挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
1015/1152

番外261 地の宝貝

「コルリス。怪我は?」

 尋ねるとコルリスはサムズアップで返してくる。問題ないらしい。
 バロール、ネメア、カペラは……あちこちから顔を出して俺に応える。俺も大丈夫だ。
 通信機でそう連絡を入れるとシリウス号の艦橋に詰めていたみんなも喜んでいた。

「良かったです。こちらからでは戦闘の状況が生命反応の動きでしか分からなくて。ステファニア様が教えてくれるので安心できる部分もありましたが」
「ああ、かも知れないな」

 カドケウスに向けられたアシュレイの笑顔の言葉に、シリウス号側に笑みを返して頷く。

「良かったぁ、テオドール!」

 と、カドケウスの首のあたりにセラフィナが抱きついたり、ティールが嬉しそうに鳴き声を上げながらフリッパーで拍手をしているのが見えたり、他の動物組もにやりと笑ったり。艦橋の様子は喜びに湧いていた。

 地中戦闘ということで、戦える人員が少なかったりいつもとは勝手が違ったのは確かだったからな。索敵、探知の方法もそうだが、使用できる攻撃手段、有効な魔法にその射程距離等々、色々制限が大きくなる。

 まあ……敵の位置が分かっていればという条件付きではあるが、空中から問答無用の大魔法を使える状況ならもう少し手っ取り早かったのは事実ではあるが。
 今回の戦闘経験を次に活かす……機会があるかどうかは分からないが、地中戦闘で感じた事、注意すべき点等は訓練の際などにみんなに伝えておくか。研究資料等とまでは言わないが、備忘録程度には纏めておくべきだろう。

 ともあれ、転がっている頭目も命に別状はないようで。生け捕りにできたし、宝貝も今回は損傷がない。取り上げてから土魔法で梱包、拘束用ゴーレムで封印継続をしておけば危険はあるまい。
 後はまたタームウィルズに飛んで、隷属魔法をかけておいてもらうか。サイロウ、リクホウを魔法審問にかけて更に情報を引き出せるようにしておく必要があるから一石二鳥だ。

 頭目にレビテーションを用いてシリウス号へと運ぶと、甲板にみんなが迎えに出てきてくれる。

「ご無事でなによりです」
「ん。何とかなったよ」

 そう言って微笑むグレイス達。こちらも頷いてみんなに笑みを返す。それから……一緒に甲板へ出てきたカヨウに声をかける。

「多少は溜飲も下ったでしょうか?」
「は、はいっ。それはもう……! 私達では届かなかった相手だったというのも、先程の戦闘を見ていて理解できましたし……テオドール様が最後に言い含めて下さいましたから。改めて……お礼を言わせて下さい」

 声をかけると、やや緊張した面持ちでカヨウは返事をしてくる。先程の戦闘の驚きが強かったようにも見えるが、それでも丁寧に包拳礼をしてくる。こちらも礼を返し、顔を上げる。

「うむ。土の中の様子は外から見ていただけでは分からないところもあったが、きっちり上空に誘導していたあたり、何とも見事な手並みじゃな!」

 と、上機嫌な御前である。ヒタカの面々も嬉しそうだ。

「相手としては大技を繰り出した後でこちらを見失っていましたからね。敵のいた方向からは距離を取りたくなるところだったでしょうし、上手く誘導できました」
「やはり狙ってやってたってわけか」

 レイメイもにやりと笑い、ツバキとジンも感心するように頷いていた。

「それから……今回の宝貝に関しては無傷で鹵獲できました」

 握り拳ほどの大きさをした……琥珀色をした宝珠型の宝貝だ。効果は先程見た通りであるから使用が可能なら有用ではあるのだろう。今回は前の黒旗と違って無傷での鹵獲だ。

「ふうむ。宝貝は儂も一つ保有しておるが……扱いが難しいからのう。しかし、地中に潜るというのは確かに便利ではある。実用にたえうるか調べておくべきではあるじゃろうな」

 ゲンライに宝貝を渡して見てもらうと、手に取ってあちこち眺めながらそんな風に言う。その隣でコマチが熱い視線を注いでいたりするが。

「もし私達でも使える代物なら……地中に潜るというのは利点が大きそうではあるが」

 カイ王子が顎に手をやって思案しながら言う。

「それは確かに。しかし最後の龍の生成に関しては……魔力だけでなく生命反応まで注ぎ込むような反応が見えましたよ。この宝貝で大きな力を引き出すには相当な無茶や、それなりの習熟が必要なように思います。ですから……例えこれを扱えたとしても、あの龍のような運用方法はしない方が良いかと」

 地中潜航や、土人形を作り出す程度の使い方なら割と問題はなさそうにも見えた。しかし現状、目に見える頭目の生命反応は……疲労困憊といった様子だ。命に別状はないだろうが、当分目を覚まさないだろう。

