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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外271 揺さぶりと疑心

 頭目達など……その後の顛末が明らかなショウエンの側近達と違い、サイロウとその副官であったリクホウの使者組は……シガ将軍の所へ使者として向かった後に消息不明となった。
 加えて迅速な敵の団結であるとか、各地で仲間の道士達が撃破されるという、急激な状況変化。これらの情報に加えてサイロウの裏切りを仄めかすようなリクホウの幽霊の出現。

 真相は違うが、そうなのかもと思える状況証拠が揃っている状況下での幽霊騒動だ。連中とて心穏やかではいられないだろう。勝手に背景を想像してしまい、集まって話し合ってくれる。それは多くの情報を得る、またとない好機と言えよう。

 姿を隠したままで、状況の推移を窺う。

 門番達が幽霊を見たということで騒ぎになったらしく、宮廷の奥から兵士や文官、女官達がやや遠巻きに様子を見に集まって来ているが……。

「何をしている貴様ら! 仕事に戻れ!」

 人だかりの向こうから、集まった連中に命令する者達がいた。先程の門番達を連れている。
 身分を現す冠についても知っていた方が便利だと色々教えてもらったが……そこから判断すると、集まっている他の者達よりも立場のある連中だ。

 人が集まっているのを目にして、少し呆れと驚きの混じった表情の後でそんな風に命令していたから……情報の真偽を確認しにきたら既に騒ぎになっていた、というところだろうか?
 様子を見に来た者達は上役から命令されて、慌てたように散らばっていく。

「全く……」

 と、一人がかぶりを振る。
 ……全部で5名、か。どうやら連中は道士に間違いないようで、見たところ魔力反応は高めだ。これで都にいるショウエンの側近は全員か。それとも他にもいるのかは不明だ。最低5名の道士がいると理解しておこう。

「それで? お前達の見たもの、聞いたこと……。順を追って正確に報告するのだ」
「はっ、はい!」

 少し青褪めた顔色で、門番達は先程の光景を説明する。

「平常通り、門番として正門を守っておりました。そこにふらりと、リクホウ様が現れたのです。……使者として帰ってきたのであるなら、同行していたはずのサイロウ様や護衛達がいないので変だな、とは思いました」

 そう言って兵士達は道士達の顔色を窺うように見やる。

「良い。続けよ。外壁側の門番にも後程確認を取る。本当に幽霊であるなら、都に入るところを確認していなくても、不思議ではないだろうが……」
「はっ……! お声をおかけしたら陛下の所在をお尋ねになってきました。確か……宮殿にいるのなら至急取り次いで欲しい、不在であればこの場で教えて欲しい、余人には伝えられない内容だ、と。」
「ふむ……」
「しかしそのように受け答えはしてくれましたが、どうも体調が優れない様子と言いますか、痛みをこらえているような、と言いますか……。心配になって尋ねてみたのですが大丈夫だ、急ぎだというばかりで」
「私が陛下の御不在を確認し、戻ってきてそのように報告すると、苦悶の表情を浮かべて……その。あのあたりで、ですね。姿が薄れるように消えて行ってしまいました」

 片割れの言葉が本当であるというように首をぶんぶんと縦に振る。

「このあたり、か?」
「丁度、その一歩右あたり、です」

 2人ともリクホウの幻影が消えた場所には近付きたくないらしい。少し距離を取りつつ知らせる。

「それで? 先程話したことを、もう一度皆の前で説明せよ」
「はっ。消える間際……。苦しそうなご様子で……残念だ。サイロウ様が皆に攻撃を、と仰っていました」
「……間違いないのだな?」

 と、念を押すように尋ねる。

「は、はい。私達二人とも同じものを見て、同じ言葉を聞きました。なあ?」

 そう言って、相方に同意を求める。

「そ、そうです、ね。最後の言葉に関しては私が聞いた内容と一言一句同じです。間違いありません」

 門番達は揃って本当だ、信じて欲しいと口にする。

「……分かった分かった。お前達は確かにそのようなものを見たのだろう。お前達は……そうだな。その様子ではこのまま正門の門番の仕事を続けるのも酷であろう。正門を守る仕事は別の者に引き継ぎ……それが終わったら外門を守る者達に、サイロウやリクホウ達が帰って来たか確認を取ってくるのだ。引き継ぎと外壁での確認、そしてその報告を済ませたら、今日はもう休んでいて構わない。しかし今日、ここで見聞きした事は、誰かに聞かれても無闇に話をするな」
「はっ! お、お気遣いありがとうございます!」
「行け」

