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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外273 宮中制圧

 ――保険として敵を分断するための結界を張る準備を進めながらも次の一手を打つ。
 即ち、宮中にてショウエンの留守を待つ3人の道士の危惧を現実のものとしてやるのだ。
 まず、預かっていたランタンはマルレーンに返す。俺自身はまたも姿を消し、宮中に潜入して待機だ。サトリの引き出した情報を最大限有効活用させてもらおうじゃないか。

「た、大変です! に、西の空より何か――妖魔の群れが接近しております!」
「何だと!?」

 西の空から迫ってくるそれを目にした伝令の言葉に、3人の道士が衝撃を受けたような表情で立ち上がる。
 すぐに3人が宮中の広場に出て西の空に目を向ければ――そこには黒い魔獣の群れが都に迫ってくるところだった。
 その先頭に――黒い旗を手にして足元に雲を纏って飛行してくるサイロウの姿。その姿が宮中でも見える範囲に留まり、陣を整えるように魔獣達を配置していく。

「馬鹿な! 姿も隠さずに直接攻めてくるだと!?」

 1人が思わず漏らしたその言葉に、伝令の驚いたような視線が突き刺さる。ショウエン達の正体は隠している。すぐに失言だったと気付いた男はきまりが悪そうに言い訳のための言葉を続けた。

「ああ、いや……。サイロウが裏切ったかも知れないという情報は我々のところにも届いていたが、見ての通りだ!」
「と、仰いますと……」
「見て分からんか? 奴は妖魔に魂を売り、その手先になったらしい! 今すぐ都の兵を集めて撃退の準備を整える準備をせよ! 我らの守りはいい!」
「は……はっ!」

 そんな風に立場を使って押し切る。慌てて走っていく伝令を余所に、他の2人に白い目を向けられる男。

「驚いたのは分かるが……もう少し気を付けろ」
「すまん……」
「過ぎた事は仕方がない。それよりあれをどう見る?」

 その言葉に、道士達の視線がサイロウに――正確にはマルレーンのランタンが作り出したサイロウの幻影と、シグリッタのインクの獣の群れに向かう。

「黒旗と魔獣、か。……あれがもしかすると奴の預かった宝貝の力か?」

 宝貝の正確な能力に関しては、連中は仲間内でも情報共有していない。秘密主義は一長一短だろうが、ここでは悪い方向に作用していると言える。

「だろうな……。宝貝にああいった特徴があるのなら、聞いた作戦の内容に一致する」
「北西部が妖魔の群れに攻め滅ぼされる、か」

 それでもある程度の内情はお互い聞かないまでも知っている。作戦内容については詳細までは知らされずとも概要程度は心当たりがあるのか、こうして勝手に納得してくれるというわけだ。

「だがあの動きは……攻めてきたというのなら、何故あんな距離に留まる?」
「こちらの出方を見ているのかも知れんな……」
「我らと違って正体を隠す気が無いからか?」
「……つまり、ショウエン様達が不在であることを奴は知っていて、それでも念のために探りを入れている可能性、というのはどうだ?」
「有り得る……な」

 自分達の立場ならば有り得ない。そんなサイロウの行動に、彼らは舌打ちした。
 相手は大手を振ってああして力を堂々と行使してくるが、自分達3人はある程度慎重に立ち回らなければならない。流石に戦闘になれば、身を守るためにそんなことを言ってはいられないだろうが、それだけで後手後手に回ってしまう。サイロウがああして自分が道士であることを明かしても、彼らはどこまで情報が漏れているか分からない段階では自由には行動できない。主人であるショウエンが不在ならば尚更だ。

「しかしそうなると、こちらに動きが無ければ攻めてくる可能性が高いという事になる。時間的な余裕はあまりないぞ。迎撃をするにしてもその姿を多くの者に見られるのは拙い」
「あんな能力を持つ宝貝だったというのなら……2人をショウエン様の下へ向かわせてしまったのは失敗だったな」

 その言葉に、少しの間沈黙が落ちる。

「……せめて、空を飛んで派手に立ち回るのは避け、宮中に引き込んで戦うべきだな。ショウエン様達が戻って来るまで、どうにかして凌がなければならない」
「やむを得んな。我らの戦う姿を見た宮中の連中は、襲撃の際に死んだ、ということにして、後で集めて処分するしかあるまい」

 時間的猶予は少ないと分析しながらも、3人は残された時間を使ってサイロウの能力や狙い、目的、対策等々を分析する。

「そもそも、奴は何のためにこの場所を襲撃する? ショウエン様の不在を狙ってきたのであれば……」
「決まっている。非常時の防衛のために我らの使用が許されている、あの宝貝を奪うつもりなのだろうよ」
「宝物殿の……あれか。全く……! 内情を知っている相手の裏切りというのは厄介極まりない……!」

