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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外274 都への帰還

 全員に封印術を用いた上で、拘束用ゴーレムによって梱包しておく。後は頃合いを見てタームウィルズに転送するだけだが……時差の関係上すぐにはとはいかない。とは言え、第2船倉に転がしておくだけなら少しの間なら問題はあるまい。
 そうやって船倉への搬入作業をしていると、道士の内の一人が意識を取り戻したようだ。身動きが取れない事や術の類が使えない事を理解したのか、こちらを睨んで何かしようとしたようだが、目を見開いて青い顔をしていた。

「何者……なのだ、貴様らは一体……」
「教えてやる事に意味を感じないな」

 そう答えると奴は呆然としていたが、やがてどこか開き直ったように笑って「見ていろ。ショウエン様がお前達を――」などと言いかけた。
 が、その後に続く言葉を聞くことになる寸前でゴーレムが蓋を被せて声を遮断。箱状に変形し、輸送用ゴーレムがプロペラを作って広場からシリウス号へと箱を搬入していく。うむ。後はゴーレムに任せておけば問題あるまい。

「そ、そこを動くな!」

 そこに異常を察知した武官が、宮中の警備兵を引き連れて駆けつけて来る。
 魔力反応は感じない。というより、背後にはイグニスやデュラハン、コルリスやベリウス、ジェイクが控えているから、警備兵達はこちらの面々を見て腰が引けているという印象だ。

 ……シリウス号から見たが、彼らはここに駆けつけてくる前に女官達に避難指示を出していたりしたから……まず非戦闘員の安全確保をしてから俺達の対応に当たろうとしているのだろう。

 まあ、そうだな。客観的に見れば俺達は宮殿を強襲した側だ。正体不明であればショウエンの側近でなくとも敵と見做して対応するのが筋だろう。

 この状況でも逃げない上に、引き連れている兵士達まで腰が引けていても決意めいたものを表情に秘めているあたり、非戦闘員が逃げるために時間を稼ぐ、ということも視野に入れているのかも知れない。

「待て! 彼らは敵ではない!」

 そこに――カイ王子が降下してくる。俺達と武官達の間に割って立つようにして、武官達に顔を見せる。
 カイ王子は側近達を倒すまでは前に出られないという事で、今回は待機という話だった。自分達のことなのに矢面に立って動けない事を気にしていたが……この状況で動いたということは、この武官達を信用できる相手だと判断したわけだ。

 ならばカイ王子の見立てを信じよう。確かに俺達で対応すると説明も難しいし、結局適当にあしらって撤退ということになってしまうかも知れない。

 その見立てを裏付けるように、カイ王子の顔を見た武官の……その反応は劇的だった。一瞬怪訝げな様子を見せたが、それから信じられないものを見たというように表情が変わる。手にしていた剣を取り落とし、一歩二歩とよろよろと前に出て、そうしてその場に跪く。

「ま、まさか……。わ、私は、夢でも見ているのか……!? お、お前達何をしている! シュンカイ殿下の御前であるぞ!」

 その言葉に警備兵達も驚愕の表情を浮かべて武官に倣う。カイ王子が宮中から出たのはもっと幼い、子供の頃の話だろうに、この短時間で見分けがつくあたりは古参ということなのだろう。

「……見ての通りだ。ショウエンによりライゴウを刺客として差し向けられ……父は命を奪われたが、私はこうして生きている。ショウエンの掌握した宮中に戻れば命を奪われると危惧し、身を隠してショウエンを打倒するための機会を窺っていたのだ。彼らは……私に力を貸してくれている恩人であり、心強い助っ人でもあり、大切な友人でもある」

 その言葉に、俺達も包拳礼で応える。

「そう……だったのですか……。私は……そうとも知らずに二君に仕え……」

 ショウエンやライゴウへの憤慨と、カイ王子が生きていたことへの喜び。複雑な感情が混ざって溢れ、感情が決壊しそうな表情だった。

「分かっている。成さねばならない事があるから、生きて成すべきことをしようと考えたのだろう?」

 そんなカイ王子の言葉に……武官は感極まったのか、嗚咽をこらえるように身体を震わせていた。
 カイ王子は静かに尋ねる。

「そう、だな。その気持ちは聞いておきたい。咎めるためでなく、これほどに待たせてしまった事をしっかりと受け止めておきたいのだ。何を思っていたか、それを知りたい」
「恐れながら……。仕えるべき主を失ったとしても……今は亡き友の子らが働く、この場所を去る事が、できなかったのです……。何か、彼らのためにできることがあるのではないか、と」