 命令を受け、門番2人は弾かれたように走っていく。
 門番交代を命じたのは人払いの意味もあったのだろう。2人が遠ざかっていくのを確認して、残った道士達の1人が言った。

「――今の話、どう思う?」
「サイロウ殿の裏切りと、幽霊となってその事を知らせにきたリクホウ殿、か……」

 仲間の言葉に、その場に少し沈黙が落ちる。

「サイロウ殿は、師父……ショウエン様に心酔していた。それに幽霊とは。どちらも俄かには信じられん話だが……だからと言って無視するには、余りにも内容が剣呑だな」
「リクホウ殿はキョウシ――魂魄を操る術に長けていたはず、だ。幽霊となって現れるというのは有り得ない話、ではないのかも知れん。門番1人ではなく、2人揃ってともなれば……勘違いという線もなさそうだ。そのようなものを目にしたのだろう」
「状況を素直に受け取るなら……。ショウエン様に裏切りを知らせに来て、不在と分かったがために、幽体を維持できず……せめてもの伝言を残した、というところか?」
「なるほど。残念という言葉は、それを受けてのものか」

 5人の道士達は少し移動しながらそんな風に相談を続ける。丁度門を抜けて内側は……広場になっていて、周囲に人影がないか見通せるような場所だ。見通しが良いし人払いもしたので相談するのに持って来いということだろう。

「真偽の程はともかく。ここは敢えて裏切ったという前提で考え、これからの行動を決定すべきではないかな?」

 まとめ役らしい男の言葉に、連中の顔に深刻さが浮かぶ。

「だとすると、今の状況は少し拙いな。詳しくは知らぬが、ショウエン様よりサイロウ殿に貸し与えられた宝貝は多数を相手にするのに向く代物だと聞く。それを以って北西部を鎮圧する作戦と聞いた」
「それは……確かに拙いな。ショウエン様達がおられると分かっているこの都に、単身で攻めてくるとは思えんが……だからと言って不在中の留守を預かっている我らが、備えや報告を怠るというわけにもいくまい?」
「となれば誰か1人か2人……。ショウエン様の下へ向かってもらい、報告してすぐにでも戻ってきて頂く……しかなかろう。今あの遺跡にいる方々の内、誰か一人でも都に戻ってきていただければ戦力的には安泰だ」
「サイロウ殿とその宝貝を加味しても、か。確かにな。場合によってはジンオウに頼る事になるかも知れないのは、些か癪ではあるが」
「背に腹は代えられぬよ。それにショウエン様も我らの関係については分かっておられる。戻ってくるとしたら陛下か、御三方の内の誰か、ということになるのではないかな?」

 そう言って彼らは役割分担について相談していた。ジンオウの名も出た、か。となると、ジンオウもまた、今この場には不在ということになる。
 魔法審問の情報で聞いていた通り、他の門弟達とはあまり親しくしていないようではあるが。

「――では、私がショウエン様の下へ向かおう。飛行の術には些か自信がある」
「私もご一緒しよう。飛行の術はそれなりと自負しているし、サイロウ殿相手に単独行動というのもな」
「それは助かる」
「ならば、我らはいつでも戦いに臨めるように警戒しておこう」

 といった感じで結論も出たようだ。各々が自分の役割を確認して動き出す。
 いやはやこれは……。ショウエン不在と言うから揺さぶりをかけにいったら……想像以上に有益な情報を引き出せたな。状況も……俺達からして見れば、かなり良い方向に転んだと言える。

 これは……上手くすると、もう少し連中の戦力を削る事ができるか。これらの情報を元に、こちらも作戦に更なる修正を加えて動くべきだろう。
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