああ……」

 開発に少々問題が出ているようだ。契約魔法で魔法的な繋がりを結んで親機と子機のような物を作る事は出来ても、不特定多数とのやり取りが上手く行かない、と。

「仲立ちをしてくれる魔道具を専用に作って、一旦経由させればいいんじゃないかな」

 要するに電話交換局というかサーバーというか。そちらを契約魔法の主人、他の端末は全て従者側とすれば、契約魔法に齟齬や問題は生じないはずである。

「それは……良いアイデアだな……。うん。何とかなりそうだ」

 アルフレッドの中で道筋が付いたのか、明るい笑顔で頷いている。ティーカップに口をつけそうになったので、中身を口にする前に言っておく。

「まあその方法の問題は……経由する魔道具を管理してる側の俺達には、その気になったら情報のやり取りが全部分かっちゃうって事なんだけどね」

 と、ぼそっと言うとアルフレッドの笑顔が引き攣って、カップを口に運ぶ動作が止まった。
 魔法通信機が普及したとして。それら通信の秘密を一手に握ると言う事がどういう事なのかに想像が及ばないアルフレッドでもないだろう。

 日本だって通信の秘密という名目があるから「しない」と言う事になっているだけで、可能か不可能かで言ったら可能というだけの話だ。権力側がその気になれば、特に。
 普及したら全部の通信を逐一チェックするなんてのは現実的ではないが、容疑者の通信内容に絞って調べるとか特定ワードを抽出するとか。やって出来ない事はない。

「気が咎めるなら魔法の鍵の呪文の応用で、2人で個別に暗号をかけておけば大丈夫じゃないかな? 共謀しないと悪事は出来ないって事で」
「あ、ああ」
「でもそういう事ならメルヴィン陛下には間違いなく話を通して、一枚噛んでもらっておいた方が良いな。まだ何もしてないから、駄目だったら駄目だって止めてくれるだろうし」

 と俺が言うと、アルフレッドは乾いた笑い声を上げた。
 仕組みが周知や解析された時に、通信の秘密が担保されているかいないかは重要な事だ。信用問題に関わってくる事柄だからである。
 ダメージコントロールを図る意味合いから考えても、メルヴィン王は簡単には悪用出来ない仕組みを作る事そのものには、まず間違いなく賛成するだろうし。秘密を守っている証明だって魔法審問で出来るのだから。
いつも拙作をお読み頂きありがとうございます。
誤字、脱字の報告、感想やポイント、PV等々、
日々の助け、励みになっております。
読者の皆様にはこの場を借りてお礼を述べさせていただきます。

100話も超えて登場人物もかなり増えて参りましたので、
活動報告にて中盤までの登場人物の簡易紹介記事を掲載しました。
ネタバレ防止の意味合いもあって簡素である為、目新しい情報はありませんが
読んでいて「誰だっけ」となった時にでもご活用頂ければと思います。
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