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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外282 託された遺産を

「平和な国が成り立てば、ですか……」

 カイ王子が静かに目を閉じる。そうだな……。カイ王子はこれからこの国を再興していかなければならないし、俺も、ヴァルロスやベリスティオ達には後の事を託されている。草原の王の変質の事といい……2人の王の話には、色々考えさせられてしまうな。

「儂も含め皆、今の話には色々と思うところはあるようじゃが……。これからこの墓所をどうすべきか、意見を聞きたい」

 ゲンライが皆を見回して尋ねる。口を開いたのは、やはりカイ王子だった。

「……ショウエンが倒される前であれば……或いは二人の王の遺産を借りるという選択も、あったかも知れませんね。炉や鎧は別として、ですが」

 カイ王子がゲンライの言葉に静かに答える。……始源の宝貝が生み出した他の宝貝に関しては、草原の王が戦乱を収める為に作ったものだから、その目的に合致していると言える。

「こうして話を聞いた後だと、危険だから壊しちまうってのも乱暴な話だな。解体については、必要になった時に元に戻せそうなのか?」

 レイメイが尋ねると、ゲンライが首肯する。

「それについては問題なさそうじゃ。炉には根幹となる部品があるらしくての。それを取り外してしまえばそもそも使えなくなるらしいし、何よりそれ以外のものでは代用が利かぬ、と記してあった」

 根幹。恐らくはオリハルコンと共振した何かだな。
 あの共振はオリハルコンが知らせてきたものだ。ただ、そこから感じた印象では……何か強い力を持つ器物ではあるというものであった。根幹である心臓部そのものが危険であるとか、そういう事を伝えてきているわけではなさそうに思えたが。

「そういう事でしたら……後は私のするべき仕事として、炉を必要とすることが無いようにしっかりと国を治めていくだけの事です。しっかりとした平和の礎をこれから作り、先達の遺産に、おいそれと頼るような事がないように……。そういう意味合いを込めて八卦炉の重要な部品や、宝貝の核となる部分を取り外し、別の場所に分割して管理するというのが、良いのではないかと思うのですが」

 カイ王子の意見は、当人がこれから王に即位することを考えれば説得力のあるものだ。
 確かに、今になって統治のために八卦炉や、過剰な武力となる宝貝は必要ない、と言えばその通りなのだから。

 同時に、分割管理はしても墓所そのものを壊したりはしない。そうすることでまたショウエンのような存在が出てきた時のために活用できる余地を残しておけば……それは戦いの果てに平和を取り戻そうとした草原の王の望みに合致するし、草原の王の生きた足跡をどうしても残しておきたかった聖王の気持ちを後世に残すものともなるだろう。

「僕は……カイ殿下の意見に賛成です。2人の王の気持ちを、汲んだ意見なのではないかと」
「ふむ。他に、違う見解や意見を持つものはおるかの?」

 ゲンライがそう言って一同の顔を見回す……が、反対する意見は出なかった。それを確認するとゲンライは静かに目を閉じて頷く。

「うむ。儂もカイの意見には賛成ではある。宝貝と八卦炉が機能しなければ、この墓所の危険度はかなり下がると言えよう。再封印と共に、外観を元通りに埋める、という作業は必要になるかとは思うがの」
「後は……どこにどうやって保管するかだな。とはいえ、そんなに選択肢が多いわけじゃないとは思うが」
「賛成した以上、協力は惜しみませんよ」

 そう言うと、みんなの視線が集まった。

「確か……巻物の片割れはフォレスタニアの宝物庫で保管していたのであったか」
「そうですね。現状、タームウィルズの迷宮深奥やフォレスタニアの宝物庫なら、僕の知る限り最も厳重な場所とも言えますし、この場での確約もできます。勿論、こちらでお預かりする場合は間違いない約束の履行がなされるよう、そして後世で誰かが好き勝手できないよう、契約魔法等々による封印処置を行っておく、というのが良いのではないかと」

