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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外259 頭目の正体

「――城は小火騒ぎがあって現在お通しできない状況でしてな。このような場所で使者をお迎えすることになって申し訳ない。お初にお目にかかる。私はガクスイ殿より全権を委任され、名代としてここにおります、オウハクと申します」

 方便を口にしながら、オウハクが使者達を迎える。シガ将軍がサイロウ達を迎えた時とは、念のために少し理由を変えたりしているが。

「これはオウハク将軍。陣に通された時は何事かと思いましたが、そういうことですか。ご高名はかねがね――」

 と、使者はオウハクの自己紹介に対し、卒の無い返答をしてから自身も名を名乗っていた。
 一瞥したところ……どうも使者やその護衛達の中に高い魔力を持つ者はいないらしい。交渉が決裂した場合、別の策を預かってきているとはいえ、一応は普通の使者を遣わしてきたようだな。このあたりは、想定していた範囲内ではある。

 西部の性質故にサイロウ達は使者そのものが刺客を兼ねていたが、中央部では盗賊団を動かしているからだろう。となると……使者達そのものの扱いに関しては少し注意する必要がある……か?
 裏の事情を何も知らないただの使者であり、交渉後の仕事にしてもただの連絡員である、という可能性がある。まあ……サトリの調査待ちかな、これは。
 ただの使者であるなら捕縛する必要はないし、そのまま帰した方がショウエンに警戒されにくくて良い、とも言える。

 魔力を持つ人物はいない、と符丁で合図を送りつつ、ここは成り行きを静観する。

「――停戦の約定を結べば、民に無用な犠牲を強いることもなくなる。その意義は聡明として知られるガクスイ殿とオウハク殿であれば重々承知しているもの、と理解しております。しかしながら……我らへのこの対応からして返答に察しはつこうというもの。それ故に、僭越ながら言わせていただきましょう。その選択は――些か無謀ではありませんかな?」

 そんな風に身振り手振りを交えながら使者は語る。純粋に使者としての仕事を任せられるだけあって雄弁ではあるし、自分達への対応を見て、交渉の風向きが悪いと見るや翻意を促すために説得にかかっているようだが……。

「それはどうですかな? 私とて老骨とは言え武人の端くれ。戦うならば勝つための方策を練るものです。それに……ここから進むべき道を誤れば、戦うよりも更に多くの犠牲を生みましょう。全ては私もガクスイ殿も、覚悟の上でのこと。故に、我が君の名代としてここに宣言するのです。我らはショウエンを我らが主とは認めない、と」

 そんなオウハクの言葉に――使者はしばらくその顔を真っ向から見据えていたが、やがて眼を閉じて小さく息を吐いた。

「なるほど……。決意は固いようだ。その言葉――先帝への忠義立てか義理故か。武人として……覚悟の上で、とまで言うのならば、これ以上言葉を重ねて翻意を迫るのも無粋というものでしょう。我らはこれで失礼します」

 そうして使者達は去って行った。その動向は――オリエ達が把握しているが。さて。
 使者達が去って行ったところで、地下部分からコルリスとサトリ達が顔を出す。これもサイロウ達を迎えた時の踏襲ではある。

「どうだった?」
「……目印を持つ者に、現地で落ち合って交渉の結果を知らせるようにと……裏の命令を預かっているのは間違いない。しかし、何のためにそうするのかという、事情までは知らされていない、ようだ。気骨のある者ほど……すぐにいなくなってしまう。ショウエンの政はどうあれ、有能な士の延命を行いたいがままならない、と……現状を嘆いている節すらあった」

 ……有能な人物であるのは間違いないのだろう。現状の戦力を鑑みた上で、ショウエンの下で仕事をしても自分にできることがある、と動いているわけか。

「彼の名は覚えておこう。今の状況では説得は難しいし、使者であることを考えれば下手な接触は彼自身の身に危険が及びかねないが、平和になってから話をすれば、その後の力になってくれるかも知れない」

 と、地下部分から出てきたカイ王子が、使者達の帰っていった方角を見ながら言う。
 そうだな。説得をするにしても盗賊団との接触を経てからでなければならない状況だし、それに……カイ王子の言うとおり、使者自身が話の分かる人物でも、護衛や周囲の目もあるのだ。
 使者として出向いて行って、下手に敵方の人物と接触して裏切りの誹りを受ける危険性を考えると……本国に報告の義務を負っている以上、俺達の行動がその身を危うくすることも有り得る。

 今は名前を覚えておいてショウエンを倒した後に説得して登用する。慎重な策ではあるが、有能な人材を見出す事ができたと見ておけば、後々にカイ王子にとっての力になってくれる公算は高い。志のある人物なら尚の事だ。

 さて。ではシリウス号に戻って、オリエと小蜘蛛達から今の状況を詳しく聞かせてもらうとしよう。



「ふむ。使者達は乗ってきた船まで戻って、人が来るのを待っているようだな」
「読んだ思考と……合致する」

 と、オリエが現状について説明してくれた。サトリもその言葉に頷く。こちらとの接触をした後に、使者達が別の場所に移動して盗賊団と落ち合う事も予想して、あちこちに探知網を広げていたが。ふむ。

 便宜上盗賊団とは言っているが、サイロウ達のように単独で、宝貝等の手段を使って頭数をその場に作り出すということも可能だ。襲撃は集団。しかし逃げられてしまった、というところから頭数の出し入れが可能なのか。或いは部下達ごと幻術の類で姿を見えなくする、ということも可能だろう。

