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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外256 情報戦

 伝声管によって第2船倉でのやり取りは艦橋にも聞こえていたはずだ。艦橋に戻ったところで、早速サトリに尋問の結果を聞かせてもらう形となる。

「お茶と焼き菓子を用意して待っていました」
「どうぞ」
「ありがとう、2人とも」

 グレイスやアシュレイがお茶と焼き菓子を艦橋にいる全員分用意して待っていてくれた。サトリからの情報を得て、ちょっとした作戦会議になるのは分かっているからだ。
 礼を言うと2人もにっこりと笑う。

「それじゃあ、始めようか」
「では……順を追っていこう、か。まず……テオドールの最初の、質問。ショウエンの実力……」

 と、俺の言葉を受けてサトリが言う。

「連中は仲間達の事も含めて、知らない、と言っていた……。その言葉は多分真実……なのだろう。尋問に緊張して……警戒しながらも、それに答える時は自信や安心感を抱いて……心の声も、一致していた」
「ショウエンを師とする流派で、弟子に対しても秘密主義を貫いているとするなら……理解できなくもないかな。シルヴァトリアの学連も術に対しては秘密主義だったし」

 先程連中の尋問で思ったことをみんなにも聞かせると静かに頷く。そこで、サトリが更に口を開く。

「ただ……ショウエンには3人の高弟が……いる、らしい。その連中なら、全体の事を把握している、かも知れない、と」
「……それは新しい情報じゃな」

 ゲンライが顎に手をやって渋面を作る。

「確かに。3人の高弟……か」

 同じくショウエンの側近。しかしサイロウ達の更に一段上の実力を持つ連中、と考えておくべきか。高位の道士ではなく、仙人クラスと見積もっておくべきだな。

「次の質問……墓所や目的に関すること、についてだが……これもやはり最終的なところは側近達とはいえ、知らされていない、らしい。しかし……ショウエンの側近達が古文書の解読や……術式の研究に駆り出されている、のは事実なようだ」
「これは、今までの推測に裏付けが取れた形かな」

 カイ王子が腕組みし、思案しながら言った。

「ショウエンの側近達は墓所の封印を解くために動いているってわけだな」

 と、レイメイが言う。

「状況や得られた情報から他の事に力を注ぎにくいのでは、とは考えていましたが。こちらの推測が近いものであったというのなら、作戦もこのまま進められそうですね」

 砦の仕掛けにしても術式的に大がかりなものは無かったしな。要するに流用できるところは前王朝からの流用。勝ち馬に乗る者もいるだろうが、恐怖政治によって従っている者もいる、ということになるか。

 そうして俺達の反応と頃合いを見て、サトリは最後の質問にも触れた。

「最後に……盗賊団に関することについて。これは……色々と情報を得られた。サイロウもリクホウも……古文書の解読の途中で命令を受けた。興が乗ってきた場面だったので……ショウエンから自分達が動く理由……意義についての説明を受けた、そうだ。あの時の、テオドールの揺さぶりも……良かった」

 そう言って……何やら淡々とサムズアップしてくるサトリである。誰の影響だろうか。こちらもサムズアップを返すと、サトリは頷いてサイロウ達の心の動きについて聞かせてくれた。

 サトリが聞かせてくれたところによると……。外部での裏の破壊工作は別の者の役割でないのかとサイロウが尋ねたところ、ショウエンからは別働隊――つまり盗賊団は他の仕事を任せられている事であるとか、シガ将軍と、ホウシン、ガクスイの領地では事情が異なると教えられたそうだ。

 つまり、サイロウ達が任務を受けたのは、西部が中央部に比べて僻地であるため、情報や噂の伝達が遅い事や魔物の動きが活発な事に起因する。
 三正面を「確実に」避ける意味合いでも、シガ将軍との交渉が決裂した場合は秘密裡に宝貝とキョウシを使って全滅させてしまうようにと指令を出された、らしい。

 そのあたりについては推測が及んでいた部分ではあるが。問題はそこから先だ。

「サイロウとリクホウは……今現在ショウエンの元を離れ、あちこちで裏の仕事をしている人物と面識もあるようだ。次の仕事について――ガクスイとの交渉が決裂した場合、現地で連絡が行き、ガクスイ陣営の力を削ぐために、その男が動く、という手筈になっている、とか」

