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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外254 似顔絵職人

 シーラ、クラウディア。それから似顔絵に興味を示したシグリッタと一緒に、カヨウを連れて再度タームウィルズへ飛ぶ。
 一応転移魔法の概要であるとか時差についてだとか、それにこれから会う面々の性質とそれに伴い似顔絵職人に関する秘密の厳守等々、事前に必要な事はカヨウに説明して了解を得ている。
 そのカヨウはと言えば……初めてやってきた西国の王都、タームウィルズの様子に、心ここに在らず、という有様だ。

「こんな大きなお城があるなんて……。それに、なんて美しい街並み……」
「ショウエンとの戦いが終わったら、もう少し手軽に行き来できるようにしたいところではありますね」

 そう言うと、カヨウは視線を街並みに向けたまま首を何度か縦に振っていた。
 さてさて。既にイザベラへの連絡は取ってあるし、カヨウには翻訳の魔道具を装備させてある。約束した場所で落ち合い、早速似顔絵を作ってもらうとしよう。

 ヴェルドガルやタームウィルズについての軽い説明を交えながら馬車で街並みを行き――向かった先は西区の入り口にある酒場兼食堂であった。
 孤児院からもほど近い、西区としては比較的治安の良い場所である。店の前にテラス席があって明るい雰囲気であるが……テラス席を固めているのは盗賊ギルドの人員のようだ。何人かには見覚えがあるからイザベラの側近達だろう。

「これは境界公閣下に奥方様。ご無沙汰しております」

 と、テラス席でのんびりとティーカップを傾けて寛いでいたイザベラが、馬車から降りた俺達を認めて、明るい笑顔で挨拶してくる。

「こちらこそご無沙汰をしております」

 と、こちらも挨拶を返す。

「こんにちは」
「……こんにちは」
「は、初めまして」
「ん。イザベラ、元気そうで何より」
「これはご丁寧に。初めまして、お嬢ちゃん。シーラも、元気そうで何よりさね。ま、往来で話をするのもなんだし、店の中に参りましょうか」

 イザベラはクラウディアとシグリッタ、カヨウ、それからシーラの挨拶にそれぞれ言葉を返すと、食堂の中に入るように促してくる。
 みんなでイザベラの後に続いて店の中に入ると、一人の人物が奥まった位置のテーブルに座っているだけで他の客はいなかった。

 テーブルの上には画材道具一式――ということは、初めて顔を合わせるが、彼女が盗賊ギルドお抱えの似顔絵職人ということになるか。
 ギルドの秘蔵の人材だから実像は伏せられていて、男性とも女性とも今まで確たる情報も出ていなかったが……歳の頃は20代半ばぐらいだろうか。似顔絵職人から想像していたイメージとは少し違うが、飾り気のない印象は……芸術家というか絵描きといわれれば確かに頷けるような雰囲気があった。

「今回は何やらお忙しそうでしたからねぇ。すぐに仕事に取り掛かれるように、知り合いの店を貸し切らせてもらいました」
「それは……ありがとうございます」

 なるほど。盗賊ギルドで貸し切った上で、お抱え職人をこちらに呼んで、この店で似顔絵を描いてしまおうというわけか。翻訳の魔道具を通して話をする関係上、上手くいくか分からなので、俺も立ち会うということになっているというのも関係しているかも知れない。
 俺の立場を考えて盗賊ギルドのアジト等に通すのは、と気を遣ってくれたというわけだ。

「初めまして。顔を合わせるのは初めてですが、いつも似顔絵には助けられています」

 似顔絵職人に言うと、彼女は静かに口元に笑みを浮かべる。

「境界公にそう言って頂けるとは、絵描きとして冥利に尽きるというものです。早速で恐縮ですが、仕事に取り掛かるとしましょうか」

 そうだな。折角イザベラがお膳立てしてくれたわけだし。
 頷いてカヨウに視線を送る。カヨウも少し緊張した面持ちで頷いて、職人の向かいに座った。

「それじゃ、これから君にいくつか質問をしていくから、それに答えてくれるかな?」
「はい」

 落ち着いた口調の職人の言葉に、カヨウは頷く。そうして似顔絵作成が始まった。
 俺達はお茶を出してもらったので、その光景を眺めながら邪魔にならないように静かにしておく、という感じだ。翻訳が上手くいっていないようならその都度フォローする、ということで。

