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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外251 仕掛けと間者

 砦に横付けしたシリウス号から、続々と増援の将兵達が降りてきて整列。班ごとに点呼が行われていく。
 その背後――砦の監視塔にて、見張りの兵士達が目を丸くしていた。多分、フィールド内から続々兵士が出てくる光景が見えているのだろう。

 まず将兵達が降りたらゴーレム達が倉庫を荷物から降ろす、という流れになる。その前に、少しやれることをやっておこう。
 兵士達の点呼を監督していた、砦の責任者である武官に話しかける。

「通達にあった通り、増援と物資を運んでまいりました」
「これはかたじけない。空飛ぶ船による輸送と聞いていましたが、これほどまでに迅速とは。何もかも驚くばかりです」

 そう言って互いに一礼し、自己紹介をする。

「この魔道具も活用していただきたく思います」

 それからいくつかの魔道具を武官に渡す。

「これは?」
「順番に……解毒の魔道具、傷の治療を行う魔道具、それから清潔な水を作る事の出来る魔道具です。使い手の魔力を消耗はしますが、道士でなくとも扱えるので、兵士達が普段使っていない魔力を活用する形で運用可能、と考えていただいてもらって大丈夫かと」
「ほう……ほうほう!」

 武官は少し身を乗り出すようにして魔道具に食いついてくる。

「傷の治療をする際は、必ず解毒の魔道具も一緒に使って下さい。傷の治りが早くなります。解毒は結構強い毒も中和できますが……治療の魔道具は、そこまで万能ではありません」

 致命傷を負った場合にこれで治療するにしても、延命が間に合わない可能性があるし、骨折などは添え木して固定しつつ複数回用いる必要があり、欠損した部位の迅速な接続は……何とかなったりならなかったり。再生は流石に無理、ぐらいのレベルだ。

 とはいえ、あるのとないのとでは全然違う。致命傷でないなら矢傷の1つや2つぐらいなら塞いでしまえる。
 その性能と注意事項を細かく説明する。まあ、リン王女がこちらの文字で取扱い説明書を書いてくれているので、そちらを参考にしてもらっても構わないが。

「これは……兵士達の士気が違ってきますな」

 かも知れないな。薬学もまだまだだし、衛生環境が悪いと多少の怪我から死に結びつくこともあるが、これらの魔道具はそういったリスクを大幅に軽減してくれる。
 水作成の魔道具は――まあ、使い道は色々だ。傷口を洗うのにも使えるし、飲み水も炊事用の水も労せず確保できる。衛生環境を良好に保つのに役立つ、と考えれば前線では使い勝手もいいだろう。

「医術の心得がある者がいるのなら、本人ではなくその助手をするような方に使っていただくのが良いかと。魔力を使い過ぎて医者自身が昏倒してしまっては本末転倒ですからね」
「……なるほど。考慮しておきましょう」

 というわけで、魔力枯渇についての危険性も指摘したところで次にいこう。

「それと……砦の中を少し見て回りたいのですが、構いませんか? 例えば敵が砦を放棄していった折、どこか破壊されたりしていたら……この通り――修繕できます。敵の仕掛けた魔法的な罠がないかも、少し見ておきたいですからね」

 手ごろな石を二つ拾って土魔法でくっつけてみると武官は少しきょとんとした表情になったが、言わんとしている事を理解すると相好を崩した。

「おお。それは有りがたい。連中、確かに壁を壊していきましてな。しかし私は責任者ですので、確認が終わるまでここから離れられません。副官に案内させましょう」

 と、武官が目配せをすると、副官が少し緊張したような様子で折り目正しく返事をしてくる。

「はっ。お任せ下さい!」
「では、よろしくお願いします」
「積み下ろしは僕達が監督していますね」

 と、シオンが言ってくれる。

「ありがとう。それじゃ、何か用があったらバロールに声をかけてくれれば対応する」
「うん、分かった!」

 マルセスカが元気よく返事し、シグリッタはバロールを手招きして呼ぶと、何やら自分の頭の上に乗せていた。

「バロール……結構可愛い」

 というシグリッタの言葉に、小蜘蛛達も何やら分かる、という感じで頷いて、シグリッタの頭の上にいるバロールを撫でたりしていた。うむ。彼女達のツボはともかくとして、早速砦内の補修と調査に向かうとしよう。

 調査は皆も一緒だ。シーラやイチエモン、ゴリョウ達は物理的な仕掛けを見破れるし、コルリスは魔力を嗅覚で感じ取れる。仮に魔法的な仕掛けがあるとしたら道術、仙術由来だろう。ゲンライとレイメイも同行してくれている。

