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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外263 前線の会議

 ショウエン陣営に対する情報伝達は順調だ。ガクスイ陣営に続き、シガ将軍、ホウシン陣営についてのそれぞれの報告書提出、仲間の回収も終わり……今は状況の推移を見守っている、という段階だ。

 彼らの上役についてはある程度ゴリョウ達の持つ実力を知っているらしく、太守達の同盟締結に関して、何故締結されるまで情報を掴めなかったのかと、恨み言を一度言われはしたものの……報告の正確性については認めているようなので、その言葉をすぐに撤回し、何故いきなり足並みが揃うような方針転換が起こったのか理解できない、といった様子だった。

「ショウエンは破壊工作して状況を誘導した上で、足並みが揃わないようにしていたようですからね……」
「その上で将兵にこうなるだろう、って命令していたわけだものねえ」

 アシュレイの言葉にしみじみと頷いて答えるイルムヒルトである。

「でもそうなると、適材適所で動かしていたわけですから……変化に対応するために大慌てなのではないでしょうか?」

 と、グレイスがにっこりと笑う。

「そうなるかな。それにもしかすると、ショウエンにとって本当の密偵は、あの頭目の方だったかも知れない。状況把握等々、あの宝貝の能力だったらやりたい放題できるだろうし」

 自分達が仙人であることを伏せる方針には変わりない様子だったから……要人暗殺のような強硬手段には出なかったようだが。

「しかしそうなると、ショウエンは一体何のつもりなのかしらね。始源の宝貝なんてなくても鎮圧する手札は持っているのに」

 クラウディアが目を閉じる。

「本気なら地下潜航の宝貝で暗殺でも何でも出来ただろうしな……」

 これなら仙人であることを明るみに出さないで済む。万が一の露見を考えて慎重に事を運んだ、とも言えるのかも知れないが……。
 自分達の持てる通常兵力を使い、勝てる範囲内で戦いをコントロールしている。或いは実地で戦争しながら実験でもしている、という印象だ。……戦乱を、楽しんでいるのだろうか?

 単純に下卑た趣味嗜好か。或いは始源の宝貝の封印を解くまでの時間稼ぎか。それとも、混乱を巻き起こし長引かせる事で何か得をするのか。
 仙人――つまり元人間であるという、その前提そのものが違っている、という事まで含めて色々考えてはみたが……ショウエンの側近達から得られる情報も、実像に迫るにはまだパーツが足りていない。

「ショウエンに関しては色んな可能性を排除せず、いずれにも対応できるようにしておく、というのが現時点での正解かな」

 そう言うと、みんなも真剣な表情で頷いていた。

 ともあれ、ゴリョウ達を各都市に送っていくのと同時に、前線にシーカー、北方の街道、要所要所に兵達の動きを見られるようハイダーも配置してきた。
 これで――敵の動きは丸見えだ。ショウエンが後方の兵をシガ将軍の結集させている軍勢に対抗するために北西部前線に送るのならば……都の兵力はスカスカになる。

 さて。そうなると現時点での懸念であるが。まず、第一に警戒すべきはショウエンとその側近達が前線に出てくるケース。
 これはサイロウ、リクホウと頭目を各個撃破したことにより、抑止力が働いているが、警戒はしておくべきだろう。
 対応手段はこちらとしても各地への転移を利用しての各個撃破。出てくる規模によっては決戦となる、かも知れない。

 次に――睨み合いを放棄して敵が攻めてくる可能性。
 最も通常兵力での戦闘が起こる可能性が高いのが、今シリウス号のいる、ホウシン陣営の前線――砦であるが……。今現在、シーカーを動かして前線都市の城に潜入させているところである。

「十分な音声が取れる場所につけました! 何だか……シーカーからの声を聞く限りでは、敵の会議はかなり荒れていそうですね」

 と、シオンがシーカーを制御する水晶板モニターからの音声を聞いて苦笑する。
 向こうから聞こえてくる声はあまり円満なものとは言えない。前線の武官達が口角泡を飛ばし合い、自分の主張を飛ばしたりそれを否定する根拠を述べたりと、色々大変そうな様子だ。だが、概ね攻めるべきと守るべきという意見に二分されているようだ。