 なるほど。そうなると――。

「交渉にやってきた面々の動向を監視していれば、盗賊団の頭目に接触する、と」
「そう、なるか。追い詰めるためのやり方は、テオドールの方が……熟知しているだろう。サイロウとリクホウも、その人物が使う術や宝貝、までは知らないものの……盗賊団の話は知っていたから……どうも黒旗に近い性質を持っていると、推測している、ようだ」

 その上での適材適所。中央部では盗賊団の襲撃。西部では魔物の大量発生によって、裏から支援してショウエンの目的に沿う状況を作り出すというわけだ。
 部下のやりかけの仕事を中断させて別の仕事に専念させる意味でも、説明は必須だったのだろうが。ショウエンにとってはそこが裏目に出た形だな。
 秘密主義ではあったのものの、情報を与えすぎたから、サイロウ達もその人物の能力等を推測してしまっている。そこで俺が揺さぶれば、どうしても色々考えてしまうか。

「となると、次に現れる場所、時期は断定できたと見て良さそうですね」

 セイランが明るい表情になる。そうだな。こうなれば先手を打って動ける。似顔絵と胸像は各陣営に回して逃亡された場合の次善の策として周知しておくが……。

「この状況だと、無事捕縛できればショウエンのやり口を表沙汰にするのに使えそうですね」
「ほう? というと?」
「また何か思いついたのかの?」

 俺の言葉に、御前とオリエが楽しそうに尋ねてくる。

「似顔絵や胸像が手配書として各地に出回る状況だものねぇ」

 ローズマリーはと言えば羽扇の向こうで楽しそうに笑みを浮かべる。どうやら、俺の策を読んだらしい。

「盗賊団の頭目を捕まえてみたら、ショウエンの手下として工作して回っていた人物だったと……事実として周知される。各陣営にも捕縛したという情報を共有して、大々的に喧伝して回ってもらう。この場合は味方の士気高揚よりも、ショウエン陣営への揺さぶりに繋がるのが大きいかな」
「ショウエンとその側近達は……力と恐怖で国を纏めているけれど、中枢で利益を得ている一部以外は……ゴリョウ達を見て分かる通りね。一枚岩からは程遠いわ」

 クラウディアが言う。そうなる。だからこれは組織への揺さぶりなのだ。

「そこで、ショウエンがそういう悪どいやり方をする人物だと、知らせてあげるということね」
「ん。かなり効きそう」

 イルムヒルトとシーラの言葉に、マルレーンが感心するようにふんふんと頷く。
 そう。それだ。ショウエンの正当性への信頼感に対する打撃。その裏付けとしての下手人と、似顔絵、胸像。

「……ショウエンの軍の士気にも関わってきそうね。兵士達は元農民だもの。盗賊に良い印象なんて、あるはずがないわ」

 ステファニアが思案しながら言う。そうだな。その面でも効果があるか。
 特に……盗賊団の頭目に関しては、ショウエンの側近の一人なのだ。中枢部に出入りしていた時期が必ずある。人相書きや胸像についての話が北方まで伝われば、知っているという者も出てくるだろう。

「我らからの報告にも盗賊団の頭目が捕まって、そういった噂になっている、と混ぜましょうか」
「ふむ。裏方の人間がどこまでショウエンに忠誠を誓っているかは分からぬとしても、人の口には戸は立てられぬものでござるからな。雲行きが怪しいとなれば保身に走る者も出るでござろう。人伝に噂が広まると思うでござるよ」

 ゴリョウの言葉に、イチエモンも覆面の下でにやりと笑う。

「いやはや、情報戦の様相を呈してきたのう。それでいてこちらには後ろめたい事が何もない、というのが素晴らしい」

 ゲンライが苦笑しながらもそう言った。

「いずれにしても、この作戦では盗賊団の頭目を捕まえないと絵に描いた餅ではあるんだけどね。日程に従って仕事を進めつつ、盗賊団もきっちり抑えられるように動いていこうか」

 そう言って見回すと、みんなも俺を見てしっかりと頷くのであった。
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