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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外255 捕虜と境界公

「ん。ドロシーにもよろしく。帰ったらまた遊ぼうって伝えておいてほしい」
「ふふ。そいつはまあ、お安い御用さね」

 ドロシー。先代ギルド長の忘れ形見だ。シーラの言葉にイザベラは穏やかに笑って頷いていた。

 因みにイザベラは恩義から色々と協力的ではあるが、公的な権力と盗賊ギルドのような裏方が過度に懇意になるべきではなく、一定の線引きをしておくべき、と考える人物だ。
 そういう線引きが無いと自分はそうはならないと思っていてもそれ以外のどこかで腐敗の温床になり、結局は組織のためにはならない、と考えているようで。

 そのあたりは俺としても同意できる部分だ。だから、俺としては伝手があったので依頼をしたし、ギルドは義理もある相手なので普通は外部から受けない仕事を受けた、ということで、こういう時には相場通りにしっかり謝礼を払うという取り決めになっている。ただ働きは貸し借りになってしまうからだ。そんなわけで似顔絵の依頼料に関しては今回もきっちり支払っておいた。

「では、武運長久を願っておりますよ」
「ありがとうございます。また帰ってきたらお会いしましょう」

 と、イザベラ達と別れの挨拶を交わす。

「イザベラさんもお元気で」
「それじゃあ、また今度。イザベラ」
「ええ。クラウディア様。またね、シーラ、シグリッタちゃん。それから……カヨウだったかい? 頑張りな」
「はいっ。お世話になりました!」

 イザベラからそんな風に言葉をかけられ、カヨウは包拳礼で応じる。

「それじゃあシグリッタちゃん。またね」
「ん。また絵のお話したい……」

 そんな調子でイザベラ達とみんなも言葉を交わして別れ、俺達はシリウス号に戻ったのであった。
 クラウディアの転移魔法の光が収まると、そこはシリウス号の艦橋だった。

「――ただいま」
「お帰りなさい」

 俺達の姿を認めてみんなも微笑んで迎えてくれる。

「似顔絵はどうでした?」

 グレイスが尋ねてくる。

「それに関してはこの通り。胸像は後で増やしておく」
「私も……似顔絵複製に取り掛かる……」

 そう言って、早速シグリッタは羽ペンを手に取って紙にさらさらと似顔絵の複製を描き始めていた。オリジナルを見ながら描く必要もない、というわけだ。手配書としては複数枚必要かも知れない。
 ともあれ、これでサイロウ達の尋問を行う準備は整ったと言えよう。

「それじゃ、戻って来たばかりで慌ただしくて悪いけど、連中の尋問をしてくるかな」

 似顔絵の複製と胸像は各陣営に向かった時に届けるとしても、盗賊団に関する情報は出来るだけ多く渡せる状態にしておいた方が良いからな。今のうちにやれることを済ませてしまおう。

「準備は……できている……」

 と、変装して毛玉状態になったサトリが言う。

「そうだな。じゃあ、同行する理由が必要だから……木箱に胸像を入れておくから、これを持ってついてきて欲しいんだけど」

 木魔法で箱を作り、そこに胸像を収める。サトリがこくんと頷き、それを持った。

「それじゃあ……アルファとベリウスと、コルリス。それからラヴィーネ。一緒に来てくれるかな」

 そう言うとコルリスがこくんと頷き、アルファ、ベリウスとラヴィーネがのっそり立ち上がる。俺の護衛兼、捕虜の逃亡防止……と見せかけて、動物組を同行させることによってサトリを目立たせない作戦だ。

「術は封じられているが、悪知恵の回る奴らだ。気を付けてな、主殿」

 マクスウェルが核を明滅させる。

「ん。行ってくる。カヨウさんは楽にしていてもらって構わないよ」
「ありがとうございます」

 そんな言葉を交わして連中の尋問に向かう。
 第2船倉に入ると、連中は壁に寄り掛かるようにして座っていた。拘束用ゴーレムが装着されているので行動の自由はないが、伝声管で連中の会話は拾っている。
 だが、連中も中々用心深いらしく、どこで話を聞かれているか分からないからと、ショウエンに関することなどは迂闊に話さないようにしようと、そんな風に言っていた。だから、現時点では情報は搾れていない。

「お前……か」

 サイロウ達は入口から入ってきた俺達を見て眉をしかめた。ベリウス、コルリスが入口を固め、アルファとラヴィーネは俺の隣に来て、更にラヴィーネが氷の鎧を纏っていく。サトリは俺の少し後方に控えるように立った。