 それは……宮中で働く女官や文官であったり、彼の引き連れている兵であったり、だろう。
 部下の兵士達は静かに目を閉じたり、その言葉に感じ入ったりしている様子であった。
 敵対派閥の粛清も行われたというが……残された者がそうならないように調整役としてショウエンに従う事を選んだ、ということになるのかも知れない。ガクスイのところにやってきた使者もそうだったな。

「私が不在の間、苦労をかけたな」
「何と……勿体ないお言葉……」
「しかし、まだしばらく今までの立場を崩さずにいて欲しい。あの者の正体は邪仙。人知を超えた力を持つ危険な相手だ」
「そ、そうだったのですか……。いや、言われてみれば納得できるところも……」

 武官には心当たりがあるらしいな。

「奴には二度と都の土を踏ませないつもりで動くが……打倒するまでは対抗する力の無い者は動かない方が良いだろう。側近達もまた道士としての力を備えていたし、宮中にも奴に従う者はいるはずだ。つまり、ここで私と会った事、話した事は、しばらくの間他者に明かさない方が良いな」

 そんなカイ王子の言葉に、武官は瞑目する。

「肝心な時にお力になれぬとは……」
「気にすることはない。ショウエンを打倒した、その後に私に力を貸して欲しい」
「――はっ! 必ずや!」

 武官と兵士達は真剣な表情になり、跪いた体勢のまま包拳礼で応えるのであった。



 駆けつけてきた武官達の言葉によると、ショウエンに喜んで付き従っていた連中も把握はしているが、彼らはサイロウ襲撃の段階でキナ臭いものを感じ取ったのか、都にある自分の屋敷に逃げたりして、現在は宮中からは避難していて不在であるらしい。

 なるほどな。保身という一点に関しては敏感な連中だが……。

 このまま蚊帳の外にいてもらい、宮中不在で邪魔が入らない内に迎撃の準備を整えたり、奴らの墓所の封印を解く研究がどこまで進んでいるのか資料の類に目を通したりと、時間の許す限り、やれることをやってしまうことにする。

 どうも、墓所の封印についてはショウエンと高弟達の研究内容のようで、今まで事情を聞いた者達はそのあたりの全体的な計画を把握していない。都を制圧したことで、そのあたりの事が分かれば、こちらとしてもより適切な手を打てる、というわけだ。

 だが、資料を見るのはこの国の文字を読める者の仕事であるからして……ゲンライの門弟達に頑張ってもらうしかない。仮にこのあたりが暗号化されていたとしても、資料を残しておく理由にはならない。押収してしまえば研究の妨害にもなるからだ。だからそちらの仕事は任せ、念のためにもう少し詳しく状況を聞いておこう。

「ショウエンに従っている者の中に、軍関係に顔の効く者はいますか?」
「そういった者は現在、前線に向かっているので……都にいるのは文官ばかりですな。仮に制圧して捕獲しろと言われれば、我らだけでも障害にはならないかと」

 と、武官が教えてくれる。
 今の都の状況を整理してみると……ショウエンに喜んで従っている武官は前線への援軍として配属されて都から不在という状況らしい。
 戦況が悪くなった場合、側近達が前線に赴いて行動するのだろうから、その足掛かりとして前線にそういう連中を送っておくことは必要な事なのだろう。

 代わりに、彼のように調整役をしている者は、監視が必要だから都に残されるという、ちぐはぐな状況を生んでいる。まあ、通常戦力であればショウエンとその側近達には敵にさえならないという認識があるからこそできる事なのだとは思うが、それも道士達が制圧された今の状況では、裏目に出ている。

 そうなると、ショウエンに呼応し、兵士達を率いて都の市民を人質に取る、といった行動を取る事のできる者はいなさそうだ。
 とは言え、元より都をショウエンとの戦いの舞台にするつもりはないのだが。
 では、状況把握も終わったところで、結界を張る準備等々をこのまま進めていくとしよう。
いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

2月25日発売の書籍版境界迷宮と異界の魔術師7巻に関しまして、特典情報が公開となりました!
詳細は活動報告に書きましたので参考にしていただければと思います。

今後ともウェブ版、書籍版共に頑張っていく所存ですのでよろしくお願い致します。
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