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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外253 妨害工作

 同行する兵士の名は、カヨウというらしい。
 艦橋の様子に目を白黒させている様子であったがお互い自己紹介や事情の説明をしながら移動する。転移魔法でタームウィルズに連れて行く以上、ある程度の情報はつたえておかなければならないしな。

「この子はティールで、こちらはオボロ。それからヴィンクルとジェイクです」

 と、ヘルヴォルテが普段通りの口調で動物組を紹介していく。コルリスやティール、ヴィンクル、ジェイクから揃って包拳礼を行われて、目を丸くしながらもつられて礼を返しているカヨウである。

 一礼し終わったところで、何か振り切れたのか、最早笑うしかない、という反応を見せた。

「何と言いますか……。こんなにも賑やかな雰囲気とは思っても見ませんでした。その……皆さんの顔ぶれには驚かされっぱなしではあるのですが」

 空飛ぶ船と西方からの助っ人。カイ王子、ゲンライ、レイメイに動物組、魔法生物組。カヨウからしてみると衝撃の連続ではあるのだろうが。

「ふふん。我はこの雰囲気は嫌いではないぞ」

 と、カヨウの言葉に笑うオリエである。

「まあ、しばらくは慣れないかも知れませんが、気軽にして頂いて構いませんよ。盗賊団対策で暫く同行してもらう形になりますし」
「ありがとうございます」

 カヨウは微笑んで一礼するのであった。



 そうしてガクスイのところへ到着し、再びゴーレムを起動。物資を次々とシリウス号へ乗せていく。

「いやはや。何とも手際の良い」
「ゴーレムを使っての物資積み込みは二度目になりますからね。国元でもゴーレムは使わずとも、シリウス号であちこちに人員や物資を運んだりといった機会も多かったので」
「なるほど。それでですか」

 ガクスイが感心したように相好を崩す。前回の輸送で実際に運用してみて、改善の余地が見られる部分は、ゴーレムに指示を出す事で以後の動き方を変えていく余地を残している。
 甲板への物資の置き方、積み込んでいく物の優先順位等々、少しだけホウシンの時とは変えていたりする。

「ふうむ。行軍の疲労やその際の兵糧の消費をほとんど無視できるわけですからな。これは凄まじいことですぞ」

 と、オウハクが言った。
 前線に兵士を集結させるだけでも道のりを踏破しなければならないからな。その苦労は確かにかなりのものだろう。

「ところで、前線に関してのお話なのですが――」

 ホウシンの砦であんなことがあったばかりだし、また同じことが起こらないとも限らない。ガクスイ達にも話を通しておこうと、砦であったことや盗賊団に関する話を聞かせておく。

「……ショウエンが一度抑えた砦に罠が残っていた、と。厄介な事ですな」
「ガクスイ殿の領地では、ショウエンに奪われたであるとか、そういった施設はありますか?」
「いや……。我らは本格的な開戦にまでは至りませんでしたからな」
「しかし斥候部隊の領地内への浸透は報告されていますし、その盗賊団らしきものについても輸送隊が何度か狙われていますな。斥候部隊が輸送路を発見したものと判断し、そのあたりを少し見直したりしております」

 そんなガクスイ達の言葉に、クラウディアが目を閉じる。

「斥候部隊は……警告でしょうね。その上で武力に優れるホウシンの陣営を撃破し、自分達に従えという圧力を強めるつもりなのでしょうけれど」
「でしょうな。ショウエンがこちらに恭順を持ちかけてきたのも、ホウシン殿の砦を落とした頃でしたから」
「返答如何によっては……また何か仕掛けてくる可能性は高いですね」

 アシュレイが神妙な面持ちで言った。
 ふむ。シガ将軍の陣営を攻撃する役割はサイロウ達の担当。そうなると次に盗賊団が動くとしたらホウシンかガクスイの領地ということになる。
 ガクスイの返答期限に合わせるとするなら、事前に領地に入り込んでから動く可能性は高い、と見ておくべきだろう。
 時差を考えると……似顔絵を作りにタームウィルズに行けるのはこちらが夜になってからということになるが、それからサイロウ達から情報を引き出す方向で動きたいところではあるな。