「サイロウとリクホウ、だったか? お前達に少し質問があってここに来た」

 そう声をかけるが2人は答えない。

「……協力的じゃないなら、こっちも色々考えなきゃならないんだがな」

 具体的にはタームウィルズに送って魔法審問。まあ、これも拷問という形にはならないのだけれど。

「この上……拷問でもして情報を吐かせるかね?」

 と、俺の言葉を受けてサイロウが薄く目を開いて言う。

「さてね。それはお前らの出方次第としか言えないけど――」

 と、言葉を濁して含みを持たせておく。拷問の類は趣味ではないし、サトリがいるからその必要もない。ただ、そのつもりがなくても安心させてやる義理はないのだ。

「だけどまあ、俺達の心象を悪くしてまでショウエンに義理立てをする必要があるのかとは疑問に思うよ。協力的ならこっちだってその後の対応や処遇が違って来るとは思わないのか?」
「師を敬うのは当然のことだ」
「それに……お前らなど、あの方には及ぶまいよ」
「その通りだ。この身を縛める術も、我が君が解いてくださるだろう」

 なるほど。ショウエンが勝って自分達を救い出してくれると信じているから、後の処遇等は気にする必要もないというわけか? 寧ろ色々積極的に話してしまう方が裏切りだとでも言いたげな雰囲気ではあるが。隷属魔法もかけられているため、嘘も言えない。しかし沈黙したりミスリードを狙うことで抵抗するのは不可能ではあるまい。

 信頼しているのか。畏怖しているのか。或いは両方か。ショウエンとは面識があり、裏の顔と実力を知っている連中だけに、信頼と畏怖という感情を抱いているのなら、協力を得るのは中々に難しい。だが。

「その口振りからすると、ショウエンの実力や奥義を知っているわけか?」

 そう言って、連中の反応を観察するように見やる。

「……我らから情報を搾り取ろうとしても無駄な事だ。ショウエン様は弟子相手でも秘術などおいそれとは見せぬし、仲間同士であれみだりに話さず、秘匿するようにと厳命されている」
「あの方はそれぞれの才覚にあった技術や宝貝を伝授なさるが、それ故に我らは互いの領分には踏み込まぬのだよ。こういった事態を想定しての事でもあろう」

 だから、ショウエンや側近に関する情報を得ようとしても無駄だ、と言いたいわけか。それぞれ別の者に術を後継させ、同門でも秘密主義を貫く……。まあ、有り得ない話だとは言わない。シルヴァトリアとて、七家で伝えている秘術はそれぞれ違ったりするのだし。
 とは言え、この場で一々詳しく問い質したりはすまい。

「お前らの言ってる事が本当かどうかは後々の取り調べで確かめるが……。仮にその言葉を信じるとしても……お前達の目的についてはどうなんだ? 墓所とそこに眠る古代の遺産であるとか。何かショウエンから聞かされていないのか?」

 墓所と古代の遺産。その言葉に連中は少し驚いたようだ。こちらがそこまで掴んでいるとは思わなかったか。心理的な揺さぶりになっているのなら、サトリのアシストになるはずなんだがな。

「……あのお方の心の内を知るなど恐れ多い」
「我らはただついていけば良いだけのこと」

 少しの間を置いた後のサイロウ達の返答は、そんな内容だった。知らない、と言いたいわけか。

「非協力的だな。本当に知らないのかどうかは後で確かめさせてもらうが……」

 そう言って、サトリの方に手を伸ばす。そっと木箱を渡してくれる。

「それじゃ、もう一つ質問だ」

 そう言って木箱の中身を連中に見せる。一瞬。そう。僅か一瞬だけ表情が動いた。この反応。知っているな。

「こいつはお前達の同僚に間違いないな? 奥義や目的と違って、まさか仲間の顔を知らない、とは言わないだろう? お前達は魔物の襲撃に見せかけて北西部を攻める役割だった。だがこいつは持っている宝貝か身に付けた術か……その性質上――潜入と破壊工作に向いていても、北西部へのお呼びはかからなかったようだな。……そう。ガクスイとの交渉如何によっては、あの付近で工作活動でもするつもりなんじゃないか? そのへんの作戦は、聞いていないのか?」

 今までの曖昧な質問とは違い、俺の口調の端々に確信があることを滲ませて問いかけていく。ベリウスやアルファもにやりと俺に合わせ、牙を剥いて笑って見せた。サイロウ達が慄然とした表情を浮かべる。これ以上何か反応するのは拙い、と思ったのか、サイロウは目を閉じて表情を消し、押し黙ってしまう。それを見たリクホウもサイロウに倣う。

「どうやら、何か知っているみたいだな。このまま普通に質問して大人しく答えてくれるとも思えないが……ま、後で色々聞かせてもらうさ」

 後で、というのはサトリにという話だが。木箱を背後に控えているサトリに渡すと、小さく頷いてそれに応じる。
 今までの質問で収穫があった、という合図でもある。では、艦橋に戻って分かったことを色々と聞いてみよう。
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