 単独で動いているのか、それとも集団で動いているのか……今はまだ断定できていない部分はある。この接触でそのあたりが判明してくれると、こちらとしても対処しやすくなるところではあるのだが。

「――河岸の船が見える位置にシリウス号も移動させましょう」

 そう言ってシリウス号の高度と位置取りを少し変えて、使者達の乗ってきた船が見える位置を取る。
 水晶板モニターを操作。船周辺を拡大。ライフディテクションで生命反応の動きを見る。船内の人員の数等々を数えながら、甲板の上で気忙しげに誰かを待っている使者の姿を確認。

 待つこと暫し。どこか上流から――小舟で一人の男が河を下ってくる。

「あの顔――!」

 カヨウがモニターを見て声を上げる。そうだ。似顔絵の男に間違いない。小舟を使者達の乗る船に寄せると、河岸に小舟をつけて、陸地に立つ。道士なのかどうなのか。立ち居振る舞いから武芸を身に付けているのは間違いない。腰に剣も吊るしている。
 使者はその男の姿を認めると、甲板から降り、丁寧に挨拶をしていた。

「……どうやら間違いないようだな。使者が目印をと言って割符を提示したら、あの男もその片割れを提示したようだ。交渉の結果について説明している」

 オリエが状況について説明してくれる。

「盗賊団の頭目は、承知した、って答えてる」

 小蜘蛛達がやり取りについて教えてくれた。とはいえ、会話の内容はそう多くはない。
 使者は頭目に対して事情を聞きたがったようだが、対する頭目は、お互いそれを聞かせる立場にないはずだ。自分の仕事をするのだな、とすげなく答える。
 使者は少し憮然としたものの、一礼してまた船に乗り込み帰っていった。

 ……頭目が部下を連れていたら性質ももう少し絞り込めたのだが。現時点では単独行動をしている、というところまでしか分からない。

「どうする?」
「単独で行動しているなら……こっちから奇襲をかける好機かな。行動を起こす前に叩き潰して情報を得る方が早い」

 シーラの質問に答える。部下が別行動をしているのなら改めて居場所を掴んで――そこに奇襲をかける方が良いだろう。

「そいつは手っ取り早くていいな」

 とレイメイが笑う、が。

「む。いや、待て。糸からの反応が途絶えた」

 オリエの少し驚いたような言葉。その言葉にモニターに目を向けてみれば――河縁の岩の辺りにいた頭目が、その姿を消していた。
 だが。頭目がそこにいる事を示す生命反応の光は――変わらずそこにある。いや、変わらず、ではないか。遮蔽物を通した時のような――。

 生命反応の光がそのまま滑るように移動を開始する。前線の都市に向かって直線的に。

「分かった……。奴の手札は地下潜航か……! となると――!」

 盗賊団の正体は奴の作り出した土人形、などという可能性も出てくる。
 そして敵の思惑も。

「地下から都市内部への潜入、ということ?」

 イルムヒルトが言うと、クラウディアが頷く。

「要人暗殺か、或いは兵糧等の集積された物資を焼き払うか、ね」

 どう対応するか。決まっている。都市内部に潜入される前に直接迎撃だ。

「奴は近接戦の心得がある。俺が直接出る」

 ――土中での戦闘。となると魔法での対応力と、近接戦闘に対応できる技量が必要だ。
 深く潜られて逃げられないようにするために、同じ土俵で戦えることを見せておく必要がある。大魔法で地下深くまで吹っ飛ばすような手段は……できないこともないが、俺達の存在をまだショウエンに露見させないためにも避けたい。
 だから、俺がコルリスと共に出撃し……これを迎撃する。敵は直線的に都市部に向かっている。シリウス号から出撃して迎え撃つのは位置取り的に容易い。

「グレンデルの魔道具を」
「ええ。でも、コルリスとの五感の同調無しで大丈夫?」
「生命反応と魔力反応で、敵の動きは見えるよ」
「分かったわ」

 ステファニアが頷いて首飾りを渡してくれた。ドラフデニアでグレイスが仕留めた、泥濘を操る魔物――グレンデルから抽出した、強力な土属性の魔石といくつかの属性の魔石を組み込んだ魔道具だ。

 機能は――コルリスとの連係能力を高めるための土中潜航。身体の周りに空気のフィールドを纏い、呼吸を可能とし……コルリスの保有する術を再現して土中を自由に動ける、というもの。つまりは――奴の術式か、或いは保有している宝貝と、そう大きくは変わらない。

 他の皆は、都市部にいる要人、兵糧等の物資といった重要施設の防御に当たってもらう。
 そうやってみんなに指示を出すと、すぐさま動き始めた。

「よし。行くぞ、コルリス」

 こくんと頷くコルリスと共に甲板から飛び出す。
 魔道具を発動。水の中に飛び込むように土の中へ潜航する。敵の位置は――生命と魔力反応の光で掴む。片眼鏡とライフディテクションが俺のレーダーだ。コルリスは嗅覚で追える。問題ない。敵に向かって、真っ直ぐに突き進んでいけば――奴もこちらの動きを何らかの手段で探知したのか、身構えるのが分かった。

 かなり特殊な状況下ではあるが――このまま戦闘開始といこうか。
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