 隠蔽魔術で魔法的な探知の目を誤魔化し、宝貝の片割れを手に入れたとしても所在を分からなくするといった処置も可能だ。
 契約魔法によって幾つかの条件をクリアしなければ封印が解除されない、どちらかが契約不履行を行った場合の条件設定等を詰めていけば問題はあるまい。俺の権限で約束できる範疇はこのぐらいだな。
 そういった内容を説明すると、ゲンライはしばらくの間思案する様子を見せて、それから言った。

「この上で更に頼むというのは申し訳なくはあるが……巻物と封印で対処できなかった以上は更なる対策が必要……なのじゃろうな。特に八卦炉に関してはこのままというわけにはいかぬ」
「その点で言うならテオドールは信用も十分だしな。それに……宝貝や炉を使う以上の事が自前でできるんだから、必要が無いと言えばそうだろうし」
「いやまあ、そうかも知れませんが」

 冗談めかして言うレイメイの言葉に俺も応じるように同意すると、みんなから笑いが漏れる。今後の相談でやや緊張していた空気も若干和んだようだった。

「うむ……。細かな部分の整備は後程進めていくとして……テオドール殿には、どうか炉の根幹部を預かっていただけるじゃろうか。儂もまた墓所の封印を守る役目を引き継ぐ者として、後世のために尽力すると約束する。そして……テオドール殿が困った時には、此度の恩義を返すために、何を置いても協力するとここに誓おう」

 ゲンライのその言葉に、カイ王子や門弟達が決然とした表情で頷く。

「――ありがとうございます。僕も、宝貝や八卦炉を私心なく守るとお約束します」

 そう言って、俺はゲンライと堅く握手を交わしたのであった。



 そんなわけで早速、必要な作業に移る。
 炉の分解作業はゲンライに任せ、俺達は宝貝の核の回収を担当させてもらう。

 水晶柱自体も魔道具であるらしく、魔石に触れて反応させると水晶部分が薄れるように消えて――内部のものを取り出せる、という仕組みだ。

 可能な限り墓所自体には手を加えたくないという感情的な部分があるので、回収するのは宝貝だけだ。魔道具の範疇である武器はそのままで残しておく。
 宝貝から核を取り外し、それがどの宝貝に組み込まれていたものなのか、しっかりと目録を作って木魔法で作った箱に収納していく。核を取り外したら元通りに水晶柱の中に収納しておく。

 草原の王が作った宝貝に関しては……初期に作られた品々だけあって、核の部分が柄についていたりと、見た目にも分かりやすいのが特徴だ。
 後世に作られた宝貝は時間をかけて製作するだけあって、見た目にも融通が利くのだろう。黒旗のように本体と核が一体型で、外見だけでは普通の道具と見分けがつかないものもある。

「あの鎧に関しては、どうする?」

 と、シーラが尋ねてくる。

「あれは――触れなくても良い気がするな。宝貝としては壊れているみたいだし、背面の腕や持っている武器は魔道具だから」

 それに……あの鎧は2人の王にとっても特別だと思うのだ。そのままにしておいてやりたい。
 ゲンライの方も順調なようだ。八卦炉の球形の外観が立体的なパズルのように複雑に展開して、ゲンライが手順に従って操作すると、構造部分が一つ一つ外れていく。

 そうして――最後に不思議な金属結晶が姿を現した。

「これか。テオドール殿」
「では、お預かりします」

 八卦炉の中心にあったのは――金色の物体だ。
 仄かに光を放っていて、ウロボロスと共に近付くとオリハルコンと再び共振を起こしたのか、結晶の表面にさざ波のような波紋が広がった。正体は不明だが中々……不可思議な金属だ。結晶である上に八卦炉に組み込むための部品も下部にくっ付いているので、同様の金属素材だけではすぐには八卦炉の心臓部の代用品とはならないだろう。

 そして、八卦炉の心臓部を作る技術は既に失伝してしまっている。
 心臓部を……木魔法と土魔法で作った箱にそっと収め、蓋をする。
 それを見届けた後で、ゲンライは八卦炉を逆の手順で元に戻していた。

「これで、再封印して外を埋めたら後は私の仕事ですね」

 カイ王子は俺達の作業を見届け、静かに頷くのであった。そうだな。墓所についてはそれでいい。残るは――ショウエンの起こした戦乱の後始末だ。
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