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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外272 隠蔽と強襲

 ……5人の道士。連中の話しぶりからすると今、都にはあまり戦力はいないようではあるが、それでもまだ確定とは言えないだろうし、真っ向から戦うと厄介だ。
 人数に関してははっきりした事が分からない内は断定しない方が良いだろうし、もしかすると俺の存在に気付いた上で逆に罠を仕掛けようとしているという可能性も考慮すべきだ。

 だから、まず敵の動きを見る。
 程無くして出立の用意をし、北門から外出する2人の道士。
 都の兵士が出払っていて治安維持のための要員が少ないからか、外出を禁じているのか。或いはショウエンが恐怖政治を進めていたが故に、街に活気がないのか。いずれにしても街の中も街道も、人の往来は極端に少ないという状態だ。

 道士は街道を少し進んで門番達を含めた人の視線が途切れると、周囲に誰もいない事を確認し、互いに顔を見合わせ合って飛行のための術式を用いる。ここから直線的に墓所へ向かおう、というわけだ。

 だが――そうはいかない。

「――む? なん、だ?」

 警戒度を高めているからだろう。一瞬、何かの気配を感じたのか、一人が周囲を窺って――。

「何っ!?」
「うっ、おおおおおっ!?」

 そのまま2人の道士の内の片割れが、突如現れて突っ込んできたシリウス号――正確には連中が光魔法のフィールドの中に入り込んだ瞬間に見えるようになった――の船体を避け切れずに跳ね飛ばされる。誘いであれ何であれ。これは予想外だっただろう。

「な、何だこれはっ!? 船ッ!? 空を飛ぶ船だと!?」

 目の前を猛烈な速度で真っ白な船体が突き進み、光魔法の範囲内から出た瞬間にシリウス号の姿が再び突然掻き消える。
 シリウス号は光魔法と風魔法のフィールドを纏っている。

 通常、大きな物体がある程度の速度を出して進めば後から風が吹いたりと、大気が遅れて動くものだが――周辺の草木は一切動かなかった。シリウス号のフィールドは音を遮断し、そういった空気の通常の動きを抑制している。

 限界はあるが、あの程度の速度ならまだ音も漏れないし風も吹かない。それでも、派手な動きをすれば勘のいいものなら気付く可能性はある。以前、グランティオスでは海王ウォルドムの眷属にも突撃を仕掛けたが、あの時は周囲が水だったからシリウス号の動きを遠くからでも探知しやすかった、というのはあるだろう。先程の道士達よりも、もう少し離れた距離から感知していたからだ。

 ともあれ。フィールドから飛び出した瞬間に気配の消えたシリウス号に、道士は慄然とした表情で目を見開いた。
 考える間は与えない。シリウス号の消えた方向から、突然光の弾丸が現れて突っ込んでくる。フィールド内から飛び出したバロールだ。

「くそっ!? 何だというのだ!」

 突っ込んでくるバロールを回避。弧を描いてバロールが再び突っ込んでくる構えを見せた時には――道士は咄嗟に身を翻して、街の方向へ飛ぼうとした。
 そうだ。ショウエンの所に逃げるには……あまりにもシリウス号もバロールも飛行速度が早過ぎる。
 到底逃げ切れるものではないし、報告に出た自分達を狙っているというのが分かる動き。正体不明の敵。仮に罠だと予想していたにしても想定外過ぎる相手。
 ならばどうするか。当然、この局面、この距離ならば仲間に助けを求めるように動くだろう。

 だが――少しの距離を飛んで、逃げられたのはそこまでだ。背後を気にしながら飛んだために、空間に展開したそれを見切る事が出来ず、空中で網状の何かに突っ込んで、引っかかったように男は動きを止めてしまう。

「これ、は――? 蜘蛛の――巣?」

 呆然とした表情で呟く。そう。それは蜘蛛糸。オリエが空間に広げた網だ。自由になる手で呪符を取り出そうとした次の瞬間、弧を描いて飛んできたバロールが男の脇腹にめり込んでいた。肋骨に――罅を入れるぐらいの威力に加減している。

「かはっ!」

 息を無理矢理吐き出されるような形で男は苦悶の声を漏らす。強烈な痛みで、手にした呪符を取り落とす。その――意識の隙を縫うように。バロールが密着した状態から封印術を叩き込んでいた。
 バロールが離れると同時に男の身体に光の鎖と蜘蛛糸が同時に巻き付いていく。先にシリウス号に跳ね飛ばされた片割れも……意識はないが息はある。こちらにもバロールから封印術をかけておくとしよう。