 髪型は。目の印象はどうだったか。鼻の形は。口元は……等々。職人は質問を重ねながら似顔絵を仕上げていく。一つ一つのパーツや全体の印象を尋ね、時々こんな感じだったかと質問し、いや、もう少し鼻筋はこうだった、とカヨウから返答。対話しながら絵に調整を加えていく。
 翻訳の魔道具は、どうやら細かいニュアンスも伝えているようで、割と2人の会話も噛み合っている印象だ。

「今度はどうかな?」

 と、職人が調整を加えた似顔絵を見せると、カヨウの目が大きく開かれる。

「そうです! この感じ……! かなりそっくりです!」
「ふむ。異国の顔の特徴を掴むのに少々手間取ったが……。そうなると……君が見た奴さんの角度を考えると――こんな感じになるか?」

 一度イメージが纏まってしまえば後は手慣れたもの、という感じで、さらさらと別角度から見た似顔絵を描く職人。カヨウは身を乗り出し、うんうんと頷く。
 なるほど。初めて似顔絵職人の技法を見せてもらったが、言葉から人の顔の特徴を掴むのが非常に上手い。加えて一度描いた顔を別角度からあっさり描いてしまうあたり、言葉からイメージを膨らませて人の立体的な顔を脳内で思い描ける、ということなのだろう。確かに……職人技だ。

「見た事のないものを質問しただけで描けるのは……すごい」

 シグリッタが感心したように頷く。

「確かに……。初めて見ましたが、素晴らしい技術ですね」
「盗賊ギルドでも貴重な人材ですよ」
「まあ……獣人の細かい特徴を捉え切れてないあたり、まだまだ修行中なんですがね」

 俺やイザベラの言葉に職人は苦笑する。イグナード王が初めてヴェルドガルに来た時の事件でもそういう問題が持ち上がったな。確かに、異種族の特徴を的確に捉えるのは大変そうではあるが。

 ともあれ、盗賊団頭目の似顔絵も出来た。ここまで特徴が分かれば、土魔法の胸像も作れる。

「似顔絵を参考に立体化すると……こういった感じでしょうか」

 似顔絵を元に土魔法で模型を作ると、職人がおお、と小さく歓声を上げた。

「ああ。こちらもそっくりです……!」

 カヨウが立ち上がり、まじまじと胸像を覗き込んでくる。

「それじゃ、後は私が……絵を量産する」

 シグリッタが言う。

「君も絵を?」
「シグリッタは魔物であれ風景であれ、見たものを見たままに記憶して絵として描ける技術を持っているんです」

 俺の言葉を受け、シグリッタは自分の本に描かれた絵をいくつか見せる。白黒で構成された写実的な絵に、職人は感心したように頷く。

「いやはや。これは羨ましい。私はどこまで行っても人専門でね」

 と職人は言う。小さな頃は街角で似顔絵描きをして生計を立てていたのだとか。
 だがある日、目の前で起こった強盗犯を模写して届け出たら、その仲間に睨まれてしまい……そこをイザベラに才能を見出されて保護してもらったそうだ。以来、盗賊ギルドお抱えの職人として養ってもらっているそうで。

 お陰で後顧の憂いなく絵描きとしての生活も満喫しつつ今日に至る、らしい。目撃証言から人相を描けるのだから、さぞかし盗賊ギルドとしても重宝しているのだろう。

「でも、私には……ああいう似顔絵の描き方は、無理。私こそ……羨ましい」
「くっく。それはまた。君とはまた別の機会に話をしてみたいね。良い刺激になりそうだ」

 シグリッタの言葉に、似顔絵職人は楽しそうに肩を震わせる。そうしてシグリッタに手を差し出し、お互い握手を交わす。

 何はともあれ盗賊団頭目の似顔絵は確保できた。これなら手配書としても使えるし、サイロウ達への揺さぶりにも使えるだろう。
いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます。

2月25日発売予定の書籍版7巻について、書影が公開となりました!
特典SS、書き下ろし部分も完了しております。
詳細については活動報告にて告知しておりますのでそちらを見て頂ければと思います。

こうして刊行を続けられるのも皆様の応援のお陰です。いつもありがとうございます!
今後もウェブ版共々頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
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