 ガクスイの陣営の場合、前線というよりも国境付近ということになるか。
 ショウエンの支配域と隣接する都市に人員と物資を送り、それから俺達は北方に向かって動いた。
 まず危険なのがホウシンの砦を望む、対岸の敵拠点からの出撃である。それを防ぐ、というよりも、遅らせるためにちょっとした細工をしておこうというわけだ。

「このあたりです」

 と、ゴリョウが地図上の現在位置を確認しながら教えてくれる。水晶板モニターから見える周囲の風景は、ちょっとした山の麓に沿うような道だ。道沿いにはやや切り立った谷に、川も流れている。地形を見ながら良さそうな場所を選出したのだが、北方は平野部が広がっているところが多く、この場所は一番の隘路、かも知れない。

「周辺には人影はありません」

 水晶板モニターからライフディテクションを通し、あたり一帯の生命反応を探る。

「それじゃ手早く済ませよう」

 敵影が無いことを確認して、俺達はシリウス号から出る。この道は――前王朝から物資の輸送に使われている道だ。ホウシンの砦を攻めるのならばこの道を将兵や輸送隊が使うということになるだろう。つまりはこの道を崩すなどして、通行不能の状態に持っていってやろうというわけだ。

 既に前線に送られている敵の人員は動かせないにしても、後方で輸送路が断絶しているとなれば、物資の枯渇を危惧して開戦を引き延ばさざるを得ない、というわけだ。
 道の状態を確認して、シーラが頷く。

「将兵や輸送隊が通った後。結構新しい轍も残ってる」
「うん。今現在でも輸送路として使われているんだろうな」

 それだけ分かれば十分だ。後は――山肌が崩れて岩や土砂が道を塞いでしまった、といった具合を装えば良かろう。
 土魔法を使って山の一部を切り崩し、なるべく自然に見える形で道を塞いでいく。工作を開始して暫くすると土砂と大岩が完全に道を埋めてしまう。

 後は――相手が二の足を踏むように崩れた山肌部分に、いかにも不安定そうで落ちてきそうな形の岩をいくつか仕込んでおく。そこにゴーレムの制御核を設置。
 軍が土砂を退けようとしたら上から軽く土砂を崩して、まだ落石がありそう、というプレッシャーを与える役割だ。土木作業を何回か中断させたり、折角岩をどけたのにまた崩れて作業を台無しにしたりと言った継続的な妨害ができれば理想である。

 後は――迂回路を潰す。この道が一番砦への輸送の近道となるが、事前に道が埋まっているという情報が伝われれば迅速な輸送のために最初から少し遠回りの迂回路を使う、という可能性がある。

 こちらは、少し急な流れの大きな川があるのでその橋を壊してしまう。
 軍隊ならば即席で橋の再建工事をしたり、強引に渡河をするのもありだろうが……そこで上流の付近にちょっとした長雨を降らせることで、当分川が増水しているので渡河や橋の再建が難しくなるという寸法だ。

「ふうむ。人にちょっとした悪戯をするというのも、妖怪らしくて割と楽しくはあるのう。ショウエンの日頃の行いが悪い、というのも、それらしい理由でもある」

 と、御前がにやりと笑う。そう。水の精霊達に干渉して長雨を降らせるのは御前の役割だ。

「やられる方はあちこち振り回されて大変だと思いますよ」

 そう言うと御前は愉快そうに肩を震わせていた。
 崩落現場を迂回すれば長雨で渡河も再建もままならず、諦めて元の道に戻れば土砂崩れをどうにかしなければならない。そこでは何度も作業の妨害をされて……と。うんざりすること請け合いだ。勿論、輸送は大幅に遅れる。

 こういった妨害工作をこれ以上あちこちでやるとゴリョウ達と通じている事を勘付かれる可能性もあるから、手当たり次第に輸送路を寸断する、というわけにもいかないが……まあ、効果的な場所に集中して工作すれば、疑念に思ったとしても確信にまでは至るまい。

 では、迂回路の河川の工作も終えたら南方の安全な場所まで下がり、時差の頃合いを見て通信機で連絡し、タームウィルズに飛ぶとしよう。盗賊ギルドのイザベラに会う、ということになるのかな。
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