 接敵から制圧までが、ほんのわずかの間の出来事。都からでは、襲撃現場の様子は――マルレーンのランタンで幻術を展開しているので平和な街道の風景しか見えていないはずだ。
 姿を消したまま動いたシリウス号は勿論の事。空間に残光を残すバロールの軌跡も。そして空中で絡め捕られた道士の姿も。何一つ都からは見えないまま、見せないままで2人の制圧は終わった。

 ショウエンと合流し、それぞれが宝貝を所持してそれを戦闘の場で発動させるとなると……元々の未知数な部分と相まって厄介な戦力となるのは間違いない。
 だから、合流も報告もさせるわけにはいかない。つまりこちらの解答としては、実力を発揮させずに問答無用の奇襲で叩き潰し……宝貝を使える頭数をまず削ってしまう、というものになる。

 優れた戦士だろうが魔術師だろうが、実力を十全に発揮できないままに倒されてしまえば同じ事だ。
 どうしようもない規模、手段での奇襲を仕掛けて、優勢な内に抵抗を許さず押し切ってしまえば苦労はない。だからこそ、自分達はそういう状況に陥らないように立ち回っておくのが大事なわけだが。

「き、貴様ら……一体?」

 向こうからの質問には答えない。
 封印術が効果を発揮したところで、シリウス号が戻ってきて収容作業に移る。
 正体不明の敵を前にしながら身動きは取れず、術の一つも発動しない。道士の男は自分の置かれた状況を理解したのか、絶望的な表情を浮かべていた。

 目の前には――マクスウェルを肩に担いだイグニスと、その隣にベリウスの姿。巨大な斧を肩に担いだ見慣れない甲冑姿の巨体、三つ首の魔獣の登場に、道士は流石に恐怖の表情を隠し切れなかったようだ。

「聞くが――都に残ったショウエンの門弟は残り3人で、墓所にいるのはショウエンと高弟3人、ジンオウで……5人に相違ないな?」

 巨体で威圧感のあるイグニスが尋問している振りをしながら……実は横にいるマクスウェルが尋ねる。
 実はイグニスの巨体に隠れるようにサトリが背中に張り付いていたりして、こちらが本命だ。イグニスやベリウスに前に出てもらっての質問は、サトリの護衛であると共に読心を確実なものにするための精神的な揺さぶりでもある。

「……く、くくッ! 何を勘違いしているのか知らないが……! 都にはまだ20人からなる陛下の門弟がいるぞ! 何者かは知らぬが……貴様ら如き、すぐに仲間達が捕縛し、殺しにかかるだろうよ!」

 ひきつったような笑い顔でありながら、男はそんな風に叫んだ。
 だが無情にもイグニスの背中あたりから、コンコンと軽く装甲を叩く音が二度響く。サトリからの合図だ。男の言葉がもし真実ならば装甲を叩く事はない。

 こちらの質問と、男からの回答。どちらも間違っている場合なら合図の回数はまた変わる。改めて分かったことを通信機で知らせる、という形になるが……先程の合図は二回。
 こちらの質問した人数で合っている、の意味だ。つまりは……男の言葉ははったりで、こちらの確認している者達以外にショウエンの門弟はもういない、ということになる。

 男は人数を随分と過大に盛ったものだが……意図するところは時間稼ぎだな。都の防御が厚いと思わせて、これ以上の状況悪化を防ごうと考えたのだろう。
 そうこうしている内に、コルリスが道士達を結晶で固めて、そこに拘束用ゴーレムのメダルを埋め込んでいく。これで……連中は拘束用ゴーレムを他者から外してもらわない限り無力化された。捕獲した連中にはもう少し質問をしておこう。できる限りの部分を丸裸にしておくのだ。

「さて、と――」

 振り返り、都を見やる。いくつかの事項を質問したら、続いて残り3人の道士の制圧に移るとしよう。
 街の人々や、宮中で働く真っ当な人員には……無用な被害を出さないように立ち回りたいところだ。それも……ショウエン達が戻って来る前に、迅速に動く必要がある。
 というよりも周囲の被害を考えるなら、ショウエン達を迎え撃つのは都以外の場所にしたいとは思うのだが。
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