 吐き捨てるようにかぶりを振る。

「時間がない。私は宝物殿のあれを持ってくる」
「……使うのか?」
「今使わずに何時使う? サイロウが宝貝を使って攻めてくるならば、対抗手段は必要だ。ただでさえ、数の上では不利なのだからな。私からショウエン様にはお話する」
「分かった。では、我らはその間に呪符や霊剣やらの、通常武装の準備をしておこう。当然お前の分もな」
「ああ。そちらは任せた。十分に気を付けろ」
「お前もな」

 そう言って3人は分かれて慌ただしく走り出す。1人は宝物殿。残り2人は迎撃のための準備。

 この情報は――サトリが引き出している。都に残っている5人について。ショウエンから預かっている宝貝はないのかと質問を投げかけた。
 連中は都の防衛のために自分達だけでは対処できない事態において、1つの宝貝を使用することを許されているそうだ。それは宝物殿内部に安置されている、のだとか。

 やがて男は宝物殿の扉の前に到着する。
 見張りの兵士に妖魔の襲撃に対しての迎撃に加わるようにと指示を出しつつ人払いをすると、懐から鍵束を取り出し宝物殿の鍵に手をかけ、それを回し――。

「ごっ!?」

 そうしてそのまま後頭部に俺の魔力衝撃波の一撃を貰って、鍵に手をかけたまま意識を失って床に沈んだ。

「道案内お疲れ様」

 封印術を叩き込んで術を使えない状態にし、拘束用ゴーレムで梱包。後は……宮殿の隅にでも箱形態で放置しておいて、制圧後に回収すればいいだろう。
 分散した敵の撃破と、切り札である兵器の鹵獲……というわけだ。これで都の敵道士は残り2人。宝物殿内部の宝貝については、既にサトリから特徴を聞いているので俺が回収させてもらう。

 残念ながら……高弟3人とジンオウは、それぞれ愛用の宝貝があり、常時携帯することを許されているのだとか。ショウエンも多分同様だろう。
 このへんの宝貝が全部宝物殿に収められていれば苦労が無くて良かったのだが……。

 宝物殿の扉を開き、内部を見やる。金銀財宝に瑠璃玻璃……。
 魔力反応もあちこち見られるが、宝貝と思われる異常な魔力反応は1つだけだ。目当ての代物はすぐに見つかった。
 そうだろうな。防衛用なのだから、非常時にすぐに引っ張り出せるところに置いておかなければ切り札の意味がない。人目を避けるというのなら、宝物殿に安置した段階で目的は果たせているし。

 ……宝物殿に収める物品としては異質な代物だ。
 俺の背丈よりも大きいぐらいの六角の柱。色は暗青色。表面に複雑な紋様が刻まれている。

 さて。どうやって運んだものか。結構な重量がありそうだが。レビテーションを使うかゴーレムあたりに運搬してもらうかだが……下手な事をしてこの場で宝貝に起動されても困る。
 なので、まず封印術を用いておく。光の鎖が絡んで、しっかりと効果が発動したことを確認。それに、これなら万が一敵にまた奪われてもすぐに起動することはできまい。

 レビテーションを用い、ゴーレム数体を作り出して宝物殿から運び出し、改めて施錠をしておく。この鍵束に関してはカイ王子に返却するのが筋だな。

 それから……残る問題は敵の道士2人だ。位置は把握しているし、シリウス号側のバロールが土模型を作っているので仲間達も人相は分かっている。そちらに五感リンクで意識を向ければ――。

「おのれ、貴様何者だ!?」

 天井をぶち破るようにして直上から強襲してきたグレイス、シーラ、デュラハン、イグニス達と少し距離を置いて対峙している真っ最中だった。残りの面々は敵が逃亡しようとした時の後詰めだ。
 質と量で勝っていて宝貝も所持していないならば、後は力押しで押し切ってしまえばいい。遠慮する必要はどこにもない。

 加えて――万が一の反撃も潰す。
 敵の後背。柱の影から滑り出たカドケウスが、足元から影の槍を繰り出す。目の前の敵に対して身構えていた道士達の、手足を正確に貫こうかという、そのタイミングで。

「今ッ!」

 カドケウスとの五感リンクで攻撃のタイミングを察したグレイスが、合図と共に突っ込んでいた。シーラ達はグレイスに呼吸を合わせる形。
 突っ込んでくる面々に一瞬遅れて、道士達は突然手足を貫いた痛みに呻き声を漏らす。それはそうだ。正面に意識を集中して、今まさに突撃してくるというところに、後方の足元からの見えない奇襲が重なったのだから。完璧なタイミングの突撃と、道士達の致命的な隙と――。

 片方はグレイスに放り投げられたところをデュラハンの馬に蹴られて跳ね飛ばされ、もう片方はシーラによってすれ違い様に手足の腱を切られて地面に転がったところを、イグニスによって蹴り飛ばされていた。

 いずれも派手にぶっ飛んで転がり、立ち上がってはこない。制圧完了だ。高弟達に比べれば劣るとはいえ……敵の戦力をほとんど消耗無しに削れたのは僥倖と言えよう。
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