「片方は兵糧が十分に残っている今攻めるしかないって言ってる。時間が経つと本当にどうしようもなくなるからって」
「もう片方は攻める事は諦めて……兵糧の消費を切り詰めつつ……防備を固めているところを見せて、輸送路の復旧を待つべき……だって」

 マルセスカとシグリッタが艦橋のみんなにも分かりやすいように状況を教えてくれる。
 敵が前に出にくいように色々こちらも工作したからな。
 どちらの主張も連中の立場から見てみれば一理あるが……。
 ここでの敵の決定する方針が分かれば、後は北方の都の状況を見て、俺達も表立っての行動を開始できるということになるが……さて。

「輸送路に関しては事故でしょう。敵とて把握していないはず……!」
「だからこそ負ければ後がないではないか! すぐには輸送路の復旧が難しいと報告があったばかり! まずは手出しをされにくいように防備を固める事が肝要なのだ!」

 といった音声が聞こえてくる。シーカーは絶対に見つからないように棚と壁の間に隠れて音声を集めている状態なようなので映像までは見えないが。

「――ふむ。意見は出尽くしたか」

 居並ぶ武官達の焦りを楽しんでいるかのような、わずかに嘲りと余裕を含んだ男の声に、場が静まる。敵の城の……指揮官クラスか。

「どちらの意見にも一理あるが……こういうのはどうかね? あの砦には仕掛けが残されている。制圧可能な規模の精鋭を連れて夜襲を仕掛け――その結果として砦を攻め落とす事ができたならば、暫くの間は物資にも困らない。仮に砦を落とせず、撤退を余儀なくされたとしても内部に被害を与え、混乱を引き起こす事はできる。その上、こちらがこの状況で攻めの姿勢を見せ、被害を与える事で敵の侵攻の意思を殺ぐ事が出来る……というわけだ」
「それは……確かに」

 折衷案だな。攻撃に転じるにしても防御を固めるにしても、仕掛けた罠を活用しないのは勿体ないと考えるのは分かる。それを利用して相手に一太刀浴びせておく、というような発想になるのは当然だろう。

 加えて少数で任務に当たるのならば、退けられてもまだ後方に大勢の兵士が控えているからそこでの勝敗は大勢に影響しない。
 仕掛けを見せておくことでホウシン側に疑心暗鬼を招かせたり、最悪の場合、前線からの撤退を余儀なくされてもまた罠を仕掛けての偽装撤退ではないかなどと、疑わせることも可能だ。

 まあ……砦の罠に関しては既にカウンターを仕掛けてあるから、その見立ては前提からして間違いなのだが……連中の知るところではあるまい。
 こちらとしてはいかにも攻めるぞという姿勢を見せて、敵の将兵を前線に貼り付けにしておくことを目的としているのだから、一々罠を疑うような羽目になる心配もない。

「では――決まりだな。部隊指揮は――私が直接指揮を取ろう」
「おお……将軍自らとは」
「元より私はホウシンを征伐するために中央より送られてきた。城の防衛よりも攻撃のために力を振るうべきだろうからな」

 と、敵の将軍とやらは自信ありげな声で言っている。

「では、我らは敵の攻撃に備え防御を固めると同時に、将軍が攻め落とされた際に砦に入れるように準備を進める、ということでよろしいでしょうか」
「うむ。それでよかろう。砦を攻め落として、留まっての防衛が難しいと判断した場合、物資を強奪させてもらう。いずれにせよこちらから一度仕掛けておくのが肝要であろう」

 ということで、敵の作戦はまとまったらしい。部隊編成をするということで会議は散会した様子だ。
 攻めてくるのは確実なようだが……それはいい。こちらの想定の範囲内というか、予想していたことであるから。
 それよりも気になるのはカイ王子とリン王女が顔を見合わせて、何やら暗い表情をしていることだ。

「あの声……カイ兄様……」
「あの時の将軍、か」

 何か、その表情にはどこか俺自身にも覚えのあるもので……ああ。分かった。

「もしや……暗殺事件の際の?」

 俺の問いに、カイ王子は眉根を寄せて頷いた。
 ……そうか。2人の父親の仇か。攻めてくるにしても相手の戦意をカウンターで挫けば終わりと思っていたが、カイ王子の仇が来るというのならば気合を入れて盛大に歓迎してやる必要があるだろう。
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