 砦内を順繰りに歩きながら案内してくれている副官にも話を聞く。

「砦の奪還後は……やはり破壊されていた箇所などありましたか?」
「そうですな。連中、砦を放棄することを決めて、北側の門を破壊してから逃げていったようです」

 ……北側か。ショウエン軍が渡河してきたら攻略にかかる方向だな。放棄せざるを得ないとなったら、次の事を考え、守りにくく攻めやすくなるようにというのは当然なのだろうが……修繕されてしまう事を考えると嫌がらせの域は出ない。本命は別にある、と見ておくべきだろう。

 そうして砦の内部を見て回りつつ、北側の壁に到着する。ふむ。門の周りを見ても破壊の痕跡はもう残っていない。急ピッチで修繕作業を進めているようだが……。

「門周りの構造的に脆い部分に闘気を纏った鈍器か……。或いは攻城兵器を叩きつけて、砕いて行ったようでしてな」

 なるほど……。

「では、まず……修繕を終わらせてしまいましょうか」

 他に何か仕掛けられているにしても、まずはそこからだ。作業している兵達には一旦退いてもらったところでマジックサークルを展開。建材を光の球に溶かして修繕を一気に終わらせてしまう。

「これは……何という……」

 光球がなぞる様に動いていき、修繕が完了していく。その光景に副官は言葉を失っていたようだ。

「テオドール」

 そうして、修繕が終わったところでシーラが門の外から声をかけてくる。

「何か見つけた?」

 シーラの呼ぶ方向に行ってみると、外壁を見上げているイチエモンやゴリョウ達がいた。

「これは恐らく……」
「ふうむ。多分、その想像で間違いないでござるな」

 ゴリョウとイチエモンはそんな風に言って頷き合っている。

「何か気になる事でも?」

 副官が怪訝そうに尋ねてくる。

「これは見せた方が早い」

 シーラは言うなり、外壁の建材に軽く爪先を乗せてひょい、と壁の上目掛けて飛び上がった。僅かなでっぱりや溝に手足を引っ掛け、軽々と跳躍してあっという間に外壁の上まで到達してしまう。

 そうしたらそこから、飛び降りて、今度はレビテーションを用いて緩やかに下降してきた。

「これは……まさか」

 副官は愕然としている。

「そう。お察しの通りです。外壁に手を加えられた痕をシーラ殿が見つけられましてな。一部を削ってあったり、建材をはみ出させて手がかり、足がかりにできるようにしたり」
「その地点から上へ上へと工作の痕を辿っていくと、壁の上まで楽に登れるような細工がなされていたというわけでござる。勿論、誰でも簡単に使えるものではないでござるが、我らのような特殊な技能を持つ者用に作られた入口、というところでござろうか」

 術ではなく工作による侵入路の確保か。

「……外壁周りを一通り調べるべきかな。北側に警戒を集中させて、別方向から侵入して内側から門を開けさせる、なんてことをしてくるだろうから」
「手分けして修繕してしまいましょうか」

 ステファニアが首を傾げる。

「んー。修繕も良いけど。そうだな。いっそそういう特殊な技術を持つ相手は、そこで潰すために罠を仕掛けるのもありかもね」
「壁に仕掛ける罠というと……前に対魔人の砦で使ったような感じですか?」

 アシュレイは俺の考えている方向性を理解したのか、にっこり笑って聞いてくる。マルレーンも思い当たったところがあるのか、表情をにこにこさせている。

「そう。この手がかりや足がかりに沿って登ると……ある程度の高さでゴーレムに壁に呑み込まれるようにして拘束される……っていうのはどうかな?」
「いいのではないかしら? 迂闊に自分達の仕掛けを使うと逆に罠を食らうともなれば、二の足を踏むでしょうからね。最初の一回は、まず確実よね」

 ローズマリーが薄笑みを浮かべて肩を震わせ、グレイスは罠に引っかかる相手の事を想像したのか、小さく苦笑していた。

「では、拙者らは手分けして、外壁側にそういった仕掛けが施された場所がないか探してくるでござる」
「それじゃ、私はテオドールと一緒に他のところを見て回る」
「では、外壁側はよろしくお願いします」

 というわけでイチエモンとゴリョウ達は連れ立って砦の外周を回ってくるようにしたらしい。時計回り班と反時計回り班に分かれての二重チェック体制だから、まあ……見落としはあるまい。
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