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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外258 未来の天秤は

 ガクスイにとって対ショウエンの前線となるのは、香鶴楼のある都市よりも更に北に位置する都市部だ。
 ここも……大きな河が近くにある都市だ。西から東へと……国土を貫くように大きな河が流れているわけだ。

 但し――都市の周辺も含め、渡河するにあたってはそれほど難しい地形ではない。その代わり、というように都市の外壁を堅牢なものにすることによって防衛力を高めているように見えた。

「通常の兵力のみで攻略しようと思うのなら……攻城塔や投石器のような攻城兵器で外壁を突破するか、隧道を作る、といった奇策が必要かしらね。水上から直接攻略、というのは難しいと思うわ」

 地図上と実際の地形を見比べながら言うローズマリー。シリウス号は件の都市部の近くに浮遊して待機している形だ。というのも、ショウエンの使者がやって来るのはこの都市、ということになるからである。

「或いは――後方に繋がる道を寸断して、孤立させて兵糧攻め、という手もあるわね。この都市自体が割と突出しているもの」

 ステファニアもそう言って地図の上を指でなぞる。そうだな。この都市単体では強固だが、兵糧攻め等の搦め手を混ぜれば攻略法は見出せないでもない。
 道に陣取るなら……ジリ貧になる前に都市から出撃し、野戦でこれを撃破しなければならない。他の都市と連携すれば敵戦力に対して挟撃するのも難しくはないから、防衛能力はそれでも高いと言えるが。

『いやはや。皆様の見立ては大したものですな。一瞥してそれだけの事を言い当ててしまうとは。攻防に関わる我らの想定も、概ねその通りになります。加えて言うなら――』

 と、水晶板の向こうでガクスイが補足してくれる。
 ガクスイも攻められる場合はそういった展開になる、と予想しているそうで。
 どこかが危機に陥れば連携できるように戦力を配置。その上で前線に更に余剰な兵糧を置いて長期戦を視野に入れた上で、都市部からの出撃も可能な規模に兵力を増強している、ということらしい。

「いずれにしても敵はこの河川のどこかから上陸して、兵を展開する必要がある、か。仮に道を押さえるとするなら……ここや、このあたりに展開する形、か?」
「ふうむ。このあたりも平野部が多いからの」

 ゲンライが地図を見て頷く。
 その上で、都市攻略のためにこれらの前提条件を崩すとしたら? 交渉が決裂した場合、盗賊団を使うというところまでは分かっている。手駒を動かすのなら単なる嫌がらせに終わらず、次に繋がる効果的な一手を打つように使うはずだ。それらの方法をいくつか想定し、対策を練っていく。

「――では、オリエさんとカリン、レンゲ、ユズにはこの……地図に示したあたりに糸の結界を作ってもらうということで。実際の場所についてはバロールやティアーズが案内します」
「任せておくがよい」
「うん。頑張る」
「任せて」
「案内よろしくね」

 と、オリエがにやっと笑い、小蜘蛛達も頷く。小蜘蛛達はバロールを撫でたりティアーズのマニピュレーターと代わる代わる握手などしているようだが。

「作業中のカリン達は僕達が守りますね」
「ありがと、シオン」

 カリン達にはシオン達も同行してその身を守る形となる。

 まず、様々な可能性に対応するため、オリエ達には効果的だと思われる場所に糸の結界を展開してもらうことにした。街の外での敵の動きを広範囲に渡って探る事が可能になる。

 後は都市部の攻略そのものを難しくするために、攻城兵器対策をしておく。外壁にゴーレムを埋め込むことで外壁の修繕を行えるようにしておけば、投石器で壁を崩す、という手は役に立たなくなる。壁を越えて都市内部に投石器で石礫を投げ込もうというのなら――これは外壁に沿って結界を展開させて防げばいい。

 攻城塔も……城壁に隣接させる必要がある。城壁そのものにゴーレムが潜んでいるのなら一方的に攻城塔への破壊工作が可能だ。問題ない。

 それらの工作についてもガクスイは快く承諾してくれた。オウハクとギホウが既に前線の都市に詰めているので、このあたりはスムーズに話は進むはずである。

「拙者達は、前の時のように外壁に工作されていないか一周見てくるでござるよ」
「はい。よろしくお願い致します」

 というわけでイチエモンとゴリョウ達は外壁の確認に向かった。
 では、そうと決まれば俺も色々動いていくとしよう。



「なるほど……。攻城兵器対策とは――」

 現場に話を通しやすくするため、俺達にはオウハクとギホウが同行してくれた。先程話し合った内容等々を2人にも説明しながら外壁上方まで防壁を展開するための仕掛けを施していく。
 外壁が厚く、対魔物用の結界とはまた対策する対象や目的が違うので、今回は外壁の上に術式を展開するための溝を作り、魔石の粉で埋めていく形式を取る。粉を敷き詰めたら溝を埋めて、術式を起動させれば出来上がりだ。シガ将軍の直轄都市に結界を張り巡らせた時よりは簡単な手順であると言える。