「あんな大規模な使い方をしなくても……そう。コルリスの結晶鎧みたいに使うぐらいが、丁度いいのかも知れないわね」

 ステファニアが傍らのコルリスの頭を撫でながら言う。そうだな。この宝貝を用いての術者自身の戦闘力増強を行う方法としてはそれぐらいが妥当なところかも知れない。それ以上を望むのなら仲間との連係で、使わなくても済むようにフォローしてやった方が良い。

「もう一点……注意が必要ね。頭目を捕らえたと喧伝する作戦ではあるけれど、そうなると、これが鹵獲されたとショウエンにも理解されるということでもあるわ」
「ん。地下からの攻撃に、相手も警戒する?」
「そういうことね」

 その言葉にシーラが確認するように聞き返すと、ローズマリーは羽扇を閉じて手で弄びながら首肯する。

「どちらにしてもそういう手札を持っていたのなら、それを折り込み済みでショウエンも動くような気はするわね」

 クラウディアが言う。

「だろうね。そうなると、捕縛した事を喧伝する方針を変える意味は……薄いかな」
「今まで立てた作戦でも、地下から攻めるっていうのはあまり考えていなかったものね」

 俺の言葉を受けてイルムヒルトも頷く。そう。ショウエンとの決戦はまた別の方法で考えている。対ショウエンにあたっては、地中での活動の隠密性等々を過信しすぎない、ということで気に留めておく必要があるだろう。

「でもそうなると、コルリスの負担も減って、寧ろ安全になりますね」

 グレイスが微笑んでそう言うと、マルレーンやユラ、リン王女はその言葉が気に入ったのか嬉しそう笑みを浮かべて頷くのであった。



『おお、盗賊団の頭目を捕らえられたと』

 と、水晶板モニターを通して4太守にも連絡を入れる。前線の都市にいるオウハクとギホウもシリウス号に呼んで、艦橋にて今後についての相談だ。

「はい。敵の手札は宝貝で……精巧な土人形を作り出す能力でした。その場に盗賊団を装って頭数を揃えたり、宝貝を用いて地面に潜ったりして追手の目を欺く、といった方法で破壊工作をしていたようです」
『追っても見つからぬわけだ……』

 ホウシンが納得した、というように目を閉じてかぶりを振る。

『領地内に盗賊団が出没しあちこちを襲撃するとなれば、捨て置けませんからな。追手をかけたり捜索や警戒を続けたりといった消耗を強いられていた部分があります』

 ガクスイが言う。

「それも見越しての手だったのでしょうね。恐らくは」

 個々の損害はそこまで大きくないにしても、長期的に消耗を強いる結果になる。
 盗賊団は文字通りに地下に潜った上で個人として悠々と逃げてしまうから捕まえられないし、とっくに逃げてしまった後なので継続的な捜索も警戒も無駄になってしまう。

 だからと言って手の内が分からない以上、再発も有り得るから対応を止めるわけにもいかないという悪循環で……総合してみると、かなりコストパフォーマンスの良い作戦だ。個人で動いているわけだから、補給や兵站の負担もない。そのために盗賊団に偽装していたとも言える。物資を奪えば個人が食いつなぐにはそれで十分だろうし。

 そこから考えるに……今回の頭目の捕縛は各陣営の負担軽減、及び後顧の憂いをなくすのにかなりのプラスと言えよう。

 それにショウエンとの戦いにおいても、この宝貝を排除できたというのは有利に働くだろう。頭数よりも地中から、という性質そのものが対応の面倒な代物だからだ。

「恐らく……テオドール殿がいなければ、手の内が分かっていても相当手を焼かされていたかと」

 カイ王子が目を閉じて俺に一礼すると、4太守とオウハク、ギホウもそれに倣って一礼してくる。

「まあ、僕としても地中での戦闘という、貴重な経験が積めた部分はありますので」

 そんな風に笑って返すと、カイ王子達は苦笑していた。

「では……後は打ち合わせ通りに。盗賊団の頭目を捕縛した事、この人物がショウエンの差し金で動いていた事を大々的に喧伝して頂きたく存じます」
『承知しましたぞ』
『我らの陣営でも動くとしましょう』

 俺の言葉に4太守が頷く。頃合いを見てゴリョウ達の報告書を提出。敵陣営の士気、ショウエンの信用にダメージを与える、という作戦に変更はない。
 同時に――もう一点、敵に強烈な情報を叩きつけてやる。ゴリョウ達の報告書はそのために使う。

 ホウシン、ガクスイ陣営の同盟。シガ将軍の前線への派兵。
 三正面となる事を敵に知らせ、兵を前線に集めさせつつ、膠着状況を作り出していけば、北方の都が手薄になる。そこからが勝負だ。詰めを誤らないように状況を進めていくとしよう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