「外壁そのものの強度を上げ、壁を飛び越えてくる石を防ぐことが可能になります。更に壁にゴーレムを埋め込むことによって、通常の攻城兵器での突破はまず不可能になるかと」
「真っ先に正攻法での攻略法を潰してしまう、というわけですか」
「そうですね。交渉が決裂してからの敵の対応は……何かしらの工作だと思われますし。そうなると、下準備としてこれをやっておけば、僕達はその際、工作活動に対応しやすくなる、というわけです」

 話をしながらやがて作業を終えて、みんなで手分けして溝を埋めた後、術式を起動させる。一瞬外壁に光の波が走るように広がって――防壁結界が完成する。後は必要な時に応じて起動させることで防御を行うことができる。

 そうこうしているとイチエモン達も戻ってきた。

「どうやら大丈夫なようでござる。流石に占領されたことのない都市には悠長な工作を施している暇はないようでござるな」
「何よりです。念のために魔法的な仕掛けが無いか、都市と城を見て回ってきます。それじゃあ、行こうか」

 そう言うとコルリスがこくんと頷く。では、あちこち見て回ってくるとしよう。



 都市部周辺の一帯に糸の結界を展開したり、修繕用ゴーレムを埋め込んだりと、対策方針に従って工作を施した。
 ショウエンの使者と、件の盗賊団を迎える準備はこれで整ったと言えるだろう。
 そうして。返答期限がやって来る。今日――河の対岸から使者達を乗せた船がやって来ることになっているが。

 使者達を迎えるのは、シガ将軍の時のように都市周辺に展開した陣地と天幕にて、だ。理由は言わずもがな。使者達がショウエンの側近であった場合、都市内部に招き入れるのは危険だし、最初から交渉を拒否する方向なのだから、丁重に迎える必要もない。

 天幕にてオウハク、ギホウと共に武官や軍師の振りをして同席させてもらう、というのもシガ将軍の時を踏襲させてもらう。
 まあ……敵の作戦は盗賊団の起用だから、使者達は恐らく本命ではないのだろう。ショウエンの側近がまた派遣されてくる可能性は低いのではないかと見ているが。

「今のところ……私の予感ではこの土地に来た時から状況は好転している、と思います。北方に強い不安を示すような闇が蟠っていましたが、大きな希望の光が更に強く輝き――未来はより見通す事の出来ない方向へ。故に未来が定まらず、確定的な予知という形としては未だ成立しえないのかな、と」

 と、シリウス号の艦橋で瞑想するように精神を集中させていたユラが、目を開いて言った。
 予知に至らないまでも、予感ぐらいの曖昧な感覚はあるらしい。ショウエンのいる北方からは嫌な気配を感じるが、あちこち動き回った結果、良い気配――つまり俺達の望む未来への力も強まっている、というわけだ。

「不安と希望、ですか。まだ片側に傾かない程度に拮抗している、というところでしょうか」
「はい。ですが、私としては――この、暖かな光の中に身を置いているというのは心強く感じます。カイ殿下とリン殿下が決意なされた時や、シリウス号でのあちこちの活動で、より光も強くなっていますし」

 グレイスの言葉に、ユラは笑みを浮かべて答える。
 ユラの感覚的な話ではあるが、情勢が不利ではないというのは良い情報だ。希望の光が強くなってもショウエンから感じる不安の闇が大きく薄れないのは――恐らく、連中の本当の戦力が未だに温存されていたり、墓所を奪還していないからだろう。ここからの動き次第で天秤はどちらにでも傾き得るということなのだろうが。

「ここから、ですね。頑張りましょう」

 と、アシュレイが力強く言うと、ユラを始め、艦橋にいる面々も微笑んで頷くのであった。
 カドケウスとの五感リンクで艦橋のやりとりを見ていると、天幕に伝令の兵士が走って来る。

「対岸から、使者を乗せた船がやってきました!」
「予定通りだ。船から降りたのを確認したら、この天幕に案内するように」
「はっ!」

 オウハクの言葉に、伝令の兵士は馬に跨って戻っていった。
 やってきたか。では――シリウス号の皆が気合を入れていることだし、俺も気合を入れてかかるとしよう。
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